【オルステッド視点】
ルーデウス・グレイラットは今回のループにおける特異点だ。
ヒトガミの使徒である疑いがあったため、一度は殺したが、
ナナホシの助言で回復させた。
やつには自分の呪いが効かない。
ナナホシ同様、特別な何かがあるのだろう。
あれだけの魔力量を持ちながら、他のループではその名を聞いたことがなかった。
ましてやあのアイシャ・グレイラットとノルン・グレイラットの兄だ。
二人とも重要人物である。
故に俺がこれまで知らなかったのは不可解だ。
例の転移事件がなければ確実に死んでいたということなのか。
次のループでは幼い内に会いに行ってもいいかもしれんな。
戦力になるかもしれない。
そう思っていた男に会う機会があった。
ナナホシから呼び出しがあったのだ。
俺の助けが必要な時に使えと渡した指輪から反応があった。
何かあったのかと向かってみるとシャーリア付近の小屋の中に指輪は有った。
ルーデウス・グレイラットと共に。
最初に、ナナホシが書いたという手紙を渡された。
そこにはこう書かれていた。
ドライン病で死にかけたこと。
ルーデウス・グレイラットに命を助けてもらったこと。
友人である自分の為に魔王アトーフェに命懸けで挑んでくれたこと。
そんな恩人が困っているから助けて欲しいということ。
都合の良いことを言ってごめんなさい、という謝辞。
まさか遥か昔に根絶したはずの病で死にかけるとは。
運のない女だ。
そういうことならと事情を聴いてみると、
妻が魔石病にかかったから治してほしいとのことだった。
魔石病か。
神級の解毒魔術で治るはずだったな。
神級の解毒魔術はスペルド族の疫病を治すために習得済みだ。
効かなかったが。
家族のために一度殺された相手に助力を求めるか。
呪いが効かない体質なのであれば、家族の庇護を条件に仲間にできるかもしれない。
ルーデウス・グレイラットの現状については既に調べていた。
ロキシー・ミグルディアとシルフィエットを妻にした、と。
この二人は共にダンジョンを攻略する冒険者の師弟だったはずだ。
生涯未婚の。
それが二人そろってルーデウス・グレイラットの妻とはな。
少し驚いた。
そして、実際に会って話した結果、更に驚いた。
ヒトガミの助言を聞いていたという話の段階で殺そうかと思ったが、
ヒトガミに裏切られたから、敵対する俺に協力すると言う。
ヒトガミはそういう悪辣なことを好む悪神だが、
それにしても長い時間をかけて信用を積み重ねたうえで、
ルーデウス・グレイラットとロキシー・ミグルディアを
何とかして引き離そうという魂胆がみえる。
二人の子孫、いやロキシー・ミグルディアは魔族であるから子供でもおかしくない。
それがヒトガミにとって不都合である可能性がある。
嘘をついているかもしれないが、
目の前の男は、呪いが効かない上に戦力として優秀だ。
あのアトーフェラトーフェ・ライバックと戦って帰ってこれたということは、
実力、知能、人脈、どれも一級品と考えていいだろう。
次のループも見越して、こいつがどの程度使えるか測るのも悪くない。
ザノバ・シーローンとクリフ・グリモルが作ったという義手も使えそうだ。
ルーデウス・グレイラットの魔力量はラプラスをも超える。
魔力を纏う防具……、闘神鎧のような物でも作ることができれば、
神級剣士相手でも真っ向から渡り合えるかもしれん。
俺はエリス・ボレアス・グレイラットの協力を条件に治療を約束した。
鎧の件はあくまで希望的観測。
現状のルーデウス・グレイラットは魔術師ゆえ剣士に弱い。
前衛を補強する必要がある。
以前対峙した時は仲が良さそうだった。
アレは猪武者ではあるが、才能溢れる剣士だ。
ルーク・グレイラットのこともある。
二人が出会い結婚すれば、
アリエル・アネモイ・アスラを王にするのに使えるだろう。
正直、例の転移事件の影響が大きい今回は若干諦めていたのだが、
ルーデウス・グレイラットについて知れば、次回以降優位に働くかもしれない。
もう少し、足掻いてみよう。
後日、ルーデウス・グレイラットはナナホシと同様に異世界からの転移者であると聞いた。
……次回以降は存在しないかもしれんな。
あと、エリス・ボレアス・グレイラットと結婚したとも。
本当にあの転移事件の影響は大きいな。
いや、ルーデウス・グレイラット自体もか。
俺が知る歴史とは大きく乖離している。
