天才アリスの凡人白兎   作:冬怪涅槃

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この話は五話です。前回を見てから読んであげてください。


第五話 『影』

 

 

 

 

 

 

 

 

――――うん、茶柱先生も同じように『確信』していると言っていたよ」

 

 

「やっぱり……どのクラスでもそう言われてるなら、学校側がその発言をするように指定しているんだろうね」

 

 

 田くんは、俺の言葉を聞くと思案するように顎へ手を添える。その様子を見ながら、俺は購買で買った焼きそばパンを貪っていた。

 

 現在は5月7日、木曜日。ゴールデンウィーク明けに平田くんと昼食を取りながら情報交換を行っていた。

 

 

「じゃあ……今回の中間テストは、何か正攻法以外の手段を探す必要があるのかもしれない」

 

 

「うん、でも学校側が用意した手段の存在がわかっても、肝心の方法がわからないからなぁ」

 

 

「結局今の僕たちに出来るのは、テストに向けて勉強会を開くことくらいか……」

 

 

「Dクラスも勉強会?俺のクラスも同じ手段を考えてるよ」

 

 

「なら、AとDの合同で勉強会を開いてみるのはどうかな?」

 

 

「難しいね。他クラスに協力してやらないって考えの人もいるし、俺や勉強会を積極的に行おうとしている葛城くんならまだしも、他の生徒はなんでDクラスを()()()やらなきゃいけないんだって反感を抱くかもしれない」

 

 

「……そっか………確かにそうだね。BクラスやCクラスの目線で考えても、あまり良い気分にはならないだろうし……」

 

 

「仲良く出来るのが良いと思うけど、皆の意識に競争が根付いてる間は利益が見込めない限り難しそうだね」

 

 

「うん……勢いで提案してしまったけど、こっち側がメリットを提示しないのは不誠実だったよ。ごめん」

 

 

 そう言って、平田くんは頭を下げた。

 

 

「ううん、大丈夫だよ。だから頭を上げて?」

 

 

「ありがとう……僕の方でも、何かわかったら伝えるよ」

 

 

「助かるよ、俺も調べておくね」

 

 

 それにしても、平田くんは話していて安心するなー。有栖と森下さんは論外として、白石さんは何を求めているのかわからないし、橋本くんは胡散臭いし、吉田くんは……ちょっとおバカだし、西川さんはイイ性格しているから疲れる。鬼頭くんは他を寄せ付けなくて会話もそんなに出来ていない。一之瀬さんはマトモだけど、白波さんとコンボすると厄介度が上がるから危険。椎名さんは鋭すぎて怖いので安心度が少し下がった。

 

 以上のことから、平田くんが俺の心のオアシス筆頭候補すぎる。次点は神室さん、意外と良い子だよね~犯罪してたけど。

 

 その後は「今後も仲良くしようね♡」的な馴れあいの会話と雑談をして昼休みを終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。つまり金曜日。

 

 

「無兎浜、またカラオケ行かね?」

 

 

「テスト二週間前だよ?試験範囲も変わったし、今回はパス」

 

 

「頼むよ~俺の美声で、白石を虜にするんだ」

 

 

 それは吉田(おまえ)の技量だろ。何を頼むんだよ。

 

 

「まあ、無兎浜の言い分も一理あるしな……テスト後にしてやるよ」

 

 

「百里あったと思うけど、そういうことなら楽しみにしておくね」

 

 

 吉田くんは白石さん達の方に行くと、「じゃあな~」とこっちに手を振り彼女たちと教室を後にした。ゴールデンウィークに前の5人でカラオケに行ってから皆の距離が縮まった気がする。俺がいなくても白石さんと行動できてるし、凄い成長だ。

 

 もうあの人1()で良くないですか?

