茜色の錬金術士   作:緑雨

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あらすじ

 フィリスの錬金術の練習を見守ってから、フルスハイムに向かったで!


静かな港町・フルスハイム

 

「ここがフルスハイムか…」

「うわぁ…! 大きな町…!」

「ここ、フルスハイムは湖の畔(ほとり)にある、この辺りでも有数の大都市なの。ここから出る船に乗って湖を渡らないと、ライゼンベルグには行けないのよ」

「え、お船!? お船って本でしか知らないから、すっごく楽しみ!」

「ふふ、ならちょうどよかったわね」

 

 アカネさんやで。ウチとフィリスとみんなの旅は、ついに折り返し… やと思う。地図的には折り返しくらいの位置にある、フルスハイムって町に辿り着いたんや。エルトナやメッヘンみたいな小さな町かと思っとったんやけど、想像以上の大都市やな。水路も入り組んどってもはや迷宮や。大きさも、入り口の門をくぐったところからやと奥が見えんほどにはメインストリートとメイン水路が長い。向かって右側に店、左側に水路が並んどる感じや。水路の向かいにもたくさん家は並んどるし、立派な都市や。人もおらんし、自転車で駆け抜けたい規模やな…

 

「…だが、そう簡単にはいかないかもしれんぞ」

「そうですね… いつも活気に溢れた、とても賑やかな町だって聞いていたんだけど…」

 

 …到底、そうは思えん光景やな。さっきも言ったけど、人はほとんどおらん。今は朝やし、町の規模を考えたら、お店の前なんかには人が集まっとってもおかしくないんやけどな。それに港町なら観光客もおるやろうに… 見えるのは数人の行商人だけや。

 

「…なんだか、ちょっと元気がない感じだよね」

「何か問題でも起こっとるんかもしれんな…」

「…少し、調べてみてもいいかもしれないわね?」

「そうだね、ここで立ち止まってても仕方ないし… 行こう!」

「それなら、二手に分かれるか? その方が効率的だと思うが」

「ほんならウチとシャノンは向こうで聞いてくるわ。なっ、シャノン」

「えっ、あっ… はい…」

「またあとでー!」

 

 …情報収集の前に、向こうの路地裏で休むか。

 

 

「…シャノン、大丈夫か?」

「…だ、大丈夫、です。 …ふぅ」

「ずっとみんなで話しとったもんな、ちょいと疲れたやろ?」

「それは… 少し。でも、何とか、大丈夫です…」

「ウチの剣触るか? なんか落ち着くで」

「ありがとうございます…」

 

 …ちょいと頑張らせすぎたやろうか。人と話すのが苦手で、恥ずかしがりな子に、三日三晩知らん人と過ごさせるのは。レヴィさんもリアーネさんもええ人なんやけど、人を見とる余裕なんてシャノンにはなかったやろうしな…

 

 とりあえず、情報収集の前にシャノンを休ませなあかんな。今、2人で情報収集なんて行ったら… 倒れてまうかもしれん。この町の人なんて、レヴィさん以上によーわからんからな。もしもホンマに怖い人に話しかけてもうたときを想像したら… な。

 

 …シャノンからしたら、ウチもおらんほうが楽やろうか。もしかしたら、そうやもしれんな…

 

「シャノン、ウチはおっても大丈夫か?」

「はい、はい… 大丈夫です。 ふぅ… 怖かった…」

「この町におる間に、少しずつ仲良くなってこうな」

「…わたし、無理だと思います… レヴィさんも、リアーネさんも、怖くて… アカネさんとフィリスちゃんだけが、友達です… あっ、友達、ですよね…?」

「友達やで、親友がよければそっちでもええよ」

 

「あーもう! どういうことなのよ! まったく!」

 

「ふぇひいぃ!?」

「だ、大丈夫や、ウチらに叫んどるわけや… ん?」

 

 …今の声、聞いた覚えがあるな。高飛車な感じもするけど優しさも秘めたこの声、間違いなくイルやんな。ただ… 姿が見えんな。路地裏におるから当然なんやけど、どこで叫んどるんやろ。なんとなく方向はわかるけど、あっちの方で… 何か叫びたくなるようなことがあったんやろうか?

