フルスハイムに着いたんやけど、船が動いてなくて湖を渡れん! 嵐が原因らしいけど、どうすればええやろか…
「こんなに早く来たのに、まさかフィリスちゃんたちに先に行かれてるなんてなぁ。どこ通ってきたの?」
「詳しい旅の話は、きっとフィリスが嬉々として語ってくれるやろうし、秘密にしときますわ。 …ただ、楽しい旅でしたよ」
「そっかぁ、それなら楽しみにしておかないとね」
家主のいないアトリエの中で、ソフィーさんたちとお話や。エルトナで別れてから、乾いた平野帯、ファーヴェ丘陵、旅人の雑木林、白霧ヶ森と歩いてきたから、思い出話は幾らでも語り足りんくらいやけど… そういうのはフィリスがしたいやろうから、ウチは秘密にしとくわ。
「シャノンは騎士のようですが、旅に同行しているのですか?」
「はっ、はい。えっと、その… わたしから、お願いして… 一緒に、旅してます」
「そうなんだ… それなら安心だなぁ、フィリスちゃん、戦えるかちょっと不安だったし…」
「他にも、今はレヴィって人とも旅しとるんやけど、その人もシャノンも強いから助かっとるわ」
「そんな、わたしはまだ見習いですから…」
「見習いでも騎士は騎士、志を持つ騎士は強いものですよ」
…プラフタ先生が言うと、何でも言葉に重みがあるな。ウチが同じようなことを言っても、てきとうに励ましてるようにしか聞こえんのに、プラフタ先生やと響く気がする。
「話は変わりますが… アカネは、その細剣で戦ってくれているのですね」
「そらもちろん、プラフタ先生に貰った剣ですから、肌見放さず持ち歩いとります」
「作ったのはあたしだけどね。どう、使いやすい?」
「はい。 …ウチもこの剣のことで聞きたいことがあったんですけど、聞いてええですか?」
「構いませんよ、私に答えられる範囲なら」
ウチがプラフタ先生に聞きたかったこと、それは1つや。ファーヴェ丘陵で突然剣が光りだしたこと、炎と氷を放ちだしたこと、傷が癒えたこと… 4つやったわ。
「この剣には、不思議な力が宿っとる気がするんですが… よーわからん力が多くて、教えてほしいんです」
「なるほど、そのことですか。答えを言ってしまう前に、アカネの感じたことを教えてください」
「か、感じたこと…? えっと… 剣が光りだしたこと、魔物に突き刺すと炎やら氷やらが放たれること、傷口がすごい勢いで塞がったこと… 全部剣の力やと思っとるんですが、あっとりますか?」
「あっていますよ。 …ですが、まだ深いところまでは理解できていないようですね」
「あたしが頑張って作ったんだから、そう簡単に解かれちゃーね♪」
光、炎、氷、治癒… ここらの力が剣の力なんは正解なんやな。せやけど… 光に関してはよーわかっとらんし、傷を癒す力もあれ以降は感じとらん。魔物と戦っとるときは、なぜか感じんのや。不思議よな…
「それらは全て、その細剣に宿った“特性”によるものです。錬金術によって作られた全ての物には、最大で3つまで特性が宿ります。その細剣にも、3つの特性が宿っています」
「3つ… 4つやなくてですか?」
「3つです。そして、特性は何でも宿るわけではありません。武器には武器の、道具には道具の特性が宿ります。適性のない物に特性を宿そうとしても、失敗に終わります」
なる… ほど? 特性っていうのは前にも聞いたことある気がするな。素材はそれぞれの特性を持っとって、それを完成品に移して強くする… そんなイメージやった。 ってことは、この剣の力は、武器に宿せる強い力が宿ってるってこと… やんな?
