数ある作品の中からご覧頂きありがとうございます。
葬送のフリーレンのSSとなります。
一部ネタバレ等を含みますので、アニメや原作を読まれていない方はご注意ください。
なるべく原作を尊重してキャラ設定とかを頑張っておりますが、一部崩れてしまうことがあるかもしれませんので、ご容赦ください。
また、素人作品のため、誤字等ございましたら、表現等も続編の内容を鑑みて、適宜見直しを入れる可能性もございます。
・おはなし
原作の女神石からの帰還の後ぐらいからのサイドストーリーの位置付けで物語を書いています。
原作リスペクトで、フリーレン、フェルン、シュタルクのそれっぽい掛け合いなんかを再現してるので情景が浮かんできたら幸いです。
勇者ヒンメルの死から31年後。
帝国領レーゲンスブルク地方のとある街。
北側諸国に位置するこの帝国は緯度が高く、差し込む日差しは常に低く、日照も弱い。
比較的、雨の少ない地域ではあるが、季節によっては集中的な豪雨に見舞われることがある。
そんな雨季が来るのは幾ばくか先の話のはずだったが、今日に限っては朝から雲行きが怪しく、空はどんよりと薄暗い。
澱んだ空を埋め尽くす曇天は、夕立を誘う積乱雲を両手に広げ、今にも雨を降らせようとしていた。
生憎の空模様の中、フリーレン一行は急ぎ足で宿場を目指していたが、初見となる街では、これまた目的地へ辿り着くのも一苦労である。
というのも、約80年ほど前にこの地を訪れた際、ここには街など存在しなかったのだ。
建物自体も比較的新しいことを見るに、街が栄え始めてからおよそ20~30年といったところである。
そんな考察をしながら宿を探していると、ふと遠方の古い塔が目に入り、フリーレンは足を止めた。
(そういえば、あの時は向こうの塔の麓の森で、ヒンメルが珍しく魔獣に噛まれたっけ……確か、毒をもらって……)
なんて昔の想い出にトリップしていると、ピシピシと大粒の雨が、先頭を行く彼女の額を打ち付け、半ば強制的に現実へと引き戻される。
「とうとう降ってきたか……」
想い出を邪魔する雨粒に、心の中で舌打ちしながら、そう呟くと、それに呼応する形で、真後ろから声が掛かる。
「シュタルク様が悪いんです。トイレがすごく長いから。」
発せられた声には、明らかな怒気が籠められている。
そんな相変わらずのものの言い草は、普段と変わり無いため、彼女達の歩みを止めるには至らない。
一方で、後方からは、絞り出すような謝罪の声が飛んでくる。
「ううっ……ごめんよぉ……お腹が痛かったんだよぉ……」
「バカみたいに、お昼ご飯を食べるからですよ。」
重ねる形で冷たく言い放たれた正論に、「だって、ハンバーグが……」と子供じみた反論が口を滑り出た瞬間、凍てつく紫苑色の視線がシュタルクを射抜いていた。
そんな彼女の形相に彼は慌てて口を噤む。
「……ごめんなさい。」
彼から次に出た言葉も、やはり謝罪であった。
事の経緯は、ちょうど一刻前に遡る。
この街に到着したばかりのフリーレン一行は、持ち合わせの食料も飲み水も心許なかった。
昨晩からろくなものを口にしていなかったこともあり、街の入り口近くにある酒場で、遅めの昼食を取ることにしたのだ。
3人とも揃ってよく食べる方だが、朝から一人で空腹に耐えながら日課の鍛錬に励んでいたシュタルクは、女性陣が食後のデザートを楽しむ中、追いハンバーグをぺろりと平らげてしまった。
人間、上から入れば下から出ていくのは自然の摂理であり、それが若く勇猛な戦士ともなれば、新陳代謝の活発さは言うまでもない。
「ちょっとお花を摘みに……」なんて冗談を言って、店の中で2人を待たせている間に、空模様がみるみるうちに変わってしまった――それが、この惨状の顛末である。
先頭を行くフリーレンは、チラッと軽く頭を捻り、目線を斜め後ろに傾けると、プリプリと怒るフェルンと、その矛先を向けられて、小さく萎縮するシュタルクを視界に捉える。
いつもの二人の寸劇に「やれやれ」といった風情で、彼女は責められる少年の方に助け船を出した。
「フェルン、生理現象にそんなに怒っても可哀想だよ。」
「フリーレン様。『雨が降るから急がないといけない』と言ったのに、露店商から意味不明な首飾りを買っていたのはどこの誰ですか。」
「いや、それは……珍しい魔道具があって……ほら、導かれたというか……そう、神のお導きで、それも自然現象みたいな、さ……?」
紺碧と紫苑色の瞳が交差し、そして当然の如く、前者がねじ伏せられる。
「フリーレン様?」
「……ごめんなさい。」
フォローに入ったつもりが、その矛先は見事なブーメランとなって自分自身に飛び火した。
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本降りになった雨に打たれながら、ようやく3人は宿場街に辿り着いた。
