視界が白く塗り潰される中、歩みを進めていたトウヤだったが、突然視界が開けた。
「…………?」
目に飛び込んできたのは砂漠。此処がトミクニという国なのかと首を傾げる。
「…………」
ふいに視線を感じ、振り返るとそこには桜色の髪をポニーテールに結び、鋭い目をしている少女が居た。瞳の赤も相まって猛る炎を彷彿とさせた。トウヤは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、息を呑む。
「…………」
暫くその状況が続いていたが、ふ……と小さく笑みを浮かべるとトウヤの元に向けて歩き出す。訳が分からないまま接近されるのを見ている事しか出来なかったが……
「■■……姫様」
そのまま素通りし、名前らしきものを呟く。だがトウヤには聞き取れない。辛うじて姫様だけは聞き取れたが……姫様? といつの間にか動けるようになっていた体を反転させて少女の向いてる方を向く。
「■■■ちゃん!」
砂煙を立ち上らせて駆け寄って来るのはデカパ……ではなくドレスを着た緑髪に満面の笑みを浮かべた少女。此方は髪を結んでないので風を受けて靡いていた。
「……また脱け出したんですか?」
「そう言わないでよぅ……私が姫って柄じゃないのは■■■ちゃんも知ってるでしょ?」
「……そうですね、ドレスの裾を踏んで躓いた上に民に生デカパイ披露しかねませんね。それでなくとも何もない場所で躓くし……後etcetc...」
「……ひぃん」
トウヤはあの巨峰がポロリしたら凄まじく支持されそうだなと思ったが姫と呼ばれていたのを思いだして不敬だと邪な考えを振り払う。
「……それにしてもこの二人はどんな関係なんだ? 親しい仲なのは分かるが……」
桜髪の少女が告げる言葉は鋭く、姫を泣かせる程だが何処か楽しそうな雰囲気が漂っていた。トウヤはそんな二人を観察してつい口に出してしまったが……二人には聞こえていないのか会話を楽しんでいた。
「……っ!?」
しかし、突然吹き荒れた砂嵐に思わず腕で顔を庇うと景色が一変していた。砂漠から何処か王宮のような建物の中にトウヤは居た。そして目の前には姫を抱き抱えて此方を睨み付ける桜髪の少女。
「いや、違う……睨み付けているのは俺じゃない?」
さっきは動けなくなっていたが今は動ける事からそう判断したトウヤは桜髪の少女が睨み付ける先に視線を向ける。
「何故……■■姫様を裏切った! ■ィ■■ー■!」
桜髪の少女が叫ぶ先に居たのは銀髪を先端で束ね、メイド服を着た少女。蛇のような金眼を持ち、叫びをただ聞くだけで何も語らない。桜髪の少女と姫とは違い、此方は幾つか名前らしきものを聞き取れていた。
「……何故、何も言わない! ■■がどれだけ頼りにしていたか分からないお前じゃないだろ……っ! げほっ!」
苦しげな声を聞いたのと二人の元に駆け寄って気づいたが、姫は胸元を赤く染めており、抱き抱えている桜髪の少女もまた脇腹と右目から血を流していた。トウヤは急いで止血をと思い、手を伸ばしたが二人に触れる事なく空を切る。そこで薄々気づいていたがこの現象に干渉は出来ないと理解させられて唇を噛む。
「ごめん……■■■ちゃん、先に…………■■君の所に逝くね……」
「■■ェ! っ……ヴィル、ガアアァナアアァ!」
「……っ、ヴィルガーナ…………それがあの銀髪の名前なのか! でも、何で急に聞き取れたんだ!?」
崩落する王宮。倒れてきた柱に思わず防御姿勢をとるトウヤ……その中でヴィルガーナと呼ばれた少女が此方を見て笑った……気がした。
「……はっ!? また景色が……今度は……都市か?」
砂漠や王宮とはまた一変し、次にトウヤが居たのは何処か近未来を彷彿とさせる場所。足下をよく見ると道路のようだが走る車は宙を駆けておりトウヤに当たってもやはりすり抜けた。
「…………ふっ」
トウヤはそのすり抜ける事と道路である事を利用して普通なら出来ない車が駆ける中を歩く。おまけに逆走だ。次第に楽しくなって車目掛けてダイブしたり某ドラマの僕は死にません!ならぬ死にます!*1をする始末……
「さて、楽しんだ所で……今一度状況を整理するか……」
すり抜けるとはいえ、冷静になると車が迫る事に今更恐怖を覚えたトウヤは道路の上から離れて近くの広場に向かいながら状況を整理する事にした。
