ハピネスチャージプリキュア!夕映えのアーベント   作:Leona

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第8話『友情の危機!! ミスフォーチュンの不吉な予言!!/信じたい言葉と、疑われる影』

第8話『友情の危機!! ミスフォーチュンの不吉な予言!! /信じたい言葉と、疑われる影』

 

 土曜日のぴかりが丘商店街では、朝から小さな催しが開かれていた。通りの両側には手作り雑貨や菓子、古本を扱う露店が並び、広場には子供向けの遊び場や簡易ステージまで設けられている。

 

 大森ごはんも店先へ弁当とおにぎりを並べていた。ゆうこは黄色いエプロンを身につけ、蒸気の立つ容器から焼きおにぎりを取り出している。

 

「焼きたてだよ。お醤油の香りが一番いい時だから、食べるなら今がおすすめなの」

 

「一つください」

 

「ありがとう。熱いから気をつけてね」

 

 客へ丁寧に商品を渡すゆうこの横で、めぐみとひめは呼び込みを手伝っていた。

 

「大森ごはんのおにぎり、おいしいよー!」

 

 めぐみが通りへ向かって大きく手を振る。

 

「お弁当もあるよ! 今なら本物のお姫様が売ってあげるんだから!」

 

 ひめも胸を張ったが、足を止めた客はおにぎりよりもひめの言葉へ反応した。

 

「本物のお姫様?」

 

「そうだよ! ブルースカイ王国の王女、白雪ひめとは私のこと!」

 

「ひめちゃん。お店の紹介もしてね」

 

 ゆうこが穏やかに声をかける。

 

「してるじゃん! お姫様が売ってるおにぎりなんて、すごく特別でしょ?」

 

「作ったのは大森さんたちだけどな」

 

 荷物を運んできた誠司が口を挟んだ。

 

「もう、細かいことはいいの!」

 

「自分で作ったみたいに言うなよ」

 

「私だって、この前おにぎりを作ったもん!」

 

「今日売ってるのは違うだろ」

 

 二人が言い合う横で、悠は空になった容器を店内へ運んでいた。左肩の傷はほとんど治っているが、誠司とゆうこから重い箱を一人で持たないよう念を押されている。そのため、悠は軽い容器や紙袋を選んで運んでいた。

 

「赤石君、そっちはもう大丈夫だよ」

 

 ゆうこが呼び止める。

 

「次の分を持ってくる」

 

「まだ焼き上がってないの。少し休んだら?」

 

「これくらいで疲れてはいないよ」

 

 悠の返事を聞き、ゆうこは少しだけ首を傾けた。

 

「今日は早くないね」

 

「何が?」

 

「大丈夫って言うまでの時間」

 

 悠はしばらく考えたあと、自分が以前ほど反射的に答えなかったことへ気づいた。

 

「本当に大丈夫だからだと思う」

 

「そっか。それなら、次の分ができるまで座っててね」

 

 ゆうこはそれ以上問い詰めず、悠へ小さな焼きおにぎりを一つ渡した。

 

「これは形が崩れたから、売り物にはできないの」

 

「僕が食べてもいいの?」

 

「うん。味は同じだよ」

 

 悠が受け取ると、ひめが横から覗き込んだ。

 

「赤石くんだけずるい!」

 

「白雪さんも手伝えばもらえるんじゃないかな」

 

「私だって呼び込みしてるじゃん!」

 

「お姫様の宣伝になっている気がするよ」

 

「ちゃんとお店の宣伝にもなってるもん!」

 

 ひめが反論していると、商店街の広場から大きな歓声が聞こえた。見ると、紫色の布で囲まれた一角へ長い列ができている。

 

 入口の看板には、金色の文字で『ミス・フォーチュンの運命占い』と書かれていた。

 

「ミス・フォーチュン?」

 

 ひめが目を輝かせる。

 

「すっごく当たる占い師が来てるんだって!」

 

 近くを通った女子生徒が教えてくれた。

 

「恋愛も友情も、何でも分かるらしいよ」

 

「友情も!?」

 

 ひめはめぐみの腕を掴んだ。

 

「行こう、めぐみ!」

 

「今、お手伝いの途中だよ」

 

「少しくらい大丈夫だって!」

 

 ひめはゆうこへ向き直る。

 

「ゆうこ、ちょっとだけ行ってきていい?」

 

「うーん」

 

 ゆうこは並んでいる弁当の数と、客の流れを確認する。

 

「お昼の混む時間までには戻ってきてね」

 

「やった!」

 

「相楽くんと赤石君も休憩してきたら? 朝からずっと手伝ってくれてるから」

 

「俺は別にいいけど」

 

 誠司は悠を見る。

 

「赤石は?」

 

「占いには興味がないよ」

 

「嘘」

 

 ひめが即座に言った。

 

「どうして?」

 

「だって、自分の正体とか未来とか、気になることがいっぱいありそうじゃん」

 

 悠の動きが一瞬止まる。

 

 ひめは自分の言葉が踏み込みすぎたと気づき、目をそらした。

 

「べ、別に話せって言ってるんじゃないよ。ただ、気になることはあるでしょって意味」

 

「あるけど、占いで分かるとは思っていない」

 

「だったら、当たらないところを確かめに行こうよ!」

 

 理屈が逆になっていたが、ひめはすでに悠の袖を掴んでいる。

 

 誠司が呆れたように息を吐いた。

 

「諦めろ、赤石。こうなったひめは聞かない」

 

「相楽君まで来るの?」

 

「お前たちだけだと、休憩時間を忘れそうだからな」

 

 めぐみ、ひめ、誠司、悠の四人は、ゆうこに店を任せて広場へ向かった。

 

 ★★★

 

