外に出るためにやることが全部終わって、旅立ちの時や!
「地図は持った、ハンカチも持った。 …よし、準備ばっちり」
「フィリスちゃん。外に出るの、いよいよ明日だね」
「はい! …えへへ、すっごく楽しみです! ちゃんと眠れるか心配なくらい!」
「楽しみなんはわかるけど、ちゃんと寝なあかんよ? 旅立ち初日に寝坊なんてしたら、いやーな思い出になってまうからな」
3月末、いよいよ旅立ちが明日に迫ってきたわ。フィリスは旅立ちの許可をもらってから、ずっとアトリエで錬金術の勉強と、旅立ちに向けた準備をしとった。“医者いらず”も、“エルトナ軟膏”も、“フラム”も、沢山作っとったよ。 …まぁ、1年旅するには足りないんやろうけど、それでも当分は困らなさそうや。
もちろん、ウチも出来る限りの準備は済ませたで。プラフタ先生に教わりながら、採取の練習もしたし… 材料の品質とか、特性とかを習ったんや。当然やけど品質の高い材料なら品質の高い物が作れるんやけど、特性っていうのも材料にはあるらしくてな。力が増したり、使える回数を増やしたり、破壊力が増したり、色々あるらしい。せやけど、特性はウチには欠片もわからへんかった。フィリスには感覚的にわかるらしいし、材料の声を聴かなあかんのかな?
「…ねぇ、フィリスちゃん。旅に出る前に、ご両親に挨拶しなくていいの?」
…さっき言ったとおり、フィリスはずっとアトリエにおった。採集に出かけることはあっても、家には帰らんかった。旅立ちの前日になっても、実の親と仲直りできとらんのや。ウチとしては、何とか仲直りしてほしかったけど…
「いいんです、どうせお小言言われるだけだし。二人なんか、知らないもん」
「……むぅ」「……そっか」
「明日は早いから、ゆっくり休んでね。お休み、フィリスちゃん」
「また明日、ちゃんと起きてくるんやで?」
「…はい。お休みなさい、ソフィー先生、アカネさん」
「…何とかならへんでしょうかね」
「…仲直り、してほしいなぁ」
「…祈ることしか、できないんやろうか」
「大変お世話になりました。ありがとうございましたっ!」
「ウチも、ほんまにお世話になりました。とても、助けられました」
「いやいや、礼を言うのはこちらの方じゃ。フィリスによくしてくれたこと、御三方には大変感謝しますぞ」
もう、扉の前に来てもうた。旅に出る5人が全員揃ってるし、もう時間は殆どあらへん。そして、ご両親はお見送りに来ておらん… 来てくれ、何か話す時間を設けてくれって願っても、もう旅立ちの時は迫ってもうてる。 …わざと寝坊して、話しに行く時間を稼げばよかったやろうか。
「……?」
「フィリス? 何か探し物ですか?」
「…いえ。何でも… ないです」
「………」「…っ」
「扉を開けるぞー!」
…扉が、開いてまう。ずっと開いてほしいと願っとったけど、今だけは開かないでほしいと願ってしまう。フィリスだって、両親に挨拶したいんやろ…? …ウチが、背中を押してやるべきやろうか。
「…気をつけていくんじゃぞ」
「…あ。はい、行ってきます」
「ちゃんとご飯は食べるんだよー!」
…フィリスが、扉に向かって階段を登っていく。後少し登ったら、もう扉に辿り着いてしまう。絶対に、このままじゃあかん。せっかくの旅立ちなんや、フィリスのこころに悔いを残したない!
「フィリスちゃん」「なぁ、フィリス」
「いいの?」「いいんか?」
「…え?」
「本当にいいの?」「ホンマにええんか?」
「…っ!」
フィリスが、扉に背を向けて、町の中に向けて走って行った… 両親に、挨拶しに行ったんやな。 …ふふっ、やっぱりな。知らないとか言っとったけど、やっぱり大切な家族やもんな。ちゃんと、話してくるんやで!
「…少し、待ちましょう」
「せやな、気の済むまで待とう」
「…ありがとうございます、ソフィーさん、アカネさん」
それからウチらは、フィリスが帰ってくるのを待った。見送られた後に扉の前で待つんは、ちょっとだけ小恥ずかしくもあったけど… それ以上に、嬉しさがあった。心残りなく、後腐れもなく、万全な状態で旅立てる。
家族と喧嘩したままなんて、ウチだったら耐えられんからな。
「お外だー! 広がる青空、どこまでも続く大地! わたし、本当にお外を歩いてるっ!」
「こんな荒野やったんか…」
エルトナの外は風が吹き荒れる荒野やった。乾燥しとるし砂煙も舞っとって、ウチ的には最悪やけど… フィリスは楽しそうやな。荒野の景色も、フィリスにとっては初めてやもんな… ウチも教科書とかで見たことあるだけで、実際に荒野に来るのは初めてやけど。
「わぷ… 先生! 今のは!?」
「え? 今のって… 風のこと…?」
「今のが風…! わたし、知ってますよ! 風って世界中を旅してるんですよね!」
「そうやで、風は世界中を自由に旅しとる」
「わたし、風になりたい! 風みたいに、世界中を旅してみたい! あはははは!」
「…ずいぶんとご機嫌なようですね」
「ええ。ずっと憧れてた、外の世界なんです。きっと嬉しくて仕方ないんでしょう」
せやな… フィリスに聞かんでもわかる、声も動きも絶好調やもん。楽しげに躍っとる声、ウチらを置いて跳びはねながら走って行く後ろ姿、嬉しい以外にありえへんよ。フィリスを見とったらウチも楽しくなってきたわ。ちょいと追いかけよ!
