「……!………!!」
「ん?」
周りの喧騒に紛れて、妙に気になる音が耳に入った。
「…せ…!……る…!」
音っていうか声か?それにドタドタと走る音…
「……のう…!…つる…!!」
しかも段々と近づいてくるな。なんかのイベントか?
「瀬能ナツルゥッッ!!」
「おっと、」
人混みをかき分けて急に一人の男が現れる。
赤い鉢巻をつけた茶色いウニみたいな髪型の男。
きっと全速力で走ってきたのだろう。その勢いを乗せたまま拳を俺に振るう。
当たってやるつもりはさらさらないので首を傾けて皮一枚でサラッと躱す。
躊躇なく顔面狙うとか殺意アリアリなんですけど。
「よーぅ、誰かと思えば小十郎じゃないか。元気そうだなぁ!なんかいいことでもあった?」
「黙れ!!」
避けた拳を引き戻すと同時に、逆側の手でロングフックが飛んでくる。
それを素早くダッキングで躱すと、今度は水面蹴り。
小さくジャンプしてやり過ごし、
もちろん人がいない方向へ。瀬能さんちのナツルくんは紳士だからねっ。
「なにが紳士だ!!聞いたぞ!清涼祭の初日に英雄様や忍足たちに暴力を振るったと!!」
立ち上がるとすぐさま拳を構えて喚き散らしてくる。人聞き悪いなぁ。
「おいおい、アレは正当防衛だぜ?きっかけを作ったのは向こうだ」
「貴様…!!」
まるで親の仇を前にしたかのごとく、憎悪に満ちた顔で俺を睨みつける小十郎。
気づいたらメイド服着せられて髪をワックスで固められたんだぞ。許可もなく。
普通怒るだろ。
「そうやってすぐに他人に責任を押し付けて自分の行動を正当化する…いつもそうだ!!お前はいつも…、揚羽様の時も!!」
「あれが一番だ」
他の件はいくら『
出会いもきっかけも過程も、その後の結果を改めて思い返してみても、だ。俺は何一つ悪くない。
むしろアレで一番悪いのは―――
「お前だろ小十郎?主に一生もんの迷惑かけるとか従者の鏡だな」
「っ、だっまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
指差して言ってやると型もクソもない、そこらのチンピラのように大きく拳を振りかぶって突撃してくる。
前回とまるで変わってないな。
一方的に俺を罵り、効果が無いとすぐに腕力に訴える。
自分が正しい。自分の信じるものが正しい。頭にあるのはそれだけだ。
自分の主張を通すことのみに執着している。
まるで物語に出てくる独善勇者だ。
熱血バカは嫌いじゃないがコイツはダメだ。熱血でもバカでもない。
「意外と思われるかもしれないが――」
迫り来る拳を片手で掴む。
「くっ!!?」
「俺はまだ一度も人を殺した事がない」
すぐさま逆の手で殴りかかってくるが、同じようにもう片方の手で掴み、そのまま背面に反り返る。
小十郎の身体を引っ張り、ブリッジでもって空中へと弾き飛ばす。
「ぐ、あっ!なっ、なんだっ!?」
「喜べ」
困惑する小十郎の後ろに回り、両腕を交差するようにねじり上げ、下半身を燕尾服の脇下から前側に通す。
そのまま右足の腿と膝で首を絞め、左の膝関節で小十郎の左足を固定。
あとは力のかぎり絞めあげる!
「お前が一人目だ!!」「がああああああああ!!!」
メギメギメギメギ!!
雑巾を絞るように、小十郎の筋繊維が引き絞られる感触を全身で感じる。
――留まっていた空中から地面へと降下が始まる。
即座に背中合わせの体勢へ。俺が空側、小十郎が地面側。
相手の両腕を捻り上げながら両膝の内を踏んで固定。
そのまま勢いをつけて落下すると、小十郎の上体がねじ曲がり、首が逆方向へ……
「アロガント・スパーク!!」
ガガァァンッッ!!!
