アカネのアトリエ〜不思議な色の錬金術士〜   作:緑雨

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あらすじ

 クラーデル平原から、ヴァイスラークを目指して移動中や。


転生の旅路

 

「フィリスー、なんか見えるかー?」

「なーんにも? 右も岩肌、左も岩肌、正面にお山、それだけ…」

「でも、もうすぐ新しい景色を見られるはずよ」

 

 今ウチらがおるんは、“ファタリア山麓”やな。クラーデル平原とヴァイスラークの間にある、山と山の谷間を抜けていくエリアや。 …採取するものもあらへんし、面白い景色もないし、魔物もおらん、緩衝地みたいな場所やな。

 

「この先は三叉路になってるみたいだけど… フィリス、どっちに進むの?」

「どっちに… ん?」

 

「疲れたわ、メクレット」

「いや、そう言われても、ボクにはどうすることもできないんだけど…」

 

 …旅人か? 三叉路の真ん中、立て看板の前で銀髪の女の子と金髪の男の子が仲良く話しとる。 …旅人にしては幼い気がするな。フィリスよりも幼く見えるし、旅人って年には見えんな… もう夜やし、子供ならこんな何もない場所におったらあかん。えらく落ち着いた声やし、見た目が幼いだけで大人な可能性もあるけどな。服装はどこかの異国の衣装って感じもするし…

 

「旅人さんでしょうか…?」

 

「おぶってちょうだい」

「いや… ボクたちはほとんど同じ体格だから、それは難しいんじゃないかな…」

「…ちっ」

「舌打ち!? アトミナ! 今、君、舌打ちしたかい!?」

「いいえ、していないわ」

 

 …どっちなんかわからへんな。口調は大人っぽくも見えるけど、態度は子供っぽくも見える。同じくらいの背格好やし双子って線もあるな… …こうやって観察してても埒があかんな。いい加減、話しかけるとするか。

 

「あなたたち… どうしたの?」

「喧嘩はあかんでー?」

「喧嘩なんかじゃあないさ。ただ、こいつが急に疲れたって言い出しただけで」

「あら、言っちゃいけないの?」

「そんなことはないけどさぁ…」

 

 女の子… メクレットって呼ばれとったか? こっちの子のほうが気が強そうと言うか、我が強そうな感じやな。

 

 …さて、2人のことも気になるけど、気にせんとあかん人はもう1人おるからな。フィリスに会話は任して、ウチは最後方に隠れとる子に声かけ行くか。

 

「シャノン、元気か〜?」

「えあっ、はいっ、はい…」

「そんな怖い人やなさそうやし、緊張せんで大丈夫やと思うで?」

「…アトリエを張るみたいだぞ。中で話すようだから、外で待ってるのがいいかもな」

「あ〜… せやな。シャノン、2人で看板でも読んどかんか?」

「いっ、いえっ、アカネさんは、その… あの2人と、話したいでしょうし… わたしは、えっと、1人で…」

「みんなで話しかけたらあの2人も困ってまうやろうし、気になることはレヴィさんが聞いといてくれるやろ、なぁ?」

「…何を期待されてるのかわからないが、任せろ」

「ほんじゃシャノン、あっち行こか」

「はい…」

 

 ふぅ… 慣れたもんやけど、慣れたらあかんのよな。シャノンは人見知りを克服したくてフィリスの旅に同行するって決めたわけなんやから、ホンマはこうやって避けんで話してったほうがええんやろ。 …せやけど、無理はさせたないよな。時間は有限やけど、一朝一夕で変わるもんやあらへんし、少しずつ慣らしていくべき… やと、ウチは思う。

 

 現に、シャノンはもうウチとは軽く笑ったりしながら話せるようになったからな。レヴィさんとも話せんわけやないし、リアーネさんとも目は合わせられんけど話せはする。いつかは… いつかは、見ず知らずの二人組とも平気で話せるようになるはずや。 …そこまでいったら逆に強すぎるか。ウチでも完全に知らん人とは緊張くらいするし。

 

「…看板によると、あっちがヴァイスラーク、みたいですね」

「ほんで向こうが“アオロ雪原”みたいやな。 …雪原ってことは寒そうやな」

「そうですね… あの、アカネさん、その服…」

「…言いたいことはわかる。布1枚の肩出しワンピースで寒いところは無理や」

「ですよね…」

 

 こっちの世界に来てからずっと着てきたこの服とも、お別れを考えたほうがええかもな… 肩出しワンピで雪原なんて、正気の沙汰やあらへん。リアーネさんも近い格好やけど、あの人は狩人やからな、寒い場所で着る服も持っとるやろ。 …服、どないしよかな。ヴァイスラークで売っとる可能性にかけるか、ウチの体が寒さに強いと信じるか… 剣から炎を放ち続けて誤魔化すか、やな。でもこの剣、下手すると氷でるんよな… 雪原で氷浴びたらウチ、終わるで?

