猫人族のTS転生者、自由に生きたら周囲にやたらと絡まれる 作:にゃーん
今度こそ自由な人生を。
自分が転生したのだと気付いた時、私は強くそう決意した。
前世の人生に価値などなかった。
夜遅くまで仕事をして、休日は寝ているだけで過ぎていく人生。
こんな人生に何の意味がある?
だから私はこの異世界で、自由気ままに生きていくのだ。
生まれこそスラムの孤児という劣悪な環境だった上に、猫人族という立場上、何かと不利益を被ることもあった。
幸いにも私には才能があって、元大人の判断力でそれを適切に使えば、生活自体はそこそこ成り立つ。
これなら、下手に貴族みたいな生き方に制限がつく立場じゃない分、私にとっては都合がいい。
かくして、前世と生い立ちは酷いものだったけど、気がつけば私ば場末の冒険者ギルドで適当に活動する冒険者になっていた。
猫人族の、ソロで活動する女冒険者。
奇異の目で見られることもあるが、生活は安定している。
女になってしまったことは驚きだが、別に色恋とかに関わるつもりもないのでどうでもいい。
そんな私だが――なんかやたらと周囲に絡まれるのは、理由でもあるんだろうかね。
△△
ふと、意識が覚醒する。
冒険者ギルドはいつも喧騒に満ちているが、眠りに入ってしまえばそうそう起きないのが私だ。
猫は睡眠時間が長いと言うけれど、獣人の場合はそこそこ常識的な時間になる。
ただし、好きな時にいつでも長時間寝ることができるのだ。
なんて自由で素敵な生態なのだろう。
無論、危険が迫れば察知できる能力も、鍛えれば身につけることが可能。
変なことをされる心配はない。
「ん……」
が、それはそれとして。
「……何をなさっているのですか?」
遠巻きに、私を眺める集団がいた。
そこにいるのは、年齢性別問わず十名くらいの冒険者。
なんならギルドスタッフまで混ざっている。
仕事をしろ、仕事を。
「いや、なんか……」
「ルルクちゃんの寝顔って……癒されるから……」
「そうですか……」
ふにゃあ、と気にせず伸びをする。
こういうことをされるのも、何もこれが初めてではない。
まぁ、見ているだけなら好きにすればいいのだ。
別にこちらが何か対価を払っているわけではないのだから。
むしろ――
「お礼と言ってはなんだけど……何か奢るわよ?」
「助かります。フライドポテトを……マヨネーズとケチャップもつけてください……」
異世界だが、食事のレベルは高い。
というか、私が上げた。
すくなくともこの冒険者ギルドの食堂は、私が食べたいものを食べるために、色々と手を加えて魔改造を施している。
世界一食堂の料理が美味しいギルドなんて呼ばれているが、頑張ったのは料理人であって私じゃないぞ。
「おまたせしましたー」
「どうも」
さっきまで、私の寝顔を見ていたギルド職員がフライドポテトとケチャマヨを持ってくる。
んで、それを食べようとすると――
「どうぞ」
「ん……」
なんか差し出されてしまった。
何も考えずに食べる私。
ケチャマヨポテトはやはり最高だ……
「あ、私も!」
「ん……」
それから、女性陣に次から次へとポテトを差し出されてしまった。
何なんだ一体……
途中から気が抜けて、ぐでっと机に突っ伏しながらポテトを差し出される機械と化した私。
男性陣は流石に遠慮して、ポテトを差し出してくることはなかった。
「どうですか?」
「……おいひかったですよ。んぐ……別に一人でも食べれるのですが」
「そこはその……ご尊顔を拝ませていただいたお礼といいますか……」
「お礼の中に私利私欲が透けていますよ……まぁ、私は美味しかったのでいいですけど」
私が好きに生きているのだから、他人の好きを否定するのは違うだろう。
というわけで、こちらの不利益にならないのなら、こういうことは好きにさせることにしていた。
そうして、あくびをしつつ起き上がる。
このままだとまた眠ってしまいそうだが、今はそんな気分ではない。
「それにしても、本当によく眠ってたわねぇ。たしか、私が朝ギルドに来た時から眠ってたけど」
「眠かったですから。寝たい時に寝て、起きたい時に起きる。それが自由というものです。……ふにゃ」
そうして、私は依頼ボードの方へ向かう。
「え、今から仕事すんのか!? もう十八時だぞ!?」
「まだ十八時ですよ。ギルドは二十二時までやってますから、十分時間はあります」
「これから真夜中になるんだが……いや夜目が効くのはわかるけどさ……」
「仕事をする時間も、気分次第です。いいでしょう、楽しいですよ? ぐっすり寝てからする仕事」
ふふん、と我ながらなぜか得意げだ。