「えっと、つまり… アカネさんの剣には、武器の特性が宿っている… ということ、ですね…?」
「…細剣が武器であるのなら、そうであるはずです」
…ん? なんや、少し変な返答な気が…
「答えを言います。その細剣に宿っている特性は、“ふたつの力”と“貫く信念”と“茜の輝き”の3つです。そして、この3つはいずれも“装飾品”に宿る特性です。 …ふたつの力は武器にも宿りますが、気にしないでください」
装飾品に宿る特性…? 3つの力は全部よーわからんけど、装飾品に宿る力なんやったら…
「ま、待っとください! 武器には武器の特性しか宿らんのですよね? ほんなら、剣に装飾品の特性は宿らないんやないんですか?」
「…私はアカネに、門出の品として長く使えるものを贈ろうと思いました。そこで、装飾品にしようと素材を選んでから、気がついたのです。今のアカネに必要なものは、間違いなく武器であると。 …そう思い、レシピを考えソフィーに作らせたものが、その細剣です。 …武器としても使える装飾品、“茜色の剣”です」
「武器としても使える装飾品…」
「そうです。 …理解が難しいと思いますが、錬金術を用いたある種の屁理屈が通ったと考えるとわかりやすいかもしれません。アカネはその細剣を武器として使っていますが、“偶然”先端が鋭く武器として使えるだけで、装飾品として作られたものだから、装飾品の特性が宿る… と」
な、なるほど…? …やばい、なんとなくしかわからん。つまり、この剣は武器であり装飾品でもあるってこと… よな? …剣って装飾品になりうるんか? どこに身につけるんや…? …腰か?
「…フィリスと旅を続ければ、きっと感覚的にわかると思います。今は… 普通に、3つの特性の宿った細剣だと思っていれば問題ありません」
「わかりました… ほんで、その特性はどんな特性なんですか?」
「そこが本題でしたね。ふたつの力は、アカネも感じていた炎と氷の力です。貫く信念は、傷を治し治療する力と、倒れそうなときに時折踏みとどまらせる力を持ちます。茜の輝きは、MPを用いたスキルを強化する力と、連携を取りやすくなるという感覚的な強化をもたらします。光っているのはおまけです」
「…たくさん力があるんですね」
「まぁ、そうですね… どんなときでもアカネの助けになるように、私なりに考えて組み合わせました」
「助けられとります…」
…あんまりわかっとらんけど、この剣がすごい剣やってことはわかった! それに、装飾品やから身につけとくもんやってことも。 …プラフタ先生の説明はわかりやすかったんに、ウチの頭が錬金術についていけん!
「難しい… ですね…」
「シャノンもアカネも、きっといつかわかりますよ。 …ソフィーだって、初めはわからなかったのに、今では1人前の錬金術士ですから」
「そうそう、いつかわかるよ、きっと!」
「…ウチも、自分でも勉強してみます。フィリスの話についていけるくらいには、知っとかんとあかんですから」
「…そのフィリスはまだ帰ってこないようですね。 …ソフィー、この町に来てやることもあるのですから、フィリスを待つのは後にして、今は用事を済ませるべきでは?」
「ん〜、そうだね。ありがとうね、アカネさん、シャノンさん。また今度!」
…錬金術のことは、勉強してみんとあかんな。まだ知らんことが多すぎる。ウチに錬金術は使えんのやから、勉強せんでもええんかもしれんけど… フィリスと旅しとる以上、知っておけば活きるときもあるはずや。特性なんかは、採取でも大切かもしれんし…
「…わたしも、今日は失礼します。ありがとうございました」
「宿屋におるんか? 何かあったらいつでも来てくれや」
「はい。それでは、おやすみなさい…」
もう夜か… 少し休んだら、錬金術の勉強… それか、絵の練習でもするか。せっかく画材が揃ったんや、今なら絵も描ける。 …腕前は成長しとらんから、今はイメージトレーニングからやな。絵筆を握って、絵の具はつけずに空に描くように… 頭に描くんや…
「ただいまー… アカネさん、何してるの?」
「絵筆を手に馴染ませとる。キャンバスも絵の具も限られとるから、絶対にミスらんように… イメージで絵を描いとるんや」
「不思議なことをしているんですね…」
「ほへー… わたしも調合前にそうしたほうがいいのかな」
「どうやろうか… 錬金術は何でもやって経験するもんってソフィーさんも言っとらんかったか?」
「言ってた… 気がする」
「ほんなら、失敗覚悟でやるのもええんちゃうか」
「そうだね、そうしよう!」
