罪と罰、罰、罰。   作:人間焼き

13 / 13
日が暮れるまで踊ってたいね。

「そう言えば」

 

私は食卓の椅子に腰を掛けながら、ふと声を上げた。

 

「そうめんって、すいは食べた事あったっけ?」

 

床にへばりつく様にして、ごろごろと転がるセイレーンに目を向ける。

彼女はしばらくの間ごろごろと回って遊んでいたが、急に飽きたのだろう。

腕を立てて、ぶぅお、と空を切る様な勢いで起き上がった。

その身には転がったせいでついた埃が、点々と小さな斑点模様のようになっているようだ。

 

「ないよ。おいしいの?そうめん、って」

 

部屋にある置き時計は、もうそろそろ昼を迎える事を示して、そのデジタル表記の秒表示を進めていた。

 

***

 

何故だったろうか。

私はふと、ある事を急に思い出していた。

 

「お、やっぱりあった」

 

そんな事を口にしながら物置きと化したクローゼットの中を探り、腕の中に収まる程の箱を私は引き摺り出してきていた。

そこにはデカデカと

流しそうめんセット

なんて書かれていて、なんだったか、いつか流行っていたキャラクターの像がそこらに散りばめられたやかましいデザインの箱は、時が止まったかのように綺麗だった。

恐らく未開封なのだろう。

だけれども、私はこれをいつ、何のために買ったのかを知らない。

いや、正確には覚えてなかった。

その存在すら、微塵も。

 

私がその箱を食卓に持って行くと、セイレーンが興味深そうに口元に片手を添えてあちらこちらの角度から覗き見てくる。

 

「それ、食べ物なの?そうめん?」

 

そんな事を聞いて来るから、私は首を横に2度程振った。

 

「違う違う。これはね、そうめんをより楽しく食べるための機械だよ」

 

「きかいぃ?」

 

セイレーンは目を細めた。

 

***

 

それから私は箱を開けて、やはり使った痕跡が無いのを見ると、これは紛れもない新品だったのだと知る。

普通、こんな物を買うなら割とすぐに使いそうな物だけれども。

 

「あ、そうか。単三電池使うのか」

 

私は本体と共に取り出した説明書に目を通して、ようやくそんな事に気付いた。

最近じゃあまり電池も買わなくなったな、なんて思う。

 

「何?たんさんって。ビールのやつ?」

 

セイレーンは私の隣で、興味深そうに流しそうめんセットを、まるでネコがそうする様に、恐る恐る指先で何度か小突きながら様子を見ていた。

 

「あぁ、炭酸、じゃないな。そう言えば見た事無かったっけ」

 

私は席を立ち、玄関のそばにあった懐中電灯を取りに向かう。

わざわざ新品の電池を出すのも勿体無い。

今はこいつから拝借しようと、そう思ったのだった。

電灯の首を捻り、くるくると回してやるとLEDの仕込まれた投光部が外れて中に電池が収まっているのが見えた。

私は握り手をひっくり返し、懐中電灯の中から電池を滑らせる様にして手のひらに落とした。

まるで自分勝手な理由で命を奪う様な、そんな感覚を覚える。

 

「すい、これが電池です。単三電池」

 

それから持ち帰った円筒形の小さな物をみせてやり、それを流しそうめんセットの本体の裏にあるチープな電池蓋を外してはめていく。

 

隣でセイレーンは、初めて見る不思議な物に食い入るように夢中になっていた。

 

私はそれを終えると、少し大きめのジョッキに並々と水を汲んできて、その本体の、大きくドーナツ状に窪んだプールの様な場所に注いでいった。

指定された水量の線までを満たすと、次いで本体の横にあるスイッチをスライドさせる。

ぶうぅぅーーーーーーん

そんな安っぽい音を立てて、水が踊り出す。

吸水口に吸い込まれたそれが、モーターによってかき混ぜられて水流を作る。

 

「わ!生き返った!」

 

セイレーンは回る水を見て、大きな瞳を更に一際開いて楽しそうに食卓に身を乗り出して来た。

そもそも死んでねーよ。

そんな事を言おうとして、私はふと思ってしまう。

なら、こんな状態を何というんだ。

死んでいないなら。

電池を入れたら、途端に動き出すそれを。

何と言い表す?

 

「命が戻った、かな」

 

「ふーん。電池って命なんだ?」

 

「正しくは、違うかも知れないけど」

 

セイレーンは、流しそうめんセットを指でつついて、くふ、と笑う。

 

「電池がある限り、この子は生き続けるんだ?」

 

セイレーンの指の、その先にある爪が、流しそうめんの機械の中心に添えられた2体の人形の頭上をかりかりと削る。

まるで仲が良さそうに寄り添う2体の人形。

不思議と名前が思い出せないそれを、セイレーンは目を細めて、口元をにちゃりと曲げて触る。

 

「そーいうのも、面白そうだねェ〜」

 

***

 

セイレーンが流しそうめんに飽きるのは、思っていた数倍は早かった。

くるくる流れながら回るそうめんをフォークで追いかけては、掬い上げてつゆにつけて食べていたが、まぁ、卓上に収まるいわゆるおもちゃだ。

セイレーン程の知能があれば、すぐに飽きるだろうことは予想ができていた。

 

今はもはやくるくる流れるそれらを、フォークでただただ突いて遊ぶくらいまでは興味を失ったらしい。

 

「ほら、食べ物で遊ぶな」

 

「エ〜?遊び始めたのは君じゃん」

 

う、確かに……

 

「ね、見て。そうめんをフォークで留めると、絡まって踊ってるみたいだよ」

 

セイレーンは水流の中に突き立てたフォークに次々と絡まるそうめんを見て、そんな事を言う。

そうかな?

