エルトナの外と繋がる扉が爆破されてもうた!
「大丈夫!? 怪我はない!?」
「わたしは平気ですけど…」
「ウチも大丈夫、せやけど扉が…」
「扉? あ、あぁっ…」
「…ソフィー?」
扉は、完全に壊れてもうた。どんな爆弾で爆破したんかはわからんけど、とんでもない火力やったんやろうな。近くに破片も転がっとるし、扉に大穴があいとる。なんてことをしてくれたんや…
「大丈夫! こんなこともあろうかと… ほら、あった! これを使えば…!」
ソフィーって呼ばれてる女性が扉に向かって行って、手を掲げて… キラキラって凄い光ったと思ったら…
「「えっ…」」
扉が、直った…? …まぁ、そんなこともあるか。昔のウチやったら夢でも見てるんじゃないかって頬をつねっとったけど、今は不思議やあらへん。だってウチ、転生してきたんやし。粉々の扉が直る魔法があっても、おかしくはないな…
「あのっ! あなたたちは、一体…」
「あたしはソフィーって言うの。こっちは…」
「プラフタと申します。以後、お見知りおきを」
赤い魔法使いさんがソフィーさんで、白い不思議な人がプラフタさん… 何度見ても凄い服やな。金色の髪飾りを両側に着けとったり、服が脇のところあいとったり… ほんのりと親近感わくなぁ。ウチもなぜか、転生したらそんな感じの変な服やったんよ。今はエルトナの普通な服をフィリスのお母さんに借りとるけど、洗ってもらっとるし明日はそれを着ようかな。転生した時に来てたわけやし、ウチの正装なんかもしれんしな。黒い肩だしのワンピースと赤い髪飾り。
「それで… あなたたちの名前は?」
「わたし、フィリスって言います」
「ウチは茜です、お見知りおきを」
「フィリスちゃんとアカネさん、だね。よろしく!」
「はい。それで… あの。ソフィーさんは、何をしてる人なんですか?」
「あたし? 錬金術士だよ」
錬金術士… ってことは、錬金術を使うってことよな。錬金術かぁ… 夢みたいな力、ってイメージしかあらへん。あれやろ、そこら辺の石を金に変換しちゃうんやろ? …流石にそこまでの錬金術があったら経済壊れてまうか。
「れんきん… じゅつし?」
フィリスは知らんのか… それなら、そこまで有名な仕事やないんかな。それか、エルトナで知られてないだけか。多分エルトナに錬金術士はおらんし、エルトナしか知らんフィリスは知らんでもおかしない。 …ウチも、今の今まで知らんかったわけやし。元の世界の記憶があるから、単語として認識できるだけマシやけど。
「うん。錬金術士って言うのは錬金術を使う人で、錬金術っていうのは…」
「……?」
「待ちなさい、ソフィー。 …フィリスが混乱しています」
まぁ、錬金術の概念を知らんと理解できんよな… ウチも殆ど理解しとらん。
「あぅ、えっと、すいません。いろいろ急すぎて…」
「あ… ごめん。うーん… 説明するより見せた方が早いかな… このあたりに、テントを張れそうな場所ってあるかな?」
「テントですか…? うちの近くの空き地なら、多分」
「本当!? 悪いんだけど、そこまで案内してもらえるかな」
「あ、はい。構いませんよ」
家の前のこと、やろうか。確かに、テントは張れそうやけど… 錬金術ってテントでするん? ウチが思っとる山みたいな形の布地のテントではないんやろうけど、にしても持ち運びの住居でできるイメージは欠片も…
「すみません、それではよろしくお願いします……」
「…プラフタ? どうかした?」
「いえ… 何でもありません」
錬金術、気になるな… 魔法とはちょっと違うけど、魔法よりも無限の可能性がありそうやん。それに、ウチは魔法で戦ったりするキャラより、錬金術みたいに物作るほうが性に合っとる。 …錬金術って物作るんよな? 多分、扉壊した爆弾とかも錬金術の代物やろうし。 …錬金術って爆弾作れるん?
