アカネのアトリエ〜不思議な色の錬金術士〜   作:緑雨

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あらすじ

 クラーデル平原で拾った落とし物を、ヴァイスラークの見聞院に届けました。それと、アカネさんから… 初めて、過去の話を聞きました。


うにと刃と錬金術

 

「フィリス、これ」

「ん…? これ… 何かのレシピ?」

「アルハイルミテル、建物を直す道具よ」

「建物を直す道具…!? イルちゃん、そんなレシピも知ってるんだ…! すごいね!」

「ふふん、そうでしょ? …でね、これを使えば、クラーデル平原のあの橋も直せるかもって」

「たしかにっ! イルちゃん、作っちゃおう!」

 

 見聞院でイルメリアちゃんの調べごとが済んでから、わたしたちはヴァイスラークを巡ってフィリスちゃんのアトリエに来ました。

 

 …そうだ、挨拶しないといけませんね。誰に… なのかはわかりませんが、しないといけない気がします。わたしはシャノン・アトキンス、フィリスちゃんの旅に同行している見習いの騎士です。 …いつかは、一流の騎士になりたいと、そう思っています。

 

 フィリスちゃんは、イルメリアちゃんとアルハイルミテルを作るみたいですね。それが完成したら、またクラーデル平原に戻って、今度こそ南に向かうことになりそうです。

 

「シャノンさん、晩ごはんに食べたいものとか…」

「えっ!? えっと… な、なんでも、大丈夫です…」

「…わかりました。フィリスちゃんはなにか…」

「お肉!」

「…そうよね、うん」

「暇やし、ウチも手伝うわ」

 

 …ダメ、ですよね。聞かれたことには、ちゃんと答えないと。そう、わかってはいるんです… でも、なんて答えればいいのか、わかんなくて… うぅ…

 

 …アカネさん、お元気で良かったです。その… はい。わたし、聞いちゃいけないことを聞いてしまったみたいなので… でも、聞いてしまったからには、覚悟を持って応えようと思います。騎士たるもの、人を守るのが務めですから… 秘密だって、守ってみせます。

 

 …異世界転生がどういったものなのか、あまり詳しくはありません。ですが… アカネさんが描いた絵画も、今までとは違う思いで見てしまいますね。この絵画は、ただの昔の思い出ではない。この世界のどこにもない、アカネさんしか知り得ない風景を遺したかった… そんな気がしてなりません。

 

 …フィリスちゃん、この絵画に描かれた家を見つけて、アカネさんの家族と話したいと言っていましたよね。その夢も、きっと… 叶うことは、ないんですよね。少し… 悲しい気もします。もっとも、一番悲しく、寂しく、虚しいのはアカネさんだと思いますが…

 

「シャノン、ぼーっとしとるなら手伝ってもらってええか?」

「はっ、はい!」

 

 

 

「ここは… こう?」

「そうね、そうして… こっちを…」

 

 晩ごはんのステーキを食べて、フィリスちゃんとイルメリアちゃんの錬金術を見守っています。見たところでわたしにはわかりかねますが… 素材の投入順や投入の仕方、錬金釜のかき混ぜ方なんかを話し合いながら進めているみたいです。

 

「…私は、もう寝ますね。アカネさん、2人の見守りはお願いします」

「ういよー」

「俺も宿屋に戻る。出発するときは教えてくれ」

「はーいっ!」

「フィリス、よそ見しないで」

「あっ、うん」

 

 わたしも宿屋に… いえ、宿屋に泊まるのはやめますか。宿屋で、人で眠るのは落ち着きますし、楽ですけど… アトリエにも、ベッド代わりのソファーがあります。眠りやすくはないですが、眠ることはできます。野宿よりは快適ですし、苦ではありません。

 

 わたし、人見知りを治したくてこの旅に同行させてもらってるんです。それなのに、逃げてばかりではダメなんじゃないかって、思うんです。 …そうはいっても、面と向かうと勇気が出ないんですけどね。でも、だからこそ、少しでもみんなに馴染むために… このアトリエに、少しでも長くいたいんです。 …寝るだけで、意味があるのかはわかりません。でも、こうやって同じ建物で眠ってたら… 仲間って、感じがしませんか?