 

 俺、カラオケでやってたの吉田くんが歌ってる途中でキーを徐々に上げる遊びくらいだよ。キューピッド大作戦に何の役にも立ってなかったし解雇で良いと思うんだけど。

 

 周りを見ると、葛城くんの周りに彼の派閥に属する生徒がうじゃうじゃと集まっていた。彼は会長に言っていた通り、勉強会を行うらしい。有栖も一応は派閥の生徒に勉強を教えるらしく、そっちも準備していた。

 

 しかし今回、俺は有栖に自由行動を認められているので勉強会には参加しない。この時間を無駄にはしないさ。何としてでも中間テストの突破法を探すんだ。俺は椎名さんから借りていた本をバッグに入れると、割とうきうきで図書室に向かった。

 

 

 面白かったなぁ~~コレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ふふ、そうでしょうそうでしょう……!」

 

 

「タイトルの意味が二転三転して興奮したよ、いや~やられたね」

 

 

「さてさて、そんな無兎浜くんにおすすめの小説がなんと他にも……」

 

 

 なんかテンションが高い椎名さんから、さらに色んな小説が紹介された。意地でもこっちの世界に引き摺り込んでやるという気概を感じる。でも普通にセンスが良いので小説沼には両足突っ込んでいる状態だ。これはヤバい、勉強しないと……ヤバい。ほら、もう語彙を浴びすぎて語彙力を活字に吸われている。

 

 でも椎名さんはめちゃくちゃ楽しそうだし……なんとか一緒に勉強する方向にシフト出来ないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バンッ!!

 

 

――――ひゃあっ」

 

 

「無知無能つったかッ!!?」

 

 

 声の方向を見ると、須藤くんが机を乗り出して対面する女子生徒に食いかかっていた。

 

 

「あー、Dクラスの勉強会か」

 

 

「……なるほど、何か喧嘩でもしてるのでしょうか」

 

 

「怖いね~。椎名さんも悲鳴上げちゃったし」

 

 

「……………………いじわるです」

 

 

「ごめんごめん……そういえば、椎名さんって勉強は得意なの?」

 

 

「得意な方だと思いますよ。こないだの小テストでは90点を取りました」

 

 

 格上じゃねえか。一緒に勉強しても俺が教えを乞いて足を引っ張るだけだな。

 

 

「…たっか~……俺は70後半だよ、凄いね」

 

 

「もし良ければ、勉強を教えましょうか?」

 

 

「ぜひ」

 

 

 そんなに言うなら仕方ない。是非ともそれに(あやか)らせて頂こう。

 

 

「わざわざ部活休んできてやったのに……完全に時間の無駄だ」

 

 

 先ほどの喧騒に耳を傾けると、須藤くんが文句を垂れて帰る雰囲気だ。部活に熱心な事で。

 

 

「マジでスラムダンクだなぁ……」

 

 

「……スラムダンクは確か、バスケットボールで高くジャンプしてゴールに直接ボールを強く叩き込むシュート技でしたよね?」

 

 

「そっちしか知らないことあるんだ……漫画だよ。その登場人物に凄く似てるんだよ、彼」

 

 

「へぇ……無兎浜くんは漫画も読まれるのですか?」

 

 

「うん、椎名さんも漫画を読んでみたら?意外と面白いかもよ」

 

 

「そうですね………何か無兎浜くんがオススメする漫画とか……あったりしますか?」

 

 

 難しいな……宝石の―――いや、やめとこ……漫画初心者にあれはキツイ。椎名さんは文学的なテーマのある作品が好みだろうし、バトル系がメインのやつは除いておくとして……

 

 

「『チ。』とか『Dr.STONE』がおすすめかな。人間が次世代に託してきたのがよく描かれていて面白いよ」

 

 

「なるほど……その二つ、さっそく私も見てみますね」

 

 

「テストが終わってからでいいよ」

 

 

「いえ、思い立ったが吉日です」

 

 

 やらかしたか?

 

 

「個人的には『Dr.STONE』が好きだな。先人の知恵レベル99みたいな感じで話が軽快に進んで―――

 

 

 

 

 ―――……先人の知恵?

 

 あれ、なんか引っかかったんだけどな……なんだろう。重要な気がするが、閃きが出てきそうで出てこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――足手纏いは今の内に脱落してもらった方が良い、ということよ」

 

 

 向こうの方から、穏やかではない言葉が聞こえる。声の主は随分と厳しいらしい。

 

 

「……無兎浜くん?」

 

 

「ああ、ううん。なんでもないよ。その二つの漫画は面白いから、きっと椎名さんも楽しめると思う」

 

 

――――そう――――た……私が――――する、してみせる。こんなに早く――――別れるなんて、絶対に嫌だから――

 

 

 さっきの声とは別の人だ。遠くて少し聞こえないが、内容的に優しい人物なのだろう。

 

 

 

 

 

 

「見捨てたくないの。堀北さんだって――――

 

 

 

 

 

 

――――ぁ」

 

 

 

 

 堀北……?会長と同じ名前だ。だとすると、会長には妹が居たのか?なんだか()()()……って、勝手に感じてるの気持ち悪いか。いや、今はそれよりも重要なことがある。

 

 そういえば会長は『何か進展したら教えろ』と言っていた。これって探りを入れるにしてはあからさま過ぎないか?なぜ報告する必要がある?もし、これがヒントなのだとしたら…………上級生に関与することで今回のテストの解決策が手に入る……?