それからウチらは、4人でエルトナのことやフィリスの仕事のことを話しながらフィリスの家に向かった。これから何が起こるんだろうってワクワク感と、ちょっとばかしの不安を胸に抱きながら。
「え…! わたし、テントに入ったよね!?」
「えっ、えっ!? どうなっとるんや…!」
ソフィーさんのテントの中は、摩訶不思議な空間やった。人が3人入ることも苦しそうなほどちっちゃいテントに見えたんに、中にはいったらおっきな空間が広がっとったん! もしかして、これが錬金術…? 空間を歪めとるんか…?
「改めまして、ようこそ、あたしたちのアトリエへ!」
「アト… リエ…?」「アトリエ…」
「はい。錬金術士の仕事場のことです」
画家のアトリエとかと、同じ感じよな。 …錬金術士って芸術家なんか? いや、そんなことあらへんよな… でも、1つの物を別の何かに変える行為は、芸術を創ることと同じと見ることもできるのかもしれん。彫刻だって、石を
ウチがちょっと考えとったら、ソフィーさんが錬金術を試しに見せると言ってアトリエにある大釜に向かって歩いていった。錬金術は大釜を使うんやな… そこはイメージ通りな気がする。で、大釜に色々いれるんやろ?
「えっと、材料は… これと、これ」
やっぱり。今、何入れたんやろ? 手際が良すぎて殆ど見えんかった… 見やすいように、ウチも近づこう。フィリスなんて、ソフィーさんのすぐ後ろまで行っとるもん。「ばあっ!」って叫んだら脅かせるんちゃうか?
「釜の温度に気をつけながら、ゆっくり丁寧にかき混ぜれば…」
…どうやって釜を温めてるんや。釜の下、すぐテントの床よな… そもそもテントの中で火を使うとは思えんし、思いたないし、何か別の手段があるんやろうか。一体、どんな技術が…
「はいっ! 道具のでっきあっがりー!」
「えっ… 今、何が…」
「ふふっ。これが錬金術だよ!」
「ある物を元に、まったく別の物を作り出す。私たちの錬金術は、そのような力なのです」
一瞬で、道具ができてもうた… 上に持ち手がついて中に火が灯っとるランプ、カンテラっていうんやっけ。電気が普及してる時代には見えんし、カンテラが現役で使われとる世界よな。そうなら、きっと灯りとしては大切な物よな… それを量産できるなら、錬金術って稼げそう… やなかった、便利そうやな。
でも… ソフィーさん、爆弾持っとるんよな。このカンテラも、実は爆弾だったりして… なんてな。流石に錬金術の紹介で危険なものは作らんやろ… 作らんよな?
「錬金術のおかげで、色んな物が作れるんだ。このテントも、さっき扉を直したのもそう。ふふっ、どうかな? わかってもらえた?」
扉を壊したり、扉を直したり、空間を歪めてみたり… 錬金術、凄い力やな。ある種、禁忌とされそうな力やけど… ソフィーさんみたいに、正しく使う分には世界を救えそうな力や。 …ソフィーさんが正しく使っとるのかはわからんけど、人に教えるくらいやから正しく使っとるんやろ。
「錬金術って、本当にすごい!」
「でしょー?」
「ソフィーさん、もう一回! もう一回見せてください!」
「随分とお気に召したようですね」「気に入ったんやな」
ここまで元気に目を光らせて興奮したフィリス、初めてみたかもしれん。外の話を聞いとるときも、どこか寂しそうやったし… 錬金術、よほど気に入ったんやな。
…そういうウチも、錬金術に興味出てきた。まだ原理が全く理解できとらんけど、夢のような力や。もしも自分がこの力を使えたら何をしようか… なんてことを妄想しても、バチは当たらんやろ。
「そうだね… うーん、そんなに気に入ったなら、提案なんだけど… フィリスちゃん、錬金術… やってみない?」
「わっ、わたしが、ですか?」
「そう。たぶん、フィリスちゃんには錬金術の才能があると思うんだ。それにきっと… 見てるより、自分でやったほうが楽しいしね♪」
錬金術の才能… 何か、そう感じる部分があったんやろうか。才能、か… この感じ、ウチには才能がないんやろうな。悲しいなぁ… でも、ウチだけ才能があるよりは、フィリスだけ才能がある方が良いよな。これでフィリスが笑顔になればええなぁ…