 紫色の幕で囲まれた占いの席には、長い髪を薄い布で覆った少女が座っていた。机の上には水晶玉とカードが並べられ、脇ではぐらさんが大きな帽子を被って客の案内をしている。

 

「次のやつ、入っていいぜ」

 

「その喋り方で占いの雰囲気が壊れてるよ」

 

 ひめが言うと、ぐらさんが眉を上げた。

 

「細かいこと気にすんな。ミス・フォーチュンは忙しいんだ」

 

 幕の奥に座っている少女は、氷川いおなだった。

 

 学校では真面目で近寄りがたい印象が強いが、地域の催しでは時折、家族から教わったカード占いを披露しているらしい。顔の一部を布で隠し、占い師として名乗る時だけ『ミス・フォーチュン』の名を使っていた。

 

「白雪さん。占ってほしいことは何?」

 

 いおなの声は普段と変わらず落ち着いている。

 

「めぐみとの友情!」

 

 ひめは椅子へ座るなり即答した。

 

「私たちが、ずっと友達でいられるか占って!」

 

「ひめ、そんなこと占いで決めなくてもいいんじゃないかな」

 

 めぐみが困ったように笑う。

 

「確認するだけだよ! 絶対大丈夫って出たら安心できるじゃん!」

 

 いおなは二人を見たあと、カードの束をひめへ差し出した。

 

「一枚選んで」

 

 ひめは真剣な顔でカードを選ぶ。裏返されたカードには、一本の橋を挟んで背を向ける二人の人物と、その上に浮かぶ割れた鏡が描かれていた。

 

「何これ……」

 

 ひめの顔が引きつる。

 

 いおなはカードを見つめ、静かに告げた。

 

「あなたの一番近くにある絆が、今日、試されるでしょう」

 

「試される?」

 

「言葉にしなかった疑いが、二人の間へ入る。恐れに任せて相手の気持ちを決めれば、大切なものを見失うかもしれないわ」

 

 ひめの顔から血の気が引いた。

 

「友情が壊れるってこと!?」

 

「そこまでは言っていないわ」

 

「でも、割れた鏡が描いてあるじゃん!」

 

「カードは、出来事そのものではなく、注意するべき心の動きを示すものよ」

 

 いおなが説明するが、ひめの耳にはほとんど入っていなかった。

 

「今日、めぐみとの友情が壊れる……」

 

「だから、決まった未来ではないわ」

 

「大変だよ、めぐみ!」

 

 ひめは勢いよく振り返り、めぐみの両肩を掴んだ。

 

「今日は絶対、私から離れないで!」

 

「離れないって、どのくらい?」

 

「ずっと! お昼も休憩も帰る時も!」

 

「お手洗いも?」

 

「そこは別!」

 

 誠司は腕を組み、いおなを見る。

 

「本当に、そういう意味の占いなのか?」

 

「違うと言っているでしょう」

 

 いおなの声が少しだけ硬くなった。

 

「悪い可能性を知ったなら、気をつければいい。それを恐れて普段と違うことをすれば、かえって判断を誤るわ」

 

「ほら、ひめ。氷川さんもそう言ってるよ」

 

 めぐみが宥める。

 

「でも、何かあってからじゃ遅いじゃん!」

 

 ひめは不安そうに、めぐみの腕を強く抱えた。

 

 その様子を見ていた悠は、机の上のカードへ目を向けた。カード自体から、敵の気配は感じない。いおなも本気で二人の友情が終わると告げているわけではなかった。

 

 それでも、ひめの中へ生まれた不安は確かだった。

 

 いおなはカードを片づけながら、今度は悠へ視線を向ける。

 

「赤石君。あなたも占う?」

 

「遠慮しておくよ、氷川さん」

 

「未来を知られるのが怖いの?」

 

「占いで僕のことが分かるとは思わない」

 

「そう」

 

 いおなは悠の目を見つめた。

 

「では、カードを使わずに聞くわ」

 

 空気が変わった。

 

 めぐみとひめが顔を見合わせる。誠司は黙ったまま、悠といおなの間へ視線を動かした。

 

「どうしてあなたは、サイアークが現れる前に異変へ気づけるの?」

 

 いおなは真っすぐに尋ねた。

 

「戦いが起きるたび現場にいて、普通ではない傷を負っている。偶然で済ませるには多すぎるわ」

 

 ひめが目を見開く。

 

「氷川さん、赤石くんの傷を知ってるの?」

 

「以前、戦いの後に見かけたことがあるだけよ」

 

 いおなは悠から視線を外さない。

 

「答えて、赤石君」

 

 悠は少し黙った。

 

 誠司は助け舟を出さず、本人がどう答えるかを待っている。めぐみも不安そうではあったが、悠の代わりに何かを言おうとはしなかった。

 

「僕は、負のエネルギーに気づくことができる」

 

 悠は事実の一部だけを口にした。

 

「どうして?」

 

「それは言えない」

 

「プリキュアに関係する力なの?」

 

「違う」

 

「幻影帝国に関係する力?」

 

 悠は答えなかった。

 

 沈黙そのものが、いおなの疑いを深める。

 

「否定しないのね」

 

「嘘をついても、氷川さんは納得しないと思う」

 

「正直に話せばいいでしょう」

 

「今は話せない」

 

 いおなの表情が厳しくなる。

 

「あなたが秘密を守りたいことと、周囲が危険に巻き込まれることは別よ」

 

 その言葉は、悠がこれまで何度も自分へ言い聞かせてきた理屈を正面から否定した。

 

「分かっている」

 

「本当に?」

 

 悠はすぐに答えられなかった。

 

 ひめが悠の横顔を見る。昨日までなら、「大丈夫」「問題ない」と即座に返したかもしれない。今は、自分の言葉を選ぼうとしている。

 