両手・両足・胸部の五つの部位が地面に叩きつけられ、破壊される音が辺りに響く。
…さらばだ小十郎……安らかに死ね。
「と言いたいところだが、」
「がはっ…」
技を決めた体勢のまま、下にいる小十郎が苦しそうに息を吐く。
「今日はあいにくギャラリーが多い。年に一度の祭りの日だしな」
喋りながら拘束を解き、ゆっくりと離れる。
「八割殺しで勘弁しといてやるよ」
全身の筋繊維断裂。両手・両足骨折。胸部打撲による内出血ってとこか?
でもすぐに治るだろ、バカほど頑丈だし。
今も気絶しないで俺を睨んでるからな。
情けで生かしてもらったって言うのに…こういうの繰り返してくと実力で生き残ったとか勘違いしそうだな。
今のうちに二度と戦闘ができないよう、手足をもぎ取るか?
「そこまでだ小十郎」
糸の切れた操り人形のように崩れ落ちている男を見下ろしていると、人垣を割って一人、歩み寄ってくる。
膝元ほどまで伸びた、白銀に近い白髪。
強い意志のこもったキレのある眼差し。
歩き方から感じさせるのは、戦闘能力の高さと育ちの良さ。
そしてその顔一面には"
まあいるよな。コイツの主人だから。
「…オヒサシブリデス、『九鬼揚羽さん』」
人目が多い上、善くんと玲ちゃんがいるので努めて普段通りの表情・対応を取る。
「…我と会話するのはそんなに嫌か、瀬能」
「なぜそうお思いに?」
「態度と表情にありありと出ている」
ああ、嘘がつけない自分が恨めしい。
でもしょうがない。存在が合わない相手と、できるなら関わらずにいたいと思うのは人として当然の考えだから。
「どうしてここにいるんですかね」
「我とて元学び舎に足を運びはする。祭りの時なら尚更な。それにこの学園には弟も通っている」
弟…ああ、そういやSクラスにいたな。それっぽいの。
確か
「いい奴ですよねあいつ。殴ったってのにメイドが粗相した件について謝罪してきましたよ」
先ほど小十郎が言ったように、一昨日ちょっと…いやかなり…無遠慮に殴りまくった。
ばったり出くわした時はその事について責められると思ったが、出てきたのは『あずみが悪ふざけをして悪かった』という台詞。
唖然としたね。九鬼の人間ってだけで嫌悪感持ってたから。
しかもそのあとすぐに(不満げながらも)メイドも頭を下げて謝罪してきた。
流れでこっちも謝れば『支配者である我は庶民に多少暴れられても気にはせん!』と豪快に笑われた。
ちょっとイラッとした。
「まぁでも、あれも個性だと思えば仲良くはできそうですね」
「そうか…それは、弟も喜ぶだろう」
本当に?
一人っ子だから分からないが、普通自分の姉の顔を
しかしそれを言ったところでムダだろう。『九鬼揚羽さん』は基本的に俺の言うこと肯定する派みたいだから。興味はないが。
興味はさらさら無いが。
「従者への教育もいいみたいですね」
「あずみか…彼女は九鬼家のメイド長を務めている。それに恥じない能力を元々持っている」
俺の言葉の返答としては的を少し外しているような気がする。
が、指摘するのはやめとこう。興味ないから。
「弟を見習って『九鬼揚羽さん』も従者の教育をした方がいいと思いますよ、従者は主人の顔なんですから。いきなり殴りかかってくる先触れなんて厄介でしかないので」
「き…貴様……!!」
全身で床を温めてる小十郎が怨嗟の声を上げる。
お前のことを言ってんだよ。睨んでないで行動で示せ。態度に出すな。
「別に、俺はいいんですよ?『九鬼揚羽さん』がどんな従者を側仕えに置いても」存分に好きにすればいい。火葬できるくらいには屍は残してやろう。
いつか必ずひとを殺す。
そう確信しているし、覚悟もしているつもりだ。
ただねぇ…
「俺の従者は俺に喜んでもらうためなら命を失うことも厭わないみたいなんですよ。おそらくは他人のも、だ」
