ドギュッ!
「グッ!」
何度目かの左ジャブ。両腕でキッチリガードしたにも関わらず、仰け反って強制的に後退させられる。
地面に水が張ってあるために滑らされるたびに水しぶきが上がり、俺の服に水滴がかかる。
でも濡れた感覚がない。イメージの世界だからか?
いやそんなどうでもいいことより、
「(強い…!)」
パワーだけなら呂布ちゃんやモモさんの方が上だろう。しかし『的確に相手にダメージを与える』という点では今まで出会った中で一番かもしれない。
相手が俺自身だから、これって自画自賛になるのかな?そんな気全然ないけど。
今のところまったく近づけない。だった数回アタックを仕掛けただけだが、多少のダメージを覚悟しなきゃならんな。
脇を強く締めて、両腕で身体全体を守るよう十字を作る。
さらには前傾姿勢になって打つ場所を限定させ、後は覚悟を決めて!!
――ドンッ!!
「!?」一瞬で肉薄した俺に、驚愕の表情を返すもうひとりの俺。
瞬動。
足に"気"を集中させ、即座に踏み込み地を駆け抜ける移動技。
数メートルほどなら瞬時にゼロにできて便利だとワン子がよく使ってるけど、俺はあんまりやったことない。
理由は速すぎて制御が効かず直線にしか進めないから。
雑魚ならともかく、モモさんや呂布ちゃん相手だと絶好のカウンターチャンスになってしまう。ある程度変化をつけられるようになるまで実戦では使わないようにしていた。
ドギュギュッッ!!
案の定、瞬動の終わりにブロックの上から攻撃が当たる感触が。
移動距離が短かったか…練習不足もあるが、やっぱまだ実戦じゃ迂闊に使えねえな
「オォラッッ!!」
残った距離をタックルで無理矢理埋める。
腕を伸ばさなくても触れられるところまで近づいたので、十字の横部分を構成していた右腕を腰だめに引き、拳を放つ。
ヒャッハー、勝った!ボディががら空きだぜ!第三部完!!
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ"ッ"!!」
「――――――!!?」
突然もうひとりの俺が大声で叫び出す。
それと同時に奴を中心に、暴力的な雷が四方八方に飛び回る!
――電雷の咆哮!!
「グバババババババ!?」
雷をモロに食らい、感電状態に陥る。
『第三部完!』は完全に負け台詞だな。もう使うのやめよう。
一切行動が取れない状態の俺。当然相手が待ってくれるはずがなく、
「エアロガ!!リミットグローブ!」
掌に風球が生まれた。と思いきや、すぐに鉄甲の表面を覆うように形を変える。
「シャドウフレア!!リミットグローブ!」
今度は黒煙のような炎が手の中に出現して、すぐにまた鉄甲に宿る。
見つめることしかできないのが大変辛い。
「ドラゴンフォース!(ゴォッ!)」
さらに全身からオーラが噴き出て、一目で体躯が強化されたのが分かる。
やめて、わたしのライフはゼロよ!
「ゴブリンパンチ!」
「ごブフォ!?」
まず右の拳が繰り出された。
しかも一発じゃなく複数。
「ゴブリンパンチ!!」
「ぶごファッ!?」
次に左手。これも複数連打。
「ゴブリンラッシュ!」
「ウベら!!」り、両方ですか!?
もしかして、オラオラですか〜〜〜〜!!?
「ゴブリンラッシュ!ゴブリンラッシュ!!――――ショック・ウェーブ・パルサー!!!」
「ィヤッッダァァーッバァァァァァァァァァ!!!!」
ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"
無数の攻撃が濁流のように叩き込まれ、なすすべなく飲み込まれる。
身体の自由は戻ったが、拳の圧が強すぎてまともに動く事ができない。正面からのみのはずなのに衝撃が全方位からやたらめったらに来やがる!!