「完全には、分かっていないと思う」

 

 悠は静かに認めた。

 

 いおなは少しだけ目を見開いたが、警戒を解かなかった。

 

「なら、私はあなたを見過ごせない」

 

「構わないよ」

 

「構わないで済む話ではないわ」

 

「僕を見ていた方が、安心できるならそうして」

 

 いおなの眉が寄る。

 

「監視されることを受け入れれば、信頼されると思っているの?」

 

「思っていない」

 

「では、どうしてそんな言い方をするの?」

 

 悠は返答に詰まった。

 

 自分のことを信じてほしいとは、簡単に言えない。信じられるだけの説明を何もしていないからだ。

 

「僕にも、分からない」

 

 いおなはしばらく悠を見つめたあと、カードを揃えた。

 

「そう。なら、私も自分で確かめるわ」

 

 会話はそこで終わった。

 

 ★★★

 

 大森ごはんの出店へ戻ってからも、ひめはめぐみのそばを離れようとしなかった。

 

 めぐみが客へ弁当を渡せば、その横から袋を差し出す。めぐみが代金を受け取ろうとすれば、自分も同じ財布へ手を伸ばす。互いの手がぶつかり、小銭が机の上へ散らばった。

 

「ひめ、あたし一人でできるよ」

 

「ダメ! 今日は私が一緒にいるの!」

 

「一緒にいるのはいいけど、同じことを二人でするとやりにくいよ」

 

「私がいない方がいいってこと?」

 

「そうじゃないよ!」

 

 めぐみが慌てて否定する。

 

 ゆうこは散らばった小銭を拾い、金額ごとに分けていた。

 

「ひめちゃん。占いが気になるのは分かるけど、めぐみちゃんの言葉を最後まで聞いた方がいいと思うな」

 

「聞いてるよ」

 

「今は、途中で答えちゃったね」

 

 ひめは言葉に詰まり、めぐみの腕から少しだけ離れた。

 

「でも、もし本当に友情が壊れたらどうするの?」

 

「その時は話そうよ」

 

 めぐみは明るく答える。

 

「喧嘩しても、間違えても、また話せばいいよ!」

 

「そんな簡単に言わないでよ!」

 

 ひめの声が強くなった。

 

「めぐみは、私じゃなくても友達がいっぱいいるじゃん! ゆうこも誠司もいるし、学校のみんなともすぐ仲良くなれる。私と喧嘩しても困らないでしょ!」

 

「そんなことないよ!」

 

 めぐみの顔から笑みが消えた。

 

「あたしに他の友達がいることと、ひめが大切なことは別だよ。前にも話したでしょ?」

 

「でも……」

 

「ひめは、あたしが何を言っても占いの方を信じるの?」

 

 めぐみの言葉に、ひめの表情が固まった。

 

「そういう意味じゃない」

 

「じゃあ、あたしの話も聞いてよ」

 

「聞いてるって言ってるじゃん!」

 

 二人の声が大きくなり、近くの客が驚いて振り返った。

 

 ゆうこは二人の前へ立つ。

 

「めぐみちゃん、ひめちゃん。今は少し離れよう」

 

「でも、ゆうゆう」

 

「このままだと、お互いに言いたいことだけ増えちゃうよ。お店もあるから、少し落ち着いてから話そう」

 

 ゆうこの声は穏やかだったが、曖昧に笑ってはいなかった。

 

 ひめは唇を噛み、出店の裏へ歩いていった。めぐみも追いかけようとしたが、ゆうこが小さく首を振る。

 

「今は待った方がいいと思うな」

 

「でも、ひめが一人で」

 

「一人になりたい時もあるよ。少ししたら、めぐみちゃんから話しに行こう」

 

 めぐみは不安そうにひめの背中を見送った。

 

 少し離れた場所では、誠司と悠が空の箱を片づけていた。

 

「占いの通りになってきたな」

 

 誠司が呟く。

 

「占いが原因で、二人が普段と違う動きをしている」

 

 悠が答える。

 

「氷川さんの言葉を恐れて、白雪さんが自分で予言へ近づいているんだと思う」

 

「分かってるなら、何か言ってやればいいんじゃないか?」

 

「僕が言っても、疑われている側の言葉になる」

 

「それでも、言うべき時はあるだろ」

 

 悠はひめの消えた方向を見る。

 

 自分も、疑われることを恐れて何も話していない。いおなが不安を抱く理由を知りながら、それでも秘密を守る方を選んでいる。

 

「相楽君は、僕が何者でも友達でいられる?」

 

 質問が口から出たあと、悠自身が驚いた。

 

 誠司はすぐには答えなかった。

 

「何者でも、は無理だ」

 

 悠は目を伏せる。

 

 誠司は続けた。

 

「お前が誰かを傷つけるつもりなら止める。俺たちを騙して利用してるなら、怒る」

 

「そうだね」

 

「でも、秘密があるだけで全部終わるとも思ってない」

 

 悠が顔を上げる。

 

「何を隠してるか知らないんだから、今はそれ以上答えられない。俺に言えるのはそこまでだ」

 

 完成された慰めでも、無条件の肯定でもなかった。

 

 それでも悠には、その答えの方が信じられた。

 

「ありがとう、相楽君」

 

「礼を言うのは、話してからにしろ」

 

「厳しいね」

 

「お前が曖昧だからだ」

 

 誠司は空箱を持ち上げた。

 

「それより、ひめを見てこい。俺はこっちを片づける」

 

「僕が?」

 

「めぐみが行けば、またすぐ言い合いになるかもしれない。お前なら余計なことを言わないだろ」

 

「それは褒めているの?」

 

「半分くらいはな」

 

 悠は迷ったあと、ひめの後を追った。

 