 

 

「……そういうことか」

 

 

「?……何の話ですか?」

 

 

「ああいや、こっちの話だよ」

 

 

「…………そうですか」

 

 

 俺は顔を手で抑え、頬が歪むのを必死に堪えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ………無兎浜白夜は一人で下校していた。太陽がやや沈み始めているが、空はまだ明るい。自分自身に酔った千鳥足で、愛しのMy Honey……坂柳有栖の待つ愛の巣へ向かう。そんな彼を追う影が2つ、微かな闇に乗じて佇んでいた……

 

 

 

 ファサ…………

 

 

 

 彼は髪をかき上げ、切なそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ああ、また2人も虜にしてしまった………僕はなんて美しく、罪深い存在なんだろうか…………っ!」

 

 

 

 

 

 

「捏造やめてね、森下さん」

 

 

 

 

※視点:森下

 

 

 

 

「私の有難いナレーションを捏造だなんて……」

 

 

「千鳥足あたりから意味不明だったよ??というか、なんで俺の場所が?」

 

 

「知らないんですか?連絡先を交換している相手は位置情報が共有されると」

 

 

「え、何それ知らない」

 

 

 一人で寂しくトボトボと外を歩いていた哀れな無兎浜白夜に、慈悲深い美少女の親切心によるASMRを背後から耳元でしてやったというのに……感謝の一つも無いとは。

 

 一体どんな教育を受けてきたんだ。

 

 

「コイツマジか、みたいな顔よくできるね。謬説(びゅうせつ)を囁かれても困惑するだけでしょ」

 

 

「何を仰いますか。謬説などではないです」

 

 

「確かに、ほとんどは妄想だったね」

 

 

 ムカつく顔で笑うと、彼は真剣な面持ちに切り替え私の耳元で囁く。

 

 

()()2()()……というのは?」

 

 

「そのままの意味です。貴方、尾行されています」

 

 

「…………マジ?」

 

 

「マジです。その程度の警戒心では自然界でやっていけませんよ」

 

 

「兎いじり好きだねぇ」

 

 

 ボソッと「意外と早かったな……」と呟いた。なるほど、ある程度は想定していたらしい。

 

 

「あれはCクラスの人間ですね。ボッチで帰っていたらボコボコのミンチにされていたかもしれません」

 

 

「……案外、否定できないかも」

 

 

「これは貸しですよ。特別に私が寮までついて行ってあげます」

 

 

「全然うれしくないや」

 

 

「足は寮へと真っすぐ進んでいますよ。体は正直ですね」

 

 

「はぁ……」

 

 

「ため息が出るほど嬉しいだなんて、照れますよ」

 

 

 彼と下校デートしてやってると、尾行犯は動揺したのかやや目立つ動きをしていた。ああ、あれは女性に相手されたことがなく、女を侍らせる男に醜い嫉妬の感情を肥やしているんですね。なんて可哀想な生命なのでしょう。そんな暇があったら自分を磨けばいいのにそれすら行わない怠慢、そのくせ自分もチヤホヤされたいという傲慢も兼ね備えた精神構造には一種の芸術的価値すら感じさせます」

 

 

「声に出てる出てる出てる。言葉のナイフ鋭すぎるよ」

 

 

「おっと失礼」

 

 

 私の巧みな会話術で彼を楽しませていると、すぐに寮へと到着した。彼がエレベーターの6階を押して、小さなゆりかごは上階へグングンと昇る。

 

 

「ほら、美少女と密室で二人きりです」

 

 

「わぁ~嬉しいや」

 

 

「元気がないですね……ほら、美少女と密室で二人きりです」

 

 

「え、もう一回??特定の選択肢を選ばないと先に進まないNPCの会話なんだけど」

 

