それからというもの、クリーヴは隙を見てはお母様の目を盗んでフォーリアさんに会いに行くようになった。私も、最初は仕方ないとばかりについて行ったが、次第に会いに行くのが楽しみになっていった。
彼女は博識で、いろんな国のことを知っていた。フォンテーヌだけでなくモンド、璃月、稲妻、スメール、ナタ、ナド・クライと、様々な国のことを特徴や文化を交えて丁寧に教えてくれて、その話を聞いているときのクリーヴの目は輝いていた。ただ一つ、彼女はスネージナヤにだけは行ったことがないのだという。そんな話を聞いて、クリーヴは言った。
「じゃあ、フォーリアさんも一緒に見に行こうよ!オーロラを!」
「オーロラを?」
「ええ!スネージナヤでは、大きな虹色のオーロラが見られるんだって。私とペルヴェーレは、いつかそれを見に行くの。フォーリアさんも一緒にどう?」
「いいの?私も一緒で」
「フォーリアさんとも一緒に見たいの!…だめ?」
「私も、フォーリアさんが一緒なら…嬉しい」
「ふふっ、分かったわ。その時はぜひ」
「…!約束よ!」
クリーヴはフォーリアさんとそんな約束を交わした。フォーリアさんと話しているときだけは『壁炉の家』のことをすっかり忘れられるような気がして、こんな時間がずっと続けばいいと思った。
──そんなこと、あるはずもないのに。
お母様の意向により、子供同士の「王」を決めるための殺し合いが始まった。最後に残ったのは、私とクリーヴのみ。互いに互いを殺す勇気も意思もなく、無意味な時間が流れていた。それを見かねてか、クリーヴは自ら私の剣に刺されようとした。
「っ!」
私もとっさに剣を引っ込めようとしたが、もう間に合わな…
「そこまでよ」
「「!」」
そんな声が響き渡り、気付けば私の剣は水の膜で覆われており、剣がクリーヴの胴を貫くことはなかった。
「『花水霊』たちに監視させていたのだけど、駆けつけるのが遅れたわね…ごめんなさい、あなたたちしか助けられなかった…」
「フォーリア、さん…?」
「どうしてあなたが…」
「子供同士の殺し合いなんて悪趣味な真似、止めなければならないでしょう。ああ、あなたは納得いかないかしら?【召使】さん?」
フォーリアさんがそう言いながら振り返った先には、静かに怒気をはらんだお母様が立っていた。
「貴様、何をする?私が【召使】と知っての妨害ならば、随分と己に自信があるようだ」
「自信だとか、それ以前にこんなのを見過ごせるわけもないでしょう」
「私の方針に、部外者である貴様が異を唱えるか」
「部外者ではないわ。だって私は、この二人の…友人だもの」
「あっ…」
その言葉に、クリーヴは思わず涙を流していた。私も、フォーリアさんの背中がとても大きなものに感じた。彼女ならば何とかできるかもしれないと、そう思わせてくれた。そして私はクリーヴに向き直る。
「クリーヴ、なぜあんな事を…?」
「だって、このままじゃ何も解決しないから。だから、あなたならいい「王」になれるって思って…っ!」
私は、クリーヴを抱きしめた。
「もう、あんな事はしないでくれ…」
「うん、うん…ごめんね、ペルヴェーレ…」
「御託はいい。こうなれば、貴様を始末してまた殺し合わせるまでだ」
「そうはさせないわ。私がここであなたを倒す」
お母様が剣を構えると、フォーリアさんは精霊を何匹も召喚し、周囲に漂わせる。そして水元素で槍を作り、構えた。そして…
一瞬にして距離を詰めた両者の武器が、衝突した。
うん、やっぱりクルセビナは一発と言わず何発でもぶっ飛ばす。クリーヴとペルヴェーレを見て、私はそう心に誓った。
詳しい日時が分からなかったから、二人と仲良くなって機会を伺っていたのだけれど…他の子たちを助けられなかったのは無念でならない。でも、今は目の前の戦いに集中しなくては…!
「ハァッ!」
「ふっ!」
クルセビナの剣を槍で弾き、突きを入れようとするが、クルセビナはそれをかわし、水元素を纏った剣を振りかぶる。私はとっさに柄の部分でガードし、花水霊たちにクルセビナを攻撃させる。
「ちっ!」
それをかわすためにクルセビナは後ろに飛び退き、私と距離を取る。花水霊たちの連射攻撃の雨を掻い潜りながら、再び私との距離を詰めようと接近してくる。私は距離を取ろうとするが、それを許すクルセビナではない。距離を詰めてくるクルセビナに対して私は槍で攻撃を弾きカウンターを狙うが、剣で穂先を受け止め、衝撃を最小限に抑えていた。さすがは腐っても執行官【召使】だな。実際に戦うと滅茶苦茶強い…!