「があああああ!!」
少しでもダメージを減らそうと全力で"気"を纏いガードしてるが、それも焼け石に水。
あと数秒もしないうちに俺は負けるだろう。この勢いに負けて。
しかし突然ラッシュが途切れる―――と同時に落下時特有の浮遊感が不意にやってきた。
「うぉっ?」
思わず間の抜けた声が溢れる。
反射的に上を見つめ…そこにはなぜか文字が書かれた金属プレートがあった。
『燃えるゴミは月・水・金』
誰がゴミやねん。
☆ ★ ☆
「へぶっ、」ベシャッ
暗闇に落とされたときと同様に、唐突に水が引かれている地面にうつ伏せに放り出される。
…鼻打った……
「何?」
離れたところからもうひとりの俺の声がする。
「いつの間に俺の背後に…どうやって逃げたんだ?」
そう言いながら、構えをボクシングのオーソドックスに変えて俺に向き直る。
……さっきまでと同じ空間か…ダメージ受けすぎて緊急ログアウトされたわけじゃなかったんだな。
今の現象はなんだったんだろう。
「おっ、俺自身なにをされたのかわからねー、頭がどうにかなりそうだ…超スピードとか催眠術じゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………!」
「ならその恐怖を胸に抱いたまま死ぬがいい」
――エラチックフラッター!!
急にもうひとりの俺の姿が消える。
かと思いきや猛スピードでこちらに迫ってきていた。覚醒した聖闘士みたいな動きだ。
気のせいか床から数センチほど浮いて…いや気のせいじゃねえ、水面に波紋もしぶきもできないから実際に浮いてる!
どんな"気"の使い方してんだよ!?舞空術か!?
「くっ!」
慌てて横方向へダッシュ。向こうが手を中心に使うんなら俺は脚だ!
一方的にやられてプライドはないのかって?むしろあそこまで容赦がない奴にまともにやり合えるかっ、逃げるんだよー!
と、普通の人間なら考えるだろう。
「!?」
もうひとりの俺が驚いた表情を見せる。
横に移動した瞬間に方向転換して、自分の方へ向かってきたのだから当然だろう。
そのまま喰らえ!!
「グレイテストコーション!」
「ルーム!」
なぁッ!?
俺の拳から放たれた"気"の光線が、突如奴の目の前に出現した黒い穴に吸い込まれてゆく。
そしてそのすぐ隣にもう一つ黒穴が発生して、そこから光線が出てくる!
「ちぃッッ!!」咄嗟に達磨避けで光線を躱す。
そのまま相手の側面に回り、立ち上がると同時にボディブローをかます。
「オラァッ!!」
「ふんッ、」
ゴッ!!
俺の一撃はしかし、冷静に腕でガードされる。
だが驚きはしない。想定内だ。
「「「「影分身!」」」」
本体を含めた四人の俺が、鉄甲付きのもうひとりの自分を前後左右から襲いかかる。
「何!?」
「「「「死刑執行!!」」」」
驚愕する相手に総攻撃で拳を振るう。
今度こそもらっ―――!!
「カァッ!」ガッゴッッ!!
『!!?』
即座に身体を回転させて俺の両隣、奴から見て前方の分身に左ストレート。後ろの分身に右の肘鉄が入れられる。
拳を打ち付けたままだった俺は、奴が身を捩ったせいで体勢を崩し…その一瞬の隙を突かれて右手で首を掴まれる。
こっ、コイツ、瞬時の対応力が半端なく高え!どんな状況に陥ってもすぐに判断して的確な反応を行なってきやがる!
同じ俺のはずなのに、この差は一体なんだ?どういう経験してきたらこんな風になるんだ!?
「多才である事は認める」
喉笛を捉えながらもうひとりの俺が口を開く。
「だがそれだけだ。覚悟も何もない。道楽で作った技で俺は仕留める事はできない」
「っ、」
今まで色んな眼で見られてきた。
蔑んだ眼、冷たい目、非難した眼差し、軽蔑、恐怖…
しかし、コイツの眼からは何も感じられない。
ただ事実のみを語る"無"の視線だ。
「軽いんだよテメエの拳は」
残った最後の分身が攻撃を仕掛けたが、蚊でもはらうように左手で弾いて頭を掴む。
「だから死ね」
――双頭の極み!!
