猫人族のTS転生者、自由に生きたら周囲にやたらと絡まれる 作:にゃーん
モントカッツェのギルド食堂は私が魔改造した。
前世の記憶を頼りに、それっぽい料理を開発して普及させたのだ。
特にマヨネーズ、しょうゆといった各種調味料の開発は非常に料理を美味しくし、いまでは世界一のギルド食堂なんて呼ばれるほどにまで成長したのである。
その反動か何か知らないが、一つだけ私はギルドに対して特権を有していた。
具体的には――
「厨房借りますね」
「はーい」
厨房顔パスである。
何だったら、スタッフに声をかける必要すらない。
朝っぱらからいきなり厨房に忍び込んで、軽く朝食を作って食べても誰も何も言わないのだ。
ただし、一つだけ条件があって、作った料理は他のスタッフに試食させること。
まぁ、少し多めに作って厨房の冷蔵庫に置いていくだけで問題ない。
いいのかそんなこと……と思うかもしれないけど、私がこのギルドの食堂にやったことはこんなことじゃ返せないくらいデカイのである。
在庫が勝手に減るのは問題じゃないか……という話も、ファンタジー系異世界だしいいっ子なしだ。
「さて、今日はどうしましょうかね」
「何ができるかなぁ?」
「……ミーフェさん、またサボってます?」
「えへへ」
「何も褒めてはいませんが……」
ミーフェさん、先日私が寝てる時に寝顔を観賞しつつサボってたギルドスタッフ。
サボり魔で、適当で、よくこれで仕事を続けられるなぁ……と思わなくもない。
まぁ、諸般の事情で彼女はギルドになくてはならない存在なのだが。
なおそこそこ長い付き合いなので、私と二人でいる時は、敬語ではなく私語である。
本当に仕事をするつもりはないらしい。
「さて、今日はスパゲティを茹でます」
「スパッ!」
「麺は自室にもあるのですが、複数のパスタを同時に作ろうと思うとここの食材が必須なのですよね」
いいながら、ベーコン、卵、トマト、チーズ、他にも色々と必要なものを取り出していく。
今日の私はパスタの気分なのだ。
パスタパスタしたくて仕方がないのである。
しかも一つの味では満足できない。
クリーム系、トマト系、チーズ盛り盛り、果てはペペロンに明太などなど。
まぁとにもかくにも、いろんなパスタが食べたくて仕方がなかった。
そこで、ギルドの食堂を使ってパスタ祭りの開催をここに宣言するのである。
「まずは麺を茹でましょうか。大量に茹でるので、暇ならミーフェさんも手伝ってください」
「はーい」
そう言って、二人で鍋に水を入れてパスタの準備をする。
水が沸騰したら、早速パスタの投入だ。
と、その時。
「そーれ」
――ミーフェさんがパスタを真っ二つにしようとした。
途端、私の腕が動く。
気がついたら、としか言いようのない速度で――
「今すぐその冒涜的な手を止めなさい。さもなくば、腕ごと行きますよ」
ミーフェさんの背後に周り、ナイフを突きつけていた。
「ひぃいいい!?」
「パスタは神聖なるもの、割ったりするなど言語道断。崇めなさい、奉りなさい」
「こ、この方が楽なのにぃ」
「私の目の黒いうちは、パスタはそのままの姿を保たねばならないのです」
「赤いでしょー!」
というわけで、麺を茹でる。
いやぁ、パスタ麺がこうして簡単に使えるのも、料理人たちの工夫の賜物だ。
ぶっちゃけ、私に詳しい知識はない。
いや、あるものもあるんだけど、大抵はかなりうろ覚えだ。
それを形にするのは、このギルドの料理人達である。
「茹で上がったら、次はかけるものを作っていきましょう。ナポリタン用のトマトソースと、カルボナーラ用のホワイトソースから行きますよ」
「私、明太がいいなぁ」
「それは料理人さんたちが来てからですね」
今の時刻は、まだ朝の五時。
そもそもどうしてこの時間にミーフェがいるんだって話で、ギルドにはほとんど人がいない。
料理人達がやってくるまでにはあと三十分ほどある。
と、思っていたら――
「ありゃ、ルルクねーさんじゃないっすか、っつかミーフェもいるし」
「あ、サリアちゃんおはよう」