 

「…ヴァイスラークで売っとるやろうか」

「その… わたしの服でよければ、お貸ししましょうか?」

「気持ちはありがたく受け取るけど… ちょいと大きくないか? ウチ、シャノンよりは小さいで?」

「たぶん、大丈夫… だと、思います」

「ほんなら借りよかな… どんな服なんかわからんけど」

「普通の、普通の上着です。旅用に、持っていたもので… アトリエに、あります」

「そんじゃ、アオロ雪原に行くときは貸してもらうわ。ありがとうな」

「いえ、いつも、お世話になってますから…」

 

 …シャノン、どんくらいの身長なんやろうか。細くてスラっとしとるから高く見えるけど、恥ずかしいからか足引いとったり首傾げとるからよーわからんのよな。ちなみにウチは、最後に測ったときは158やったで。 …まぁ、ちょいとは伸びたやろうし今は160くらいやろうか。そんなウチよりも高い気がするし、163… いや、スラっと立ったら165くらいか? ワンチャン170も… ふ〜む…

 

「えっと… どうか、しましたか?」

「…シャノン。身長っていくつや?」

「え? …どのくらいでしょうか」

「わからんのか… ウチもわからんのやけど、ウチよりは高い… やんな?」

「はいっ、たぶん…」

「…さっき、シャノンの服は大きいかもって言ったけど、逆ってことはあらへんよな?」

「それは、たぶん、大丈夫… です」

 

 …今度、みんなで並んで比べてみるか。レヴィさんが一番上で、イルが一番下なんは確実やけどな。ウチとリアーネさんとシャノン、どんな感じなんやろうか… 知ったところで何にもならんかもしれんけど、気になったら気になってまうやん。

 

「その… ずっと見られていると、少し…」

「あぁ、すまん。ええ体やなぁと思ってな」

「えっ…」

「すっ、すまん、ちょいと悪い表現やったな? あれやで、背も高いしスラっとしててスタイルもええし、羨ましいなぁって」

「大丈夫です、ちょっと驚いちゃっただけで…」

 

 危ない、口には気をつけんとな… 人に嫌われんのは嫌やけど、シャノンに嫌われんのは特に嫌や。ずっとウチに付いてきてくれとるし、信じてくれとるし、なんや… 妹みたいというか、似てる気がするんや。ウチの妹の、葵ちゃんと。背格好も髪色も似とらんのやけど、雰囲気がな。せやから、その… 妹に嫌われるみたいで、想像するだけでキツイもんがある。

 

 …もちろん、フィリスに嫌われるの(ん)も、イルに嫌われるの(ん)も、全部辛いけどな。みんなに好かれたいもんや、当然やけど。

 

「ん… もう話が済んだみたいやな」

「そうですね… あの2人も、どこかに行く… みたいです」

「ほんなら、ウチらもアトリエに行くか」

「ですね」

 

 

 

「よしっ、しゅっぱーつ!」

 

 翌朝、また旅立ちの時や。ここは町でもなんでもないし、留まる理由もあらへんからな。ウサギも捕れんし、ちゃっちゃ抜けてまおう。

 

「その前に… 朝ごはん食べてからにしましょう?」

「…よしっ、出発やめ!」

「フィリスは朝から愉快ね…」

「あの… アカネさん、これ、です…」

「おぉ、昨日のか… ええ服やな、ホンマに借りてもええんか?」

「はい、何着かあるので…」

「…今、試しに着てみてもええか?」

「はいっ、もちろん」

 

 昨日聞いた服やな… サイズは良さそうやし、コートやからオーバーサイズでも問題あらへんな。モコモコしとって暖かそうやし、ワンピースの上から羽織らしてもらおか。濃くて暗い緑色… 常盤(ときわ)色って名前やったか? 昔にこういう色を使う機会があってな、記憶の中にあるんや。 …あんま覚えとらんから勘違いやったら恥ずかしいけど。

 