「ガッ!?」
俺の顔面と分身の後頭部が激しくぶつかり合い、眼前に火花が散る。
「オルギア全開!!(ゴォッ!)」
ヴォ"ン"ッ"ッ"!!
もうひとりの俺はすぐに腕を振り上げ――頭同士をかち合わた際の衝撃で分身は消えた――俺を上空へと放り投げた。
信じられないことに片手でだ。いくら俺が細身だからってウソだろ!?
「ヴォ"ー"ー"ー"ー"ー"ー"ー"ー"ー"!!」
「ぐェッ!?」
さらに自らをブリッジさせるように何度も勢いよく反らせ、腹筋でさらに上へと跳ね飛ばされる。
こ…これはっ、まさか!?
十分な高さまで来たら俺の首と片足を脚で、両腕をひねり上げて掴んで固定し、胴体をエビ反るようにクラッチする。
うぉぉッ!間違いねぇ、この技は!!
「スグル版マッスル・スパーク!!」
「グがぁーーーッ!!」なんだこの技の威力は〜〜っ!!!
筋肉が引きちぎられそうだ!俺がやってもここまでの威力出ないよ多分!?
「アタル版マッスル―――」
「ヤラセネェよぉぉッッ!!?」
――順逆自在の術!!
続けざまに背中合わせの姿勢に移行しようとしたので、それよりも先に技の掛け手と受け手の位置を入れ替え、マッスルスパークの続きを俺が行う。
さらにここから倍プッシュ!落下の速度をあげてぇ――!
「アロガント・スパーク!!」
ガガァッンッッ!!
「ガパッッ!!?」
もうひとりの俺の両腕・両足。
そして落下の勢いで体勢がねじ曲がり、胸部の五つの部位が地面に叩きつけられて、盛大に水しぶきが上がる。
一瞬の静寂の後、雨のようにうち上げられた水が落ちる。
それを全身に浴びながら、ゆっくりとクラッチを解いて奴から離れる。
「ぐ…ぅう…っ……な……ぜ………」
もうひとりの俺が緩慢な動きながらも、床に手をついて起き上がろうとする。
全力でやったんだが、仕留めるには至らなかったようだ。
万全の状況じゃなかったし、相手が相手だからしょうがないということにしておこう。
「なぜ…なぜだ……!俺のマッスルスパークは完璧に決まっていたはずなのに…」
なんだ、そんなことか。
「お前友達いないだろ」
「………なに?」
orzな体勢のまま、頭だけゆっくりと俺の方に振り返る。
「お前の技威力は高いけど致命的な隙があるんだよ。喰らったらすぐ分かったぜ」だから返せたんだ。
「バカな、今までそんなこと一度も」
「言われたことないってか?だからだよ」
技ってのは一度習得したらそこで終わりじゃない。そこから発展させていく事が大切だ。
しかしコイツの技は研鑽した様子がない。覚えたらそれっきり、
それが悪いとは言わんが、やるんなら隙を無くせよ。どっちが道楽だ、好き勝手言いやがって…
「俺の拳が軽いってんなら、お前の拳は薄っぺらだ。誰かと繋がってる感じがしない」
「なに!?」
もうひとりの俺が立ち上がり、怒りの表情で向き直る。
「もういっぺん言ってみろ…俺の拳がなんだって……!」
「何度でも言ってやるよ。お前の拳は薄っぺらだ。ペラペラぺらぺらぺらっぺら」
「キサマァ……!!」
「嘘だと思うならかかってこいよ。お前の攻撃なんてもう怖くねー」
防がれたり返されたりされたから自信なかったが、俺の攻撃は
「今度こそ通じる事を祈ってマッスルスパークをまたやってみるか?それとも俺が知らない技を繰り出して見るか?なんでもいいぜ。ただその技が放たれたとき、お前は八つ裂きになってるだろうけどなっ」
………
……………………
…………………………………
☆ ★ ☆
ボンッッ!!!
「!?」
いきなりの爆発音と共に、視界が真っ暗になる。
あれ?
