先ほどのヒルチャールの襲撃から数時間が経過し、日が沈み始めていた。
「それじゃあ見回り、お願いね」
私は水元素で、サロン・ソリティア*1と花霊を参考にして創り出した召喚物…『
水で槍を作り、花水霊たちと一緒に戦う。これがひとまず私が編み出した戦い方だ。実物の槍があったらもっといいんだけど、この甘露花海じゃとても手に入りそうもない。
「にしても私、本当に原神の世界に来たんだなぁ…」
エゲリアに助けられてから色々あったため、落ち着いた今、ようやくそれを実感する。ていうか初っ端からエゲリアに会うって普通にすごくね?今になって感動してきたわ。これからもっといろんなキャラに出会えるんだろうなと思うとワクワクする。
でも、いくつか問題もある。甘露活水でできたこの身体は、純水精霊のような元素生命体に近く、人間社会に溶け込むには身分など色々と偽装しなければならないだろう。
そしてもう一つ、フォンテーヌに行くにあたって、確実に見つかってはならない人物がいる。フォンテーヌの最高審判官であり、水龍のヌヴィレットだ。エゲリアの分身体である以上、近付かれたらバレそう…いや、フリーナは500年間ヌヴィレットに対しても水神ではないことを騙し通した。実は案外バレなかったりする?うーん、会わないに越したことはない気がする…。
「ヌヴィレットに見つからないようにしながらフォンテーヌで生活…普通に難易度高くね?」
もしかして私の身体、フォンテーヌで身を隠すのに向いてない?いや、ヌヴィレットは積極的に民と接する性格ではない。民とふれあうのは大体現水神のフリーナの方だ。裁判とパレ・メルモニア付近に赴かなければヌヴィレットに会うこともないだろう…多分。
「うん、今日はもう寝よう」
難しいことは時間をかけて考えよう。花水霊が見回っているため、私は安心して明日に備えて眠ることにした。
その夜、夢を見た。かつて栄華を誇った国・カーンルイアが、漆黒の厄災に飲み込まれていく。
──
天理に招集された
しかし、
ここで
違う。私はエゲリアよ…私、エゲリア、私、エゲリア私エゲリアわたエゲリアわエゲリアエゲリアエゲリアエゲリアエゲリア私私私わたしわたしわたわたわたわたわ…
「っ!はぁ、はぁ…」
思わず私は飛び起きた。呼吸が荒く、肩で息をしている。大きく息を吸い、深呼吸をして呼吸を整える。まだ頭が少しクラクラする。
「夢…なの?」
それとも、エゲリアの記憶を垣間見たのか?そして途中から自我が曖昧になって…。恐らく前世の自分を詳しく覚えていないからか、今の私の自我がエゲリアの記憶に飲み込まれそうになっているのかもしれない。
「自我の、混同…?」
それもそうか。私は普通の転生と違って、エゲリアの分身体に直接入り込んでいる状態だ。記憶が曖昧な私では、数千年分の記憶に押しつぶされてしまうのだろう。これを放置したら色々と危ない気がする。これをどうにかするには…
「私は…フォーリア。そう、フォーリアよ」
名前を名乗り、自我を確立する。前世の記憶と、エゲリアの記憶を併せ持つ、新たな存在・フォーリアとして。名前はアイデンティティの一つと言うし、効果はあるはずだ。名前はフォカロルスとエゲリアから取った。我ながら単純だけど、不思議としっくりきた。
──そう。私はこのテイワットで、フォーリアとして生きていくのだ。
「やっと見えてきた…」
テイワットに降り立って早数日、ようやくフォンテーヌが見えてきた。視界一面を、大きな滝で埋め尽くされる。いやしかし、こうしてみると壮観だな。フォンテーヌへの入り口であるロマリタイムハーバーに行くために、海上を歩いていく。この数日の間で、フリーナみたいに水上歩行できないかなーって思ってイメージしたらできた。多分水神パワーなのかな?ちょっと集中力が必要で、気が緩みすぎると海にドボンなので気をつけなければならないけれど。
流石に人が海上を歩いてきたとなったら騒ぎになりそうなので、遠回りして人気のない陸上に上陸する。ゲームだとここでリネとリネットに出会ったんだよね。あっ、フリーナがここで出迎えたんだっけ。懐かしいなぁ…。
