罪と罰、罰、罰。   作:人間焼き

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人外の能力はすべからく。

あの不明生物を拾ってから、何日が経っただろうか。

大体2週間位か、それほど経ってはいなかったか。

というのも、一度あの半獣魚に扉を破壊されてからというもの、外出を極力控えてなるべく監視する事に注力し始めていた為に、時間はおろか、日付も曜日すらも感覚が薄れ出していた。

詰まるところ、疲労困憊である。

だが、目を離した隙に次は玄関を破られるかも知れない。

窓を割るかも。

壁だって。

そんな不安が付き纏うのだ。

気軽に外に出よう、そうは思えなかった。

 

それに、そんな生活にはある程度慣れていたりもするし、なんなら今は大学が長期休暇期間だった事も、原因の一つだろう。

 

「ごはん」

 

と扉を開け放したままの居間から、廊下に向かって声を掛けた。

居間に隣接したキッチンから皿を二つ持って行き、机に置く。

上に盛られるのは、面倒で具材をいくつか端折ったせいで、麺ばかりになってしまった焼きそばだった。

 

ずあっ、ずあっ、ずあっ

 

フローリングを削る様な音が、廊下から響いてくる。

 

「てりてり、ソース」

 

そんな声が、響く。

綺麗な声だ。

透き通るような、高すぎず、低すぎず、耳障りよく滑り込んでくる、そんな声。

 

「そ、てりてりソース」

 

そんな風に答えると、やっと廊下の先から姿が見えてくる。

半獣魚。

まさにその言葉が通り、上半身がまるで地上の獣で、下半身が魚。

そんな存在が居間に這いずるように入って来た。

小柄とは言え、その身体を引きずり這いずるにはそれなりの力が要るだろうに、割と悠々として。その腕じみた鰭を使って。

 

「てりてりソース!」

 

半獣魚はそう言って、腕を使って身体を跳ね上げて、ずどんと、食卓の上に乗る。

お陰様で、割りかし気に入っていた綺麗でてらてらしていた木目の卓上は、がじゃがじゃに引っ掻きキズだらけになっていた。

 

「机には乗らない」

 

そう言うと、半獣魚は以前聞いた事がある鳴き声のようなものを長々と口から垂れ流してくる。

どうせ聞こうが理解はできないけど、ある時にふと、気付いたのだ。

 

仮にもこれが鳴き声ならば、パターンがあまりにも多く、煩雑すぎると。

犬や猫のような、基本的に似たパターンを組み合わせて意思を表明するものに比べて、聞き慣れない鳴き方があまりにも毎回毎回毎度の如く現れる。

もしや、これは言語を、何かしらの人間が知り得ないものを使っているのではないかと。

 

だと仮定するなれば、この半獣魚は相当な知能を有している事になる。

それはそう、人間のように。

ならば、人語もまた、操れはしないか?

 

「たべる」

 

半獣魚が言う。

 

「いただきます、だよ」

 

「いらだき、ます」

 

半獣魚は、焼きそばが乗った皿に顔を寄せ、器用に手を使って口に運んでいく。

いや、うん。

机からは降りねえんだな……

まぁ、いいか。

 

こちらも箸を持ち、焼きそばに手を合わせた。

 

「おはし」

 

半獣魚がこちらに指を指して、そう言った。

その指している指や、手のひらは、ソースでてりてりしている。

 

「そう、おはし」

 

「手、てりてり、おはし」

 

ん?何が言いたいんだ?

 

「手、てりてり、やだ」

 

手がてりてりで嫌だ?

だから箸を使いたい?

いや、待ってくれ。

確かに食事にこちらは箸を使っていた。

使ってはいたが、この半獣魚にはこれが何なのかを説明はしていないのだ。

そもそも理解が出来ないだろう、そう思っていたから。

こちらの動作を見ていて、理解したとでも言うのだろうか。

 

「お箸、使う?」

 

「つかう……?」

 

半獣魚は首を傾げる。

 

あー……

厄介だな。

そうか。使うって言葉自体は教えられるが、使うって行動を伴って意味を教えるとなるとなかなか大変じゃあないかこれ。

それに、手というか鰭の構造が人の手と似ているとは言え、似ているだけで基本的には非なるものだ。

使えるのか?……箸を。

 

「手がてりてりは嫌?」

 

「や!」

 

半獣魚はそう言って、むちっと頬のような部分を膨らませるような行動をする。

 

それと、そうなのだ。

犬や猫のような顔をしている癖に、どうにも表情が人間くさいのだ。

この半獣魚は。

元来、動物はそこまで表情を作る必要が無い。

あるとすれば、威嚇する時に牙を剥き出すのが一番多いだろう。

自然界では表情豊かであろうが、生き延びる事にあまり直結しない訳だし。

 

「分かった。方法は考えるとして、手がてりてりが嫌ならこっちおいで」

 

そう言って、自分のそばの机上を軽く叩いた。

すると、半獣魚はまるで訝しむ様に目を細めた後、こちらに近寄って来た。

何だよこいつ、失礼だな。

というか、こんな呼び方したら机の上を移動してくるに決まっているのに、何してんだ自分は。

 

「ほら」

 

そうして、少し距離はあるが近付いて来た半獣魚の口元に、箸で掴んだ焼きそばを差し出した。

半獣魚は、再び訝しむ様にこちらを見てから、そっと箸を口に含んだ。

そして器用に麺を食べていく。

 

少しだけ、感動を覚えてしまった。

 

「ありが、と?」

 

半獣魚が、不意にそんな言葉を使う。

教えたっけ、それ。

それから、口元をふにゃっと、可愛らしくすぼめた。

 

ん……

 

「てりてりソース、好き?」

 

「すき」

 

「そっか。また作るよ」

 

そう言って、再び箸で焼きそばを差し出した。

 

まぁ、これで焼きそば3日目なんですけどね……

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