「リリは…どこだ?アイツの事だからダンジョンに行ったって言うのは無さそうなんだが…」
「リョウスケさん、こないだぶりですね」
「あん?」
リリルカを探す涼介は後ろから声をかけられ、振り向くと居たのは酒場の店員のシルだった。
「誰かお探しですか?邪魔しちゃったかな」
「…お前の方もなんか用事があったんだろ?なら別に俺に声かけて来ても変じゃないよ」
そういう彼は少し不満げにシルに対処する。
わざとやってる感じではない、無意識のうちから出たモノだろう。涼介が女性にこんな態度を取るのが珍しいからかシルも目を丸くさせる。
「珍しいですね、アナタがそんなに不機嫌さを隠さないのは…もしよかったら相談乗りましょうか?」
シルは笑みを絶やさず彼に提案する。
断るのは容易い…筈なのに、何故か断るのは良くない事の様に感じ取られた。
涼介が断れば彼女は関係を悪くしたくない為に去るだろうだが。しかし、それをしたら取り返しがつかない様になる…そんな予感すら思わせる。
「…じゃあ相談乗ってもらうかな。つまんない話だろうが文句は無しだぞ」
「わかりました~。それじゃそこの喫茶店入りましょう」
そう言ってすぐ近場の喫茶店に入る二人。
―――――
「なるほど…そんな事があったんですねぇ…」
「ああ、俺は追いかけたが、どうすれば良いか自分でも整理しきれてない…」
涼介はシルに話した、自分は守りたかった…無理しないで欲しかっただけなのだと…
それに対しての彼女の答えは今の涼介に刺さるモノだった。
「でもそれって…鳥籠の中に入れて可愛がるのと何が違うの?」
「鳥籠か…」
「そう、鳥籠。今のリョウスケがやってる事ってリリちゃんを守る為に鳥籠に入れて守る…けどね、鳥籠に入って癒されるのは傷を負った時だけ…今の彼女は傷を負ってる?」
「いや…今のリリは健康で元気だ…」
「なら鳥籠から出して上げないと。じゃないと彼女はむしろ動けなくて苦しい筈だよ」
「そうだな…苦しいよな…」
「女の子の心理に詳しいリョウスケならこの後どう接すれば良いか位分かると思うんだけどね」
「ああ…ありがとう」
その礼を聞いたシルは目を丸くさせる。
普段なら軽口の一つでも出てくるだろう彼が軽口無しで対応する…これだけでかなり特別扱いだろう。
それがどうにも少し悔しい…自分はその中に入れないのだろうか?そういう考えがよぎるも、今の自分はそういう立場ではないと自分を戒める。
代わりにニヤニヤとした笑みを涼介に向ける。
「それじゃあ、結構力になったと思うんだけど…この埋め合わせは何してもらおうかな?」
「『シル』に対して出来る事なら何でも」
「大きく張ったね…そんなに彼女が大事?あなたを想う人間としては少し複雑だなぁ…」
これは本音だろう…複雑な心境を吐露する彼女を責める事は出来ない、それだけリリルカが特別だと思わせるものだったからだ…しかし涼介の次の言葉で驚かされる。
「確かに俺にとっちゃリリは大事だ…でもそれだけじゃない、鳥籠に入れてしまう…それを気づかせてくれたお前も大事なんだ、愛しいとさえ思わせる」
「…そう…」
シルは自分の顔が真っ赤であると確信した。
この女たらしのクソボケはあろうことか、自分を愛しいとまで言った…
自分にとってどれだけそれが救いになるか…彼は本能で感じ取ったのかもしれない…この男ならそれをやってもおかしくない。
そう思わせるだけの行動をこれまで取って来たからだ。
彼にとって自分も大切に想う対象である…その一つの事実がシルの思考を削り取る。
彼女ならば酒場で同じ事を言われたら軽くあしらう事が出来る…
しかし、彼に言われたその言葉はシルに昂りを感じさせるのには足りた…足りてしまったのだ。
だからこれから彼女が言う言葉も彼の責任であろう。
「ねぇ、リョウスケ…お願いは決まったよ。それを叶えてくれる?」
