「すまない、少しいいだろうか?」
「はい…?」
あれれ~おかしいぞ~?何で水の龍王のヌヴィレットがここにいるのかな〜?
いや、何で!?どうして最高審判官が!
…落ち着け、落ち着いて素数を数え…じゃない。これまでの出来事を振り返るんだ。そうすれば原因も明らかになるかもしれない。
☆☆☆
サーンドル河にやってきてから数日。棘薔薇の会の任務にも慣れてきたところ。私の業務は主に言い争いなどの仲裁や、犯罪の取り締まり。つまるところ保安官的な、何も起こらなければ暇な仕事ではあるのだが、そうもいかないのがサーンドル河の治安である。
「ちっ、棘薔薇の会の新入りだか何だか知らねえが邪魔すんじゃ──」
「ほいっ」
「ぎゃあー!」
日常茶飯事、とまではいかずとも強奪行為や言い争いの発展による喧嘩はまあまあ起こる。その度に私が出向き、制裁を加えるというわけだ。…といっても、少し懲らしめる程度だけれど。
私が棘薔薇の会に加入してから、目に見えてこの場所の犯罪率などが減ったらしい。カーレスやソニィ*2からも度々、かなり助かっていると感謝の言葉を投げかけられる。これはつまり私の影響で再犯率とかが減ってるってことなんだろうけど、私ってそんなに怖いかなぁ…?
一方クリーヴとペルヴェーレはというと、サーンドル河の酒場でウェイターとして働き始めた。私としては二人にまで働いてもらわなくてもよかったのだが…
「フォーリアさんに任せっきりだなんて私たちにはできないわ!」
「ああ。私たちにもできることをしたい」
という二人の厚い要望により、押しに負けた私が認可する形となった。まあ、もし万が一客が手を出そうものでも二人なら返り討ちに出来るだろうし、実際二人の接客は常連に人気らしく、バーテンダーの人から経営の調子がよくなったと感謝を述べられたこともある。
そして棘薔薇の会の仕事合間に…といっても主に夜だけど。に行っているのが、孤児のリネとリネット──通称リネリネの捜索だ。
原作では【召使】となったアルレッキーノが、二人を引き取って利用しようとした貴族を始末して壁炉の家に引き入れたわけだけれども、この世界では私がペルヴェーレとクリーヴを助けてしまったため、そもそもアルレッキーノが誕生しない。そんなストーリーは私が粉砕した。してしまった。つまりその役割を私が担わなければならないということだ。モチロン後悔はない。
そういうわけで、最近は主に人目のつかない時間帯に花水霊も総動員して孤児のリネリネを捜索している。しかし…
「マジでどこにもいない…」
そう簡単に見つかるはずもなく、苦悶の日々を過ごしている。
☆☆☆
…うん、ヌヴィレットがここに来て私に話しかける要素あったか?
「それで…最高審判官殿は私に何の御用で…?」
「実はここ最近、奇妙な水元素生物のようなものが街を徘徊しているという目撃情報が散見されている。私も個人的興味で少し調べていたのだが…」
そう言いながら、ヌヴィレットは私を見つめる。
「以前元素生物を見かけた時に感じた元素力と同じ水元素力を辿ってみたところ、君から感じる元素力が似ていると感じたのだが…何か知らないだろうか?」
完っ全に私のせいだったぁ──!
……いや、よくよく考えればこうなることくらい自明の理だわ。そりゃあ水龍が水元素に敏感じゃないわけないもんね…。だがこの様子、元素力は感じ取れても私がエゲリアの複製とまでは勘付いていないようだ。大丈夫、まだ慌てる時間じゃない。
「何も知らなければそれでいいが、無理に何かを話す必要もない。これは私の勝手な質問であり、君には黙秘権・拒否権がある。仮に君が何か関係あったとしても、別に直接的な被害が出ているわけでもない。告発などはしないと約束しよう」
「は、はぁ…」
ザ・堅物って感じですな…ぶっちゃけ黙秘でもいいが、このまま下手に探られるといつかボロがでかねない。ならばここはある程度正直に話す方がよさそうだ。
「えーっと…はい。それ、私です。実は最近までここにいた孤児を見かけなくなったので、何かあったのではないかと心配で…」
「孤児?」
「はい。日々を耐え凌ぐためにマジックを披露している様子でした。私、こういう類は放っておけない性分でして。それにもし悪辣な貴族などに拾われていたらと思うと不安なのです」
リネリネをこの世界に来てから見かけたことはないが、真っ赤な嘘って訳でも無い…どうだ?
「ふむ、そういうことだったのか。まずは謝罪しよう。問い詰めるような真似をして申し訳なかった。が…できればその元素生物には人目につかない場所を捜索させてほしい。深夜の時間帯でも、街道を通る市民はいる」
「はい、それは…モウシワケアリマセン…」
私は深々と頭を下げる。いやはや、そもそも街中に花水霊を放つのが失敗でしたな。もう少し考えてから動くべきだったと反省する。ヌヴィレットに会わないのが一つの目標だったのに、結果的に私の行動で彼をここまでおびき寄せてしまったわけだし…。
「それにしても、君の水元素は他の者に比べて透き通っているな」
「透き通っている…ですか?」
「ああ。君の呼び出すものたちには一切の混じり気がない。これほどの純度を保つにはかなり緻密なコントロールが必要なはずだ」
「それはその、無意識的といいますか、自分では自覚していないといいますか…」
これに関しては割と本当で、純度がどうたら言われても私にはさっぱりわからない。恐らくエゲリアとしての元素コントロール力が体に染み付いているのだろうか?