フィリスとリアーネさんが帰ってきたんは、翌日のお昼やった。リアーネさんは途中で声だけかけに来て、イルと作戦会議をしてるって教えてくれたんやけど、フィリスは相当考え込んでたみたいやな。 …そらそうか、湖を超えな試験は受けれんわけやから、死に物狂いで考えなあかんよな。ウチも絵筆握ってぼーっとしとらんで、頭使うべきやったやろうか。
「そうだ、アカネさん。わたし、お船を作ることにしたの!」
「船を… 作る? ちょ、ちょい待ち、何があったんや?」
「竜巻に突っ込んでも壊れないくらい、丈夫なお船を作れば、湖を越えられるはず!」
「…錬金術でいけるんか?」
「それは… 今から、方法を考えるの。今は1回寝ちゃうけど… 起きたら、いろんな人に話聞いて、作り方を考えるんだ」
「そうか… ほんなら、応援しとるわ。ウチも手伝えることあったら手伝いたいけど… 錬金術のことは、フィリスの方が詳しいやろうからな」
「うん! だから、大船に乗ったつもりで、お絵描きしてても大丈夫だよ!」
大船に乗ってお絵描きか… 信じるで、その言葉。フィリスは子供っぽいけど、決めたら貫く気概と根性、それにここぞの閃きも持っとるからな。竜巻を突破する船、楽しみにしとるで、フィリス。 …そういや、イルも一緒にやるんやろうか。この湖を渡るまで、協力するって聞いたんやけど…
「イルも一緒に船作るんか?」
「あ〜… イルちゃんは、竜巻を止める方法を探すんだって。それで、どっちかの目処が立ったらその方法に注力して、一緒に湖を渡るの」
「なるほどな… あと、あの人には会ったか?」
「あの人って…?」「誰かに会ったんですか?」
「ほんなら、まだ会っとらんか。大丈夫、直に会えるで」
きっと、すぐにでも…
「お邪魔しまーす!」
「…えっ、えっ!? そ、ソフィー先生!? わ、わたし、夢でも見てるのかな…」
「頬でもつねってみるか? …見える景色は変わらんやろうけどな」
「ふふっ、夢じゃないよ。久しぶりだね、フィリスちゃん」
「ソフィー先生…! うぅっ… ぐすっ…」
「わっ、泣かないで、フィリスちゃん」
「嬉しくって… こんなところで会えるなんて、思ってなかったから…」
「…ウチはちょいと外で買い物してきますね」
「わかりました、また後で」
師弟水入らず、積もる話もあるやろうからな。 …買いたいもんはないし、てきとうに時間を潰すなら… そうや、イルと話してなかったな。イルは… 宿屋やろうか。ちょいと顔だけでも見に行くか… 真面目に考えごとしとったら悪いけど、挨拶くらいはしとかんとな。
「お邪魔するでー」
「…アカネさん、どうかしましたか?」
「湖を渡るために頑張っとるって聞いてな。顔だけでも拝みにきたんや」
「そう… ですね。まだまだですけど、必ず完成させますよ」
「…なぁ、1つ聞いてもええか?」
「はい…?」
イルの部屋に来て、話しとるんやけど… ずっと気になっとったことがあるんよな。
「イル、フィリスと話しとるときに比べて、うちに対してよそよそしくないか? なんや、丁寧すぎるというか…」
「その… アカネさんって年上だし、その方がいいのかなと思って…」
「そんな気にせんでええよ。フィリスと話しとるときみたいに、同い年と話すような感覚でな」
「わかりまし… わかったわ。これからは、気楽に話させてもらうわね」
「そうやそうや、それでええ。 …もちろん、大変やったら無理はせんでな」
「ふふん、この程度のこと、一流の錬金術士なら簡単よ♪」
うん、このほうがイルらしくてええな。シャノンもやけど、ウチに丁寧に話す必要なんてないんや。プラフタ先生みたいに、誰にでも丁寧な人も素敵やと思うけど… 元気な子供はな、変に気を使ったりせんでええんや。少なくとも、ウチもその方が楽やし。
「まっ、顔見に来ただけやから、帰るな。頑張ってな」
「必ず結果を出すから、期待していなさい。 …バイバイ」
「せやな、バイバイ!」
…ちらりとイルが書いとるメモも見たけど、まったくわからんかったな。錬金術のレシピ… フィリスもよくメモを書いとるけど、ウチには全然わからんのよな。それに比べたら、まだイルのメモの方がわかる気がしたな… 気がした、だけやけど。
…進展が出るまでは、結構時間がかかりそうやな。フィリスに言われた通り、ウチはお絵描きに勤しむとするか…
やることメモ
0.エルトナ
→1.エルトナ周辺
1.乾いた平野帯
2.ファーヴェ丘陵
3.旅人の雑木林・白霧ヶ森
→4.フルスハイム近郊
1.動かぬ船
→2.共同戦線
必ず、この湖を渡ってみせる…!
一緒に、試験まで辿り着くわよ!
…ウチには応援しかできない、か