「早いな…魔法のランプじゃないが、願い事はじっくり考えた方がいいんじゃない?」
「今の私は…ううん、今の私だから願いたいモノがあるの…」
涼介は彼女が続きの言葉を話すのを待つ。
それが必要な手順だと思った為だ。
「私は、私はあなたにどんな時でも味方になって欲しい。一番じゃなくて良い…けど、私もちゃんと見て欲しい…ダメかな?」
「願いは二つか…いいぞ」
「本当?」
「ああ」
彼は了承した。
本当は自分だけを見て欲しい…でもそうしたら彼の一番の魅力、のびのびとした彼を見る事は出来なくなるだろう。
本当は自分…本当の自分の元に来て欲しいと思った…でも彼はシルに対して出来る事なら、と言った。だから今の私が望んでも良いモノ…それが今の二つだった…
三つ目を願えばよかったのかもしれない…けど、自分の欲しい願いは二つだけ。
だからこれでいいのだ。
そんな事考えていると思い出す、彼に声をかけた理由を。
「そうだ、リョウスケに声をかけた理由…忘れちゃってたよ」
「そういえばなんか用があるみたいだったな…んでなんなんだ?変な事ならやらないぞ?」
「酷いなぁ…私がそんな変な用事がある様に見える?」
「見えるね、夜に酒場を手伝いに来い位は言うだろ?てか前言ってきたし」
否定できなかった、以前彼が言ったような事は言った気がする…
しかし今回の用事は違う…涼介にとってもプラスになる…良い事をしたいつもりなのだ。
「あ~あ、そんな事言ったらこの魔導書あげようと思ってたのに止めようかな?」
「魔導書?俺は魔法は要らんぞ…」
「リョウスケはね?でもベルさんとか必要じゃない?強さの底上げになるじゃない」
あ~…と涼介が頭を掻き、考える。
確かに必要だ…いくらスキルがある状態で鍛えてるとはいえ、ベルが思う英雄への道を進むならば魔法の力は有って困るどころか欲しい位だ。
ベルにとってどこが終着点なのかはわからないが、彼が必要な時に必要なだけの力を与えてやる…それが師匠としての涼介に出来る事だと思っているのだ。
「欲しい…欲しいが対価はなんだ?変な事は出来んぞ」
「ふふ、リョウスケも優しい先生やってるんだね。そうだね…貸し一個ってのは?」
「それはどっちに作る貸しだ?」
シルに貸しを作るなら先ほどの願いを見るに涼介にとってそんなに重くない事を願うだろう。
しかし彼女の裏に居る女神に貸しを作るとなると、どんな要求をされるか分からない…それが怖いのである。
なのでどちらに作る貸しなのかを確認しなければ涼介は頷けない。
「安心して、『私』じゃない方だから」
「安心できねぇんだが…」
「一応改宗関係は禁止にしとくから…ダメ?」
「……………はぁ、分かった。その条件で貸し一つな」
「やった~‼約束だからね⁉これ嘘ですって言ったら大泣きするからね‼」
「言わないから泣くなよ?」
厄介な事になったものだ…しかし最低限のギリギリのラインは避けれたからどんな要求するかはわからないが、これでいいと思えた。
涼介がそんな事を考えながら外を見ていると、お目当ての彼女…リリルカが視界に写る。
「すまん、リリが居る…俺は行くよ」
「そっか。今のリョウスケだったら大丈夫だと思うから自信を持ってね?」
「ありがとう。それじゃ」
支払いをして喫茶店から去る涼介。
その背中を見ながらシルはぼそりと呟く…
「…私が同じように鳥籠から抜け出したいって言ったら助けてくれるんだろうな…でもその時は私用に色々変えた感じなんだろうなぁ…やっぱりクソボケでは?」
彼女の呟きは誰にも聞こえず空気の様に溶けて消えるのであった。
皆さんのおかげで自分は頑張れています、これからも応援よろしくお願いします。
楽しめてる?
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もうちょい精進しても良いんじゃよ?