 

「ほら、美少女と密室で二人きりです」

 

 

「そろそろ密室じゃなくなるよ」

 

 

「チッ……」

 

 

 目の前の扉が開くと彼は早足でエレベーターから出ていくので、こちらも全力の早足で対抗する。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 無兎浜白夜の部屋の前まで来ると、彼は鍵を取り出して扉を開けた。そして入ったと思った次の瞬間、神速で扉が閉まり始める。私はそこまで読めていた。すかさず足を扉に挟んで――――

 

 

 

 

――――――~~っ……!!」

 

 

「あ、ごめん!痛かったよね今の……」

 

 

 激痛。この世のものとは思えない刺激が足先から脳裏に這いあがってくる。死――――直感的にそう思った。どうにか身体からこの痛みを逃がしたくて、私はその場で地団駄を踏む。

 

 

「ちょっと、静かに………」

 

 

 目の前の男への苛立ちで私の足踏みは加速する。もう騒がしくしてやるという目的にすり替わり、普通にタップダンスを踊っていた。

 

 

「え、なになになになに???急にどうした??」

 

 

「この苦しみは……私に献上物を用意しないと収まりませんよ……っ」

 

 

「そんな凄まれても絵面がシュールだけど……夕飯食わせろってこと?わかったから早く部屋に入ってくれない???この状況誰かに見られてたら俺まで恥ずかしい」

 

 

 鮮やかな交渉術で部屋の中に転がり込むと、私はその場にへたり込んだ。

 

 

「もう歩けません……一歩でも歩いて足に刺激を与えたら死にます」

 

 

「じゃあさっき何回死んだの??今からご飯作るから、それまで部屋で寛いでてね」

 

 

「おんぶ」

 

 

「ご飯できたら玄関まで運ぶね」

 

 

「チッ……」

 

 

 私は片足に重心を寄せながら奥へと進む。部屋の中は簡素で何の面白味もない。台所を見れば料理道具が少し多いくらいで、一見すると彼の顔面くらい特徴が無い空間だった。

 

 しかし私は見逃さない。手を洗うために洗面所へ向かえば、偽りなき愛の証拠……二本の歯ブラシを発見した。本当に同棲をしている……?まさか、愛人を連れてきている間に別の愛人をタンスなどの収納に隠すアレを今しているんじゃないか??いかん、彼が料理を作り終える前に坂柳有栖を見つけなければ……

 

 

「食べたくないものとかあるかな?」

 

 

「フグが食べたいです」

 

 

「まず免許が無い」

 

 

 キッチンに消えた彼をよそに、私は箪笥を確認する。なんか無駄に洒落た服が多量にあるが……こいつデート慣れしてやがるな。衣服を搔き分けて捜索するも、坂柳有栖の痕跡は見当たらない。

 

 お次はベッド。その下を捜索するも……何もなかった。

 

 

「全く、この(へや)はエロ本の一つも用意していないんですか??」

 

 

「ゴミみたいなクレーム。うちはエロ本定食やってないよ」

 

 

 ベッドの上も観察する。髪の毛でも見つけてやれば脅しのネタになるだろう。

 

 

 

 

――むっ!メスのニオイ……!!私の淫猥探知センサーがビンビンに反応していますよ、これは……!」

 

 

「ソレぶっ壊れてるよ」

 

 

「私のセンサーは優秀ですが??」

 

 

「じゃあ頭の方だ」

 

 

 その後も部屋を捜索してみるも……何もない。決定的な証拠はもちろん……埃もないのだ。それだけ定期的に、そして徹底的に掃除しているということ。つまり、隠したい痕跡があったという逆説的な証明!

 

 しかし……やはり証拠が欲しい。坂柳有栖が隠れられそうなスペースはもう無いが……いや、台所か??

