目覚めは岩山の街で
はじめまして、やろうか。ウチは
ウチはな、転生してもうたみたいなんや。冗談やない、ゲームのやりすぎでおかしくなったんでもない。仕事が終わって、大好きな妹と電話して、明日の休みは何をしようかなぁって思いながら寝たら、その身一つで転生した。 …意味がわからんやろ?
「おーい、アカネさーん!」
ウチを呼んどる声がする。転生した先のよくわからん世界で、ウチのことを拾ってくれた、フィリス・ミストルートって女の子の声や。あの時のことは、今でも覚えとる。 …数日前のことやから、忘れるわけあらへんな。
「アカネさん、ここが好きだね」
「せやなぁ、なんや懐かしくてな」
ウチがこの世界で目を覚ましたんは、フィリスの家やった。聞いた話によると、フィリスが散歩中に倒れてるウチを拾ってくれたそうや。ウチは今いる、“光差す場所”で仰向けで倒れてたらしい。光差す場所っていうのは、そのまんまの意味やな。この町で、唯一光が差す場所や。
「わたしもここ、大好きなんだ」
ウチらがおるこの町は、“エルトナ”っていうらしい。鉱石の採掘が有名な町で、町自体が岩山の中にあるんや。そんな町やから、殆どの場所は光が差さん。光が差すのは、ここだけ。ずっと光差す世界で生きてきたウチにとっては、何とも不思議な町や。
でも、エルトナにはもっと不思議なことがある。それは…
「ねぇねぇ、またお外のお話、聞かせて?」
「ええよ、ウチが知っとることなら何でも話したる」
フィリスは、エルトナの外を知らない。フィリスはまだ幼い、無邪気な女の子なんやけど… 普通、そんな子供は勝手に村の外に出たり、子供達だけで冒険して怒られるもんやろ? でも、エルトナでそんな経験はできへん。なぜなら…
エルトナは外の世界と、大きな
だからフィリスは、ウチに毎日、外の話を聞きに来る。ウチもやることがなくて暇やから、フィリスに外の話… 厳密にいうと、転生する前の世界の話をしとる。この町の世界がウチの知っとる世界じゃないのはわかっとるけど、同じようなもんやと思っとる。エルトナの感じからして中世な感じがするから、それらしく話は変えながら、な。
「それじゃあ、急いでお仕事してくるね!」
フィリスは幼いんやけど、普通に仕事をしとる。鉱石拾いっていう、少し不思議な仕事をな。フィリスには、鉱石の声が聞こえるらしいんや。その声を頼りに鉱石を見つけて、拾ってくる。それがフィリスの仕事。 …暇やし、ウチもついて行くわ。
「フィリス、ウチも行く」
「そーれーなーらー、競争だー!」
「それは、無茶やろ…!」
ウチはまだ、この町の構造もよく知らんのに… 岩山の町やから、自然の町って感じで道も整備されとらんしジグザグと曲がりくねっとるんや。ひとまず、フィリスを追いかけて行こう。
「お疲れ様」
「えへへ、ありがとう。お疲れ様って言われるほど、疲れることしてないけどね♪」
フィリスの仕事も終わって、2人で家に帰っとる。フィリスの家は、エルトナの… 北側? にあるんや。地図で上に描いとったから、きっと北や。そこに、2人で向かっとる。フィリスの仕事場が南側やから、相当な距離や… 毎日歩いとったら、ウチの脚が鍛えられそうなくらいにはな。
「………」
「…フィリス?」
「ん、あぁ、ごめんね」
「扉、見とったんか」
「…うん。開かないかなぁって」
「…微動だにしとらんな」
「…うん」