 

「今の声は、ウチの知り合いや。ええ子やから、気にせんで大丈夫や」

「そ、そうですか… ふぅ…」

「たぶん、フィリスが話しに行っとるやろうし… 休んだら、ウチらは別の方に行くか」

「わかりました、付いて… いきますね」

 

 この近くで、情報収集できるような場所は… わからんな。酒場に行けば話が聞けるかもしれんけど、騒がしいところは嫌やし… そうや、どっかの店に入ろう。お店の人なら何か知っとるやろ、商売人は人の動きに鋭いやろうからな。今の町の状態は死活問題やろうし、教えてくれるはずや。 …まぁ、教えくれんかったとしても、何か買えば話してくれるやろ。

 

「…アカネさん、何か… 変な音が聞こえませんか?」

「ん? 何か… たしかに、カーンカーン聞こえる気がするな」

「ここからでしょうか…?」

「…金属を叩いとる音やろうか。気になるし、行ってみるか」

「…わかりました」

 

 …ちょいと不安やな。こうやって金属を叩くような仕事って、鍛冶師とかが浮かぶんやけど… 鍛冶師って、ハゲのおっさんとか、職人肌の怖い人なイメージもあるやん。シャノンが怖がって話せんような相手なら、すぐに出よう。逃げるように逃げるんや、迷わずな。

 

 

 

「失礼しまーす」「失礼します…」

「いらっしゃい。 …見ない顔だな。旅人か?」

 

 …あんま怖い感じやないな。金髪と銀髪の間くらいの髪色はちょっとだけ怖い気がしたけど、声は優しい感じや。服は赤色のシャツに暗い紫のジャケットか? …鍛冶師って感じもせんけど、お店はどう見ても鍛冶屋や。金床、炉、壁にかけられた武器、これぞ鍛冶屋って感じの鍛冶屋や。

 

「そうや。ウチはアカネ、友人と旅をしとる」

「しゃ、シャノン! …です」

「アカネにシャノン、か… 俺はロジー、鍛冶師だ」

 

 やっぱり鍛冶師さんか… ウチはプラフタ先生にもらった自慢の武器があるから、お世話になる機会はないかもしれんけど… 覚えておいたほうがええな。何か必要になるときもあるかもしれん。それこそ、この細剣が折れてまったとかとか…

 

「音が気になって来たんやけど、外まで響いとったんは金属を打つ音か…」

「音…? あぁ、鎚(つち)を振り下ろす音か。音が気になって店に来るとは… アカネはおもしろいな」

「世間に疎(うと)いもんでな… ここでは武器を売っとるんか?」

「そうだ、武器や防具、後はその素材を売っている。売っている商品の品質には自信がある。よければ見ていってくれ」

 

 素材も売っとるんか… それなら、いろいろ見てみようかな。錬金術に使えるもんもあるかもしれんし、フィリスに伝えたら喜ぶかもしれん。それに、フィリスの武器はまだエルトナから持ってきたもんやし、ここらで買い替えてもええかもしれんな。 …ウチに金があれば買ってプレゼントするんやけどなぁ。

 

「…ただ、アカネは質の高い剣を持っているな。それは… どこで手に入れたんだ?」

「これか? これは、ウチの剣術の先生である、プラフタさんに貰ったんや。錬金術製らしいけど、詳しいことはウチにもわからん」

「プラフタ、錬金術… まさか… いや…」

「…? どうかしたか?」

「いや、知り合いに同じ名前で、錬金術に詳しいやつがいたんだ」

「ほぉ、珍しいこともあるもんですね」

 

 珍しい… よな? プラフタって名前が、実はこの世界じゃ定番って可能性もなくはないけど… まだ他に会ったことないし、そう多い名前やないやろ、きっと。それも、錬金術に詳しいなんて、すごい偶然や。ただ、プラフタ先生もソフィーさんも、エルトナより遠くからライゼンベルグを目指しとるわけやから、フルスハイムに来たことはないはずや。せやから別人で間違いないな。

 

「…シャノン、なんか気になるのあったか?」

「えっと… 良い武器だなぁって、思って… 眺めてました」

「質には自信があるからな」

「ほんなら、また後でみんなで見に来るか。ロジーさん、また今度」

「いつでも待っているよ」

 

 いやぁ、ロジーさんは話しやすくて良い人やったな。武器が欲しくなったときはここに… ん?

 

 ウチら、そもそも何で鍛冶屋に入ったんやったっけ? う〜ん…?

 

「あ、アカネさん、情報収集…」

「あぁ! そうやった! …出てすぐロジーさんの店に戻るんは気まずいし、別の店に行くか」

「そうですね…」

 

 そっからウチらは町中を歩き回った。行商人さんに話を聞いてみたら、なぜか船が出とらんらしい。町に活気がないのはそのせいみたいや。行商や観光の中心地で、交通の便が止まるのは大問題なんやけど… それ以上に、ウチらはこの湖を渡らなライゼンベルグに辿り着けん。せやから、何としても… 船便を再開してもらわなあかん。まだ原因は見えてこんけど… 調べ続けるしかないな。

 

 

 