 

 

「え、何?もう少しで出来上がるよ?あとちょっとだけ待っててね」

 

 

「ふむ……チャーハンですか。もっと黒毛和牛的なのを期待していたんですが……」

 

 

「俺のこと富豪だと思ってる??」

 

 

「おや、違うのですか?てっきり先生でも脅して口止め料を貰っているのかと思っていましたよ」

 

 

「……賢いのかそうじゃないのかわかんない人だね」

 

 

「失敬な、私はいつだってスマートです」

 

 

「嘘ってことだけはわかった」

 

 

 そう言って底の深いフライパンを巧みに動かすと米が波打つようにひっくり返った。テレビで見るアレである。

 

 

「ほう……私にもやらせてください」

 

 

「君の夕食無くなるけど良いの??」

 

 

「ここは一旦退いておくとしましょうか」

 

 

「自分で練習してね」

 

 

 一応台所も捜索するが、坂柳有栖は冷蔵されていなかったので今日のところは諦めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

 

 皿の上で丁寧に盛り付けられたドーム型のチャーハンに、スプーンを差し込む。米がキラキラと輝いていて、黄金の粒かと見間違う程に美しかった。

 

 

「……見た目は及第点ですね。ですが問題は味……」

 

 

「早く食べな~」

 

 

 どんなに見た目が良くても、味が悪ければ料理の風上にも置けない。ごくりと唾を飲む。私は意を決して口へと運んだ。

 

 

 

 

 

 

「こ、これは……ッ!!?」

 

 

 パラパラの水分が飛んだ米に塩コショウの塩味……纏う油からガーリックのボディブローが襲い掛かる!それでいてしつこくない……完璧に調和しているじゃないか。

 

 ついでにと用意された餃子にポン酢をつけ、味わう。この酸味もいい。おかげで米がもりもり進む。口の中が熱くなり過ぎたら、冷奴を口に頬張る。素晴らしい相性……mariage……

 

 

 ぐうぅ~~~。

 

 

 なんだこの音は?……まさか、私の腹から鳴ったのか?食事を進めて、さらにこの味を身体が求めたというのか。これは認めざるを得ない。私の人生のフルコース入りだ。

 

 

 

 

 

 

無兎浜白夜のタダ(めし)チャーハン

 

 

 

 

無兎浜白夜のタダ(めし)チャーハン

 

 

 

 

無兎浜白夜のタダ(めし)チャーハン

 

 

 

 

無兎浜白夜のタダ(めし)チャーハン

 

 

 

 

 

 

オードブル バラン

捕獲レベル12

 

スープ 未定

 

魚料理 フグ鯨

捕獲レベル29

 

肉料理 人から奢って貰った黒毛和牛

捕獲レベル不明

 

メイン 『無兎浜白夜のタダ(めし)チャーハン』

捕獲レベル1

 

サラダ セブンの麴味噌マヨネーズ入り野菜スティック

捕獲レベル711

 

デザート 人から一口貰った雪見だいふく

捕獲レベル10000

 

ドリンク 未定

 

 

 

 

「いや意味わからん意味わからん何何なに??てかラインナップなんだよソレ魚以外終わってんだろ」

 

 

「何を言いますか。私の厳正な審査によるものですよ」

 

 

「色々言いたいけど、オードブルのバランが一番ありえん」

 

 

 無兎浜白夜の小言を聞き流しながら、私はあっという間に食べ終えてしまった。

 

 

「…………」

 

 

「美味しかった?」

 

 

「おかわり」

 

 

「ありません」

 

 

「クソッ、やられました……っ!ネットで見た依存症の悪循環画像みたいにされるんですね!」

 

 

 

 

①「一口だけなら……」

 

②欲求が満たされます

 

③食欲が戻ると……

 「チャーハンが無い!チャーハンが無い!」

 

④「早くチャーハンを!苦しい!」

 

⑤体に耐性ができて、次第に食事量が増えていきます

 「もっと、もっとチャーハンを……」

 

⑥一時的に欲求は満たされます

 

⑦チャーハンのことしか考えられなくなります

 「チャーハン……チャーハン……」

 

⑧ ③に戻る

 

 

 

 

「……そんなに美味しかったの?」

 

 

「悔しいですが及第点は超えましたよ……」

 

 

「合格点を超えたとは言わないんだ。満点は何喰ったら満たすんだ?覚醒剤か??」

 

 

「仕方ないので、また食べに来てあげます」

 

 

「なんで『仕方ないので』なんて枕詞が言えるのかはわからないけど、お気に召したのならよかったよ……ただ」

 

 

 無兎浜白夜は得意げに微笑んだ。

 

 

 

 

「俺の計画に協力してくれたら……また料理を作ってあげてもいいよ」

 

 