 ★★★

 

 ひめは商店街の裏手にある小さな階段へ座っていた。人通りは少なく、催しの音も遠くに聞こえる。

 

 悠が近づくと、ひめは顔を上げた。

 

「めぐみに言われて来たの?」

 

「相楽君に言われた」

 

「何それ」

 

 ひめは膝へ顔を埋めた。

 

 悠は隣へ座らず、階段の下に立つ。

 

「白雪さんは、愛乃さんと友達でいたいの?」

 

「当たり前じゃん」

 

「なら、どうして愛乃さんの言葉より占いを信じるの?」

 

「信じてるわけじゃないよ!」

 

 ひめは勢いよく顔を上げる。

 

「ただ、怖いの! めぐみが私を嫌いになるかもしれないって思ったら、何をしてても不安になるの!」

 

「それを愛乃さんへ言った?」

 

「言えるわけないじゃん。重いって思われるかもしれないし」

 

「言わずに、愛乃さんがどう思うか決めているんだね」

 

 ひめが睨む。

 

「赤石くんに言われたくない」

 

「そうだね」

 

 悠は否定しなかった。

 

「僕も、同じことをしているから分かる」

 

「氷川さんに疑われてること?」

 

「それもある」

 

 悠は階段の手すりへ視線を向ける。

 

「話したら離れていくと思う。だから何も言わない。でも、何も言わなければ相手は疑う。疑われたら、やっぱり話さない方がよかったと思う」

 

「ぐるぐるしてるじゃん」

 

「うん」

 

「面倒くさい」

 

「白雪さんも似ているよ」

 

「私まで一緒にしないで!」

 

 反射的に言い返したあと、ひめは口を閉じた。

 

 似ているところは確かにある。

 

 嫌われるのが怖くて、本人へ確かめられない。そのくせ相手の言葉が足りないと不安になり、ますます疑ってしまう。

 

「赤石くんは、どうするの?」

 

 ひめが尋ねる。

 

「まだ分からない」

 

「役に立たないなあ」

 

「白雪さんも、僕へ答えを聞きたいわけではないと思う」

 

 ひめはしばらく黙っていた。

 

「めぐみに、怖いって言ったら嫌われないかな」

 

「僕には分からない」

 

「そこは大丈夫って言ってよ!」

 

「分からないことを大丈夫とは言えない」

 

 悠の答えは冷たく聞こえたが、嘘ではなかった。

 

「でも、愛乃さんは白雪さんの話を聞きたいと言っていた」

 

「それは……」

 

「占いではなく、本人の言葉を一度くらい信じてもいいんじゃないかな」

 

 ひめは膝を抱えたまま、足元を見る。

 

「赤石くんは、氷川さんにそれを言えるの?」

 

 今度は悠が黙る番だった。

 

「言えないなら、偉そうに言わないでよ」

 

「そうだね」

 

 悠は少し考える。

 

「でも、僕も少しは話そうと思う」

 

「本当に?」

 

「全部は無理だけど」

 

「また中途半端」

 

「何も言わないよりはいいと思う」

 

 ひめは小さく息を吐いた。

 

「じゃあ、私も少しだけ話す」

 

「愛乃さんに?」

 

「うん。怖いって言う」

 

 立ち上がろうとした時、階段の上から一枚の黒いカードが落ちてきた。

 

 ひめの足元へ触れた瞬間、カードから細い黒い煙が立ち上る。

 

 悠の胸のレッドストーンが強く脈打った。

 

「触らないで!」

 

 悠はひめの腕を引き、カードから離す。

 

 黒い煙が地面を這い、商店街の方角へ広がっていく。

 

「これ、氷川さんのカード?」

 

「違う。幻影帝国の力だ」

 

 悠はカードを見つめる。

 

 描かれているのは、互いへ背を向ける二人の少女だった。いおなが使っていたカードとよく似ているが、絵の周囲には黒い蔦が絡みついている。

 

 商店街の広場から、悲鳴が上がった。

 

 ★★★

 

 広場では、いおなの占いを受けた二人の少女が言い争っていた。

 

 一人は「親友が秘密を隠している」と占われ、もう一人は「近しい相手から疑われる」と告げられていた。二人とも元々、小さな隠し事と不安を抱えていた。

 

 そこへ黒いカードの力が入り込み、心の疑いを急激に膨らませていた。

 

「私に黙って、別の子と遊びに行ったんでしょ!」

 

「先に約束しただけだよ! どうして何でも疑うの!」

 

「占いでも、秘密を隠してるって出た!」

 

「じゃあ、占いの方を信じれば!」

 

 一人が背を向けた瞬間、甘ったるい笑い声が広場へ響いた。

 

「そうですわ。信じたい言葉だけ信じればよろしいのです」

 

 ホッシーワが街灯の上へ姿を現す。

 

 手には、黒いカードの束が握られていた。

 

「占いは便利ですわね。相手へ直接聞かなくても、都合のいい答えを与えてくれるのですもの」

 

 いおなが立ち上がる。

 

「そのカードを仕込んだのは、あなたね」

 

「あら、ミス・フォーチュン。せっかくの不吉な予言を、少しだけお手伝いしただけですわ」

 

 ホッシーワは杖を二人の少女へ向けた。

 

「疑いながら仲良しのふりをするなんて、とてもおいしそう!」

 

 二人の背後へ鏡が現れる。

 

「鏡に映る未来を最悪に変えよ! 来たれ! サイアーク!」

 

 黒い煙の中から、巨大なサイアークが姿を現した。

 

 身体は黒い占い台となっており、頭には割れた水晶玉、両腕には巨大なカードの束がついている。サイアークが腕を振るたび、黒いカードが広場中へ撒き散らされた。

 