「どう… ですか?」

「うん、動きやすいわ。ありがとうな」

「よかったです… これで雪原も、大丈夫…」

「…ホンマに大丈夫やろうか。コート1枚で雪原… まぁ、行けるか…?」

「雪山を舐めないほうがいいぞ。 …もっとも、まともな防寒着は誰も持っていないようだが」

「アトリエがあるから大丈夫じゃない? それに、寒ければアタシが焼いてあげるわよ」

「いふふぁんのふぉのほははへもはへへないんはない?」

「フィリスちゃん、飲み込んでから喋りましょう?」

「…イルちゃんの炎は誰も耐えれないんじゃない?」

 

 …ふふっ。このアトリエも、騒がしくなったな。何かしたら誰かが触れてくれるし、声が絶えん楽しい場所になってきたわ。 …シャノンには大変かもしれんけど、こうやって話を聞いとるだけでも少しはみんなに慣れていくんやないかな。 

 

「わかってると思いますけど… ヴァイスラークは雪原の町ではありませんからね。あまり着込んでも、かえって暑いかもしれませんよ」

「せやなぁ… まぁ、暑かったら脱げばええだけやから」

「ですね… わたしも、羽織っておきます」

「わたしも寒い場所用の服とかあったほうがいいのかな…」

「ふふっ、そうね。フルスハイムのときみたいに、またその時が来たら、そこで買いましょう?」

 

 …それ、服屋に着ていく服がないみたいな状態にならんか? 寒い場所に行ってから買うんじゃ行くまでがキツイ気もするが… 子供は風の子やし、大丈夫か。きっと、寒いのなんのよりも雪にはしゃいでる気がするわ。 …ウチも、今でも雪見たら楽しくなってくるもんやからな。

 

「…みんな、食べ終わったかな?」

「あぁ」「大丈夫やで」「大丈夫よ」「終わってます」「行けるわよ」

「それじゃあ、今度こそ、しゅっぱーつ!」

 

 

 

「司書さーん、この書類なんですけど…」

 

 ファタリア山麓から少し歩いたら、すぐにヴァイスラークに辿り着いたわ。ほんで、今おるのはヴァイスラークの中の見聞院や。たくさんの本がある図書館みたいな場所やけど、こんなに本が多いと目当ての本を探すのも大変そうやな。 …まぁ、そんな時のために司書さんがおるんやろうけど。

 

「ふ〜む…」

「イル、何か読みたい本でもあるんか?」

「えっ? あぁ… 錬金術の本、勉強用にと思って」

「ほぉ… イルって自分で天才って言うくらいやし、勉強なんてせんでも何でもできるんかと思ってたわ」

「そんなわけないでしょ!? 天才でも、勉強しないと錬金術は使えないわよ。それも子供の頃から、朝から晩まで、ずっと釜と机に向かってね…」

「そ、そうよな、簡単に使えるわけあらへんよな…」

 

 天才というより、秀才って感じの努力家なんやな… 錬金術って素人には理解もできんほど難しい学問やろうし、道具を作ったりできるだけでも相当の才能があるんやろうから、天才ってのもあながち間違いではなさそうやけど。ただ… ホンマの意味での天才は、フィリスなんかもしれんな。

 

 ソフィーさんの教え方が上手かったとはいえ、初めて数日で調合をどんどん成功させて、4ヶ月ほどで船を作るほどや。 …それより、推薦状か。3人の公認錬金術士に認められるだけの実力を、こんな短期間で会得しとる。フィリスも努力家やと思うけど、イルの話からして、こんなにすぐ上達するんは普通やない。ウチらは他の錬金術士を知らんから普通に感じとるだけで、天才なんやろうな。

 

「…そういえば、他のみんなは?」

「ん? あぁ… どこ行ったんやろうな」

 

 見聞院にいるんは、ウチとイルだけか。フィリスも、落とし物だけ届けたらどっか行ってもうたみたいやな。 …リアーネさんはフィリスの側やろうし、レヴィさんも心配いらんけど、シャノンが心配やな。

 

 …最近ずっとシャノンのこと心配してる気がするわ。シャノンも大人やし、こんなに心配かけんでええんかな…

 

「おっ、イル。錬金術のこと書いてそうな本あるで」

「へぇ……… これ、借りられるかしら」

「それは司書さんに聞いてみんとわからんけど… 何か気になることでも書いてあったんか?」

「えぇ、興味深いわ。 …あの石橋を直せるかもしれない道具、“アルハイルミテル”に関して書いてあるのよ」

「クラーデル平原の南の橋を、か?」

「そうよ。これさえあれば… あの橋を直せるかもしれないわ」

 

 橋を直す道具、ウチには見当もつかんな。

 

 …いや、知っとるかもしれん。初めてソフィーさんと会ったとき、壊した扉を直す道具を使っとったよな。橋と扉が同列なんかはわからんけど… もしかしたら、同じような道具かもしれんな。

 

「…少し読み込むわね」

「ほんなら、ウチは別の本探してくるわ」

 

 イルはその… アルハイルミテル? の作り方を調べるみたいやし、他に面白い本でもないか探してみるか。さーて、何かウチでもわかるような簡単で惹かれる本はあらへんかな〜?