 

「アカネさん、このソファーお借りしますね」

「ん? あぁ、好きにしてええよ。ウチはこっちで剣磨いとるから」

 

 いつも、アトリエで眠るときは食卓のある部屋のベッドを使わせてもらっています。元はアカネさんが休むのに使っていたそうですが、『どうせウチは眠れんから』といつも借りています。 …アカネさんは、目を閉じても眠れないんですよね。どれだけ眠りたくても、眠ることができない… どんな感覚なのか、想像もつきません。

 

「…おやすみなさい」

「おやすみー」

 

 …今日は、疲れました。ずっと町にいたのに、新しいことが多くて… 明日は調合待ちでしょうし、ゆっくり休みましょう。 …考えたいことも、多いですから。

 

 

 

 

 

「フィーリスっ、調合って後どんくらいかかるんや?」

「ん〜… 1日くらい?」

「おぅ… そうか…」

 

 翌朝です。また、フィリスちゃんたちの錬金術を見守っています。今は… “黄金樹の葉”を釜に入れたみたいです。黄金でできた樹につくとされる葉っぱですが、気になりますよね。黄金が欲しいわけではないですけど… そんな不思議なものがあるなら見てみたいと、そう思います。

 

「…シャノン、暇ならやりたいことがあるんやけど、手伝ってもらってもええか?」

「はい、もちろん」

「内容を聞かなくてもええんか?」

「えっ… はい、アカネさんの頼みなら…」

 

 …何をするんでしょうか。採取か、魔物討伐でしょうか? …そんな普通のことなら、こんなにもったいぶったりしませんよね。 …何をさせられるんでしょうか?

 

「前にリアーネさんから聞いたんやけど、うにのトゲって必ず4の倍数らしいんや」

「わたしも、聞いたことがあります。 …それが、なにか…?」

「ウチは今から、うにのトゲを全て抜いて数える」

「えっ… 本気、ですか?」

「本気の本気や。 …で、ホンマに手伝ってくれるんか?」

 

 うにのトゲ… 何本なのかはわかりませんが、ものすごく多いのは間違いないですよね。うにの殻の全面にトゲが生えてますからね。それを、1本ずつ抜いて数える… 途方もない作業だと思います。やりたいかと言われたら、違いますけど…

 

「…わかりました。わたしも、お手伝いします」

「ホンマか!? …ほんなら、頼むわ」

 

 やることも、なかったですからね。少し気にもなりますし… それに、騎士たるもの、どんなことであったとしても、人の助けになるのであれば、進んで行う覚悟はしています。 …うにのトゲ数えであっても、アカネさんの助けになるというのなら…

 

「…頑張ります」

「使うのは… このうににするか。抜いたら並べて… 20本ごとに糸で縛ってこうな」

「わかりました、20本ごとですね」

 

 ふぅ… 気合い入れて、頑張りましょうか。

 

 

 

 

 

「…終わったな」

「疲れましたね…」

「どうだった!?」

「…フィリス、気になるのはわかるけど手は止めないで」

「あっ、ごめん…」

 

 …長い戦いでした。途中でお昼休憩が入るほどの長期戦の末に、何とか全てのトゲを数えることができました。 …もう、やりたくはないですね。次にアカネさんが近いことを言い出したときは、勇気を出して止めたい… ですね。

 

「4の倍数やったよ、本当だったみたいやな」

「はえ〜… 何本だったの?」

「1332… であっとるかな?」

「はい… そうだと思います」

 

 …20の束が多すぎて、とっさに何本かはわからないほどですね。でも、4の倍数なのは間違いありません。最後に残ったのが12本でしたから。 …途中で数え間違いを起こして、19本の束がなければ。

 

「…疲れてきた。イルちゃん、ちょっと休んでもいい?」

「わかったわ、アタシがやっておくから」

「2人やと、そうやって休めるんか」

「徹夜しなくていいから、すごい楽…」

「…大変そうやったもんな」

「うん…」

 

 船造りの最後、特別な炉を作るのも見守っていましたから、錬金術の大変さはよくわかっているつもりです。あのときはたしか… 3日、休まずでしたよね。自分よりも年下の少女が、3日も眠らずに釜を混ぜ続けているのを見ると、すごく… 頑張らないといけないなと、そう思わされました。 …わたしも不眠不休で働く、というわけではないです。

