ラウラの話を聞き終わった時にはいい時間だったのでそのまま雑魚寝をして一夜を明かす事に。レツとリンの家はそこまで狭くはなく、雑魚寝をしなくても空き部屋を使えば十分な広さがあるのだが雑魚寝にしたのは……あんな話を聞いておいて一人にさせるとか酷くない? レツにと咎められたからだ。トウヤとしては自分は一人で女は女同士で寝るべきだろと考えていたが口には出さなかった。
こういう時は下手に逆らうべきではない。女の結束力は時にオリハルコン並みだと直感で悟ったのと、レツの言葉の通りだと思ったからだ。それはそれとして何か癪なのでレツのケツを叩いておいたトウヤである。
「(叩くんじゃなかった……あんな声出しやがって……もうレツの事を女としてしか見れねえじゃねーか!)」
レツが右、ラウラが左、間にトウヤといった川の字で寝ながらトウヤはレツのケツを叩いた時を思い出して*1悶々とした気持ちに陥ったせいで眠れそうになかった。
「……少し、夜風に当たるか」
軽く溜め息をつき、寝床を脱け出すと二人を起こさないようにリビングを出る。
風を切る音がし、少し遅れて何かが刺さる音が聞こえたトウヤの足は自然とその音がする場所へ向かっていた。
「ーーふっ!」
そこに居たのは雑魚寝を辞退して自分の部屋に戻った筈のリンだった。初めて会った時も、家の中に居る時も変わらず着用しているクノイチみたいな装束を纏い手裏剣や苦無といった忍具を振るっていた。トウヤは格好から入っていただけじゃなくて実力もあるのかと思いながら観察していた。
「…………覗き見が趣味なの?」
「そんなつもりはなかったんだがな……精が出るなとでも言っておこうか?」
見えない位置に居たのにあっさりとバレたトウヤはすぐにリンの前に姿を現すと当たり障りのない会話を試みた。
「お前からの賛辞は何か寒気がするから要らない」
「本心なんだがな……それより、何でこんな時間に鍛練をしてるんだ? 眠れない……って訳でもないだろ」
しかし、ばっさりと斬られた。が……めげずに再度会話を試みる。
「……眠れないから鍛練をしてると断言しないのは何故?」
「眠そうな顔してるし、此処まで外すほど下手じゃないだろ?」
的に刺さらずに散らばった手裏剣や苦無を拾いながら言うトウヤに反論しようとしたリンだが……
「それは……お前の見間違い……私は別に眠くは……ふぁ……っ」
「体は正直ってな。夜更かしは美貌の天敵だぜ?」
我慢できなかった欠伸をしてしまう。そして何処かからかうようなトウヤを恨めしげに睨み付ける。その顔は羞恥からか赤いので迫力は無いに等しい。
「……ラウラがヒトを簡単に許した事が気になるか?」
「…………え」
「当事者でもない限り、本心は分からないけどさ……自分に置き換えて考える事は出来る。そしたら……俺も同じく許していたぞ」
「訳が分からない……! 何で命を奪われたのに許せる!? ……っ」
思わず声を荒げてしまったリンはハッとなり、自分の手で口を覆った。安眠妨害をしたかもと気づいたのだろう。
「……ラウラも言ってただろ。本当にヒトだけが悪かったのか? ってさ……状況が分からない以上はただの推測だが……結果的にラウラが串刺しになったのはヒトのせいだとして、その過程に何があったか……仮にインディーな奴なら罠が作動して逃げてる最中に不慮の事故でとかな。よくあるのは押すなよ押すなよと言ってたのに押してしまったとか……笑いで済むならいいが命が懸かってたら笑えないよな?」
「…………お前が何を言いたいか分からない……だけど少しだけ楽になった……気がする」
本当にトウヤが何を言いたいのか理解できなかったらしくリンは難しそうな顔をしていたが、自身に何らかの変化を感じたのか少しだけ笑う。
「まあ……思った事は溜め込まずに吐き出してしまえ。レツに言いにくいなら俺が聞いてやるよ」
「……考えとく」
そう言うと余程眠たいのかふらふらしながら家の中に引っ込むリン。それを見送りながらトウヤは……
「日課だから眠いのを我慢して鍛練をしていたか、或いは忍らしく主人を守る為に……さて、どっちだろうな? ま……無理をしていざという時にヘマしたら元も子もないが」
何処か小馬鹿にするように言うと笑みを浮かべて天を仰ぐ。そして、その目は普段の黒色ではなくうっすらと翠に染まり……輝きを放っていた。
なかなか思うように進まない……