宿場街といっても、街自体がそれほど大きくはないため、高級宿や別荘の類があるわけでは無い。
街の中心から少し離れた落ち着いた通りに、三軒の宿が点在している程度である。
先に訪れた二軒のうち、一軒目は満室、二軒目には浴場がなかった。
急な雨に降られたこともあり、今の3人にとって「浴場」のプライオリティは跳ね上がっている。
と言うのも、体を綺麗にする魔法や、体を乾かす魔法は有るのだが、冷えた身体を温めたいと言う意見が三人で一致していたためである。
なので、期待を込めて、彼女たちは一番奥にある三軒目の宿へと駆け込んだ。
「オヤジ、3人で。」
受付カウンターの向こうで、新聞を広げながら気だるそうに店番をする大柄な店主に、フリーレンが声を掛ける。
「ちなみに、浴場はあったりする?」
「エルフとは珍しいな。」
その場を動かずに、新聞から目線だけ外して、カウンター越しにこちらを物珍しそうに見定める。
「浴場は一階にある。一人一泊朝食付きで銀貨二枚だ。」
相場より強気の価格設定は、足元を見られている様で少し気に食わないが、冒険者を続けていればこんなことは日常茶飯事である。
だから、フリーレンは負けじと言い返す。
「3人で銀貨五枚に負けてよ。一部屋で構わないから。これしかないんだ。」
そう言って、ズブ濡れのローブから取り出したのは5枚の銀貨である。
木目のカウンターに水を滴らせながらバラバラと落として、店主の男の注意を引く。
これ以上雨の中を歩くのは非効率であり、宿屋は先の2軒以外にはもう無く、なんとかこの金額で手を打ちたい、そんな魂胆だった。
「急に降ってきやがったからな。」
「そうなんだよ。ひどい雨だ。」
「分かったよ、銀貨五枚で負けてやる。その代わりに、そっちの兄ちゃん、後でそこの薪を浴場の裏へ運んどいてくれねぇか。」
のっそりと動き出した男は、大きな手で銀貨をさらうように集めると、カウンターの引き出しへしまい込み、シュタルクに視線を合わせると、壁際に積まれた薪を指差す。
世の中は、金だけでなく、労働力も対価となり、それが商売の鉄則である。
残念ながら、値切った銀貨一枚分はシュタルクの労働で支払われることになった。
『うげぇー』とげんなりするシュタルクを横目に、女性陣はさっさと風呂場へ足を向ける。
「シュタルク、あとは頼んだよ。」
「よろしくお願いします、シュタルク様。」
彼女たちの投げやりな声援を受け、シュタルクは溜め息をつく。
最悪のコンディションではあるが、幸い肉体労働は得意な性分だ。
金が無いパーティーにはお決まりのパターンなので、彼はすぐに気持ちを切り替えた。
「……さっさと、終わらせよう…」
その後、宿場の親父に見守られながら、冷たい雨の中で玄関と裏戸を何度も往復することになったのは、言うまでもない。
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「フェルン、それはね、もう犯罪だよ。罪だよ、罪、ギルティだ。」
脱衣場にて、雨でずぶ濡れになった衣服を脱ぎ捨て、真っ裸にタオル一枚になったフリーレンが、隣のフェルンに言い放つ。
とりわけ、引っ掛かる凹凸が無い彼女は、例え衣服が濡れてペタリと身体に張り付いていても、それを脱衣するのは造作もない。
しかしながら、発育の良いフェルンはそうはいかない。
濡れた服を脱ぎ去ろうと、ローブの裾を捲り上げたのは良かったが、ウエストの絞り部が、そのたわわに実った両の胸に引っ掛かり止まってしまう。
エルフをも凌ぐ白い透明感と張りのある肌が、「下乳」という形で強調され、同性のフリーレンから見てもその光景は「犯罪級」だと脳内の警報が鳴っていた。
まさに頭隠して胸隠さずの状態である。
「何を……っ、わけの……っ、わからない……っ、ことを……」
なんとか脱ぎ捨てようと左右に体を揺らすが、必死すぎて言葉が続かない。
「シュタルクが見たら卒倒するよね……」
ぼそりと零れた独り言のような感想だったのだが、こういう時に限って、フェルンの耳にはよく届く。
「フリーレン様、バカなことを言ってないで、早く先に入ってください。」
ローブの胸から上が捲れ上がったその姿は、まるで巨大な花弁を持つ新種の魔法生物のようで、顔が見えないままフリーレンを威嚇していた。
「コワイヨー。」
冗談を言いながら、フリーレンは逃げるように洗い場へと駆け込んだのだった。
貸し切り状態の浴場は、火山地帯のような大浴場ではないが、四、五人が一度に入れる程度の広さがある。
それは主に冒険者パーティーの一行が裸の付き合いで親睦を深めるための、宿場に併設されたタイプの浴場であった。
エルフの文化に「お湯に浸かる」という習慣はなく、せいぜい水浴び程度であった。
それが、初めて温泉地帯で浴場を利用した際、その文化の違いに驚きつつも、気づけばすっかりその虜になっていた。