 

「完成したときのために、ウサギのローストを準備しておかないといけないわね…」

「好きやもんなぁ… そいや、シャノンって好きな食べ物とかあるんか?」

「えっ? えっと… 特に…」

「そうか… ほんなら、いろいろ食わしてみるか…」

「そうですね… 何か好きなものを…」

 

 …小さな声で話しているので、あまりはっきりとは聞こえませんでしたが、わたしは何かされるのでしょうか。その… 食べ物は、何でも食べます。美味しいものであれば当然ですが、そうでなくとも、どんなものであっても残さず… その心が、大切だと思うので。

 

 …今日は、何の騒ぎもなく、良い一日でした。何も起きないということは、平和が守られていた、ということです。騎士として、そういった時が続くことを望んでいます。 …ふふっ。少し、気取りすぎでしょうか。

 

 

 

 

 

「かんせ〜い!」

「ふぅ… 予想よりも早く終わったわね♪」

 

 翌朝、2人はアルハイルミテルを完成させたみたいです。アルハイルミテルは、建材みたいな見た目なんですね。六面体に線が刻まれている、石材みたいです。 …四角錐台(しかくすいだい)と言うんでしたか? 見聞院で見た本に、そんなことが書いてあった気がします。 …わたしも、橋を直し方が気になって少しは調べていたんですよ。途中でアカネさんに気づいて、本を戻してしまいましたが…

 

「お疲れさま。2人とも、ご馳走が用意してあるわよ?」

「うっさぎっのローストー!」

「それと、ホールケーキ… 美味しそうじゃない♪」

「ウチが夜な夜な作ったケーキやで、見聞院でレシピも調べたから完璧なはずや」

「美味しそう…」

「ふふっ、シャノンさんも、みんなで食べましょう?」

 

 人数分のウサギのローストに、甘露の実が乗った生クリームのホールケーキ… いただきます。

 

 …フィリスちゃんと旅をしていると、ウサギのローストを食べる機会が多いですね。お肉自体は脂身も少なくて淡白な味なんですけど、リアーネさんの作るソース… つまり、ミストルート家に受け継がれてきた味がわたしの舌に合うのか、とても美味しいんです。

 

 …いただきます。噛み締めてきますね。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした〜♪ よーっし、また調合だーっ!」

「えっと… フィリスちゃん、今度は何を作るんですか?」

「ん〜? シャノンさんの為の槍を作ってるよ」

「わたしの槍… ですか?」

「うん! 新しい武器なら、シャノンさんがもっと強くなるはず!」

 

 槍… 騎士たるもの、武器の手入れは常にしているつもりです。ですが… 武器そのものを変える、というのは考えたことはありませんでした。今の槍が手に馴染んでいましたし、魔物に敗れたとしてもそれはわたしの力不足だと、そう思っています。その思いは、今も変わりませんが… たしかに、武器を変えるのも必要なのかもしれません。

 

 これから先、きっと魔物はどんどんと強くなります。グリフォニアンはみんなで力を合わせ倒しましたが、ライゼンベルグ近郊の魔物には勝てないかもしれません。相手が誰であろうと、守り抜く覚悟はありますが… 守るだけでなく、倒さなければ素材は手に入りません。錬金術には上等な素材が重要ですからね。

 

「武器ね… アタシも何か作ろうかしら?」

「…作るもんないんやったら、頼んでもええか?」

「いいわよ、何が欲しいの?」

「ウチ、ちゃんとした武器あらへんから、細剣お願いしてもええか?」

「…それは違うの?」

「ん? あぁ、これか? 違うよな、シャノン」

「そう… ですね」

「?」

 

 そうですね… アカネさんの細剣は、材質、鋭さ共に武器にしか見えませんが、プラフタさんいわく装飾品らしいですから。 …どうして武器じゃなくて装飾品なのかは、未だによくわかっていません。そういうこと… なんだと、思うようにしています。

 

「ちゃんと説明すると、この剣には装飾品に付けるような特性が付いとるんや。せやから、これを腰に着けたまま戦えるようの細剣も欲しいなぁって思ってとるんや」

「…なんとなくわかったわ。材料作りからになるけど、いいかしら?」

「もちろんや、必要なもんがあったら採ってくるで」

「そうね… フィリス、コンテナの中見せてもらうわね」

「いいよー! 好きに使ってね♪」

 