「正義感で友人を救おうとは、素敵な品格だ。だがそれは、何の役にも立たない!」
クルセビナは三度私との距離を詰めてくる。私は花水霊の数を増やし、弾幕を張る。
「貴様、何者だ?これほどの強者でありながら名前も、容姿も、見たことも聞いたこともない」
「ただのフォンテーヌ人よ。いえ、もしかしたらスメール人かしら?」
「何をわけの分からないことを!」
クルセビナは会話しながら、花水霊の水弾をすべて剣で弾き落とす。私は足元から水しぶきを発生させ、その奥から突きをお見舞いするが、それも防がれた。あんまし効かないとちょっとへこむんですけど…!
「あなたの悪行は知っているわ。実の娘への虐待、実験台としての運用、偏った教育、殺し合いの強制…キリがないわね」
「誰が何と言おうと、これが『壁炉の家』のルールだ」
「馬鹿げてるわね、子供たちを虐げて、洗脳して支配して。一国の王様気取りかしら?」
「この家では私が”お母様”、私が絶対の存在なのだ!子供を強く育て、選別し、「王」とするのが母としての私の使命!」
…本当に、救いようのないタイプのやつだったか。自分の親がこうだったとか、そういうタイプかもなって少し思ったこともあるけど、こいつは根本的に価値観が歪んでいるらしい。いや、【博士】と結託してる時点で今更か。
「…違うわね」
「何?」
「あなたのそれは”お母様”であって、本当の”母親”ではない。あなたの我欲にまみれた、ただの独善よ」
「貴様、どこまで私を愚弄すれば…!」
「もういいわ。あなたに『慈悲』は必要ない。いえ、早急に終わらせることが『慈悲』かしら」
私は手を掲げ、周囲の水をかき集める。幸いこの周辺には水源がある。大いに利用させてもらおう。私の周囲に、三つの刃が生成される。
「水刃」
「っ!?」
クルセビナは二つの刃をよけ、その隙を突いたもう一刃を剣で受け止めるが、剣の方が悲鳴を上げ、刀身が削られていく。それを見るや否や、クルセビナは水元素で剣を強化し、水刃を叩き落とした。
一方私は、水刃を対処させている間に、さらに水を集め、一つにしていく。
「なんだ、それは…」
「海…それ即ち、生命の起源。生命は水より生まれ、再び水へと還る」
私の背後には、巨大な水源が構築されていく。その流れは厳かで激しく、ただ目の前の敵を押し流さんと流々とその時を待っている。
「荒波に…呑まれなさい。『万象流転』!」
「ぐっ!?」
クルセビナはとっさに水元素を放出するが、圧倒的な質量の波はそれさえも飲み込み、目の前の敵を押し流していく。そしてクルセビナは建物の壁に打ち付けられる。彼女は片膝で立ち、剣でその体を支えている。
「貴様、本当に、何者だ…?」
「言ったでしょう。ただのフォンテーヌ人で、あの二人の友人よ。だからこそ…」
その直後、私の背後から二つの影がクルセビナに向かって飛び出した。
「この悲劇は私ではなく、彼女たちの手で幕を下ろすべきよ」
「はぁーっ!」
「ふっ!」
「ちっ!?貴様ら…何を…!」
その手に剣を握ったクリーヴとペルヴェーレが、クルセビナの胴を狙うが、まだ足掻くクルセビナは剣でそれを受け止める。
「お母様、私たちはあなたを超えて、外に出る!」
「そして、ペルヴェーレと…そしてフォーリアさんと一緒に、いつかオーロラを見に行くの!」
「失望、したぞ…!出来の悪い子供ごときが…!」
その覚悟に呼応したのか、空から2つの光が降り注ぐ。1つの黄緑色の光はクリーヴへ、もう1つの赤い光はペルヴェーレへと収まる。紛れもなく、それは神の目であった。
「っ!ペルヴェーレ!」
「ああ!」
次の瞬間、二人はクルセビナと距離を取る。そしてクリーヴはクルセビナを草元素の蔓でその場に拘束する。
「なっ!」
「これで終わりだ…お母様」
満身創痍で蔓を振りほどけないクルセビナに対して、ペルヴェーレの赤黒い火炎が容赦なく向かっていく。
「これにて
「…!この、出来損ないど…」
その言葉が言い終わるよりも先に、炎に包まれたクルセビナの姿は、やがて爆炎の中へと消えていった。
・フォーリア
ペルクリ幸福委員会代表としてクルセビナをぶっ飛ばすことを決意した。二人に対してはミステリアスお姉さんキャラとしてのロールプレイに興じているが、恐らくその内ボロが出始める。
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