何度でも言うが、俺はいいんだ。いつか必ず他の人間の命を奪うと思っているから。
でも呂布ちゃんは駄目だ。彼女に人殺しはさせられない。
「困るんですよねぇ…ある日突然、血まみれで白髪女と鉢巻ウニの首を持って俺のところに来るなんてことが起きたら」
「…………」
「そうなったらもう、彼女と心中するしかないでしょう」
常人をはるかに上回る実力を持つ者は、
なぜなら己を止めるのは己だからだ。自分自身の暴走を止められるのは自分の実力を超えた"何か"だからだ。
「呂布ちゃんは失敗作と評価されたみたいですけど、俺から見ればあの娘は可能性の塊だ。周りの影響次第で何にでもなれる」
なぜか俺に懐いてるから俺が一番影響与えるみたいだけど。
「これから色々経験して成長して、幼さがなくなり自分の意思で俺から離れていくまでは一緒に歩むつもりです。その時まで怪物であるならば」
「怪物?」
「心がある人外の領域の住人、それが怪物らしいですよ」
怪物には心がある、化け物にはない。
自身も並外れた実力を持つ武闘家の俺の祖父が言った言葉だ。
「ぉ…まえ…は……!どう…なんだ……!」
「あん?」
「か……いぶ…つ……、の…つも…り…かっ…!?」
足下で執事が何かうめいている。
「小十郎、止めよ」
『九鬼揚羽さん』が嗜めるが、奴は構わず俺を睨みつける。
本当に従者の躾がまるでなってねえな。主の言うことまったく聞かないとか。
俺?俺のはあれだよ。あえて教育してないんだよ。だから呂布ちゃんが言う事聞かなくても問題は無い。
「怪物であろうと化け物であろうと関係ないだろ?構わず狩りに来てるんだから。もっともお前の実力じゃ何度生まれ変わってその度に限界まで鍛えても俺に勝つのは無理だろうけどね」
「ぐっ…!!」
「次はなるべく早く人の目のない所で襲ってこいよ。呂布ちゃんがお前を殺す前にな」
そう言って小十郎の顔面を踏み、ぐりぐりと靴跡をつける。
男前が上がったねっ!
「…瀬能」
「なんですか『九鬼揚羽さん』。なにか文句でも?」どうせいつもと同じでなにも言えないだろ。
「きみが呂布と出会ったのはひと月ほど前と聞いた」
「そうですね」
「なぜそんなに気にかけるのだ。きみにとって呂布はどういう存在だ?」
俺にとっての呂布ちゃん?それは…
「同じ蓮の台を共有する、もう一つの片割れ…ですかね」
「話は以上ですかね。連れを待たせてるんで、そろそろ失礼します」
返事を待たずに踵を返し、その場を離れる。
できればこれが『九鬼揚羽さん』と小十郎との最後のやりとりになってほしいなあ。
どっか俺の預かり知らぬ所で、適当にくたばってくんないかな。
「一連托生…か。羨ましいと思うのは、我の身勝手なのだろうな…」
「あ…揚羽様………!」
■小十郎
九鬼家長女・揚羽の専属従者。猪突猛進な性格をしているが誰隔たりなく明るく接する熱血漢。
しかしとある一件からナツルだけは隠しもせず殺意全開で敵視している。その話はまた別の機会に。
■揚羽
九鬼長女。原作では額に刃物でつけたような"
ナツルとは『ある一件』故に不仲。なるべく嫌われたくないと思っているので彼に対して無意識にイエスマンのような態度を取ってしまう。
が、とうのナツルは揚羽のことに興味をもっていない。(忘れてるけど)顔を合わせる度にどっか自分の知らないところでひっそりとくたばってくれないかなーと思っている。
なんかシリアスになった気がする。
ナツルがアロガントスパークを完全に習得してることと、九鬼家に対して良い感情持ってないってことをそれとなく言いたかったんだけど…
後半気づけば呂布ちゃんの事ばっか言ってる。おかしいな。
これがキャラの一人歩き…!
関係ないけど今年中に山場向かえたいって言ったの実行無理そう…今回のもある意味で山場ですが。
年越しの31日まで毎日投稿します。同じ時間に。