その年の夏、オビトが中忍に昇格した。
アカデミー入学前にばあちゃんに連れられて本選を見に行ったことはあったらしいけど、物心ついてからは初めてだ。何だか気恥ずかしかったけど、ばあちゃんと一緒にオビトの試合を見ているとすごく懐かしい気持ちになった。
因みにリンは、残念ながら任務で里にいなかった。
本選が終わってからばあちゃんと別れ、控え室のオビトを訪ねようとしたところ、階段の途中で私はゲンマとコマノに遭遇した。
二人一緒のところを初めて見た。
「ゲンマ、コマノ! 来てたんだね」
「
コマノは気さくに笑いながらこちらに近づいてきた。ゲンマは照れくさいのか、ちょっと難しい顔をしてその場で立ち止まった。
へぇ。ゲンマもそんな顔、するんだ。何だかこそばゆくなって私は思わず笑ってしまった。
さらに難しい顔になって、ゲンマが口元の千本を落ち着きなく揺らす。
「なに笑ってんだよ」
「ゲンマ、恥ずかしいんでしょ。いいじゃん、ほんとにお似合いだよ。もっと堂々とすれば?」
「ほんっとそう。たまの休みに会っても人目があるとすぐこれ。
「コマノ、余計なこと言うな」
ゲンマがちょっと頬を染めて口を挟んでくる。相変わらず明るく堂々としていて、やっぱり胸元が目立つコマノと、そこから半歩引いて落ち着きなさそうに目線を泳がせるゲンマ。
お似合いのはずなのに、あのゲンマがそわそわしているのはめちゃくちゃ新鮮だった。
「ゲンマ、せっかくコマノの隣にいるんだからもっと胸張ったほうがカッコいいよ」
「うるせぇ。胸のないやつは黙ってろ」
「むっ……え、それ今関係ないよね? ねぇ、彼女の前で言うこと?」
「ゲンマ、最低。あんた
「事実だからセクハラじゃねぇ」
「事実かどうかは関係ないのよ。
「あやま…………………スイマセンデシタ」
露骨に嫌な顔をして、ゲンマが消え入りそうな声でそう言った。めちゃくちゃ腹立つけど、それよりゲンマが私にそんなことで頭を下げたことのほうが意外だった。
へぇ。コマノの言うことなら、聞くんだ。へぇ。
またニヤけてしまって、ゲンマの目つきがさらに鋭くなった。
「ニヤニヤしてんじゃねぇ」
「してない」
「めちゃくちゃ締まんねぇ顔してんぞ」
「もともと! こういう顔です!」
「鏡のあるとこ連れてってやろうか? お前がどんだけアホ面してるか」
「鏡なら持ってますんで結構です!!」
ああ言えばこう言う。カッとなってさらに言い返そうとしたけど、コマノがいることを思い出して私は次の言葉をグッと飲み込んだ。
「……私、オビトのとこ行こうと思ってたんだった。お邪魔しました! ごめんねコマノ、また!」
「ええ。またね、
「うん、またね!」
コマノにだけ笑いかけて、足早に立ち去る。なんか分かんないけど無性にムシャクシャした。でも私の知らないゲンマはやっぱり新鮮で、ニヤけてしまったのも事実だ。
控え室に着く頃には、私はゲンマとコマノのことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。
***
別にコマノとのことを隠すつもりはなかったが、昨日の今日でまさかアイとサクにバラされるなんて思わなかった。というか、何でそんなとこまで見てんだよ。完全に覗きじゃねぇか。まさか店を出たあとのことまで知られてねぇよな?
忍猫たちの信頼を勝ち取った
いつか離れるときがくることは、お互いに分かっている。いつまでもチームメイトではないし、
もちろん恋愛感情だとか、そんなものじゃない。俺たちは幼なじみで、兄妹のようなもので、
だが、当たり前のようにいつもそばにいた俺が、他の女のところに行ってしまったら、
毎年当たり前のように一緒に過ごしていた誕生日に、俺が帰らなくなったらどう思うんだろう。
だが
引き止められたところで俺は困るはずなのに、引き止められるどころか背中を押されたことに寂しさを感じているのは俺のほうだった。
もう、俺なんかいなくても平気なのかもしれない。
寂しいのはきっと、俺だけだったんだな。