「っ……!!男の人っていつもそうですね…!私たちのことなんだと思ってるんですか!?」

 

 

「違うから、そういうのじゃないから」

 

 

「なるほど、坂柳有栖で間に合っていると」

 

 

「間に合ってな……いや間に合ってないもなんか癪だけど、別に求めてないよ。で、協力してくれるの?してくれないの?」

 

 

「内容次第ですね」

 

 

「……ま、それもそうか」

 

 

 目の前の男は、真面目な顔で私に内容を告げる。

 

 

 

 

 

 

「―――Cクラスの王、龍園(りゅうえん)(かける)くんの監視を頼みたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

視点:龍園

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――龍園さん!俺、ハンバーグに決めました!」

 

 

「ガキか石崎(テメェ)。漢は黙ってステーキだろうが」

 

 

 の馬鹿がファミレスに行きたいとかほざきやがったせいで、俺と石崎、アルベルトに金田、伊吹の5人で仲良くテーブルを囲んでいた。王の威厳に関わるだろ、フザけるなよ。

 

 ……まぁ、偶然だが俺としても密室のカラオケより()()()()()()()。だから来てやったが、あまり良い気分ではない。

 

 今日は5月13日、水曜日。コイツらに最初の指示を出して11日と半端な数字だが、ここらで情報共有といこうじゃねえか。

 

 金田にタッチパネルで注文させて、俺は石崎へ体を向ける。

 

 

「……で?Aクラスの頭は?」

 

 

「は、はいっ。Aクラスは現在、派閥が2つあるんです。坂柳っつーチビの女が率いる坂柳派閥と、葛城っつーハゲの男が率いる派閥です」

 

 

「内部分裂か、優勢なのはどっちだ?」

 

 

「坂柳です。聞けばソイツは、初日の時点でポイントの仕組みを看破した張本人らしいですよ」

 

 

「…………ほう」

 

 

 初日の時点でわかっていれば、あの異常なクラスポイントも保つことができる。警戒するべきはそっちの女か。

 

 

「葛城は何故支持を得ている」

 

 

「人望、らしいです。後はクラス内で積極的に声かけをしていたりと、そういう面で評価されています。初日にシステムを暴いた立役者の三人と言われていましたが、部下は大したことなさそうでした」

 

 

「三人?」

 

 

「龍園氏、ここからは僕が説明を」

 

 

 注文を終えた金田が、懐からメモを取り出して読み上げる。

 

 

「まずは坂柳派閥で主要な人物を解説します。神室真澄……坂柳有栖氏の側近であり、最近では身の回りの世話やサポートは彼女が担当しているそうです。学力はまぁまぁで身体能力が高いそうですが、特別危険な要素は見当たりませんでした」

 

 

 そう言って取り出した写真には、不愛想な女が映っている。そしてその横にいる杖をついたロリが坂柳だろう。

 

 

「続いては鬼頭隼人……彼は神室氏よりも身体能力が高い、Aクラス屈指の武闘派です。坂柳氏のボディーガードといったところでしょう」

 

 

 写真にはキメェ顔の男が映っていた。なるほど……確かに立ち方から雑魚ではないのが分かる。

 

 

「そして、橋本正義……彼は社交的な人物で、他クラスともそれなりに交流があります。おそらくは現在の外交や情報収集担当です。そして、彼は軽薄な男で自分が勝てば良いと考えているようです。事実、Aクラスの重要な情報は彼が渡してきました」

 

 

 金髪の男だ。情報が確かなら、コイツには利用価値がある。

 

 

「最後に……無兎浜白夜。彼は坂柳派閥の最初の一人で、坂柳氏とはこの学校以前から交流があるそうです。また、坂柳氏と葛城氏と共にシステムの看破に貢献した一人でもある危険な男です。神室氏と二人で身の回りのサポートを行っていたようですが、最近は単独で動いています」

 

 

 そして写真に写されていたのは、黒髪の平凡な男だった。特に何の印象も抱かない。少し見てから目を逸らすが、ふと、そいつの顔が思い出せなくなった。頭の中で顔がすぐに霧散してしまう。

 

 

「そうだ龍園さん、こいつですよ!椎名に接触していた男は!」

 

 

「……何?」

 

 

 石崎が興奮したように身を乗り出す。どうやら写真を見て顔を思い出したらしい。

 

 

「図書室で椎名とイチャイチャして……かと思ったら帰りで別のAクラスの女を部屋に連れ込みやがったんですよ!俺、コイツ許せません!!