フィリスは、外の世界に強い憧れを抱いとる。だから、毎日扉を見つめて開かないか祈ったり、光差す場所で太陽の光を感じとる。お陰様で、ウチは助けられたんやけど… 話だけを聞いていると、フィリスが可哀想に思えてしまう。
だって、生まれてこの方、ずっと岩山暮らしなんやで? 外の日差し、流れる風、並ぶ木々、繁茂する草、駆ける獣、そんな自然に接したことがない。本人が望んどるんやから、少しくらい扉の外に行かせてやりたいんやけど… 生憎、ウチに扉は開けられん。偉い人なら開け方も知っとるんやろうけど、フィリスの反応からして… 開けてもらえんかったんやろうな。
ウチは、この町にとって完全な部外者や。頼み込めば、扉の外に出してもらえるかもしれん。 …でも、そんなことはせん。だって、ウチが出てもフィリスは出れんやろ? フィリスは、ウチの外の世界の話を楽しんでくれとる。それに、フィリスは恩人や。そんな恩人のことをほったらかして、1人で外には行けんやろ。 …あと、ウチも外のことはよく知らん。魔物もおるらしいし、1人で外に出たらどんな目にあうか分からへん。 …フィリスのことを抜きにしても、ウチはこの町を出れんのや。
「…フィリス、帰ろう」
「うん…」
ウチらは、2人で帰路についた。町の中心の広場を通り、宿屋の前を通過して、フィリスの家。ウチは今、フィリスの家に泊めてもらっとる。 …泊めてもらっとるといっても、眠ったりはしとらん。なぜだかわからんが、ウチは眠くならないんや。ご飯も、食わんでも生きていける。フィリスのご両親がご厚意で作ってくださるんで、美味しくいただいとるが… 美味しいとは感じるけど、お腹が満たされる感じはない。そして、トイレに行くこともない。 …ウチが食ったもんは、どこに行くんやろうか。
あれから、更に数日が経った。今は3月の頭、月曜日… 厳密にいうと月曜やなくて、なんか種子の日やら果実の日やら、そんな名前があるんやけど… 覚えられんくて、月曜火曜水曜、土曜日曜って頭の中で考えとる。 …この世界、1週間が5日で休みが2日なんや。それで月は一律で30日。わかりやすくてええよな。不当に短い可哀想な2月は救われたんや。
「………」
「アカネさーん、何してるの〜?」
「ん、フィリスか。暇やから、扉の前を掃除しとったんや」
「おー、でもすぐ石まみれになっちゃうよ?」
「そうやけど… いつ扉が開くかわからへんし、開いたときのために毎日掃除しとかんとな」
「それなら、わたしもやる!」
「フィリスはこれから石拾いやろ、その後な」
「はーい!」
さ、掃除頑張ろ… 掃けども掃けども小石が転がってくるけど、ちょっとは意味があると信じて…
「行くよ!」
「行けるで!」
「「せーのっ!」」
「っー!」
「いっつつ… 開かへんなぁ…」
帰ってきたフィリスと、2人で扉にタックルしたんや。せやけど、扉はびくともせん。せやからおとなしく諦めて、2人でまた今日も帰路につく… ところやった。扉に背を向けて歩き出した途端、ガーって聞いたこともない、重い何かが動く音がしたんや。思わず、ウチらは振り返った。
「久し振りのエルトナね…」
「…! お姉ちゃん!」
フィリスのお姉さん? が、扉の向こうから… この扉、ウチらが押しても動かへんのに、こんなに華奢なお姉さんが出入りしとるんか… よほど力持ちなんか、開け方があるんか、やな。
…フィリス、お姉さんがおったんか。ええなぁ、しかも仲良さそうや。姉妹の仲は大切や、ウチも双子の妹がいるからよくわかる。でも、お姉さんが外に出てるんなら… フィリスのことを連れて行ってはくれんのかな?