絡まってるだけで、踊ってるようには見えないが。

 

「踊ってるか?」

 

「エ〜?そーぞーりょくのけつじょ、ってやつじゃないの?」

 

こいつめ。

 

「踊った事も無いくせによォ」

 

と、私は彼女の言葉を間に受けて、ガタタっと椅子を鳴らして立ち上がった。

 

「ないけども!」

 

セイレーンもべちん、と机上を手のひらで叩いた。

 

「なら、そんな風に見えるか、やってみようじゃんか」

 

私が言うと、彼女はフン、と強く鼻を鳴らした。

 

私は彼女の手を取り、居間に躍り出る。

生きてこの方、社交ダンスも、ブレイクダンスも、そもそもダンスと名の付くものにほとんど触れてこなかったが、何だか躍起になってしまったらしい。

足の運びも、腕でどうパートナーを支えるのかも分からないまま、セイレーンの腕を引く。

最初は戸惑っていた彼女も、何だか適当に、だがどうにも聞こえないリズムに合わせるようにして、すいすいと、まるで泳ぐ様に動き出した。

さすが、セイレーンか。

 

「ほら、やっぱりわたし達、絡まってそうめんみたい」

 

お互いに好き勝手に動く様を、セイレーンはそう言って可愛らしく顔を綻ばせる。

 

「私は、歌は苦手だけど」

 

私はセイレーンの瞳を見据えて言う。

 

「うん」

 

「こういう求愛の方法も、それ以外にもたくさんある。人間には」

 

「でもォ〜、ダンスも下手くそだけど〜」

 

セイレーンは私の腕の中でくつくつと小さく笑う。

クッソ、言いやがるなこのわがまま姫が……

 

私はそんな彼女の尾鰭に、わざと足を絡める事にした。

もちろんそこしか地面への接地がないセイレーンは、派手にバランスを崩す事になる。

私は彼女を抱える様に、背中から地面に落下した。

 

「あぶないじゃん」

 

言うセイレーン。

 

「なんかイラッとしたから、分からせてやろうかなと思いましてな」

 

そう言って、彼女の柔らかく温かい身体を抱き寄せて、唇を重ねた。

 

既に日が落ち始めて薄ら暗くなった室内の食卓の上では、流しそうめんセットが、まるで最期の息を吐く様にごぼりと気泡を吐き出して、ゆっくりと動きを止めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

グルメ界で、鹿でしかない(作者:トリコ世界の料理食べたい)(原作:トリコ)

起きたら背中に森が生えているシカだった。▼夢かと思ったが、しかしシカだった


総合評価:9093/評価:8.81/連載:5話/更新日時:2026年06月25日(木) 20:15 小説情報

転生ハンターがダンまちをモンハン世界だと間違っているまま黒竜を狩る話(作者:シャリ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

さてはミラボレアスだなオメー


総合評価:22494/評価:8.78/完結:10話/更新日時:2026年08月12日(水) 19:10 小説情報

魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます(作者:異星人アリエン)(オリジナル現代/冒険・バトル)

『魔法少女マギアイリス』。それは人気がすこぶる高いアニメとして、名を馳せていたアニメタイトルであった。▼話としては、至極単純世界征服を目指す組織《ディスナンド》が、ミラクルパワーとかいう力を操る魔法少女によって倒される。そんな分かりやすい物語。▼だけど、そんな世界で生きることとなった身としてはたまったものではない。▼そんな世界に転生した男、須佐八雲は男である…


総合評価:13122/評価:8.07/連載:43話/更新日時:2026年08月13日(木) 12:02 小説情報

分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?(作者:sasarax)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

なお、それを何も知らないヒロインの前でやったとする。▼「俺が死んだと思ったって? いやそれ分身だから」▼そんな感じの主人公が周囲の人の脳みそをこんがり焼いたり、美味しいご飯を食べようとしたり、がんばってお金を稼いだり、分身が巻き込まれた事件の後始末をしながら、異世界でゆっくり成り上がっていく物語。▼※カクヨムでも連載中です。


総合評価:18188/評価:8.97/連載:74話/更新日時:2026年08月13日(木) 16:27 小説情報

神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。(作者:スレ主)(原作:幼女戦記)

「もし生まれ変わるなら、魔法少女リリカルなのは『みたいな』世界を! ついでにレイジングハート『みたいな』最高の相棒(AI)と、可愛い幼馴染もセットでお願いします!」▼死の間際、俺が神様に放った精一杯の強欲な願い。▼目覚めた俺の脳内(システム)に、聞き覚えのある凛とした声が響く。▼『……マスター。再起動を確認。……セットアップ、オールグリーン。……全力でサポー…


総合評価:26922/評価:8.68/連載:41話/更新日時:2026年07月30日(木) 12:29 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>