 

 

「知らねえよテメェの許しは」

 

 

 だが、椎名と関与していたのは聞き捨てならねぇ。Cクラスの情報が抜かれている可能性がある。

 

 

「ちなみに、他のCクラスの面々を確認しましたが……Aクラスの生徒と交流のある人は他にいませんでした。それに、無兎浜氏はそれぞれBとDの中心人物である、一之瀬帆波氏と平田洋介氏とも交友関係を持っています。彼らは社交的な人物ではありますが……偶然でしょうか」

 

 

「十中八九、違うだろうな」

 

 

 俺は口角を吊り上げる。

 

 

「最近になって単独行動までしてるんだろ?坂柳の指示か独断かは不明だが、今こいつは確実に情報を集めている。中間テストの情報もだが……おそらくは俺の情報もだな。石崎、テメェが見たコイツの部屋に行く女の顔はわかるか?」

 

 

「それなら金田が……」

 

 

「はい、写真を撮っておきました」

 

 

 金田(コイツ)顔以外は使えるな。渡された写真を見る……なるほど、当たりらしい。

 

 

「ついでに金田、橋本が渡した情報だが……Aクラスは最初から『クラスポイント』の制度までわかっていたのか?」

 

 

「いえ、橋本氏曰く『プライベートポイント』の仕組みはわかっていましたが『クラスポイント』やクラス間の競争までは知らなかったそうです。ただ、坂柳氏が5月1日以前からクラスの掌握を考えていたことから、彼女は知っていたと思うとのことです。ついでに、無兎浜氏と葛城氏も含めた三名で二日目に担任教師へ質問を行っていたらしく、その二名も知っていた可能性が高いと……」

 

 

「…………くっくっく、なるほどな」

 

 

 そのタイミングで、意味わからん猫の機械が料理を運んで来やがった。俺の肉をアルベルトに取らせ、カトラリーも用意する。

 

 

 

 

「伊吹、テメェ頼みすぎなんだよ」

 

 

「はぁっ??いくら頼もうが私の勝手でしょ」

 

 

机のスペースが全然ねぇだろうがっ……まぁいい」

 

 

 俺は肉にナイフを突き立て、口の中へと放り込む。

 

 

「獣は見つかった。後はこっちの罠にじわじわと追い込めば俺の勝ちだ」

 

 

「……実行はいつの予定で?」

 

 

「奴が単独、または椎名といる時に接触する。だがまだだ……ソイツがある行動を取ってから動くが、テストの二日前までに行動しなければその段階で責めるぞ。それまではソイツと……鼠の観察だな。今後の指示と計画を伝える」

 

 

 無兎浜……テメェの特徴のないツラを覚えやすいよう、俺が痣だらけに(デコレーション)してやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

※視点:神室

 

 

 

 

 

 

 在、5月14日の木曜日。

 

 私は坂柳を寮へと送った後、無兎浜に呼び出されて監視カメラの見当たらない路地へと向かった。既に無兎浜は待機しているようだ。周りを警戒しながら、奥へと進む。

 

 

「……来てくれてありがとう、神室さん。尾行はされてない?」

 

 

「一応、人通りの多い場所を通ったりしてされにくくしたわ。言われた通りに周りをずっと警戒していたけど、つけられてはいないはずよ」

 

 

「よかった。俺の方は結構しつこく尾行されたから撒くのに苦労したよ」

 

 

「……最近、CクラスがBやDに嫌がらせをしていると聞いたけれど……貴方も巻き込まれているの?」

 

 

「ま、そんなところだね。向こうの狙いも多分わかるし、常に周りを警戒していれば直接危害を与えられることもないだろうけど……ずっとこうしている訳にもいかないからさ」

 

 

「何か対抗でもするつもり?」

 

 

「まぁね。神室さんにはその些細な協力をしてほしくてさ。()()()()()()()()()()

 

 

「……だからチャットでも履歴を残さないようにして、位置情報も切らせたのね。で、何をしてほしいの?」

 

 

「簡単なこと……でもないけど、神室さんにしか頼めないことだよ」

 

 

 無兎浜は笑顔を消失させると、酷く冷たい声で内容を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――窃盗してほしいんだ」

