グレートティーチャーナツル
「あ"ぁ"〜〜〜…疲れた」
全ての授業を終え、重い足取りで自宅への道を歩く。
朝から最悪な一日だった…司といい司といい直江といい黒ローブ集団といい。
身内とクラスメイトのせいで疲れてると思うと疲労が倍増してくる気がする。いつか復讐してやる。
「呂布ちゃん怪我は大丈夫か?」
首を捻って俺の斜め後ろを歩く彼女に声をかける。
この子はいつになったら俺の横を歩いてくれるんだろうか。顔を見るのにいちいち振り返らなきゃいけないの地味に面倒なんだけど。
「……主、その台詞122回目」
無表情ながらも呆れたような眼差しを返してくる。
…俺そんなに言ったの?きみが嘘つくとは思ってないけどちょっと盛ってない?
「しょうがねえだろ気になるんだよ…回復も魔法も使ったことないんだから」
ペルソナ能力に目覚めたらなんか…感覚的に魔法が使えるようになっていた。
正しくは違うんだろうけどそれを教えてくれる人がいないからとりあえず魔法でいいや(美鶴先輩いつ連絡してくるんだろう)。
ただこの魔法…リスト無しで本当に感覚だけだから、自分が現在どんな魔法をどれくらい覚えているのか検討もつかない。
そもそも何体のペルソナが俺の中にいるのかすらわからん。イベントリはあるのにステータスウインドウがないってどんなクソゲーだよ。
流石にどっかのタイミングで確認した方がいいな…
人目につかない場所で呼び出すか。こないだの廃工場でいいかな。
「……主の初めて…(///)」
「言い方」ヤメテ?誤解されるでしょう。
まぁ……否定はできない。
☆ ★ ☆
馬鹿話してたらあっという間に俺の家についた。
「呂布ちゃん今日なに食べたい?」
「……なんでもいい…主の作ってくれるのはなんでもおいしいし好き…」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
ほぼ一日中べったりな彼女は当然晩飯も俺と食う。
食費なんかは九鬼家のメイドや執事が渡してくるし、一人で食うよりは賑やかだ。だから不満はない。ないんだが…
よく考えたら主君に飯の支度させる従者ってどうなんだ?
……いや、なんか面倒くさいからまぁいっか。忘れよう。
「そうなると冷蔵庫の中身と相談…呂布ちゃん」
「……!」
家の敷地に入ったところで異変があることに気づいた。呂布ちゃんも即座に警戒体勢に入る。
何が起きても対応できるよう慎重に移動し、玄関まで到達。本来なら扉の鍵を開けて中に入るんだが、それはできない。
ていうかドアノブがねえ。
「三段跳びで死にてえ奴がいるみたいだな…」
いい度胸だ。
ドアとしての役割をほぼほぼ果たせなくなった物体を開き、ゆっくりと中に入る。鬼が出るか蛇が出るか…
「あ、ナツにぃ。おかえりー」
「「…………」」
絶句した。
台所まで足を進めるとそこに、朝に別れてそのままだった司が当然のように椅子に座ってくつろいでいたからだ。
朝に逃げ去ってからどこへ行ったのかと思えば…てっきり実家に帰ってんだと。
「…何してんだ?」
「ナツにぃが来るの待ってた」
朝から?
「玄関の扉はお前がやったのか?」
「うん」
『うん』じゃねぇよ。なんで笑顔?引っ叩くよ?
「おじーちゃんからナツにぃにって」
司が道着の懐に手をやり、巻物らしき物を取り出す。
「冷めぬよーに温めておきました!」
「なに言ってんだお前」
「あ!わ、わたしの肌の温もりを堪能するつもりでしょ、ナツにぃのすけべ!」
「どこで覚えたそんな台詞」イラッとしましたよ。
とりあえず後で折檻だな。
それよりも中になにが書かれて…
「あ…」
「…………」
存在に今頃気づいたのか、司が呂布ちゃんを見て身体をビクッと硬直させる。
「…………」
「…………」
「…………」
そのまましばらく三人で見つめ合う。
いやこの言い方は正確じゃないな。司と呂布ちゃんは見つめ合っているが、俺が見てるのは主に司だ。
「…その……」
「……?」
「っ、」
司が動き出したのを見て、咄嗟に拳を握る。
今度こそ力加減間違えずに気絶させる気じゃ――
「ごっ、ごめんなさい…!」
ガバッと音が出そうなほど勢いよく頭を下げた。
あの司が。
昔からどんなに叱られようとも軽い調子で流していたちゃらんぽらんな娘が。
誠意を感じさせる姿で沙汰を待つ罪人のように小刻みに震えながら、相手からの返事を待っている。
「……許す」
「(ガバッ)ホント!?ありがとうー!」
下げた時と同じくらい勢いよく頭を上げて呂布ちゃんに抱きつく。
……コイツこんな…人に抱きつくような奴だったか?
武術以外で密着した記憶がないからベアハッグ決めるんじゃねーかとハラハラするんだが。
あと何故か見ててイラっとする。更年期かしら?
…これ以上見続けると暴力騒動に発展しそうだな。巻物を読もう。
《ナツルよ。これを読む時、儂はもうこの世にはおらん》
「っ!?」ジイさん!
