イノキ ボンバイエ イノキ ボンバイェイッ
= あらすじ =
電気椅子に拘束された瀬能ナツル。彼はそのまま電流を流されて上手に焼かれてしまいましたとさ。
「ええっ!?そんなっ、異常は起きないはずなのに!」
突然の異常事態に科学部の奴らも慌てふためく。
中にはなんとか椅子から俺を引き離そうと近づく奴もいるみたいで――流石にそろそろマズイ。
「あー…ごめん。今のは冗談だ」
バイザーで視界を封じられた状態で、若干の気まずさを感じながら口を開く。
「……え?」
「いやだから冗談」
ちょっとしたお茶目のつもりだったんだけどな…思った以上に大ごとになっちゃってお兄さん困惑。
「電流迸ってましたけど……」
「俺自力で放電できるんだよ」
"気"を変換させることで電気に限らず氷や炎なんかを発せられるのだ。すっごい腹が減るけど。
本当に事故が起きて電気に襲われてるんなら言い訳できるが、自分で行って人を傷つけたら罰則もんだから被害が出る前にネタばらししたんだが…
…………………………
誰も一言も喋らない。沈黙が室内を包む。
非常に居心地が悪い。
「ナツルくん!心配させないでよ!!」
玲ちゃんが初めに沈黙を破った。
ちょっと涙声に聞こえる…りょ、良心が……!
「瀬能、いくらきみでも言っていい冗談と悪い冗談がある。今のがどちらか分かるか?」
今度は善くんだ。
やべえ、いつもより威圧感がする。正直怖い…
割とマジで怒ってる。
「わ、悪かったよ…やりすぎた」
「…………」
「あの、呂布ちゃん…?」
彼女だけずっと一言も発さない。が、気配はする。
見えないから自信ないけど、多分俺の頭の真横数cmの距離でじっと見つめ続けてるよね?ものすっごい圧力を感じる。
普段から口でなく目で語るタイプの人間ではあるけど、いつも以上に無言の圧が強い。今のジョークはお気に召さなかったようだ。
もうとっとと次行こう次。このままだと臓器に穴が空くわ。
「副会長、あんまりたちの悪い冗談しないでくださいよ…部活動なんて印象悪くなったらすぐ潰れちゃうんですから」
「悪かったっつーの。……しかしこれ凄いな、本当に画面映ってるぞ」
バイザーには何人もの男女が格ゲーのキャラ選択画面のように表示されている。
どいつもここ数ヶ月の間に一度は対戦したことがある奴らばかりだ。クリスや呂布ちゃんもいる。
「…おおっ成功だっ、さすがは副会長っ」
「やりましたね部長っ」
「しかし凄い人数だ…パッと見ただけでも50人くらいいますね」
俺が見てるのと同じものが別モニターで確認できるみたいだ。
「なんか名前が適当なのが多いんだが」
「表示されてるのはすべて副会長の記憶にある人物ですから、名前を知らない人は副会長が抱いた印象で勝手に変換されているんでしょう」
なるほど?
『赤毛のイカれた眼帯軍服女』や『胡散臭い中年
「しかしこれだけいると迷うな…」誰と対戦しよう。
名前適当や戦った記憶が曖昧なザコは除外するとして、それでも人数が多い。
モモさんじゃありきたりだし、呂布ちゃんだとキツいし、善くんは選ぶとこの後気まずそうだし(そもそもなんで候補に入ってるんだ?)
うーん………よしっ。
「せっかくだから俺はこの『???』ってのを選ぶぜ!」
そう言って目線でカーソルを動かす。
こいつだけ顔写真がなく、真っ黒なシルエットに『???』しか表示されない。シークレットか?
「『???』?そんな人いませんけど…」
「なにかのバグかな…?すいません副会長少しまって」
「レッツ・ブレインバトルっ」
決定の意思表示が出たので迷わず肯定すると、脳を直接揺すられるような不思議な感覚に襲われる。
三半規管は強いつもりだったけど、洗濯中の衣類になったかのような感覚に吐きそうになり――そのまま意識を手放した。
…………………………………
……………………
………
「うっ………?」
めまいに似た感覚に襲われ思わず顔を手で覆う。
しばらくそのままで、感覚が元に戻ったところで手を離して目を開いた。
「ここは…?」
先ほどまで学園祭で賑わう校舎の一室にいたはず。
しかし今は薄らと水が張っている地面に周りは一面真っ白のだだっ広い空間…いやかなり遠くの方に枯れ朽ちた木や崩壊した建物が見える。
とにかく、そんな謎の場所に俺一人で立っている。
どことなく神聖な空気が感じられて―――そしてひどく寂しい。
これが電脳の世界なのか?
