…私が書いても良いのでしょうか。えっと… ソフィーと旅をしてきた私は、フルスハイムに辿り着き、アカネやフィリスと再開しました。竜巻で荒れる湖を渡るために、フィリスは船を作るそうです。
…やっぱり、あらすじくらいは私じゃないほうが良かったのでは?
「アカネ、絵を描いているのですね」
「少し前から描き始めたんです。 …昔のことを、覚えているうちに形にしようと思って」
「殊勝な心がけですね、これは… 実家でしょうか?」
「そうです、ウチの生まれ育った家です」
皆様、はじめまして。 …誰に言っているのかわかりませんが、言わねばならない気がするので言わせていただきます。私はプラフタ、弟子であり錬金術士のソフィー・ノイエンミュラーと共に旅をしています。そして今は、その弟子のフィリス・ミストルートのアトリエで、私の弟子… 錬金術ではなく、剣術の弟子であるアカネの描く絵を眺めていました。 …私は剣術を修めているわけではありませんが、成り行きで教えることになりました。
アカネの絵は描きかけですので、まだ確信を持ったことは言えませんが… 少なくとも、私の知っている場所ではなさそうです。私とソフィーが出会った、キルヘン・ベルにこのような場所はありませんでしたし… ここまでの道程にも、近い造形の建物はありませんでした。
…私は、あまりアカネのことを知りません。エルトナでは、人の話を真っ直ぐに聞き、フィリスの為にと奮闘する姿を見て、剣術の稽古をつけたのですが… 出自から何まで、謎に満ちています。本人が語りたがらないのもありますが、覚えていないことも多いそうです。 …確実なのは、アカネが人間ではないということです。
私のように、人の姿を模しているだけで、完全な人間ではなく、“錬金生物”と同等の存在と考えられます。 …言い忘れてましたね、私は人形に魂を宿した錬金生物です。 …話を戻しますね。アカネが人間でない最大であり確実な根拠は、睡眠や食事が必要ないです。 …にも関わらず、アカネは今、自身の生まれ育ったという家を描いています。 …不思議なものです。
町の名前を覚えていないのに、家の外観は覚えている… 家というのは大切なものですから、それだけを覚えていることには深い違和感はありません。最大の違和感は… アカネが“家”で生まれ育った存在であるのなら、どうして“錬金生物”なのか、です。
アカネが忘れてしまっている以上、この違和感の答えを見つけることは容易ではありませんが… アカネの過去には、何か重大な事実が隠されている気がしてなりません。人の過去を探るのは好きではありませんが… アカネが忘れている以上、アカネの為にも解き明かす必要はあるのかもしれません。
…ですが、それは今ではないと、そう感じます。今はソフィーとフィリスが公認錬金術士試験を受け、合格すること… それだけを目指すべきでしょう。アカネの謎は、その後に…向き合わなければならないでしょうね。
「…プラフタ先生? 流石に、ずっと見られとるとむず痒いんやけど…」
「あぁ、すいません、少し考えごとを… 作品の完成、楽しみにしていますね」
「…そんなええ絵が描ける自信はありまへんけど、頑張りますね」
「アカネの思い… 魂が込められていれば、きっと立派な作品になりますよ」
「…そうですね。 …うしっ、頑張ろ」
アカネは一筆一筆に長く時間をかけて、丁寧に書いているようですし… 私はソフィーの様子でも見に行きますか。確か今は、レン… フルスハイムの公認錬金術士と世間話をしているはずです。 …ソフィーのことですから、すでに別の場所で呑気に散歩でもしているかもしれませんが。
…私たちがフルスハイムに到着してから、既に10日が経過しています。あの大きな竜巻は収まる気配も見えませんし、フィリスもまだ件の船造りが進展した様子はない… 試験まではまだまだ時間があるとはいえ、少なからず不安は込み上げてきます。大丈夫だとは思いますが… 後一ヶ月経っても進展がなければ、私も何か考えなければならないかもしれませんね。
「おや… フィリス、どうかしましたか?」
「あ… プラフタさん。 …ちょっと、悩んでることがあって」