とはいえ、手は抜かん。
何が原因で物事が好転するか分からない。
俺はこの2万年以上の旅でそれを学んでいるのだから。
【エリス・グレイラット視点】
空が青い。心は真っ白だ。
先日剣王の名を貰った。
これは、まあいい。
どっちでも。
問題はその後、ルーデウスから届いた手紙の方だ。
偶然近くにいたイゾルデに読んでもらったそれには、こう書いてあった。
『前略 エリス様。
ルーデウス・グレイラットです。
我々が別れてから、早いものでもう五年になります。
私の事を、覚えているでしょうか。
私はあの時の事を、忘れる事はないでしょう。
あなたとの初めての夜。私はあなたと添い遂げようと心に誓っておりました。
しかし、朝目覚めた時、あなたはいなかった。
その時の喪失感、虚脱感は私の心に深い闇をもたらしました。
辛く、切なく、儚い三年間でした……。
無論、今はその事を恨むつもりはありません。
ですが、深く落ち込んだ私の気持ちも理解していただければ、幸いに思います。
さて、こうして筆を取ったのは、
私自身未熟で自分に自信が無かったが故に、
勝手に勘違いしていたのではないかと思ったからです。
実はエリスと私はお互いが思いあっていたのに、
私の怠慢で数年間すれ違ってしまっていたのではないかと。
もしそうであればお手数をおかけして申し訳ありませんが、
一度シャーリアに来ていただくことは可能でしょうか?
きちんと話し合ったうえで、お互いがどういう気持ちなのか、
今後どうなっていきたいのか、相談したいのです。
私には現在、二人の妻がいます。
どちらも暗く落ち込んだ私を救い上げてくれた方です。
エリスとの事が私の勘違いだったとしても、私が深く落ち込んだのは事実であり、
彼女らが私を救ってくれたのもまた事実です。
ですが、もし、エリスが本当に、以前と変わらぬ気持ちでいてくださっているのなら。
私と結婚し、私と一緒に暮らしたいと思ってくださっているのなら。
私はなんとしてでも二人を説得して変わらぬ愛を注ぐと誓います。
エリスが私にとって愛すべき大切な存在であることに変わりはないからです。
もしそれすら私の勘違いで、私のことを友人としてしか思えないということでしたら
一度お会いして昔話をしたく思います。
もちろん旅費は負担いたします。
また、少し困ったことになってしまったので、
もしよろしければエリスの力を借りたいです。
きっとエリスならあの時から更に強くなっていることでしょう。
当然報酬もお支払いいたします。
ギレーヌも一緒であれば、そちらの分もお支払いいたします。
頼りになりますし、昔話もしたいです。
ぜひ連れてきてください。
あなたと会える日を楽しみにしております。
以上です。
ルーデウス・グレイラットより』
既に結婚しているという事実にショックを受けつつもうれしかった。
愛すべき存在という言葉が。
だけれど、後半はどういうことだろう?
お願いがどうとか報酬がどうとか。
イゾルデは
「すでに二人も妻がいること自体がおかしいのに、
軽々しく愛してるなんて書くなんて信用できません!
どうせエリスさんの剣術の腕や、体が目当てなんです!」
と言っている。
ニナが言うには
「かなりエリスに配慮して書いていると思うけど、
後半はまるで冒険者の友人に助けを求めてるみたいな内容ね。
ほったらかしにしたエリスにも責任があるけど、
剣術の腕が目当てってのは間違ってないかも?」
私では判断が付かない。
なので、ルーデウスの言うとおり一度会ってみるべきだろう。
二人の妻にも会ってみて……、なんだ二人の妻って。
私だって元アスラ貴族。
一夫多妻に抵抗があるわけでもないが、
自分が三番目だという事実は簡単には受け入れがたい。
なので会って話をしよう。
それに
「ルーデウスが困っているなら、助けなきゃね」
そのために私は強くなったのだから。
『補足』
エリスが来なかったらオルステッドに殺される
エリスを怒らせたらエリスに殺される
そう思ったルーデウスは物凄くへりくだって自分を悪者にして何とか穏便に協力してもらおうと筆を取ります。ルイジェルドを信じていない訳ではないですが、トラウマの影響もあるので、まだ愛されてるかも?とはあんまり思えません。期待するのが怖いです。なので自分が勘違い野郎になることでエリスの自尊心を満たしつつ、お金で協力してもらおうと思ってます。