ディオンさんの推薦状を手に入れたで!
「あれは、無理… だよね…?」
「そうね」「無理や」「そうだな」
「…よしっ、周りの素材だけ採って、逃げよう!」
「わかった、散り散りになって採取して、やつに睨まれたらそれぞれ逃げるんやで!」
今ウチらがおるんはメッヘンの北東にある果樹園から、更に北東に進んだ、川を超えた先にある“牙獣のすみか”って場所や。その名の通り、ここを根城にしとる牙獣がおってな… レヴィさんによると、キメラビーストって名前らしい。まぁ、絶対に勝てん相手やな!
「せーので行くよ、せーのっ!」
「私は右から行くわ」「俺はこっちから行く!」
「ウチは右… これはウチが狙われてるみたいやなぁ!」
白い体が、牙が、うちに迫ってきとる… まともに戦って勝てないんはわかっとる、せやけど背中見せて逃げたらみんなが採取する時間を稼げん。やから、ちょいとは戦うで! 大丈夫、今のウチには光っとる細剣が付いとるんや。光る剣の力で、少しは時間を稼いでみせる!
「よっ、はっ… あっ、ぐぅっ!」
「アカネさん!」
「だ、大丈夫、軽症や… せやけど、これ以上は耐えれんなぁ! 逃げるわ!」
剣を持ったままやと逃げづらいし、鞘に戻して… 全力で逃げる! キメラビーストは… ウチを追ってきたな! こっから更に北に行ったら、確か袋小路やったはず。せやから、逃げるなら西側の橋を渡った先や! 引っかかれた腕がちょいと痛むが、そんなの気にしていられん!
「…っ、まだ来るか」
「ぎゃおおおぉん!」
どこまで追われようと、ウチには逃げる以外の選択肢はないんや! ここで踵を返して立ち向かったらかっこええんやけど、そんなことしたらホンマに死にかねん。腕も痛くてちゃんと剣を握れるかもわから……ん? …あんまり痛くないな。思ったよりは傷が浅かったんか?
まぁ、そうやとしても、逃げるしかないんやけどな!
「アカネさーん!」
「フィリス! な、何とか逃げ切ったで」
川を渡って南に走り続けとったら、果樹園の東の辺りまで来たところで諦めてくれたみたいで逃げ切れたわ… ひたすら逃げとったんやけど、マラソンを走らされとる気分やったわ。ほんで、休んでからフィリス達に会うために川を北上しとったら再会できた。 …疲れたぁ。
「すぐに手当てしますね、傷口を…」
「右腕や、ここを…」
「…本当にそこか? 傷が… 殆ど無いように見えるが」
「ここのはずや、はずなんやけど… 」
…おかしい。逃げながら見たときも、浅いとは思ったけど傷はあった。はずなんに、今はもう傷が殆ど治っとる。フィリスの薬を塗ったら確かにすぐに治るけど、ウチは薬を持ち歩いとらん。 …ウチ、怪我が治りやすい体質なんかなぁ? う〜ん…?
「服には血がついてますから、ここであってると思いますけど…」
「…? 不思議だね?」
「そうやな… 魔法でもかけられたんやろうか」
「もしも魔法なら、その光ってる剣の魔法だろうな」
「…たしかに? 剣に宿った錬金術パワーで何か起こって傷が治る、みたいなこともありえそうやな」
「そうかも…?」
…まぁ、わからないことを悩んだってしゃーないな。傷は治ったわけやし、それでええやろ。プラフタ先生に会えた時に確認することメモに書いといて、これでええな。
「まっ、傷も治ったみたいやし、冒険を続けるか?」
「ん〜… ちょっと不安だし、今日はもうやめて調合しようかな」
「それなら、1度メッヘンに戻ろう。北のたき火に戻るよりは近いはずだ」
「そうだね、明日はそこから南側へ!」
2日ぶりのメッヘンか… 思ったよりも早い帰還になったな。まぁ、丘陵を散策しとっただけで、ドナやライゼンベルグに向かって進んでたわけやないから、後ろに戻ったわけやあらへん。何なら、メッヘンの方がドナにもライゼンベルグにも近いわ。
でも、散策も大切やからな。各地を歩くことでフィリスも色々感じて、レシピを閃くかもしれんし、新しい素材にも出会える。今回やって、“アブラ木の実”と“何かのたまご”を手に入れたんやから。その名の通り、アブラが凄い木の実と、何かのたまごやで。 …何のたまごなんかはわからん、キメラビーストのたまごかもしれん。無精卵やとええな…
「よしっ、できたー!」
「今度は何を作ったんや?」
「ふふん、プニゼリー!」
その日の夜のうちにメッヘンまで戻ってきて、翌日の朝方にフィリスが面白いゼリーを見せてくれたわ。見た目が青プニそっくりで、可愛くコンセントみたいな形の目も付いとるゼリーなんや。 …どんな味なんやろ、普通の甘いゼリーなんかな。
…ほんでフィリス、夜から調合しとるから寝てへんやろ。直ってきてた生活リズムがまた崩れ落ちていく…