「フィリス、どうや、気持ちええか?」
「うん! すごい、すごいよ!」
「せやけどなフィリス、世界にはもっと緑が多い場所とか、水が多い場所とか、燃えとる場所もあるんやで〜?」
「早く、行ってみたい!」
きっとこの道の先には、森林も海も火山も、何でもあるはずや。木々の隙間を抜ける風、水面を跳ねる魚達、吹き上がる火山の熱気、フィリスはきっと楽しんでくれるやろうなぁ。ウチも火山とかは行ったことあらへんし、楽しみや。
「フィリスちゃん、アカネさーん!」
「はい? なんですか?」「どうしました?」
「あたしたち、ここで二人とお別れしようと思うんだ」
「っ…」「えっ…」
ソフィーさんも、公認錬金術士試験を受ける為に旅をしとるわけやし、付き合わせるわけにはいかんよな… ウチらも目的地は同じやけど、ウチらに付き合ったせいで間に合わなかったら目も当てられんし、ソフィーさん達なりに辿る道は考えてあるやろうし…
…次に再開するんはライゼンベルグやろうか。錬金術の話も勉強になるし、何よりプラフタ先生には教えてもらいたいことはまだまだ沢山あるんやけど… ともあれ、笑顔で再会できるようにせんとな♪
「え、えええ!? どうしてですか!? わ、わたし、何か悪いことをしちゃいましたか…?」
「そうじゃないよ。フィリスちゃんの為に、プラフタと決めたの」
あ、試験の為やあらへんかった。フィリスの為… 良くわからんけど、可愛い子には旅をさせよ的な話やろうか。
「あなたは既に、錬金術の基礎は修めています。ここからの成長に必要なのは、より多くの経験と閃き」
「つまり、もっともーっといろんなことをやってみるのが大事ってこと! でね? そのためには、あたしたちがいると邪魔になるかなって思ったの」
「そんなことないです! 先生がいないと、わたし…!」
「ううん、フィリスちゃんならもう大丈夫。だって、フィリスちゃんは自分の力で外に出られたんだから。 …ね?」
「…はい。今まで… ありがとう… ございました…!」
…辛いよな。たった1ヶ月の関係やけど、濃密な1ヶ月やったし、フィリスにとってソフィーさんは全てを変えてくれた恩人や。そら、別れるんは辛いよな…
「え、ちょっと! 泣くほどのことじゃないよ!? もう二度と会えないってわけじゃないんだから!」
「その通り。この道が見えますか、フィリス」
「ぐすっ… 見えます、けどぉ…」
「この道に沿って歩けば、いずれライゼンベルグという都市に辿り着きます。そこは公認試験が開かれる場所。つまり、私達の共通の目的地」
「あっ… ってことは…」
「そう! 同じ場所を目指してるんだから、あたしたち、またいつか会えるんだよ。だから泣かないで、今は笑ってお別れしよう」
「…はい!」
せやな、何事も笑うのが1番や。次会うときまで、笑えん時もあるやろうけど、笑って再会できるように、頑張らんとな。
「うん、それでこそフィリスちゃんだよ。それじゃあ、これ」
「えっ、アトリエやん…!?」
「先生のアトリエ…!? いいんですか!?」
「うん、あたしのことは大丈夫! これはフィリスちゃんが持っていって」
「本当に何から何まで… 先生に頼りっぱなしですね、わたし…」
「いいんだよ、頼っても。だってあたしはフィリスちゃんの先生なんだから」
「アトリエの中に、アカネへのプレゼントも置いておきました。それは私からの餞別として、受け取ってください」
「あっ、ありがとうございます!」
ウチへの餞別…? 何やろう…
「直接渡せばよかったのに…」
「いいんです!…こほん。それでは、私達はそろそろ行くとしましょう」
「そうだね。またね、3人とも!」
「お元気で。あなたが立派な錬金術士になること、期待しています」
「はい! 絶対に、また会いましょうね!」
「ウチらが絶対に連れていきますから、楽しみに待っとってください」
「また、道の先で」
遠くへと進んでいく2人を見送って、ウチらも歩き出す。ウチと、フィリスと、リアーネさん。3人で、絶対にライゼンベルグに辿り着いて、ソフィーさんに成長したフィリスを見せる。
こっからが、冒険の始まりや!
やることメモ
→0.エルトナ
1.来訪者
2.錬金術を知ろう
3.お外に出る為に
4.最後の課題
→5.いざお外へ!
ライゼンベルグまで、楽しい旅にしような
絶対に、辿り着きましょう!