「…深刻なようですね、私でよければ答えますよ」
ソフィーを探す予定でしたが、変更です。外でフィリスが悩んでいましたから、放っておくわけにはいきません。フィリスは私の孫弟子、本当はソフィーが相談に乗るべきですが、私が努めてもよいはずです。
「その… お船の部品は思いついたんですけど、レンさんに、炉がないと動かないって言われちゃって…」
「それなら、炉を作れば… という話ではないようですね?」
「はい… お船を動かせるだけの炉は、普通の錬金釜だと作れないって言われて… それで、どうしようかなって…」
「…なるほど。それなら、釜を作るというのは?」
「えっ? そんなこと、できるんですか?」
「ソフィーは釜作りについて知見を持っています。一緒にソフィーを探しに行きましょうか」
「は、はい! わかりました…!」
私が知らなかっただけで、船造りは進展していたようですね… 私は少し、自分の孫弟子を甘く見ていたのかもしれません。フィリスは私の想像よりも早く、この問題を解決できるかもしれませんね…
…船の部品に関しては、私も興味があります。大きな竜巻を抜けられるだけの船です、どのような方法で突破するつもりなのか気になります。 …錬金術士としては、その部品をどのようにして閃いたのか、それも気になりますがね。
「なるほどねぇ… それなら… このレシピでいけるかな?」
「わぁ… す、すごいレシピです、先生!」
「ふふん、これでもフィリスちゃんの先生だからね!」
「これなら… レンさんに相談してきます!」
「あたしも行くよ、不備があったらまずいからね」
「…ふふっ」
…私が追いかける必要はなさそうですね。この町には、ソフィーとフィリスの他にも、レン… それと、イルメリアという少女の、4人の錬金術士がいるはず。ソフィーが見せた釜のレシピは、それそのものが複雑で時間のかかるものでしたが… 私が出なくとも、問題ないでしょう。 …私にはもう錬金術は使えませんから、出たところで、かもしれませんが。
…やることが、なくなってしまいましたね。またフィリスのアトリエに戻って、アカネの様子を見に行きますか…
「こんにちはー!」
「…こんにちは、お元気ですね」
「うん! お姉さん、フィリスちゃんのお友達… だよね?」
「友達… そう言っても、支障はないかもしれませんね」
…今日は、私に暇な時間など与えられないのかもしれませんね。今度は… 桃色の髪をした少女ですか。フィリスの知り合いのようですが… この町の住人でしょうか。
「こほん。わたし、エスカ!」
「エスカ、ですか… 私はプラフタと申します」
「プラフタさん! ねぇ… 一緒に遊ばない?」
「遊ぶ…? 何をして、ですか?」
「ん〜、鬼ごっこ!」
「鬼ごっこ、ですか…」
「スタート! 逃げるぞ〜!」
「ちょっ、ちょっと!?」
子供は元気な方が良いともいいますが、突然鬼ごっこというのは…! はぁ… 私にだって考えがありますよ。ここはフルスハイムの広場、追い込む方向を考えれば…
「にげろ〜!」
「…よしっ。アカネ! 手を貸してください!」
「なっ、何があったんですか!?」
「鬼ごっこです! エスカを挟み撃ちにします!」
「え、エスカ…? 何やわかりませんけど、手伝いますね」
「わ〜!? 鬼が2人になっちゃった!」
一対一では子供の体力には勝てませんが、二対一ならやりようがあります。エスカはフルスハイムの構造をよく知っているようですが… 2人いれば、裏路地も含めて追い詰められるはずです。
「…アカネ、私はもう…」
「…ここ、宿屋やな。失礼しまーす… シャノン! 来てくれ!」
「はっ、はひぃ!? ど、どうかしましたか…?」
「鬼ごっこや、エスカを捕まえるの手伝ってくれ…」
「…わかりました、わたしにできるのなら、お任せください」
「鬼が3人…!? でも、逃げ切る!」
「全力で… 捕まえる!」
「速いっ…!」
…私とアカネは敗れました。単純なスピードなら、エスカに追いつけます。しかしエスカは機敏に私たちをかわして逃げて行ったのです。 …ここまで来て、負けて去るわけにはいきません。たとえ姑息と言われようと、3人がかりで捕まえます!