「…ここも店か、入ってみるか?」

「そうですね… アカネさん、お先どうぞ」

「はいよ、失礼するで〜」

「いらっしゃいませ〜… あれ、フィリスちゃんじゃない…」

「ん? フィリスと知り合いなんか?」

「お客さんの情報は喋らない… けど、そうだよ。さっき会って、買いに来てくれるって話になったの。あなたも知り合い?」

「そうやな、ウチもフィリスと旅しとるんや。 …この店ではどんなもんを売っとるんや?」

「いろいろかなぁ、お魚から日用品まで何でも」

 

 歩き回った末に辿り着いたんは、住宅街の一角にあるお店やった。店主は若い茶髪の女の子で、元気な感じの店やな。まぁ… ウチら以外に人がおらんところを見ると、店は元気やないかもしれんが。

 

 …ちょいと待て、何歳や? …12か13くらいに見えるが、そんな子が店をやっとるんか? …ありえんよな。親のお手伝いか…?

 

「アカネさん、これ…」

「おぉ、絵の具と絵筆やんか。お嬢さん、これ良いやつなんか?」

「ん〜、たぶん? あと、メアって気軽に呼んで」

 

 この子はメアって言うんやな、快活な女の子で好印象や。せやけど… たぶんってどういうことや? このお店の商品やろ、そんな曖昧なことあるか…? …お手伝いやったら知らん可能性もあるか。ホンマの店主に聞くべきやろうか…

 

「メアちゃんな、覚えとくわ。ウチはアカネやで」

「わたしはシャノンです、よろしくお願いします」

「アカネさんにシャノンさんね。その絵の具と絵筆はね、旅人さんに貰ったんだけど、よくわかんなくてさ。昔、“ネージュ”って錬金術士が作った絵の具らしいよ?」

「知らん人の知らん絵の具か… 質は良さそうやけど、値段は?」

「…ずばり、1000コールでどう?」

 

 1000コールか… 相場も何もわからんし、この子の言う値段を信じてええんかもわからんが、買ってみてもええかもな。ネージュさんが作ったって話が残っとるような絵の具なら、ホンマに質の高い絵の具やろうし。問題があるとしたら… ウチは1000コールも持っとらんってことや。

 

「…聞いといてあれやけど、ウチ金ないわ、すまんな」

「えーっ!?」

「そ、それなら、わたしが買いましょうか? 良い絵の具なら、売り切れちゃうかもしれませんし…」

「そんな、シャノンのお金なんやから自分の為に使い。絵の具やって緊急でいるわけやないし、大丈夫や」

「でも、お世話になってますし… 少しくらいなら、大丈夫です」

「いやいや、せやけど…」

「むむ…」

 

 買おうとしてくれるんは嬉しいけど、ええ絵の具があってもウチの腕前は素人やからな… ネージュさんも、ウチに使われるよりはもっとちゃんとした画家さんに使ってもらえるほうが嬉しいやろ。 …ネージュさんがどんな人かわからんけど、絵の具を作るような人なら絵が大好きな人やろうし。

 

「それなら、特別に! シャノンさんが買うなら、半額で… 絵筆までつけちゃうよ!」

「えっ!?」

「そ、そんなに、いいんですか…? アカネさん、わたし… 買いますね」

「…ありがとうな。大事に使わせてもらうわ」

「絵の具と絵筆、お買い上げでーす♪」

「失礼しまーす、メアちゃーん! っと、アカネさんにシャノンさん!?」

「あっ、フィリスちゃん… えっと、わたしたちも買い物してたんだ」

「フィリスも買い物か?」

「まぁ… そんなところかな」

「ふっふふー、いいものたくさんだよー」

 

 シャノンに買って貰った絵の具と絵筆、丁寧に使わんとな。フィリスのアトリエにキャンバスとイーゼルも置いてあるし、パレットも棚に丁寧にしまってある。これでもう絵を描くのに必要なもんは最低限集まったか…

 

 ほんでフィリスとリアーネさんも買い物か。情報収集の前に、買い物は大切やからな。 …ん? 情報収集?

 

「…あっ、アカネさん。あの、町のこと、聞かないと…」

「あぁ、そうやった。メアちゃん、ウチらこの町から湖を渡りたいんやけど、船が出てないって聞いたんや。それってホンマか?」

「うん、本当だよ」

「困っちゃうよね! カイさん、理由も説明してくれないし… 」

「考えはあるみたいだけど、ちゃんと説明したほうがいいと思うのにな〜。 …買い物してくれたし、アカネさんたちには教えちゃおっか?」

「待って! わたしも買う、これ買うから!」

「はいは〜い、まいどあり〜」

 

 …カイさんが誰かわからんが、フィリスはカイさんって人に船が出てないって教えてもらったんか。正直、フィリスとメアの話にはついていけとらんが… メアは何かだいじなことを知っとるみたいやな?