 カードを受け取った人々の耳元へ、親しい相手の偽りの声が聞こえてくる。

 

『本当は迷惑だと思っている』

 

『あなたがいなくても困らない』

 

『信じているのは自分だけ』

 

 人々は互いを疑い、距離を取り始めた。

 

 めぐみとゆうこ、誠司も広場へ駆けつける。

 

「ひめ!」

 

 めぐみが呼ぶ。

 

 ひめは悠と一緒に階段から走ってきたが、すぐにはめぐみのもとへ行けなかった。

 

 ホッシーワが愉快そうに笑う。

 

「さあ、お姫様。占いどおり、友情が壊れる時間ですわよ」

 

「違う!」

 

 いおなが強く言い返す。

 

「私は、友情が壊れるとは言っていないわ!」

 

「でも、疑った時点でもう同じでしょう?」

 

 黒いカードがひめの前へ舞い降りる。

 

 カードの表面に、めぐみがゆうこと楽しそうに笑う幻が映し出された。

 

『ひめがいなくても、あたしにはゆうゆうがいるよ』

 

 めぐみの声に似ていた。

 

 ひめの足が止まる。

 

「ひめ、聞いちゃダメだよ!」

 

 本物のめぐみが叫ぶ。

 

 黒いカードは、さらに別の幻を映す。

 

『ひめって、すぐ逃げるし、助けるのも大変なんだよね』

 

 先ほどめぐみから言われた言葉と、ひめ自身の不安が混ざり合っていた。

 

「違う……」

 

 ひめは両耳を押さえる。

 

「違うって、分かってるのに……」

 

 めぐみは人目を避けるため、ひめへキュアラインを示した。

 

 二人は視線を交わし、商店街の路地へ走り込む。

 

 いおなもぐらさんとともに反対側へ向かった。

 

「誠司、ゆうゆうをお願い!」

 

 めぐみが叫ぶ。

 

「分かった! 行ってこい!」

 

 誠司はゆうこと一緒に、人々を黒いカードから遠ざけ始めた。

 

 悠は地面へ散らばるカードを見つめる。

 

 人間の疑いを利用しているが、カードそのものへ込められている力は人工的な負のエネルギーだ。

 

 これなら吸収しても、人々の感情を奪うことにはならない。

 

 悠は一枚のカードへ手を伸ばした。

 

 ★★★

 

 路地裏で、めぐみとひめはプリチェンミラーを構えた。

 

「プリキュア・くるりんミラーチェンジ!」

 

 桃色と青の光が二人の身体を包む。

 

「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!」

 

「天空に舞う蒼き風! キュアプリンセス!」

 

 別の場所では、いおなが紫色のプリカードを装着する。

 

「プリキュア・きらりんスターシンフォニー!」

 

 紫の光が弾けた。

 

「夜空にきらめく希望の星! キュアフォーチュン!」

 

 三人のプリキュアは、別々の方向から広場へ飛び込んだ。

 

「ラブリー、プリンセス! 黒いカードへ触れないで!」

 

 フォーチュンが短く指示する。

 

「心の疑いを増幅させる力があるわ!」

 

「分かった!」

 

 ラブリーはサイアークの正面へ向かう。

 

 プリンセスも後を追おうとしたが、目の前へ複数の黒いカードが立ち塞がった。

 

 カードの中には、ラブリーがフォーチュンと並んで戦う姿が映っている。

 

『プリンセスより、フォーチュンの方が強いよ』

 

『ひめは、いなくても変わらない』

 

 プリンセスの動きが鈍る。

 

 サイアークの巨大なカードが横から振り払われ、プリンセスの身体を弾き飛ばした。

 

「プリンセス!」

 

 ラブリーが駆け寄ろうとする。

 

「来ないで!」

 

 プリンセスが叫んだ。

 

 ラブリーの足が止まる。

 

「助けられたら、また私が弱いみたいじゃん!」

 

「そんなこと思ってないよ!」

 

「本当に!?」

 

 黒いカードが二人の間へ次々と並び、互いの姿を隠していく。

 

 ホッシーワは高い場所から笑い声を上げた。

 

「疑いとは素晴らしいものですわ。一度生まれれば、相手が何を言っても嘘に聞こえる!」

 

 フォーチュンがカードの壁へ拳を叩き込む。

 

「プリキュア・スターバースト!」

 

 紫の光がカードを数枚砕く。しかし、破片からさらに小さなカードが生まれ、周囲へ散らばった。

 

「力だけでは消せない……!」

 

 フォーチュンはサイアークの核を探す。

 

 ラブリーはカード越しに、プリンセスへ声を張り上げた。

 

「ひめ! あたしの声を聞いて!」

 

 戦術指示ではない。

 

 友達本人へ届かせるため、本名を呼んだ。

 

 プリンセスは顔を上げる。

 

「めぐみ……」

 

「占いが何を言っても、あたしはひめと友達でいたいよ!」

 

「でも、私が面倒でも?」

 

「面倒な時は面倒って言うよ!」

 

 プリンセスが目を瞬かせる。

 

「そこは否定してよ!」

 

「だって、あたしも面倒なところあるでしょ!」

 

「あるけど!」

 

「だったらお互いさまだよ!」

 

 ラブリーの答えは、ひめを理想化するものではなかった。怖がることも、疑うことも、言いすぎることも含めて、それでも一緒にいたいと告げている。

 

「喧嘩しても、怒っても、また話そうよ! ひめが怖いなら、怖いって言ってよ!」

 

 プリンセスは拳を握る。

 

「怖いよ!」

 

 黒いカードへ向かって叫んだ。

 

「めぐみに嫌われるかもしれないって思ったら、すっごく怖い! めぐみには私以外にも友達がいるから、私だけ置いていかれるかもって思った!」

 