「もっとわちゃわちゃしてるのかと思ったが…」
半分か一部かは知らんが俺の脳みそも使っているだろうから。
それとも使って
「…ん?」
気がつけば目の前に人がいた。
見逃していたとかうまく隠れていたとかじゃない。本当にいきなり現れたんだ。
「…………」
目の前の人物も突然の俺との邂逅に驚いているようだ。ギョッとした表情をしている。
まぁそうだろう。なぜなら目の前の人物は青髪で、青眼で、お互いに初めて顔を合わすけど毎日一度は鏡などで必ず目にする存在…
つまり俺自身だ。
シークレットは俺だったのか…戦ったこと無いのになんで選択肢にあったんだろう。謎だ。
謎と言えばこの目の前の俺の格好。白のズボンに白いシャツ、その上から青地に白線の入ったコートを着用していて、両腕に無骨なガントレットの奇抜なファッションだ。
こんなコスプレみたいな格好をしたこと一度もないんだけど。
格ゲーで同一のキャラを使用した場合外見が変わることがあるけど、これもそんな感じか?
「…なんだ、お前は」
おお、目の前のもうひとりの俺が口を開いた。
「俺?俺は俺だよ。アイアムジョバンニ」
「ふざけてんのか?」
凄いな科学部。ここまで違和感なく会話ができるなんて。ちょっと舐めてたわ。
でもこのもうひとりの俺、ちょっと目つき悪くない?すでに人でも殺してそうな空気醸し出してるんですけど。
もうちょい心にゆとりを持てよ。近寄っただけで斬られそうだぞ。
「今の俺は冗談に付き合えるほどの余裕はねえ。ブチ殺されたくなかったらとっとと失せろ」
「おいおい穏やかじゃないな…なにかいい事あった?」
「…死にたいみたいだな」
そう言って拳を構えてくる。
本当に余裕がない。
いくらなんでも物騒すぎるぞ。どんな設定すれば出会って5秒でバトルみたいな選択する俺になるんだ。
まぁいいか、ゲームなんだから。闘う理由とか別に。
自分との試合。面白そうだ。
「いくぜ!」
まずは様子見でノーモーションからの左ジャブ――!?
「ビェッ!!?」
ドギュッ!!
俺が拳を突き出した瞬間、顔面に硬く鋭い"なにか"が勢いよくえぐり込まれた。
刹那、脳裏に浮かんだのは中学生の頃に茜にゴム弾を撃たれた時の記憶。ムダな破壊を一切除外した力を集約した一撃…
ただし威力は桁違い。それがコイツの拳だ。
「くッ!」とっさにバックステップで後ろに下がる。
さらにスウェーで地面を滑るように相手の側面に回り、そのまま距離を取って射程距離から離脱。
幸い向こうは追撃するつもりはないようで、簡単に離れられた。
しかしやめる気もなさそうだ。
その証拠にゆっくりと構えを解いて俺に向き直り――再び拳を構える。
さっきは気づかなかったがあの構え方…それに今のねじれるような衝撃…
「…
肘を固定し、肩と手首を回転させて放つ貫通力の高い左ジャブ。
弾かれたのも納得だ、押し出す力と回転する力。両方の特性を持つスクリューブローは総じて威力が高い。
一時期俺自身使ってはいたが、なんかしっくりこなかったから使うのをやめた。
だがコイツのは随分と堂に入ってる。構えからもそれがよく分かる。
そして一発食らって、さらに分かることがある。
「お前…その拳でいったい何人ぶちのめしてきたんだ?」
当てる部位・突き出しと捻りのタイミング・拳の形…
全てが殺傷力を最大限に発揮されるように追求されたナックルだ。
鉄甲がなくても人が殺せる程に。
「それをお前に言って、俺に何か得があるのか?ジョバンニ」
上下に細かく腕を振る独特なリズムを取りながら、冷たい眼で見つめてくる。
どんな人生送ってきた設定ならこんなクレバーな眼ができるんだろう。殺し屋みたいだぞ。
「ちょっとばかしキツいの選んじゃったかな」
思わずぼそりと呟いた。
使用する技の予測はつくけど、実際にどんな攻撃をしてくるかは予想できない。
それなのに
だからかなぁ。そんな深淵のような瞳を見てると――――
「ケンカ売っといて背は向けられんよなぁ?」
僅かでも闇に光を灯したいと思うんだ。
■ ゼ●ダの水鏡の間
シリーズ「時のオカリナ」に出てくるダンジョンの一室。
自分の姿に似た敵が中ボスってまんまペルソナ4(削除されました)
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はじめの一歩。沢村竜平が使うジャブ。
ナツルはナツルを超えれるか…?戦士版瀬能ナツルVSケンプ版瀬能ナツル、ファイッ。