別に、全然不思議なことではないだろう。
前世では夜遅くまで仕事をしていたし、夜勤の仕事だって珍しくなかった。
ちょっとこの世界の生き方――日が昇ったら仕事をして、沈んだら終えるという原則――からそれているだけだ。
「それを言ったら、酒場やギルドは遅くまでやっています。別にそういう仕事にだって貴賤はないでしょう」
「それは……そうだな。……なんか悪い」
「いえいえ、私は思い切りサボってますし……」
そして、私の言葉を聞いた冒険者が、一緒に私を観察していたギルド職員に謝る。
いやサボってたんかーい。
まぁいいや、仕事だ仕事。
今日も、のんびりやっていくとしようかな。
△△
鬱蒼と木々が茂る森だった。
街の外れにある、冒険者が狩りや採取に勤しむ森だ。
本来であれば、ここまで木々が生い茂る場所は早々ない。
ここが、森のかなり奥の方であることを、木々は如実に物語っていた。
そんな木々の上を飛び跳ねて進む。
猫人族は身軽だから、普通に乗ったら折れてしまうような木の上もすいすいと飛んでいけるのだ。
私は特に体が柔軟だから、それはもう面白いように木の上を駆けられる。
やがて、こちらに気づいてすらいない獲物を見つけると、それを上から睥睨し――
「――もらいます」
木を足場に、地面に向かって飛び出して、両手に構えた一対のナイフを振るう。
左右から同時に首を狙い、一撃のもとに斬り飛ばす。
着地すると、返り血を避けるためバックステップ。
斬り飛ばしたゴブリンの首が、ゴロゴロと足元に転がった。
ばっちいので、蹴り飛ばして遠ざける。
そして私は視線を、今まさにゴブリンが襲おうとしていた新人冒険者の方に向けると――
「大丈夫ですか?」
そう、何気なく呼びかけた。
「あ、え、えっと……」
「迷っていたのでしょう。だからこんな時間に、森の奥まで入り込んでいた。もっと早い段階で救援を出すべきでしたね。私が気まぐれに仕事を受けていなかったら、死んでいましたよ?」
「ご、ごめんなさい……」
既に日は暮れていて、私みたいな夜目の効く種族か、気軽に光源を用意できる魔術師か魔道具持ちがいないとろくな探索は不可能だ。
私の耳はすごくいいから、集中すれば森全体の音を聞き取る事が可能。
それによって、こうして発見することができたわけだが――流石に森に入っていなければ見つけることは不可能である。
最悪、明日捜索依頼が出てそれを私が受けた上で、その時まで生き延びていれば生き残るチャンスがある……といった程度か。
「さて、戻りましょう。送ってあげますよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ああでも、私の仕事が終わっていません。ついでに黒猪を狩りながら帰りましょうか。となると……」
「えっ!?」
私には私の仕事がある、この新人の少年を守るのも大事だが、自分のことをおろそかにするのは自由とは言えない。
自由とは、最低限の責任を果たした上で得られるものだからだ。
というわけで――
「こうしましょう」
「わわわー!」
私はお姫様抱っこで少年を担ぎ上げると、木々の上に飛び乗って駆け出した。
黒猪は……蹴り殺せばいいだろう、うん。
なお、その後戻ったら少年は他の冒険者(酔っ払い)からさんざん叱られ、無事を祝われ――同情された。
なんで同情されているのだろう。
そして私も、やたらと他の冒険者(酔っ払い)から絡まれるのだった。
△△
ルルクという猫人族の冒険者がいる。
冒険者としての等級は二級、本来はそれ以上の実力があるのだが、あえて二級のままにしているようだ。
獣人は他種族から舐められやすい傾向にあるが、ルルクが拠点としているギルドにルルクを舐める冒険者はいない。
美しい白の髪とシャープな耳、それからポニーテール。
背丈は女子としては若干小柄で、スレンダーな体型。
だが、それでいて均整の取れたスタイルである。
彼女を端的に表すなら、それは自由な猫という他にない。
もともと猫人族は気ままな種族だが、ルルクはとびっきりの自由な少女だ。
仕事をする時間も日時も気分で決定し、時には数日山にこもって帰ってこないこともある。
かと思えば、つきっきりで若い冒険者を教え導いたり、近所の子どもの性癖を弄んだりしていた。
だが、そんな彼女をこの街の人々は慕っている。
その気まぐれが、時に幸運をもたらし、時に思わぬ事件の解決につながると知っているからだ。
これはそんな、身も心も猫極まりない転生少女のルルクが、気ままに周囲を振り回しつつ生きていくお話。
だいたいタイトル通りのお話。