「あら、フィリスちゃん! 迎えに来てくれたの?」
「ちょうど見に来てたの、おかえり、リア
「ありがとう、フィリスちゃん! ……」
「…? どうかしたの?」
「いえ… いつもみたいに、お外の話をして〜って来ると思ってたから…」
「お外の話はたくさん聞きたいけど… 今はアカネさんも話してくれるから♪」
「あっ、どうも、茜です」
「どうも… フィリスの姉の、リアーネと言います」
リアーネさん… 髪、綺麗な青やな。フィリスは灰色と黄緑の中間って感じやんに、全然違う色なんやな… フィリスに限らず、エルトナの人はみんな灰色っぽかったから、ちょっと驚きや。でも、姉妹で色が違うなんて普通やもんな。ウチは赤いけど、妹は青やもん。
「アカネさん… は、外からいらしたんですか?」
「それが、気がついたらエルトナにいて… どうやってここまで来たのか、何も思い出せないんです」
「アカネさん、光差す場所に倒れてたんだよ」
「そうなんですか…」
…ちょっと不審がられてそうやな。無理もないことやけど… 嘘はついとらんし、信じてもらうしかない。
「とりあえず、帰りながら話しましょう、フィリスちゃん」
「うん! 帰ったらお外の話、たくさん聞かせてね」
「ウチはちょっと南の方に行ってますね」
「また後でね!」「また後で…」
今は家族水入らずで話したいやろうし、ウチは光差す場所で水面でも眺めてようかな… あそこの水面、綺麗なんや。天井の隙間から差す光と鉱石の光で幻想的でなぁ… 夜の方が好きやけど、昼間も良い景色や。
さっ、のんびりしよ〜。
…のんびりしすぎた。奥の採掘場に遊びに行って借りたピッケルで掘ってみたり、灰色のプニプニした魔物を観察したり、魔物に帰路を塞がれて帰れなくなっていたら日付が変わってしもた… また後でって2人に言ってたんに、心配かけてもうたやろか…
「…お外、行きたいなぁ」
フィリスの声… おった、光差す場所で青空を眺めてるんやな。寂しそう… やっぱ、外出たいんやな。よしっ、ウチが慰めに…
「アカネさん、私が行きます」
「あ… わかった」
リアーネさんがおるなら、リアーネさんに任せよう。ウチよりもフィリスのことはわかっとるはずやし、ウチは余計なことせんで去るか… でも、フィリスは心配やし… 扉でも見に行くか。もしかしたら、開いとるかもしれん。そしたらフィリスも喜ぶやろうし…
「…まぁ、閉まっとるわな」
せっかく来たし、今日も1タックルしていこ…
「はぁ… 勢いでここまで来ちゃったけど… 何やってるんだろ、わたし… ここに来たって、お外に出れるわけじゃないのに」
「おぉ、フィリス! 2人で押してみるか?」
「アカネさん… いや、いいです。押してもあかないですし…」
…意気消沈って感じやな。何とか元気になってほしいんやけど、外の世界に出れんことには解決せんよな… ウチにできるのは、少しの間だけでも嫌な気を晴らしてやることだけ、か。
「すいませーん! 誰かいませんかー?」
扉の向こうから、声…? 聞いたことない声や、町の外の人と話したことないから当然なんやけどさ。でも、フィリスには良いかもしれん。はじめましての人と外の話をしたら、ちょっとは…
「帰ろ…」
「まっ、待てフィリス!」
「…?」
「耳、澄まして」
「誰もいないみたいだよ?」
「そのようですね。 …待ちなさい。どうして爆弾を取り出しているのですか」
「え? 誰もいないなら、爆破しちゃえばいいかなーって」
扉のせいでよく聞こえへん…! なんや、なんて言っとるんや…?
「確かに、何か聞こえる…」
「あのー! 今からこの扉、爆破するのでー! もし誰かいたら、気をつけてくださいねー!」
「えっ!?」「爆破!?」
扉を爆破…!? っ、ひとまずフィリスを守らな!
「フィリス!」
「あっ、アカネさん!」
フィリスに覆いかぶさった直後、後ろからドーンって大きな音が聞こえた。多分、扉が爆発した音や。土煙で何も見えん… 破片は飛んでこんかったけど、一体誰がこんな乱暴なことを…!
「ふぅ、成功成功!」
「…ソフィー。あまりにも無計画すぎませんか? もし誰かに怪我でもさせていたら…」
「大丈夫大丈夫、人がいないことは確認したし…」
「と、ととと、扉が…!」「吹き飛んでもうた…」
「って、人ぉぉっ!? 大丈夫!? 怪我はない!?」
土煙の向こうから出てきたんは、赤いローブをまとって赤い杖を手にした、赤髪の真っ赤な女性と… 不思議な白い服を着た白い髪の女性やった。 …扉を爆破するなんて悪いやつかと思ったんやけど、そっちの雰囲気はあらへんな…
…でも、どうやって爆破したんやろう。この世界は、平気でみんなが爆弾を持ち歩く世界なんやろうか。凄く… 物騒な世界やな。
せやけど… なんだかこの2人は、色んなことを変えてくれそうな気がする。扉を爆破してきたんや、フィリスの未来の為の障壁も、爆破してもらわなあかんやろ? …ウチの未来も、切り開かないあかんけど。
やることメモ
→0.エルトナ
→1.来訪者
エルトナにようこそ、アカネさん!
これからよろしくな、フィリス。