「プラフタさん! そっちに!」
「ふふっ… 待っていましたよ、エスカ!」
「わっ! …捕まっちゃった」
「ふぅ… 大変やった…」
長い戦いに、やっと終止符を打てましたね… エスカ、あなたは強敵でした。誇ってください…
「楽しかった〜! もう夜だし、また遊ぼうね、プラフタさん、アカネさん、えっと…」
「あっ、シャノンと言います」
「シャノンさん! またね〜!」
「…やっと、終わりましたか」
「…お疲れ様です、プラフタさん、アカネさん」
「ホンマに疲れた… どんだけ走ったんや…」
「アカネ、シャノン、巻き込んで申し訳ありません。ですが、2人のおかげで助かりました」
「大丈夫や…」「どういたしまして…」
…私も、少し休むとしましょう。今は… 何も考えずに、ただ休みたい気分です。
「お〜い! プラフタ〜! アトリエ張るよ〜!」
「ソフィー… 今は、1人でお願いします…」
「…大丈夫? メンテナンスする?」
「大丈夫です… ふぅ…」
「なるほど… 3人で釜作りですか、大変ですね」
「大変だけど、フィリスちゃんの為だからね! よ〜しっ、頑張っちゃうぞ〜!」
「…それはいいのですが、私が休んでいる間にどうしてここまで散らかったのですか?」
「え? えっと… えへへ…」
はぁ… ソフィーが上機嫌に錬金術を始めたまでは良かったのですが… 私が疲れたからと休まず、見張っておくべきだったかもしれませんね。ソフィーは目を離すとすぐに物を散らかし、足の踏み場もない惨状を作り出すのですから…
「まったく… 少しはリアーネやアカネを見習ってください。2人とも使ったものは元の場所に戻しますし、次を考えて整理しています。リアーネに至っては年下ですよ?」
「リアーネさんもアカネさんも年上だよ! だから2人ともちゃんとしてるの! あたしも、今度からはちゃんとするから!」
「そう言って何度も繰り返しているじゃありませんか…! …それに、リアーネは年下ですよ。アカネは… 年上だと思いますが」
「プラフタからしたら年下かもだけど、絶対に年上だから! 年上だからちゃんとしてるだけだから! …年下よりもあたしの方がズボラってわけじゃないから!」
「…認められないというのなら、直接聞きに行きましょう」
「そうだね… 2人とも年上だから立派なだけだもん…」
「ウチは23や、リアーネさんは?」
「18ですけど…」
「とし、した…!?」
「だからそうだと言っているじゃないですか」
2人とも、イメージ通りの年齢ですね。 …アカネは年齢を正確に覚えているんですね。アカネの記憶は難しいですね、局所的に忘れていたり局所的に覚えていたり、どこを覚えていてどこを忘れているのか見当もつきません。
…あるいは。 ………
「……」
「どないしました? 23ってのが驚きとか…」
「驚いたのはリアーネさんの方だよ… 年下…」
…考えていても仕方ありませんね。先ほども言いましたが、今は公認錬金術士試験が優先で、アカネのことは後です。それに、アカネが信頼に値する、私の弟子であるのは明確な事実です。 …これは、ライゼンベルグまでの課題と思っておきましょう。誰にも言わず… 私の胸に、秘めておきましょう。
やることメモ
0.エルトナ
→1.エルトナ周辺
1.乾いた平野帯
2.ファーヴェ丘陵
3.旅人の雑木林・白霧ヶ森
→4.フルスハイム近郊
1.動かぬ船
2.共同戦線
→3.炉を作るために
アイデアはできた… 後は、完成させるだけ!
あなたならできる… 私はそう確信していますよ
アタシも手を貸してるんだから、絶対にやり遂げなさいよ!