「まぁ…! 可愛らしいゼリーね、フィリスちゃんみたい」
「怪我を治してくれるはずだから、戦闘中に食べようね♪」
「普通のゼリーに見えるんに、錬金術で作るとそんな力があるんやなぁ。食いたなってきたけど、その時まで我慢せんとな…」
「そういうと思って、普通のゼリーを作っておいた。食べるか?」
「気が利くなぁ、もらうわ」
「…わたしはちょっと寝るね、少ししたら起こして…」
「わかったわ、ゆっくり休んでね」
レヴィさんのゼリーはちゃんと美味しいわ、柔らかくて噛むと口の中に弾けて広がって、果物の甘さで口が満たされていく、そんなゼリーや。美味い、それ以外の言葉で形容できん。
「…旅立ちは今晩になるのか?」
「たぶんそうなると思います」
「それなら、俺も少し休む。そこのソファーで寝させてもらうな」
「そうですね… 私も今のうちに休んどきます。アカネさん、何かあったら起こしてください」
「はいよ、ゆっくり休んどきー」
みんな寝てもうたし、ここを離れるわけにはいかんな… 剣の汚れでも掃除しとくか。
…燃えんなよ、絶対に。
「よーしっ、しゅっぱーつ!」
「おー!」「おー♪」
「…おー」
今度の行き先は丘陵の南側、メッヘンを縦に貫いとる川の西沿いを下っていく感じやな。行商人さんによると、ドナに行くには東に進んでから南に行くらしいけど、北東の牙獣のすみかの側には道はなかったからな… たぶん、南東の側に東に抜けられる道があるはずや。
「そーざっい、あっつめって、ふんふふんふふ〜ん」
「呑気やなぁ、ウチらはプニと戦っとるんに」
「ふえっ!? ご、ごめんっ、気づかなかった!」
「大丈夫だ、この程度の相手に後れは取らんさ」
「でも、ちゃんと周りを見てね?」
「うん、気をつける」
最初は青プニにも真面目に気をつけながら戦っとったけど、もうタイマンでも負ける気はせんな。それくらい、ウチらも戦いの中で成長しとるってわけや。 …まぁ、リアーネさんとレヴィさんは最初から強かった気もするけどな。
「それにしても、アカネは炎と氷を操れるようになったのか?」
「完璧やないけど、ある程度は意識的に使えるようになったで。 …ちょいと疲れるけどな」
これがこの細剣の力なんか、ウチの才能なんかはわからんけど、剣から飛び出す炎と氷を意図的に出せるようになってきたんや。意識を集中して、その… ウチの体に流れとるエネルギーを使うような感覚で、何か使えるようになってきた。まぁ、そうやっても毎回出るわけやないし、そうしてなくても出るときはあるんやけどな。昔やっとったゲームチックに言うなら… “MPを消費して武器の追加効果を出しやすくする”みたいな感じやろうか。感覚的なもんやし、よーわからんけど!
「よしっ、進も〜!」
「ていっ、やあっ!」
「おらぁ! …はぁ、はぁ」
「アカネ、俺が代わる」
「頼んだで…」
南下して行って、日が昇る頃に“岩トンネル”に辿り着いたところや。短いトンネルなんやけど、中が岩で埋もれてるからみんなで採掘しとるんやけど、これが骨の折れる… フィリスのフラムで多少は壊せたんやけど、切れてもうてな。アトリエの補充に行くんは遠いから、ツルハシでやるしかないんや!
「アカネさん、私も掘ってくるので、見張りお願いします」
「わかった、後ろは任せろや」
トンネルの向こうには広い野原が見えるし、木々も見える気がするんや。たぶん、この先がウチらの行かなあかん道。せやから、何としてもこの道を切り拓かんと。 …ただ、イルメリアも同じ場所を目指して先を行っとるはずなんよな。あの娘がこの道を通ったはずならこんなに岩はないやろうし、他の道もあるんやろうか…?
「よしっ、開通!」
「お疲れ様や、ちょいと休んでから進むか?」
「奥が気になるから、後ちょっと進んでも大丈夫?」
「もちろんよ」「大丈夫だ」「ええよ」
「それじゃあ、ごー!」
日も沈んで夜になってきたところで、ようやっと開通や。疲れた… フィリスは元気やな、一心不乱にツルハシを振っとったんに誰よりも元気や。正直、ウチは休みたいけど… 近場にたき火もないし、進まなあかん。
「ねぇねぇ、あっちが林だよね!」
「そうよ、あの先が“旅人の雑木林”ね。たっくさん木が生えてるのよ」
「じゃあ、あっちに行こー!」
そうしてウチらは、ファーヴェ丘陵を抜けて旅人の雑木林に向かった。まだ丘陵を探索しきったわけやあらへんけど、そんなのは公認錬金術士になってからでもええからな。いざ、雑木林へ!
やることメモ
0.エルトナ
→1.エルトナ周辺
1.乾いた平野帯
→2.ファーヴェ丘陵
1.超一流の非公認
2.メッヘンにて
→3.丘陵探訪
旅人の雑木林、木がたくさん生えとるやろうな
どんな場所なのか、楽しみだね!