任務から戻ってきたおじさんは、客間にいる私を訪ねてきて少し話そうと言った。私はちょっと緊張しておじさんと向かい合った。おじさんは任務で家にいないことも多いし、食事以外だと、改まって話をするのは初めてかもしれない。
「
「……嘘だよ。もし心配してたんだったら、私のことじゃなくて周りの目じゃないの?」
「まぁまず話を聞いてくれないか。心配、にも色々な形がある」
おじさんはそう言って足を少し組み直した。その動かし方がちょっとゲンマに似ていて、私は少し頬が緩んだ。
「
「……おじさんやおばさんがってこと? おじさんにそんなこと言ったの?」
「まぁ、今回はゲンマが君を無理に引っ張ってきたって聞いた。確かにそれは少し強引だったかもしれないな」
「だってそれは……私が頑固だから……」
「自覚があるならいい。君も
おじさんの口から母さんの名前が出るのは初めてだ。驚く私に、おじさんは少し目を細めた。ゲンマによく似た、鋭いけど優しい目。
「
そういえば、母さんが幻術が得意だって話はサクモおじさんから聞いたことがある。幻術特化型は戦闘能力が低いから基本的に前衛に出ることはない。そんな母さんが前に出れば、あんな戦い方をするなと釘を差されても仕方ないだろう。
「俺は
いつもゲンマが止めてくれていたからか、おじさんは私にばあちゃんの話をしたことはほとんどなかった。でも今、おじさんが本心からばあちゃんを尊敬しているのが伝わってきた。
でも私にとって、おじさんの語る
それは私がまだ、戦争を知らない子どもだからだろうか。
それとも母さんも、同じように思ったりしたのかな。今となっては、それも分からないけど。
「とはいえ、君にとっての家族が、心安らぐ存在とは言い難いことは俺だって分かっているつもりだ。
「木ノ葉の歴史を知る人間ならそれくらいのことは知っているよ。
「……そんなの。勝手に期待されたって、こんなに放ったらかしにされて、家のために、里のために何かしたいなんて思えないよ。分かんないよ、そんなの……ばあちゃんが伝統を捨ててまで平和を達成しようとしたのにずっと無理だったこと、私に何かできるわけないじゃん……」
でも、その道を選んだ結果が今の戦争だ。
祈りも力も、平和は生み出さない。
俯いて唇を噛む私の頭を、おじさんがそっと撫でた。ゲンマみたいに優しかった。
「君はまだ子どもで、全て背負う必要はないし、これから多くの経験を経て君なりの答えを探していくだろう。大人になるまでの間、子どもには安心して帰れる場所が必要だと俺は思っている。下忍だろうが中忍だろうが、一人の人間としてね。ゲンマが君を妹のように大事に思っている以上、俺たちにとっても君は家族と同じだ。それはこれからも変わらない。帰りたいと思える場所がないと感じるなら、いつでもここに来るといい。
おじさんの優しい言葉に、鼻の奥がツンとして涙が込み上げてきた。不知火の人たちは、本当に温かい。おじさんはばあちゃんや母さんのことを知っていてもなお、それでもここにいていいと言ってくれた。
いつまでも甘えてちゃいけない。でも、今はここにいたい。
母さんが死んで、ばあちゃんにも撥ね付けられて、私はもう家に帰りたくない。
あんな冷たい家には戻りたくない。そのことを初めて、痛烈に実感した。
快活に笑うばあちゃんと過ごしたあの頃の家は、もうどこにもない。
「おじさん……私、まだここにいたい……おじさんとおばさんと、ゲンマと一緒にいたい……」
「ん。分かった。だが俺もゲンマもいつまでも家にはいられないし、中忍試験もあるからな。しっかり準備して臨みなさい」
「……うん。分かってる」
絶対に勝つ。ばあちゃんのためじゃない。この家の人たちのために。不知火が甘やかすせいだって言わせないために。
おじさんはそのあと、将棋にも付き合ってくれた。ゲンマなんか目じゃないくらいめちゃくちゃ強くて瞬殺された。おじさんはおじさんで大人げないなってくらい楽しそうに笑って、その笑い方がやっぱりゲンマにそっくりで私もつられて笑ってしまった。
この家にいると、自然に笑顔になれる。
大丈夫だ。私はまた、前を向ける。