 

 

――――は?」

 

 

 まさかの要求に私は唖然とさせられた。これは確かに、私にしか頼めない内容だ。けれど……

 

 

「盗んでほしいものは2つなんだけど……」

 

 

「ちょ、ちょっと待って、アンタ本気で言ってるの?」

 

 

「冗談で言うと思う?」

 

 

「………アンタ、坂柳に言ってたわよね。卑怯な手は使うなって。これは卑怯な手に含まれないの?」

 

 

「……何言ってるの、神室さん。含まれるに決まってるでしょ

 

 

「………………なら、なんで」

 

 

 無兎浜は微笑みながら腰に手を置く。どういう感情なのか、全くわからなかった。

 

 

 

 

「卑怯な手っていうのはね…………手段の選べない『弱者』の手口なんだ」

 

 

「…………」

 

 

「勝っても負けてもリスクがある……だからこそ皆、使いたがらない。俺はね、絶対的な『強者』には『弱者』を傲岸不遜な正攻法で捻じ伏せて欲しいんだよ。太陽の如く圧倒的なその光の力で『弱者』を為すすべなく焼き殺してほしい。だからこそ、『強者』である有栖には『弱者』みたいな情けない手段を用いて欲しくないんだよね」

 

 

「……よく、わからないわ」

 

 

「まぁそれだけじゃないよ。彼女は卑怯な手のリスクである信用の消失をリスクと思ってない節があるみたいだ。でも、彼女の唯一の弱点は肉体じゃない。人間性だよ。人望をコントロールできるようになれば、彼女は完成すると言っても過言じゃないんだ。だから卑怯な手を用いる癖を無くしておかないと……才能が勿体ないだろ?

 

 

「…………貴方のこと、坂柳を止めるストッパーなのかと思ってた。だから、ある程度は話が通じるし平和的な解決を好む人だと考えていたのだけれど……違ったようね。ストッパーではあるけど、その実は坂柳と同じ部類の人間だったわ」

 

 

「ストッパーの役割はいつかやらなくなるのが理想だけどね……ちなみに平和的解決は好きだよ?」

 

 

「じゃあ、その邪悪な笑みは何?」

 

 

「……あれ、そんな顔してたかな…………まあいいや。で、やってくれるの?……って、先に何を盗んでほしいか伝えるべきだよね。まずは――――

 

 

 淡々とした口調で彼が語ったものを聞き、私は冷や汗が止まらなかった。別に、難易度が高いとかではない。片方はコンビニとそう変わらないし、もう片方は十中八九バレない。でも、それらを用いてすることなんて―――

 

 

「あ、アンタ……本当に何をするつもりなの??」

 

 

「安心してよ。神室さんが思ったような使い方はしない筈だから」

 

 

「はずって……」

 

 

「それに、想定してる使い道も『最後の手段』としてだし、恐らくは使わないと思うよ。ただ、詰みの状況になっても起死回生の一手は欲しくてさ。手段が選べないとこうなるわけ」

 

 

「…………本当に卑怯ね。でも、いいの?アンタも犯罪に加担するようなものだけど」

 

 

「良いよ別に、俺は神室さんが思ってたような優しい人じゃないし、既に清廉潔白な身でもないからね」

 

 

 太陽は建物に阻まれているから、この空間は影で包まれている。でも、そう言った無兎浜の周りと顔に覆いかぶさる影の色は、いつもよりどす黒く滲んで見えた。

 

 

 

 負の感情が染み出たかのように闇が濃く渦巻いている。彼は微笑んでいるというより、嗤っていた。

 




あとがき

 四話で自我を慎むと言ったそばから自我を出しますが……フォント見づらいですよね!!ごめんなさい!フォント変えるの楽しくなっちゃって、調子乗りました……。

 今から全部修正しようか迷ったのですが……こっちはこのまま突っ走ります。どこかでストーリー的な理由を使ってフォント問題を緩和したいとは考えています。

 代わりにはなってしまうのですが、特殊タグ(見づらいフォント)無しバージョンも作りました。こちらも少し遅れていますが順次更新していきます。

 ↓このリンクがタグ無しです。
https://syosetu.org/novel/421276/

折角見てくださったのにフォントでがっかりさせてしまい、申し訳ございませんでした。

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