 

 

 

「………異世界転生のススメ、か」

 

 昔なら、こんな本に興味はなかったやろうな。今が幸せやと信じとるし、異世界に興味なんてあらへんかったから。それに、きっとこの本にも大したことは書いとらん。根拠のない推論ばかりの本なんやろうけど… それでも、読まなあかん。もしも、もしも、どこかに小さな文字でやったとしても、真面目な話が書いてあったとしたら、それを見逃すわけにはいかんから。

 

 

 

 

 

「…ダメやな」

 

 真剣に一冊読み切ったんやけど、残念ながら惹かれる話はなかったわ。どうやったら異世界転生できるのか、もしも異世界転生したらどうするべきか、みたいな話ばかりの本やった。前者は夢だとかなんだとか意味わからんし、後者は参考になりそうなもんやけど、転生した身で言わせてもらうと間違いばかりやな。いつ転生してもいいようにカバンに大切なものを入れておくとか、無茶苦茶や。ウチ、寝てたら身一つで転生させられたからな?

 

「アカネさんって、異世界転生したことあるんですか?」

「ある… ん? あぁ、シャノンか。急にどうしたんや?」

 

 あっぶない… 思わずあるって言いそうになったわ。 …隠しとく必要もないんかもしれんけど、この本には隠しといたほうがいいって書いてあったからな。間違いばかりの本って切り捨てたばっかやけど、ここだけはウチの考えと一致しとる。広まれば面倒なことになるやろうし、異端とされるかもしらんからな。

 

「えっ、アカネさん… やっぱり…?」

「冗談やで、そんなわけあらへんやろ?」

「でも、アカネさん… 読んでるとき、その…」

 

 …これ、ウチやったか? 黄色やなくて、既に赤信号か? …やばいか?

 

「う、ウチ、何か言っとたか…?」

「その… 嘘ばっか、とか… 違うって、しきりに否定してたので、その… 詳しい方なのかなって、思って、横で聞いてたんですけど… 今、あの… したことあるって…」

「………」

 

 …こういう本を読むのはもうやめるか。ウチって何かしとると周りが見えなくなってまうし、絶対にやめんとな。気になってもダメや、そうせんと、取り返しがつかんことになる。 …既に今もなりかけとるけどな。

 

「えっと… わたしは、その… だっ、誰にも言いません! それに、その… 気にしたりも、しないですし、大丈夫です!」

 

 …どうする。正直に言うなら、今しかない。シャノンはこう言ってくれてるし、正直に言ってまうか? 隠す理由も、それほどない… せやけど、目ざとい奴が嗅ぎつけて何かしに来るやもしれんし、広めたいことやない。シャノンを巻き込んでまうのも忍びないし、隠せるなら隠したい… けど、ここまで来てシャノンに嘘をつくのか…?

 

 …ウチは、1つ心に決めとることがある。迷ったらな… 仲間を、信じるってな。

 

「誰にも、言わんでくれよ」

「じゃ、じゃあ、やっぱり… わかりました、言いません」

「…頼むわ」

 

 …シャノン以外には、バレんようにせんとな。バレて気を使われるの(ん)も嫌やし、騒ぎに巻き込んだりすんのも嫌やから。

 

「…アカネさん。その… 何かあったら、言ってください。転生って、よくわかんないですけど… 大変なこととかあったら、頼ってくださいっ」

「わかった、頼らせてもらうわ。 …シャノンも、何かあったら言うんやで?」

「はい… お世話になります」

 

 ウチは、シャノンを信じよう。 …いつかは、みんなにも伝えんとな。少なくとも公認試験が終わって、全てが落ち着いてからやけど…

 

 …気をつけんとな。下手な言葉を溢さんように…

 




やることメモ
  0.エルトナ
  1.エルトナ周辺
 →2.湖の向こう側
  →1.クラーデル平原・ヴァイスラーク
    1.2人の炎
    2.怖いもの知らず
   →3.ヴァイスラークにて
    →1.見聞院で溢れた言葉


 シャノン… ウチは、信じるからな…!
(アカネ)

 見習いの身ですが、騎士として… 信頼に応えます!
(シャノン)

 …アタシが本読んでる間に何があったの?
(イルメリア)
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