「やっぱりお前は笑ってるほうがいいよ」
自然に俺の口からこぼれた言葉に、
座卓が邪魔で、近づくのは無理そうだ。俺は
「ひとりで悩む時間はもう充分じゃねぇか?」
すると
「だって……誰にも言えないもん、こんなこと」
「こんなことって?」
「だから……言えないよ、ゲンマにだって」
ふと視線を感じて盗み見れば、縁側の忍猫が探るようにこちらを見ている。彼らは
「そっか。じゃあ言わなくていい」
俺があっさり折れると、
「そんなもんどうでもいいから、飯は食ってんのか」
「た、食べてるよ……」
「じゃあ何でそんなやつれてんだ。何食ってんだ、寝れてねぇのか、修行サボってんのか」
「そ、そんな一度に答えれない……」
「どれだ。何をサボってんだ」
とにかくその疲れた身体をどうにかしないと何もできやしない。要は心の問題だろうからまずはそっちだろうと思うが、話せないというなら身体からアプローチするしかない。ここまで一緒にやってきた
「何があったか知らねぇけど、このままじゃ身体から駄目になるだろ。まずはちゃんと食って、しっかり寝ること。飯はどうしてんだよ」
「……自分で作ってる」
「昨日何食った」
「……卵雑炊」
「病人食かよ。もっとちゃんと食えよ。肉とか魚とか」
俺が反射的に返した答えを聞いて、
「地雷を踏んだにゃ」
「大爆発にゃ」
「な、何が地雷だった? 俺、何が悪かったんだ?」
「病人に出すのにゃ、そりゃ病人食を作るにゃ」
「アイ! 余計なこと言わないで!」
半ば八つ当たりのように
泣きじゃくる
「誰か、病気なのか?」
「……大したことないよ。もう、仕事してるし」
祖母か、母親か。だがこれ以上は、詮索してはいけない気がした。俺は
「悪い。無神経だった」
「気にしないでいいよ……病人といえば病人だし、病人じゃないといえば病人じゃない」
今日は妙に、歯切れの悪い言い方をする。俺の知らない
膝を抱える
「とにかく、ちゃんと飯を食え。今度母さんに頼んで何か差し入れてやるから」
「……おばさんには言わないで。心配かけたくない」
この状況で、人目なんて気にしてる場合か。口を開きかけたが、やめておく。
「それに、食欲ないの。雑炊くらいで、大丈夫」
「じゃあせめて、卵の他に魚でも入れろ。ないなら買ってきてやる」
「いいってば。ゲンマ、お節介だよ」
そう言った
お節介か。確かに、らしくないなと思う。でもこんなに弱った
俺はもう一度
「
「え? どういうこと?」
「今日は俺が作るから。雑炊でいいんだよな?」
「え、ちょっと、待ってよ」
「とにかくお前は休め。一旦寝ろ。家族の分も作っといてやるから、腹減ったら起きて食え」
「な、何でそんなことしてくれるの? ゲンマがそこまでする必要ないよ」
そう指摘されて、確かに俺の行動は少し行き過ぎているかもしれないと感じた。そうと分かっていても、俺はこのままおとなしく帰れそうにはなかった。
「お前、言ってくれただろ。お兄ちゃんみたいって」
「……う、うん」
「兄貴なら、妹が弱ってたら、これくらいのことはやると思うけどな」
「とにかく、飯と睡眠だ。まずは元気になれ。じゃ、あとは勝手にやるから、お前は自分の部屋行って寝てろ」
「ま、待って」
俺が買い出しに出ようと立ち上がると、
「……ひとりにしないで。ごはん作ってくれるくらいなら、一緒にいてほしい。ひとりでいても、寝れないの」
やっと彼女が打ち明けたのは、どうしようもないほどに重い孤独だった。何があったのかは知らない。だが眠れないほど強い不安を抱え、それにたったひとりで耐えようとしていたのか? どうしていつも、ひとりで抱え込むんだ?
だが今それを責めたところで、
「じゃあ、一緒にいたら寝るのか?」
「……うん」
「分かった。部屋、行こう」
あとになって恥ずかしくなったのか、
「ちょっと着替えるから……ごめん、外で待ってて」
「わかった。終わったら呼んでくれ」
俺は素直にドアを閉め、廊下で待つことにした。やがて「いいよ」と小さく声が聞こえて、部屋に入ると、水色のパジャマを着た
この状況でそれを口に出すのはやめておいたが、何とも言えない妙な可愛らしさに、俺は少しだけ笑いそうになった。