そんな風呂好きエルフの所作も手慣れたものである。
まずは風呂桶を使い、ゆっくりと掛け湯をして冷えた体を足先から温めていく。
掛け湯が終わると、頭部にシャワーを当てながら、髪に手櫛を入れ、汚れた髪を解す様にして軽く手入れをする。
その後は、銅貨1枚で購入した万能石鹸を使い、首元から順に、下へ下へと汚れた身体をリフレッシュしていく。
「むぅー……」
なんて溜め息混じりの呻き声が上がったのは、自身の金床を綺麗にしている最中であった。
もう、何百年もこの体型なのだから諦めはとっくに付いているが、あんな暴力的な光景を見せられると、それでもやはり自分も女性の端くれなので、一応は気にもする。
「ハイターはモロだったもんなぁ…」
巨乳の女性を見かけるたびに口説こうとしていた、あの生臭坊主の姿を思い出す。
「ヒンメルは、バレないように目線で追いかけてたけど、バレバレだったよね。」
フフフッと独り言と優しい笑みを浮かべながら、そういう不器用な彼の姿も思い出す。
女神の石碑から帰還して以降、昔の思い出に浸る時間が増えたのは間違いなかった。
(オレオールの地で彼と再会した時に、色んな意味で少し成長した姿を見せたら、彼はなんて思うだろうか……)
そんな柄にも無い思考をしながら、洗体をしつつ、取り敢えず軽く手の平でマッサージはしておく。
ひとしきり、身体に残った泡を流し終わると、頭は後ほど何時も通りフェルンに洗ってもらうとして、長い髪を巻きながら、濡らしたタオルを折り、挟み込む。
準備が整ったところで、いざ湯船へ。
少し熱めのお湯が、旅路の疲れを芯から溶かし、『ア"ーッ…』と今度は感嘆に近い溜め息を吐き出させる。
同時に、ガラガラと扉が開く音がし
、小さなタオルで前を隠したフェルンが、気恥ずかしそうに浴場へと入ってくる。
先ほどのからかいを気にしている様子の愛弟子に、フリーレンは先んじて声をかけた。
「いやー、お風呂は命の洗濯だよね。そこの石鹸、使っていいよ、フェルン。」
折り畳んだタオルを頭に乗せ、湯船のお湯を両手で掬い上げて落とす仕草をしながら、そんなオヤジ臭い台詞を洗い場の風呂椅子に座ったフェルンの背中へ向かって投げ掛けていた。
「大きな湯船に浸かるのは、以前に訪れた火山地帯以来ですからね。」
フリーレンが洗い場に残した万能石鹸を手に取り、両手でこ擦り合わせること十回ほど、モコモコと念入りに泡立てした後、そっと左腕から洗い始める。
そして泡が左から右腕へと移ったタイミングで今度はフェルンが続ける。
「あの時も毎日、朝からお風呂に入ってましたもんね、フリーレン様。」
メレンゲ状の泡を全身にくまなく広げ、身体を洗い汚れを落としながらそう続けた。
「そうだね、そこに風呂があるから。」
何処ぞのパイオニアの様な言葉を『二マーッ』と綻んだ顔を作りながらフリーレンが返答する。
身体を洗う手は止めずに、フェルンが横目で視線を送ると、リラックスした表情の師匠が目に入り、それに釣られて自ずと自身の口元も緩む。
浴場の木窓の隙間から溢れてくる雨の音を遠くに聞きながら、二人はしばしの間、穏やかな雑談のラリーを続けていたが、不意に、フリーレンが湯船から立ち上がり、洗い場のフェルンの背後を取ったのだった。
「フリーレン様……?」
驚いて振り返ろうとするフェルンの肩に、小さな手がそっと優しく添えられる。
「頭、洗ってあげる。いつもやってもらってばかりだし、今日は……そう、雨の日の特別サービス。」
「……子供扱いしないでください。もう私は大人です。」
口ではそう言いながらも、フェルンは抵抗することなく、大人しく頭を預けた。
今度はフリーレンが、手にたっぷりと泡立てられたメレンゲを作り、それをそっとフェルンの長い紫の髪に馴染ませる。
師匠の細い指先が頭皮を優しく解す感覚は、フェルン自身の昔の湯浴みの記憶を思い起こす。
「フェルンは、立派になったね。」
独り言のような、けれど確かな温かさを孕んだ言葉。
かつては小さかった、ハイターから預かったばかりの少女が今では、自分よりもずっと大きな背中をして、自分を支えてくれている。
「……急に、なんですか。」
「なんとなく。あんなに濡れた服を脱ぐのに苦労するくらい、大きくなったんだなーって。」
「それはもう言わないでください!」
顔を赤くして抗議するフェルンの背中を、フリーレンは小さく笑いながら流した。
フェルンもまた、自分を洗う師匠の小さな手の温もりを通して、言葉にできない安心感と懐かしさに包まれていた。
「フリーレン様。」
「なあに。」
「……たまには、悪くないですね。こういうのも。」
「そうだね。」
木窓の隙間から聞こえる雨音には、まだ止む気配を感じないが、不思議と寒さはもう感じなかった。
立ち上る白い湯気の中に、二人の穏やかな笑い声がいつまでも響いていた。