 カードの表面へ亀裂が入る。

 

 ラブリーは迷わず答えた。

 

「友達が何人いても、ひめはひめだよ!」

 

「私じゃないとダメなこと、ある?」

 

「あたしに聞かないで、自分で決めてよ!」

 

「何それ!」

 

「あたしがひめを選ぶみたいに、ひめもあたしを選んでよ!」

 

 プリンセスの目から涙が落ちる。

 

「選んでるよ! だから怖かったんじゃん!」

 

 青い光がプリンセスの身体からあふれ、周囲の黒いカードを弾き飛ばした。

 

 ラブリーも桃色の光をまとい、二人の間を塞いでいた壁を拳で打ち砕く。

 

 カードが消えた向こう側で、ラブリーとプリンセスは互いの姿を確かめた。

 

「ひめ」

 

「めぐみ」

 

 二人は同時に地面を蹴る。

 

 今度はぶつからず、並んでサイアークへ向かった。

 

 ★★★

 

 広場の端では、悠が黒いカードを一枚ずつ回収していた。

 

 右手で触れると、カードへ込められた人工的な負のエネルギーが腕を通じてレッドストーンへ流れ込む。人々の疑いそのものには触れず、幻影帝国が追加した力だけを吸い取っていく。

 

 カードは黒い灰となり、悠の手の中で崩れた。

 

「赤石、右から来るぞ!」

 

 誠司の声が飛ぶ。

 

 悠は振り返り、飛んできたカードを避ける。誠司が近くの屋台から大きな布を引き抜き、残りのカードをまとめて受け止めた。

 

「まとめる! お前は何とかできるのか?」

 

「人工的な力だけなら処理できる!」

 

「なら任せる!」

 

 誠司は布へ包んだカードを地面へ押さえつけた。悠は右手を重ね、内部の負の力を吸収していく。

 

 一度に多く取り込みすぎないよう、レッドストーンの状態を確かめながら進める。

 

 以前なら、すべてを一度に吸収しようとしたかもしれない。

 

 今は、無理をする前に誠司へ伝える。

 

「相楽君、少し待って。これ以上は一度に入らない」

 

「分かった。俺が押さえておく」

 

 悠は一度手を離し、呼吸を整えた。

 

 その様子を、戦いの合間にフォーチュンが見ていた。

 

 悠の右手へ黒い光が吸い込まれ、カードが力を失っている。

 

「赤石君……?」

 

 フォーチュンの動揺を狙い、サイアークの腕が振り下ろされる。

 

「フォーチュン、上!」

 

 ラブリーの声に、フォーチュンは反射的に飛び退いた。

 

 巨大なカードが地面へ突き刺さる。

 

「今は戦いに集中して!」

 

 プリンセスも叫ぶ。

 

 フォーチュンは悠への疑念を胸へ残したまま、サイアークへ向き直る。

 

「分かっているわ!」

 

 戦術指示へ切り替え、三人はそれぞれの位置についた。

 

「フォーチュン、カードを止めて!」

 

 ラブリーが指示する。

 

「プリンセスは上から核を探して!」

 

「任せて!」

 

「了解よ!」

 

 フォーチュンは紫色の光弾を連続で放ち、サイアークが撒き散らす黒いカードを撃ち落とす。

 

 プリンセスは青い風へ乗って上空へ舞い上がった。割れた水晶玉の内側に、黒い光を放つ一枚のカードが隠されている。

 

「ラブリー、頭の水晶に核がある!」

 

「分かった!」

 

 ラブリーが正面から飛び込み、サイアークの両腕を掴んだ。

 

「ラブリー・パンチングパンチ!」

 

 桃色の拳が腕の付け根へ何度も叩き込まれる。

 

 サイアークが体勢を崩した瞬間、フォーチュンが高く跳躍した。

 

「プリキュア・スターライトアセンション!」

 

 紫色の星が水晶玉へ命中し、表面へ大きな亀裂を走らせる。

 

「プリンセス!」

 

 ラブリーが呼ぶ。

 

 プリンセスは青い風をまとい、割れた水晶玉へ踵を振り下ろした。

 

「プリンセス・急降下ダイブ!」

 

 水晶玉が砕け、内部の黒いカードが露出する。

 

 ラブリーとプリンセスは隣へ並び、互いの手を握った。

 

「愛と勇気の力を一つに!」

 

 桃色と青の巨大なハートが形作られる。

 

「プリキュア・ツインミラクルパワーシュート!」

 

 二色の光が黒いカードを貫き、サイアーク全体を包み込んだ。

 

「ラブリー!」

 

「プリンセス!」

 

 巨大な占い台の姿が光へ変わり、空へ昇っていく。鏡へ閉じ込められていた二人の少女も解放され、広場を覆っていた黒い声は消えていった。

 

 ホッシーワは悔しそうに扇を閉じる。

 

「せっかくの不吉な未来を、自分たちで台無しにするなんて!」

 

「未来は、占いだけで決まらないよ!」

 

 ラブリーが言い返す。

 

 プリンセスも胸を張った。

 

「怖くなったら、本人に聞けばいいんだから!」

 

 フォーチュンが少し離れた場所から口を挟む。

 

「最初からそう説明したでしょう」

 

 プリンセスの顔が引きつった。

 

「今それ言う!?」

 

「人の説明を最後まで聞かなかったのは、あなたよ」

 

「氷川さん、言い方が冷たい!」

 

「事実でしょう」

 

 二人が言い合う姿を見て、ホッシーワは呆れた顔をする。

 

「浄化した直後に喧嘩を始めないでくださる?」

 

 黒い霧がホッシーワを包み込む。

 

「次は、占いではなく確実な不幸を用意して差し上げますわ!」

 