にしても、花水霊を一目見てそこまで読み取れるとは、やはり水龍は偉大。いや、自称水ソムリエだからか?はたまた両方か…。ともかく水の違いなど私には分からん、水は水、水神の分身としてあるまじき思考かもしれないが、そこは気にしない。
「…しかし、理解できないな。」
「え?」
「何故、そこまでする?包み隠さずに言うならば、その孤児は見ず知らずの他人。君がそこまでする理由はないはずだ」
まあ確かに、傍から見ればそうか。いくら優しい人でも、ここまでするのはさすがに見たことないか。原作でも重要キャラのリネリネを私のせいで失うわけにもいかない、というのはあるが、やはり…
「さっきも言ったように、放っておけないからです。……それに、あの子たちには生きていてほしいんです」
「……それだけか?」
「ええ、それだけです」
ヌヴィレットは私の言葉にしばし考えるようなそぶりを見せる。そして次に彼は、意外な言葉を口にした。
「なるほど。私は公的立場故、捜索に関して権力を行使して協力することはできないが…もしそれに関連しそうな情報を手に入れたら、君に共有しよう」
「えっ…よろしいのですか?」
「ああ、これは最高審判官としてではなく、ヌヴィレットという一個人の申し出だと思ってくれていい。私がそうしたいと思った故、君がなにか気にする必要もない」
ヌヴィレットが協力を申し出てきた…?これは予想外。この時点だともうちょっと厳粛で固い人だと思っていたから…。
「不躾な質問と存じますが、何故そこまで私に肩入れを?」
「…これは個人的な感想だが、君の行動や言動の節々には誠実さが感じられる。きっと君は他の者よりも純粋で、他人のために動くことのできる珍しい人間だ。私はそれを、理解したいのかもしれない。見ての通り、私は感情の機微に疎いからな」
ヌヴィレットには最終的に、返還された水神の権能により、フォンテーヌ人の原罪を赦してもらわなければならない。だからこそ、フリーナを審判した時点でフォンテーヌ人を好きになってもらわないといけないのだが…こう思えるってことは順調に人を理解している証拠だろう。心配する必要もなさそうだ。
「では、お言葉に甘えて…」
「うむ。…そういえば、君の名前を聞いていなかったな」
「あ」
確かに、私が一方的に知っているだけで名乗ってなかったな…。相手が有名人でよかった。何で知ってるの?になりかねないからな。今度から気をつけよ。
「私はフォーリア。ただのフォンテーヌ人です」
「フォーリア殿か。”ただの”、というのはいささか引っかかるが…覚えておこう」
そこはなるべく引っ掛からないで欲しいんですけどねえ…予言の日まで私は下手に目立つわけにはいかないし。でもまあ、多少なりともヌヴィレットが協力してくれるのは心強いか。
「私に用があればパレ・メルモニアに来るといい。職員たちには私から説明しておこう」
「なにからなにまでありがとうございます。ヌヴィレットさんも、帰りはお気をつけて」
そしてヌヴィレットは踵を返して立ち去っていった。
パレ・メルモニアへの帰路を辿りながら、私は先ほどの自分の発言を振り返っていた。
「一個人としての協力、か…」
柄にもないことを言っていた自分に少々驚いている。私は、人の罪を審判する公平な立場にある。つまり誰かに肩入れしすぎれば、もしその人を審判するとなった場合に公平性を保てない可能性がある。だからこそ、本来私は職場以外でも人付き合いはあれど、特定の誰かに思い入れすることはない…はずだった。
孤児を捜しているという彼女を見て、私は気付けば協力を申し出ていた。サーンドル河で暮らしている以上、自らの生活も決して楽ではないはずなのに、彼女は見知らぬ孤児を案じていた。そういう性分なのだと、そう言ってのけた。その言葉に、嘘はないように思えた。
フォンテーヌに来てからの数百年、優しい性格の人間は何人か見れど、ここまでの優しさ…いや、もはや『慈愛』というべきそれを見せた者はそういなかった。彼女の放つオーラは優しくもあり、どこか底の知れないものでもあった。私が言い放った、彼女を理解したいというのも理由の一つではあるのだろうが、それ以上に…そんな彼女の”何か”に、私は突き動かされたのかもしれない。
「フォーリア…不思議な人間だ」
不思議なことに、その名は私の記憶に強く刻まれていた。
意外ッ!それは突然のヌヴィレット邂逅!
何も考えずリネリネ捜索を始めた結果捕捉されてしまうフォーリア。水元素に敏感なヌヴィレットさんも、エゲリアの複製であることには気付きませんでした。フリーナが人間であることにも気づかなかったので…フリーナに関しては不死の呪いの影響の可能性もあるかも?間違ってたらごめんちゃい(*ノω・*)テヘ
水元素の純度がどうたらは完全にオリジナル設定です。ヌヴィがフォーリアが普通ではないと感じる何かしらの描写が欲しいなと思って…。
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