「わぁっ、機械が!!」
「しょっ消化器を!」
近くで複数人の慌てふためく声が聞こえる。
なんだと疑問を口にしようとする前に、バキバキッ!と金属製のものが壊れる音がして身体が前方に引っ張られる。
「ナツルくん!!」
「瀬能!無事かっ!」
「……!」
次いで目隠しを外されると一瞬だけ目が眩み…心配そうに俺の顔を覗き込む三人の姿があった。
あれ?もうひとりの俺は?
「きみがブレインバトルと言った後、すぐに機械が爆発したんだ。離れていたから大丈夫だとは思うが怪我はないか?」
「え?あ、ああ…」台詞を言ってすぐ?
数十分は戦闘していたはずなのに…現実では一秒も経ってなかったのか?
「……?」
「ナツルくん、どうかしたの?大丈夫?」
ちょっと考えこんでいたら呂布ちゃんと玲ちゃんが心配そうな顔で尋ねてくる。
「ああ、いや…ちょっと、な」
「?なにかあったのか?」
「いや…」
さっきのはなんだったんだろうか。
もうひとりの自分との邂逅。そして戦闘。
アレがプログラム?ありえないだろ。学生どころかその道のプロでもあそこまで滑らかに人間らしいAI作れるかよ。
なんていうか…
…………まさかな。
バカげた考えに思わず苦笑して頭を振る。いくらなんでもそんなのがあるはずない。
きっと俺の中の俺自身が知らない部分が出たんだろう。
「…あの俺はコーラ好きなのかな」
誰にも聞かれないようにぽつりと小さく呟いた。
・解除条件:「???」と邂逅。戦闘不能状態にならずに戦闘を終える。
瀬能ナツルはアロガント・スパーク"地"を習得した。
■電雷の咆哮
FF14の青魔法。特殊な叫びを上げて自らを中心にして周囲に雷の範囲攻撃。確率で食らった敵を感電状態に。
■エアロガ
掌に風の球を出現させる技。FF5の青魔法。
■リミットグローブ
FF9の青魔法。SPを拳に集中させて攻撃する打撃技。直前に自らの手にある魔法を固定するという裏技が存在する。
■シャドウフレア
FF7の青魔法。掌に黒い炎を出現させ、腕を突き出すことで放つ範囲攻撃技。
■ドラゴンフォース
FFTA敵の技。術者一人のステータスを短時間だけ強化する。
■ゴブリンパンチ
片手の連続パンチ。FFシリーズの青魔法。
■ゴブリンラッシュ
FF11の青魔法。ゴブリンパンチ × ゴブリンパンチで発動。
■ショック・ウェーブ・パルサー
FF8の奥義的ポジションの青魔法。
エアロガ→リミットグローブ→シャドウフレア→リミットグローブ→ドラゴンフォース→ゴブリンラッシュ ×3で発動。
複数の技を連続して撃たなければ使えない分威力は絶大。
■ エラチックフラッター
FF11の青魔法。使用者の身体を軽くさせ、数cmほど浮き上がり高速で空中駆け回れる。
■ルーム
FF14の青魔法。使用するSPの量に応じた大きさの"穴"を空中に作り出す。
"穴"は二つ一組で、片方から入ったものをもう片方から放出する。ただし実体を持つものは入れずに通過する。
■双頭の極み
龍がごとくのヒートアクション。二人の敵の頭をぶつけてダメージを与える。
■ もしかして、オラオラですか〜〜〜〜!!?
ジョジョ第三部。ダービー弟の台詞。
■ ヤッッダァァーッバァァァァァァァァァ
ちょっと付け足しがあるけどジョジョ第五部のチョコラータの台詞。
『燃えるゴミは月・水・金』の穴に入るところまで完全再現。流石ナツル…!
ジョジョネタ多くて紹介しきれない。各自で探してくだちい。
ナツル対ナツル戦、結果はドローで終わりました。どっちも強いから。
もうひとりのナツルがどうなったのか……それはまた別の話。また、別の機会に話すとしよう。(果てしない物語風)