 

「それじゃ、教えるけどさ。ちょっと前から湖が突然荒れ出したんだ。そのせいで雨は降るわ、湖面は時化(しけ)るわ、挙句の果てにすっっっごい大きい竜巻まで起きちゃって。そのせいで、湖の運航便は取りやめてるの。フィリスさんたちが立ち往生してるのも、そのせい」

 

 竜巻か… たしかに、竜巻があったら湖は渡れんな。海なら避けて進めるかもしれんが、湖やからな… 竜巻を見とらんからなんとも言えんが、少し前からずっとあるんやったら、何か異常でも起こっとるんか…?

 

「そうなんだ…」

「そのことはこの町の人ならみんな知っとるんか?」

「いや? 湖が荒れてることは隠してるから、みんなは知らないんだ。だから、理由はわからないけど運航便は止まってるって感じてるの。不満もたまる一方だよ…」

「へぇ… でもそれなら、みんなで解決方を探したほうがいいんじゃ…」

「メアもそう思うんだけど、お兄ちゃんは何が何でも隠し通したいみたい。この町って、運航便と観光で成り立ってるんだ。収入のほとんどをそこから得てるの。ただでさえ運航便が止まって大変なのに、湖のことが噂になって観光客が減っちゃうったら…」

 

 なるほどな… これが、今のフルスハイムが抱えとる問題か。結局は湖が収まって、竜巻がなくなるまでは進めないってことなんやけど… それがいつになるかわからん。いつまでも進めないんじゃ、フィリスは公認試験を受けれずにエルトナに戻らなあかんくなる… 困りものやな。

 

「…なるほど。町が立ち行かなくなる、と」

「そう考えてるらしいよ? よくわかんないけど」

「ありがとな、メアちゃん」

「いろいろ知っててくれて助かったわ。 …カイさんも妹には甘いのかしら」

 

 さっきも聞いたな、カイさん… フィリスは不満そうやったけど、この話の中心におるなら偉い人なんか? …というか、メアはそのカイさんの妹やったんか。

 

「ん? 違うよ、お兄ちゃんはメアにもなーんにも話してくれないし。ふふふ、メアにはね、もっとちゃんとした情報源があるんだよ!」

「情報源か… どんな人に聞いたんや?」

「へへへ… さっきフィリスさんには言ったけど、メアには錬金術士の知り合いがいるんだよ。その人からいろいろ教えてもらったんだよね。 …あ、よかったら会ってみる?」

「え、いいの? それなら、お願いしようかな」

「ほんならフィリス、アトリエ借りてもええか? 買ったもんもしまいたいし、町のどっかにウチが張っとくから」

「はい、どうぞ!」

「わたしも、お手伝いしますね…」

 

 錬金術士さんとの話はフィリスに任せて… ウチらはアトリエを張って休む準備をしよか。もう夜やし、町中歩き回って疲れたわ… …というか、レヴィさんはどこ行ったんや? ドロッセルさんみたく迷子か? …流石にちゃうか、酒場で情報収集でもしとるんかな。

 

 

 

「ふぅ、アトリエ完成…」

「…こんな町中に、大丈夫でしょうか」

「大丈夫やろ、たぶん。さーって、フィリスは… まだ来そうもないし、2人で先に荷物整理しとくか」

「ですね」

 

 アトリエは町の真ん中より入り口の門側のところに張ることにしたわ。行き来もしやすし、人の邪魔にもならん空き地があったからな。さっ、休も休も…

 

「あっ! アカネさんだーっ!」

「はひっ…」

 

 この声は… 聞き覚えがある、何度も聞いたからよく覚えとる。 …まさか、こんなに早く再開できるなんてな。

 

「ソフィーさん! お久しぶりやな!」

「久しぶり!」「お久しぶりです」

「はっ、はじめまして… えっと… シャノン、と言います…」

「あっ、はじめまして。錬金術士のソフィーです」

「ソフィーの旅のお供をしている、プラフタと申します。以後、お見知りおきを」

「立ち話もなんや、入って話さんか?」

「うん! …そういえば、フィリスちゃんは?」

「今は出とりますけど、直に帰ってくると思いますよ」

 

 まだ旅立ちから一ヶ月やけど… 懐かしい気分や。この一ヶ月の思い出でも、語り明かすとしよかな。フィリスも話したいことはたくさんあるやろうし、楽しみやな。

 

 




やることメモ
  0.エルトナ
 →1.エルトナ周辺
   1.乾いた平野帯
   2.ファーヴェ丘陵
   3.旅人の雑木林・白霧ヶ森
  →4.フルスハイム近郊
   →1.動かぬ船

 久し振りですね。元気でしたか?
(プラフタ)

 もちろんや。フィリスもウチも、元気やで!
(アカネ)

 早くフィリスちゃんに会いたいなぁ…
(ソフィー)
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