 そう言い残し、ホッシーワは姿を消した。

 

 ★★★

 

 騒ぎが収まると、鏡から解放された二人の少女は互いへ向き合った。

 

「黙って遊びに行ったのは、ごめん」

 

 一人が先に口を開く。

 

「別の子から急に誘われて、断れなかったの。でも、隠すつもりはなかった」

 

「私も、占いを理由に責めてごめん」

 

 もう一人が答える。

 

「置いていかれる気がして、怖かった」

 

「今度は、先に話すね」

 

「私も聞く」

 

 二人はすぐに元どおり笑い合うのではなく、少し気まずそうに並んだ。それでも、背を向けて立ち去ることはしなかった。

 

 変身を解いたひめは、その姿を見てからめぐみへ向き直る。

 

「めぐみ」

 

「何?」

 

「私、さっき言ったこと、本当だから」

 

「怖かったってこと?」

 

「うん」

 

 ひめは指を組み、少しだけ俯く。

 

「めぐみには友達がいっぱいいるから、いつか私より大切な子ができて、置いていかれるかもって思った」

 

 めぐみはすぐに否定しようとしたが、一度口を閉じた。

 

 ひめが何を怖がっているのか、最後まで聞こうとする。

 

「それで?」

 

「それだけ」

 

「そっか」

 

 めぐみはひめの手を握った。

 

「あたし、ひめ以外の友達も大切だよ」

 

「そこは私が一番って言ってよ!」

 

「だって、比べられないもん」

 

 ひめは不満そうに頬を膨らませる。

 

 めぐみは続けた。

 

「でも、ひめと友達でいたいのは本当だよ。ひめが勝手にいなくなったら、あたしは困る」

 

「本当に?」

 

「本当だよ!」

 

 今度の返事は迷いがなかった。

 

 ひめは少しだけ笑う。

 

「じゃあ、私も勝手にめぐみの気持ちを決めないようにする」

 

「うん!」

 

「でも、めぐみも分かりにくい時はちゃんと言ってよ」

 

「努力する!」

 

「また努力なんだ」

 

「何でも絶対って言うと、できなかった時に困るから!」

 

「そういうところだけ慎重なんだから」

 

 二人は手を繋いだまま、大森ごはんの出店へ戻っていった。

 

 ★★★

 

 広場の片隅では、いおなが悠を待っていた。

 

 悠が近づくと、いおなは人のいない路地へ視線を向ける。

 

「少し話があるわ」

 

「分かっているよ、氷川さん」

 

 二人は商店街の裏手へ移動した。ぐらさんは少し離れた塀の上で周囲を見張っている。

 

 いおなは前置きをせず、本題へ入った。

 

「黒いカードの力が、あなたの手へ吸い込まれていた」

 

「見ていたんだね」

 

「何をしたの?」

 

「カードへ込められていた、幻影帝国の人工的な負の力を処理した」

 

「処理?」

 

「取り込んだ」

 

 いおなの表情が険しくなる。

 

「あなたは負のエネルギーを吸収できるの?」

 

 悠は少し迷ったあと、頷いた。

 

「できる」

 

「なぜ?」

 

「それは、まだ言えない」

 

「またそれなのね」

 

 いおなの声は低くなった。

 

「負のエネルギーを取り込む存在が、戦いのたびプリキュアの近くにいる。警戒するなという方が無理よ」

 

「警戒しないでほしいとは言っていない」

 

「では、私たちへ近づく理由は?」

 

 悠は答えを探した。

 

 めぐみやひめと過ごす時間を嫌ではないと思い始めている。誠司には、家まで一緒に来てほしいと頼んだ。ゆうこから渡される食事も、以前のように単なる安定剤とは思えなくなっている。

 

 そして、いおなの近くにいる理由には、まりあの存在も深く関わっていた。

 

 しかし、それを今話すことはできない。

 

「離れた方が安全だとは思っている」

 

 悠は静かに言った。

 

「それでも、離れられない」

 

「理由になっていないわ」

 

「分かっている」

 

 いおなは悠を睨む。

 

「あなたは、自分が危険かもしれないと分かりながら、みんなの近くにいるの?」

 

「うん」

 

「無責任よ」

 

 その言葉は正しかった。

 

 悠は否定しない。

 

「そうだと思う」

 

「認めれば済むことではないでしょう!」

 

 いおなの声が強くなる。

 

「もしあなたが制御を失ったら? 吸収した力があなたを変えたら? めぐみたちが傷ついた後で、止めてほしかったと言うつもり?」

 

 悠は以前、誠司へ似た頼み方をした。

 

 自分が危険になったら止めてほしいと。

 

 だが、それは止める側へ責任を渡していただけなのかもしれない。

 

「それでは足りないんだね」

 

 悠が呟く。

 

「当たり前よ」

 

 いおなは即答した。

 

「自分で止まろうとしなさい。危険なら離れる、力を使うなら説明する、助けが必要なら求める。誰かが止めてくれることを前提にしないで」

 

 まりあとの二つ目の約束と重なる。

 

『危険な時は一人で抱えず、助けを求めること』

 

 悠は、助けを求めることを「自分が暴走した後に止めてもらうこと」と取り違えていたのかもしれない。

 

 本当は、そこまで追い詰められる前に誰かへ伝えることだった。

 

「氷川さんの言う通りだと思う」

 

「素直に認めても、私は信じないわ」

 

「うん」

 

「次に同じことをする時は、少なくとも一人で決めないで」

 

 いおなはそこで一度言葉を切った。

 

「今日のカードを吸収したことも、本当に安全だったの?」

 

「量は確認した。人間の感情には触れていない」

 

「その判断が正しいと、誰が確かめるの?」

 

 悠は答えられなかった。

 