感傷に浸るのもほどほどに、エレベーターに乗って上へ向かう。上につくと、見たことのある景色、まさに正義の国・フォンテーヌが広がっていた。
「おお、本当にフォンテーヌだ…」
さて、フォンテーヌ廷には巡水船で行けるわけだけれど、せっかくだし少し周辺を歩いてみようかな。気になることもあるし。
「周りを見てきてくれる?」
周辺の偵察を花水霊に任せ、歩きながら辺りを散策する。とりあえず、今の年代がどれくらいなのかを確認したいところ。それによって私のとる行動が変わってくる。場合によっては、私が…。
「…行きますか」
「待ってくれ、クリーヴ…!」
私は目の前を走る桃色の髪の少女…クリーヴを追いかける。窓から見たことのない水元素の精霊のような生物を見つけるや否や、好奇心で飛び出して行ったのだ。
「お母様にバレたら何て言われるか分からないぞ?」
「でもペルヴェーレ。こんなに珍しくて可愛いんだよ?ねえ、あなたはどこから来たの?」
クリーヴの問いに、精霊は分からないといった様子で首をかしげる。言葉を理解しているのか、そもそもそれほどの知能が無いのかは分からない。ただ一つ言えるのは、この周辺の地域では確実に見たことがないということだ。
そして精霊は私たちを一瞥した後、後ろを振り向き、ある方向を目指して飛んでいった。
「あっ、行っちゃうわペルヴェーレ!追いかけましょう!」
「おいクリーヴ!…まったく」
私は呆れながらも、再び精霊を追うクリーヴを追いかける。やがて目的地にたどり着いたのか、精霊が止まったのを確認すると、そこには人がいた。その人の周りには先ほどの精霊が何匹も漂っており、色白な肌と綺麗な顔立ち、修道女のような服装も相まって、私はその人にどこか神聖な雰囲気を感じ取っていた。その人は私たちを見ると、少し驚いたような表情をしたと思ったら、すぐに元の落ち着いた表情へ戻った。
「あら、あなたたちは…?」
「あっ、私はクリーヴ。あなたの周りにいる精霊さんを追いかけてきたの」
「私はペルヴェーレ。この精霊はあなたが…?」
私たちの自己紹介を聞くと、その女性は静かに微笑みかける。私にはその笑顔が、とても美しく見えた。
「そうよ。私はフォーリア。最近この辺りに来たばかりで、この子たちに周りを見てもらってたの。可愛い子たちでしょう?」
「ええ、とっても!」
「これだけの数を、フォーリアさん一人で…」
興奮気味のクリーヴを横目に、私はフォーリアさんの水元素の扱いに感嘆していた。普通これだけの召喚物を操るには、かなり緻密な元素力のコントロールが必要なはずだ。それを私たちと会話しながら涼しい顔でやってのけている彼女は、一体何者なのだろう?正直彼女については私も気になるが、長居しすぎるのはまずい。
「クリーヴ、流石にそろそろ…」
「!そうね、ペルヴェーレ。ねえフォーリアさん、また今度会ったら、外についていろいろ教えてくれる?」
「ええ、もちろんです。またどこかでお会いしましょう、クリーヴさん、ペルヴェーレさん」
私たちはフォーリアさんに別れを告げ、帰路を辿る。
(またクリーヴが体罰を受けなければいいが…)
私はそんな不安を抱きながら、お母様にバレる前に家へと戻るのだった。
「なるほどね、私の知ってる時間から10年前ってところかしら」
クリーヴは笑顔で手を振りながら走り去っていく。だが、私は知っている。あの笑顔の裏には、『壁炉の家』での悲しみや恐怖が隠れているのを。あの体には、幾つもの傷が刻まれているのを。
ここで彼女たちに会えたのは僥倖と言ってもいいだろう。彼女らもまた、私にとって救いたい人物なのだから。うん、ひとまずの方針は固まった。
「あんな結末になんて、させない」
いずれ訪れる不幸を、私が排除する。それがきっと、この世界にやってきた私の使命なのだ。それになにより…私がそうしたいと、心から思ったのだ。
──さあ、始めよう。もう一人の水神による…不幸を取り除く
・フォーリア
自我の混同により存在が危ぶまれたため、自分で自分を名付けることで解決。意外とパワープレイである。自認の変化により出力される口調も若干変わりつつある。
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