「……やっぱりフラグだったか。レツはアヤカシポータルを使えるのは同行者が居るか、パスがある時と言ってた……同行者って事は先に行ってしまったレツはアヤカシの同行者扱いをされないんじゃないか? となるとパスを持たず、ヒトの俺には使えず……こんな状況に陥ったと……」
自業自得の言葉が脳裏を過ったが、それでこの不可思議な現象が起きたとは考えられないと頭を振る。
「……俺の意思で景色が一変する事はなく、さっきみたいに誰かに会わないとダメか……俺は何を見せられてるんだか……」
深く考えるのも無駄だと結論を出したトウヤは恐らく、この都市に深く関わっているだろう人物を捜す方向に意識を切り替えた。と、同時に広場に着いた。
「ーーやあ皆、今日は忙しい中集まってくれて有難う。お礼に目一杯楽しんでいくといいよ!」
噴水の前に人だかりが出来ていた。気になったトウヤは近づき、人だかりの理由を知る。そこには青髪を靡かせる露出気味なワンピースを着た少女が居た。言葉から察するに大道芸人みたいなものだろう……服装は別の意味で目立つが、それは置いておこう。
……そこからは近未来的な場所だけにファンタジーな光景が広がる。少女が横笛を吹くと噴水から泡が噴き出して少女の周りを旋回する。指揮者のように指を回すと泡が従うように動き、指を鳴らすと噴水から勢いよく流れた水流に呑まれ……かと思うと水流が意思を持ったかのように人だかりを縫うように這い、上空で弾けると水を彷彿とさせるドレスを身に纏っていたり……辺りに転がる石ころを瞬く間に楽器に変えて演奏したりと盛り上がった。
トウヤもまた周りの人達と同じく少女の芸から目を離せないでいた。と、そんな時……何故かトウヤにだけ水流が這い寄りーー呑まれた。
「ーー景色変更現象が雑過ぎる! って今度は教会……か?」
都市にどう関わっているのか分からないまま景色が変わった事に文句を言いながら立ち上がるトウヤは教会にしては何処か異質な空気を感じとり息を呑む。
「念……滅」
「……ん?」
「邪念撲滅邪念撲滅邪念邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅……」
「な、何だ?」
異質な空気を纏っているように見えるシスター服を着た少女が此方にゆらゆらと近づいてきている……トウヤはそのただならぬ様子にすり抜けると分かっていても恐怖心を抱く。
「邪念撲滅ゥ!」
「う、うわあああぁ!?」
シスターが立ち止まり、跳躍すると何故か持っていた十字架をまるでハンマーのように降り下ろす。そして側面がトウヤのすぐ真横に突き刺さる。
「邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅邪念撲滅……邪念☆撲滅ッ!」
「」
すぐ横で五寸釘を藁人形に打ち付けるが如く十字架を叩きつけまくるという余りにも恐ろしい姿にトウヤはキャパオーバーして気絶した。
「……ふう、穢れは祓われました……マリー? どうして私を見て引くのですか? 何処に行くのですか? それにそんな良い笑みを浮かべて? マリー? マリーさん!?」
「ーーお前みたいな聖職者が居てたまるかあぁ! はっ!?」
「と、トウヤ君? 急に叫んでどうしたの?」
「……大丈夫?」
気絶したからこそ起き様に文句を言うのは当然だが……トウヤの身に起きていた現象を知らないレツとラウラは急に叫んだとなる訳で……
「……大丈夫だ、問題ない。一応聞くが、俺は二人に続いてポータルを潜ったんだよな?」
「うん、そしたら急に上の空になるからポータル酔いかと思って正気に戻るのを待ってたんだけど……」
「急に叫んだから吃驚した……」
「悪かった……ポータルを潜った後に視界が白く塗り潰されて……あれ、何を見たんだっけ……?」
どうやらトウヤは先程までの現象で見た事を忘れてしまったようだ……それだけ邪念撲滅が凄まじかったのだろうか……
「……大丈夫なら行こうか。此処がトミクニ、そして陰陽寮はすぐそこだよ!」
■で隠してるけど分かる人には分かってしまうので余り意味がないけど、読者に分かっても主人公には分からないようにするのが目的なので……
ヴィルガーナは東方の咲夜をイメージすれば分かりやすいかと……ただし、うすほそな蛇金眼!
邪念撲滅神官は傍目から見たら多分恐怖を抱くと思う……今回、名前あるなし両方含めてクロスしたキャラはなんと五人も居ます! どれも原作の特徴を書いてるから分かる人には分かってしまう……隠す気ないけど。