 イルメリアちゃん、もうレシピが浮かんでいて、必要な材料も見当がついてるみたいですね… …わたしも、これくらい仕事ができるようにならないと。錬金術と騎士の仕事は違いますけど、取り組む姿勢は見習わないといけません。 …そもそもわたしは、騎士としても見習いですけどね。

 

「…質の高いアイゼン鉱が欲しいわね。ヴァイスラークで採れると思うから、集めてきてもらえる?」

「わかった、行ってくるわ」

「わたしも、お供します」

「いってらっしゃーい!」

 

 鉱石の採取に関しては、少し自信があります。イルメリアちゃんとアカネさんのためにも… この力で、岩塊を砕き鉱石を取り出してみせます…!

 

 

 

「…シャノン、こんな石見たことあるか?」

「いえ… ここまで黒い石は、初めてです」

「よなぁ… 玉鋼石ともちゃうもんな」

「はい。こんなにガタガタではなかったはずです…」

 

 岩を砕くと、見慣れない石を見つけました。吸い込まれてしまいそうなほど真っ黒で、凹凸(おうとつ)が激しくガタガタとした形の石です。金属らしい光沢もないので、ただの石でしょうか…? でも… どことなく、不思議な雰囲気を放っています。

 

「持って帰ってフィリスに聞いてみるか」

「そうですね… フィリスちゃんなら、知ってるかも… しれません」

 

 錬金術の素材なら、イルメリアちゃんも知っていそうですが… フィリスちゃんは、錬金術に関係ない鉱石でも知っていますからね。鉱石の声も聴こえるらしいですし…

 

 …わたしも、聴いてみたいですね。鉱石となら、緊張せずに話せる気もしますから。 …鉱石とも話せなかったら、わたしはもう何とも話せないかもしれません。

 

 

 

「これは… “漆黒の星の石”だね」

「…フィリスが考えた名前か?」

「ちゃんとした名前よ。錬金術の素材として結構貴重で、価値の高い鉱石よ」

 

 漆黒の星の石… 名前からして、格の高そうな素材です。漆黒は見た目の色の通りですが、星… 特に星の模様もありませんし、そのものの形も星形ではありません。錬金術の道具もそうですが、名前の由来はわからないものが多いですね…

 

「…せっかくだし、使わせてもらうわね。ちょっとレシビを書き換えるわ」

「そんなことも… できるん、ですね」

「まっ、アタシみたいな天才ならね♪」

「わ、わたしだってできるよ〜? …たぶん」

「それなら、槍づくりにこの石を使うとき、フィリスはどうするのかしら?」

「え? えっと、え〜っと… “シルヴァリア”を作るときに、今はクプルフ鉱を3つ使ってるけど、代わりに使う…?」

「それもいいけど、より効果的なのは…」

 

 …難しい話が始まってしまいました。シルヴァリアは銀色の延べ棒だったはずなので、武器のもとになる素材ですね。つまり… 武器のもとになる素材を作るときに使う素材を置き換えて質を高める、という話でしょうか。 …錬金術は難しいですね。自分にはできないから、尚更そう感じます。

 

 武器作りはまだまだ時間がかかるようですし… 明日は見聞院に行って錬金術を学んでみるのもいいかもしれません。実際に行うのは無理でも、知識があれば役に立つかもしれませんし…

 

 …明日のことは、明日考えればいいですね。今は少し疲れましたし、休みましょうか。

 




やることメモ
  0.エルトナ
  1.エルトナ周辺
 →2.湖の向こう側
  →1.クラーデル平原・ヴァイスラーク
    1.2人の炎
    2.怖いもの知らず
   →3.ヴァイスラークにて
     1.見聞院で溢れた言葉
    →2.アルハイルミテル


 …もう、うにのトゲは数えません
(シャノン)

 ウチも、もうええかな…
(アカネ)

 そんなに大変なのね…
(リアーネ)
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総合評価:852/評価:7.68/連載:26話/更新日時:2026年11月07日(土) 00:00 小説情報


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