「えぇ、そうです。遠慮などはいりませんよ」
「はい! それなら、やってみたいです!」
「うん! 決まりだね! フィリスちゃん。やり方を教えるから、こっちまで来てくれるかな?」
「わかりました!」
フィリスが錬金術、か… まだ出会って十数日しか経っとらんけど、自分のことのように嬉しくなってまう。元々妹がおったからかな、フィリスには幸せになってほしいと強く思うんや。 …葵、元気にしとるかな。元気やといいけど…
…フィリスの錬金術、ちょっと離れて見守ろう。ソフィーさんが教えてくれてるんや、きっと上手くいくやろ。錬金術って難しそうやけど… フィリスならなんとかなる、そう信じて見守ろう。
「できた!」
「すごいよフィリスちゃん! 初めてで上手くいくなんて!」
おぉ… 結構時間がかかったけど、上手くいったんやな。見たところ、医薬品やろうか… 凄いなぁ、本当に才能があったんや。エルトナ初の錬金術士の誕生やな。きっとみんな驚くで。
…そうや、リアーネさんに伝えに行こう。あの人、見るからにフィリスのことが大好きやし、きっとフィリスに錬金術の才能があるって知ったら喜ぶやろ。それに、はしゃいどるフィリスのことを見せてやりたい。
「フィリス、リアーネさん呼んでくるわ!」
そう言って、ウチはアトリエを飛び出した。飛び出して、すぐ立ち止まる。だって、フィリスの家はすぐ目の前なんやもん。走って行くより、息を整えて歩いていくほうがええ。なぁ?
「リアーネさん、おるか?」
「あぁ、アカネさん…」
「…えらく残念そうな顔をするやん」
「ごめんなさい、フィリスちゃんが帰ってきたのかと思って…」
…思わず駆け出してきたけど、本当に話していいんやろうか。こういうことは、フィリスから報告した方が喜んでもらえるかもしれん。 …よし、やっぱ言うのはやめよう。でも、理由なく1人で帰ってくるのも不審やんな… リアーネさんって声かけてもうたし、ご両親もおられるし… 適当な話をしよう。
「フィリスやけど、元気にしとるで。何や、楽しそうに」
「へぇ… 今、どこに?」
その時、大きな鐘の音が響いた。日の差さないエルトナで、夜を知らせる鐘の音や。この音が鳴ったら、みんな家に帰る。フィリスもそうや。
「すぐ近くにおるんで、すぐ帰ってきますよ」
「ただいまー!」
「ほら、帰ってきた」
その後フィリスは嬉しそうに声を躍らせて楽しげに、晩御飯を食べて部屋に帰っていった。錬金術のことは、家族には秘密にしとったよ。 …言ったら喜んでくれると思うんやけどな。フィリスのお母さん、ちょっと過保護なところがあるし、心配かけたないんかな…
…見ていただけやけど、錬金術って何をするにも材料がいるんよな。フィリス、これからも錬金術を沢山やるんやろうし… よしっ、寝とる間にウチがちょっとばかし集めてこよう。 …どんな材料がいいかわからんし、沢山集めて明日ソフィーさんに見せてみようっと。
翌朝、キノコとキノコと石とキノコを手に帰ってきたら、ソフィーさんがアトリエの前で爆弾とかツルハシを売っとった。テレビショッピングみたいに、うまーく売っとったよ。錬金術士は物を作るプロなんやろうけど、それを売らなあかんもんな…
でも… あの自動ツルハシ、ちょっとウチも欲しい。岩を壊すの、本当に大変やからな… 自動で掘ってくれるツルハシ、とても欲しい。
っと、フィリスがアトリエに入っていったな。多分、ソフィーさんに錬金術を教わりに行ったんやろ。ウチも、追いかけ… あっ、あそこのキノコだけ拾ってから追いかけることにしよう。
「おはようさん、アカネさんやで」
「弟子かぁ。あっ、おはよう、アカネさん。フィリスちゃん、あたしは構わないんだけど… フィリスちゃんは、わたしなんかが先生でいいの?」
「はい! もう、ぜんぜん! むしろ望むところです!」
ほぉ、フィリスはソフィーさんに弟子入りするんか。確かに、錬金術を学ぶならソフィーさんに弟子入りするんが1番シンプルで近道か。ソフィーさんなら腕は間違いなさそうやし、フィリス的にも歳が近くて話しやすそうやし。 …歳、近いよな? 20くらい… よな?