 いおなは深く息を吐く。

 

「まだ、あなたを信用できない」

 

「分かっている」

 

「でも、今日カードを消したことで、人々が助かったのも事実よ」

 

 悠が顔を上げる。

 

 いおなの表情は厳しいままだった。

 

「だからこそ、余計に確かめる必要がある。あなたが敵なのか、味方なのか。それとも、そのどちらでもないのか」

 

「僕自身も、まだ分からない」

 

「それを決めるのは、あなたでしょう」

 

 いおなは背を向けた。

 

「赤石君。次は、もう少し話してもらうわ」

 

「努力するよ」

 

 いおなが振り返る。

 

「努力ではなく、話しなさい」

 

 ひめと同じような反応だった。

 

 悠はわずかに目を伏せる。

 

「分かった、氷川さん」

 

 いおなは完全には納得していない。それでも、それ以上問い詰めずに歩き出した。

 

 ぐらさんが塀から飛び降り、いおなの肩へ近づく。

 

「いいのか?」

 

「よくないわ」

 

 いおなは前を向いたまま答えた。

 

「でも、今ここで無理に聞いても、また黙るだけよ」

 

「面倒なやつだな、あいつ」

 

「ええ」

 

 少し間を置き、いおなは付け加える。

 

「ただの敵なら、もっと簡単だったのに」

 

 二人は商店街の人混みへ消えていった。

 

 ★★★

 

 夕方、大森ごはんの店内には、催しを終えた仲間たちが集まっていた。売れ残ったおにぎりと弁当のおかずがテーブルへ並べられている。

 

「それで、占いの結果はどうだったの?」

 

 ゆうこがひめへ尋ねた。

 

「友情が壊れるなんて、最初から言われてなかった」

 

 ひめは不満そうに焼きおにぎりを食べる。

 

「氷川さんは、絆が試されるって言っただけだったの」

 

「説明を最後まで聞かなかったのは、ひめだろ」

 

 誠司が言う。

 

「分かってるよ!」

 

「それで本当に喧嘩したんだから、当たってたとも言えるね」

 

 めぐみが笑う。

 

「笑い事じゃないよ! 私、すっごく怖かったんだから!」

 

「ごめん。でも、ちゃんと話せたからよかったよ」

 

「次から占いは、いいことだけ聞く」

 

「それだと占いの意味がないんじゃないかな」

 

 ゆうこが穏やかに指摘した。

 

 ひめは少し考え、首を振る。

 

「じゃあ、占ってもらっても最後まで聞く」

 

「それがいいと思うな」

 

 ゆうこは悠の前へ、形の少し崩れた焼きおにぎりを置いた。

 

「赤石君。今日もこれでいい?」

 

「うん。ありがとう、大森さん」

 

 悠は焼きおにぎりを手に取る。

 

 めぐみが悠の顔を覗き込んだ。

 

「氷川さんと、何を話してたの?」

 

「僕の力について」

 

 ひめの手が止まる。

 

「話したの?」

 

「少しだけ」

 

「氷川さん、怒ってた?」

 

「怒っていたと思う」

 

「何て言われたの?」

 

 悠は焼きおにぎりへ視線を落とす。

 

「危険になる前に、自分から止まれと言われた」

 

 誠司が静かに聞いている。

 

「それから、一人で決めるなと」

 

「正しいじゃん」

 

 ひめが即答した。

 

「うん」

 

 悠も否定しなかった。

 

 めぐみは何かを尋ねたそうにしていたが、すぐには口にしなかった。

 

「赤石くん」

 

「何?」

 

「いつか話せるようになったら、ちゃんと聞くよ」

 

「怖くないの?」

 

「あたし、まだ何も知らないから、怖いかどうかも分からない」

 

 めぐみらしい答えだった。

 

「でも、間違えたら止めるからね」

 

 以前にも聞いた言葉だった。

 

 無条件に許すのではなく、何があっても一緒だと言い切るのでもない。

 

 それでも、何も知らないうちから悠を一人へ戻そうとはしない。

 

「分かった、愛乃さん」

 

 悠は焼きおにぎりを一口食べた。

 

 醤油の香りと、少し焦げた米の味が広がる。

 

 ひめは隣で、めぐみの皿から卵焼きを取ろうとしていた。

 

「ひめ、それあたしのだよ!」

 

「一個くらいいいじゃん!」

 

「自分のところにもあるでしょ!」

 

「そっちの方が大きいもん!」

 

「同じ大きさだよ!」

 

 二人の友情は、占いによって壊れなかった。

 

 喧嘩がなくなったわけでもない。

 

 不安が一度の会話ですべて消えたわけでもなかった。

 

 それでも、疑った時に相手へ尋ねることを、二人は一つ覚えた。

 

 悠もまた、すべてを話すことはできなかったが、何も言わないまま逃げることだけはしなかった。

 

 夕映えが窓へ差し込み、同じテーブルを囲む者たちの影を長く伸ばしていた。

 

 次回予告

 

 誠司:

「プリキュアは強い。でも、身体の使い方はまだ甘いな」

 

 めぐみ:

「じゃあ、誠司が空手を教えてよ!」

 

 ひめ:

「私、痛い特訓は嫌だからね!」

 

 ゆうこ:

「運動した後のおにぎりなら用意するよ」

 

 悠:

「僕も参加することになっているの?」

 

 誠司:

「自分の身体を壊さずに動く練習だ。お前に一番必要だろ」

 

 悠:

「否定できない」

 

 めぐみ:

「次回、第9話『空手でオッス!! プリキュアパワーアップ!? /鍛える身体と、壊れないための力』」

 

 ひめ:

「赤石くん、受け身から練習だよ!」

 

 悠:

「白雪さんが先に覚えた方がいいと思う」

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