《というのは嘘じゃ。儂も婆さんもピンピンしとる》
巻物を握りつぶした。
「に"ゃぎおおおおおっ!?」
即座に走る激痛。
なに!?なんか鋭利な刃物で切ったみたいに掌がズタズタになったんだけど!?
《ちなみにこの紙はガラス繊維?とかいうのでできてるらしいので手荒に扱わん方がよいぞ》
「早よ言えやぁっ!」
《婆さんの案じゃ》
「おばーちゃーーん!?」
常識人だと思ってたのに!なんでこんな事するの!?
てか間違っても手紙に使うような素材じゃねーだろグラスファイバーなんて!
「……大丈夫?」
「…なんとか……!」超痛ぇ
一旦
異物があるせいで効きが悪い…構わずディアを使い続けると、突き刺さった繊維がミリミリと体外へと押し出さされていく。
ちょういてえ。
《司から聞いとるやもしれんが、我が流派は門下生が激減している》
気を取り直して巻物を読む。
《それ自体は別に構わん。他の武術一門と比べれば知名度は零に等しく、技は人を選ぶ。現に使いこなしているのはナツル、お主と司の二人しかおらん》
「…………」
《廃れゆく流派、生い先短い身としてはこのまま道場を畳んでしまってもよいと思うておるのだが、司が納得せんのだ》
自分の行いのせいなのに…
《儂の後を継いで当主になるつもりのようじゃが、自らの行いのせいで人が離れてゆく事を理解しとらん》
最悪な後継者だな。
警察のお世話になっても他人のふりしよう。
《そこでナツル。お主に司の教育を頼む》
「は?」思わず間の抜けた声が出た。
どうしてそうなる。
《儂も婆さんも晩年に産まれた娘ということで…恥ずかしい話あまり強く教えることが出来なんだ》
ここで言う『強く教える』とは身体に叩き込むこと。ぶっちゃけ体罰だ。
ジイさんには体術武術で、バアちゃんにはホウキや包丁といった道具で色々と分からせられた。
孫にはできて娘にはできねえってか?
《お主が言いたいことは予想できる。しかし同じく問題児でありながらも最低の常識をなんとか身につけていると言えなくもないお主にしか頼めんのじゃ》
「ブッ飛ばすぞテメェ!」
なんだ最低の常識って!しかも色々ふわっふわ!
《なんとか現代社会でやっていける程度の常識を身に付けさせてほしい。勿論司の滞在にかかる費用はこちらで全て出す》
「急に言われてもなぁ…」俺にも色々都合ってもんが
《断っても司に電車や飛行機に一人で乗る知能は
皆無なのでそちらで迷惑をかけ続けるがの》
「いきなり脅迫ぅっ!?」
&酷い言い草!
てかそれどうやってここまで来たんだ!?
《婆さんと二人で行かせたんじゃ。司をお主の家に預けて都会観光するらしい。まだまだ元気じゃのぅ》
娘が堂々と器物破損してるのにのん気すぎるだろ。
てか朝の教室破壊の時近くにいたのか?とめろよマジで。
俺の中の祖母の人物像が失敗したジェンガみたいに崩れてゆく。
ジジイの伴侶なだけあって、なかなかにぶっ飛んでるんだな…
《と言う訳で、我が愛娘をお主に預けた。次に会う時には二人共、立派に成長していると信じ儂はこの遠い沖縄の地でゆるりと待つとしよう。それまで野に出て鍛えてまいれ!》
「
古牧師匠もう使ってねぇよ。
てかなんで知ってんの?
どこまでも自分勝手で強引でツッコミ満載な内容な手紙だが、それ以上の続きは無いようだ。
両親の出張で一人暮らし始めて初の手紙だぞ。他になんか無いの?俺の安否確認とか。
もやもやしながら文言が尽きた巻物をくるくると丸めてテーブルの端に置く。
読むだけで疲れる内容だった…。ガラス繊維ってどう処分すればいいのかな?
「あ、ナツにぃ読み終わった?」
司が話しかけてくる。
「お腹すいたからなにか作ってー」
「…その前に聞きたい事があるんだが」
能天気すぎる声に若干頭痛を覚える。だがどうしても確認しなきゃならい事がある。若干遅すぎた感もあるが…
「なんで玄関のドアノブ壊したの?」
「え?カギかかってたから」
あっけらかんと言い返しやがった。
………これに常識インプットさせなきゃいけないの?俺が?
疲労と頭痛が倍増した気がした。
やりたくないけどやらない訳にもいかないよな…やっぱり……
本気で頭が痛い。だがまぁとりあえず…
「バカスカと不必要に物壊してんじゃねぇよバカ!」
ゴンッ!!「ふぎゃん!?」
思い切り
この数分後、冷蔵庫の中身に家中の菓子やパンの類が軒並み食い尽くされているのを知ってもう一度ゲンコツを振り下ろした。
……今日はもうウーバーでいいか…
■野に出て鍛えてまいれ!
龍がごとく1の小牧師匠のセリフ。動画で見たけど1以外で見つかんなかったけど、見落としただけで言ってるかもしんない。
〜おまけ(翌日)〜
「瀬能ちゃん!昨日は大丈夫でしたか?」
「……はい…」
(委員長に話しかけれてもいつも通り…トラウマは残ったみたいだな)