「よいのではないですか? 本人もこう言ってますし…」
「…う〜ん、じゃあ1つだけ。教える前に、ご両親の許可を取ってくること。錬金術って、失敗すると危ないからさ」
「…ふむ、そうですね。爆発して怪我する恐れもありますし、それがよいかと」
「えぇ… お父さんとお母さんの許可…」
「言いにくいんだったら、あたしも行くよ。せっかくだから、挨拶しておきたいし」
「本当ですか? わーっ、お願いしようかな」
「うん! それじゃあ、行こう!」
ご両親の許可、か。フィリスのことを思っとる両親な気がするし、多分オーケーって言ってくれるやろ。2人が帰ってくるまで、ウチは… このキノコ達、どうしよか。釜に突っ込むわけにもいかんけど、どこに仕舞えばいいんやろ…
「あの、フィリスの錬金術用にと集めてきたんですけど、どうしたええですかね?」
「…右手の小指と薬指で挟んでいるキノコと左手の鉱石は使えそうですが、残りは錬金術には使えなさそうですよ」
「質が悪いとか、そんな感じなんです?」
「まぁ、そんな物です。残りは料理にでもしてください」
「使えるやつは、どこに置いておけば?」
「…そのコンテナをフィリス用にしますので、コンテナに放り込んでおいてください」
コンテナ… この箱か。 …見た目は小さい箱に見えるんやけど、中は凄く広く見えるな。テントがアトリエだったみたいに、このコンテナも空間が歪んどるんやろうか… 入ったら出てこれなくなりそうやし、言われた通りに放り込んだろ。どうやって取り出すんかわからんけど、何とかなるんやろ…
「………」
「…? プラフタさん、ずっと見られとると緊張しちゃうんやけど…」
「いえ… アカネは、いつ眠ったのかなと」
「眠っとりませんよ、眠くもなりませんので」
「…食事は?」
「食事もとっとりません、なくとも問題ないので」
「…出会った時から、かすかに思っていたのですが… アカネは人間ではないのですね」
ウチが、人間やない…? …いや、何となく思っとったけど、やっぱりそうなんやろうか。ウチとしては人間やと思っとるし、思いたいんやけど、睡眠も食事も必要ないなんて、やっぱり人やあらへんよな…
「やっぱりそうなんやろうか…」
「自覚はない、のですか?」
「ウチ、自分のことやのに何もわかっとらんのです。自分の体のことも、なぜエルトナにいるのかも、何も」
「記憶喪失… ということでしょうか」
「…それが1番近いのかもしれません」
「なるほど…」
…自分のこと、調べてみんとアカンな。どうやって調べればええんかもわからんけど、何としてでも知らな。この世界で生きていくためにも…
せやけど、今のところ問題あらへんし、今すぐやなくてええな。今大切なんは、フィリスのことや。フィリスをエルトナの外に連れて行く、それが1番の目標。ウチのことなんて、二の次でええ。
「人型で記憶喪失の魔法生物、ですか… 似ていますね」
「…何とですか?」
「いえ、こちらの話です。 …アカネの記憶も、きっといつか戻りますよ。錬金術士が側にいるのなら、きっと。私が保証しましょう」
「は、はぁ…」
プラフタさんに保証されても、どう受け取ればええんや…? ウチより間違いなくこの世界のことに詳しいやろうし、根拠はあるんやろうか。 …プラフタさん、何か達観してそうやしな。まとっとるオーラが、凄い人の感じやもん。ウチ、オーラとか見えんし感じんけど。
「さて、2人が遅いですね」
「話が盛り上がってるんやないですか? ここやと外の声も聞こえんのでわかりませんが… きっと、楽しい声が響いとりますよ」
「そうでしょうね。娘に錬金術の才能があると言われたら、喜んでくださるでしょう」
…そんなウチらの思いは、すぐに裏切られることになった。あまりにも遅い2人の帰りと、帰ってきた2人の暗い表情が、全てを物語っとったんや。
やることメモ
→0.エルトナ
1.来訪者
→2.錬金術を知ろう
錬金術、何でもできるんやな!
錬金術があれば、わたしも…