「おはようございます、サリアさん」
コック姿のギャルが入ってきた。
金髪ツインテ、カールのかかった髪が特徴的な私と同い年くらいの少女。
名前はサリア、ここで働くコックの一人である。
「サリアさんも、ずいぶん早いですね?」
「やまぁ、ちょっと練習しようかなって思ったんすよ。あーしはまだまだ若輩ですし」
「昔の跳ね返りっぷりが嘘のようです」
「ちょ、やめてくださいっすよ、未だに思い出して唸りそうになるんすから、アレ」
入ってきた当初は、自分は天才だとか、ここの料理人は大したことないなんて言ってたけど。
今ではすっかり謙虚な若手ポジションのサリアさんである。
まぁ、若いながらにここのベテランのおばちゃん達についていけるのは本当にすごいんだけどね。
昔は普通のおばちゃんだったんだけど、私が魔改造したらなんかやばいことに……こほん。
「ちょっと色んな味のパスタを作りたいと思いまして、明太味って作れます?」
「ええと、なんすか? 相変わらず、あーしが聞いたことのないような単語が、ルルクねーさんからはぽんぽん出てくるっすね」
「異大陸の本の知識です」
私の現代料理は、ほぼすべて異大陸の本の知識でごまかしている。
まったく誤魔化せていない気もするが、ごまかさないことには始まらないし、まぁだいたいどれも美味しいんだから皆もスルーしてくれているのだ。
「まずここに、使うかなと思って取っておいた明太子がございまして」
「明太子」
「これをいい感じにですね」
昔作ってもらって、長時間――百年くらい――同じ状態で保存できる特殊な保存庫につっこんでおいた明太子を取り出す。
これはこれで、用意するまでには色々とドラマがあったんだけど、今は気にしている暇はない。
とりあえず、他にも色々と覚えている情報を伝えて、後はいい感じにサリアさんへ任せることとした。
「……相変わらず、無茶振りがすごいっすね」
「出来上がった時の完成度は保証しますよ。にゃはは」
「がんばれー」
ここの料理人なら、私に無茶振りをされたことは一度や二度ではない。
ただ、その無茶振りに答えたらなんか知らないけどすごい美味しい料理ができるのだ。
みんなも、それのおかげで頑張ってくれている。
なお、ミーフェさんは飽きたのか、既に茹で上がっているパスタを一本だけつまんで食べながら、だらだらしていた。
仕事しなさる。
「じゃあ私は、今のうちに自分でも作れるやつを……」
というわけで、サリアさんと二人がかりでソースを作っていく。
トマトやらカルボナーラやら、一度自分で作ったことのあるものは私がちゃちゃっと作成し、一から作成する明太なんかはサリアさん任せ。
他の料理人がギルドにやってくるころには、いろいろな味のパスタが厨房にできあがっていた。
「というわけで、できましたー」
「はぁ……はぁ……完成っす……」
「おおー、こりゃすごいね」
やってきたおばちゃん達が、厨房に並べられた無数のパスタに目を回す。
どれも味は最高で、こりゃあパスタ祭りが楽しいぞう、と私は一人舌なめずり。
早速、サリアさんと二人で今日のメインの成果物である明太パスタをいただく。
「あ、これ……うまっ」
「つぶつぶが口の中で弾ける感覚がいいですねぇ。このピリッとくるスパイスの味も……行けます!」
「うま、うま」
「……思うに、プロのサリアさんの方が、きちんと味を言語化するべきでは?」
「んぐっ」
夢中になって食べていたサリアさんが、私の突っ込みでパスタを喉につまらせた。
げほげほと咳をするサリアさんと、楽しげに笑う料理人のおばちゃん達。
なんだかんだサリアさんもここに馴染んできたなぁ、と思いつつ。
私とミーフェは他のパスタにも手を伸ばす。
大量に作ったパスタは、私が自分の分を確保した後、食堂に出されることとなる。
ギルドを巻き込んでのパスタ祭りだ。
いやぁ、なかなか楽しかったですね。
知識は曖昧なので、いい感じにしてもらうべく無茶振りが酷いです。
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