「大串」
「はい」
「小笠原」
「はい」
2ーF教室。ホームルーム開始のチャイムが鳴ってからしばらくして鉄人が入ってきた。
今は出席確認の真っ最中。パッと見た感じ欠席者はいない。
「風間。…なんだ、休みか?」
「昨日急に旅に出ました。…ヒッチハイクで」
「なにをやっとるんだあいつは…」
訂正。風間以外は欠席者はいない。(と思う)
「川神」
「はーい」
「木下」
「はい」
「工藤」
「はい」
「熊飼」
「はい」
「坂本」
「ナツルがラブレター貰ったらしい」
『『『殺せぇッッ!!!』』』
「なんで!?」いきなり朝の日常が破壊された!
『なぜだ!なぜ瀬能なんかにそんな物が届く!?』
『落ち着け!あんな非常識が貰えるんなら俺たちにだってきてもいいはずだ!』
『…ダメだ!腐ったパンとカビの生えたパンしか出てこない!!』
『もっとよく探せ!』
『…………見つけた!発酵したてのパンだ!』
『お前はいったいなにを探してるんだ!?』
そもそもちゃぶ台のどこにパンを仕舞うスペースがあるんだ?
「お前ら静かにしろ!出欠の途中だぞ!!」
騒然と殺気立つ教室内に鉄人の怒号が響く。
『しかし先生!これは由々しき事態で!!』
「黙らんと補習の時間を倍増するぞ!」
一瞬で坂本の名前が呼ばれる前の室内に戻った。
こいつらすげーな。
「まったく…えー、椎名」
「はい」
「島田」
「はい」
「島津」
「ナツル
今なんかおかしくなかった!?
「須川」
「瀬能
「瀬能はいるな…田中」
『瀬能
「土屋」
「…瀬能
「気のせいじゃねーーー!?なんで返事が『瀬能
「うるさいぞ瀬能っ!静かにしろ!」
「俺!?俺がおかしいの!?俺だけがおかしいのか!?」
おかしくねーよなー、絶対!
俺がおかしい方が気が楽ではあるんだが、それを認めると教室が異世界になる。それはなんかヤダ。
「直江」
「瀬能
「羽黒」
「はあい」
「姫路」
「はい」
「福村」
『瀬能
「福本」
「瀬能
「フリードリヒ」
「はい」
男女で差がありすぎる!逆に怖い!
男が殺気立ってるのは分かるがなんで女子連中そんな冷静なんだ!?
「本多」
『瀬能頭を抉りて
「松本」
『瀬能胸を抉りて
「オイなんかおかしくなり始めたぞ!!」より物騒になってやがる!
「源」
「はい」
「師岡」
「は…はい」
「武藤」
『瀬能腹を抉りて
「吉井」
「ナツル膝を抉って
「横溝」
『瀬能足を抉リテ
結局最後までいきやがった…途中普通に戻ったのに…
ていうか吉井もいたんだな。気づかなかった。
「風間以外は全員いるな…結構だ。一限目が始まるまでは自由だが、あまり騒ぎを起こすなよ」
物々しい雰囲気の中、鉄人が出席簿を持って教室から出ようとする。
「ちょっ、先生!いいんすかこの状況ほっといて!?このままじゃ第九の晩に魔女が復活して誰も生き残れなくなっちゃいますよ!?」
「お前なら大丈夫だろ。手足分離するし」
さらっと凄いこと言ったなこの教師。いや出来るけどさ。
「なにか壊したら自分で直すように。それと他クラスや他の先生に迷惑もかけるなよ」
「おぉい待って先生!せんせーい!!」
鉄人は振り返りもせず無慈悲に去っていった。
司が空けた教室の壁の穴やら室内の備品やらを修繕してから扱いが(前から軽かった気もするが)雑になってきたな…
「覚悟は出来てるだろうなぁ…瀬能ぉ……!」
声をかけられたので振り向くと、頭からすっぽりと全身被さるおきまりの黒ローブ姿の集団が。
前も思ったけど暑くないの?そろそろ夏だよ?
『ゆるせねぇ…ゆるせねえよ…!』
『瀬能のくせに調子乗りやがって…!!』
『ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ』
「坂本テメー…こうなるの分かってただろ。なんで言った?」
カルトに混じってこっちを見つめる騒動の発端を見つけたので尋ねる。お前はローブ着ないんだな。
声をかけられた本人は真剣な様子で口を開いた。
「簡単なことだ…ナツル」
「な、なんだよ……」
「お前の幸福が俺は憎い」
「最低だなお前!?」
言うに事欠いてなんだその理由!?気圧された俺がバカみてぇじゃねえか!
ちょっと気持ちが分かるのが悔しい!
知人の幸せ見ると壊したくなるんだよ。ゲスだからさ。
「キサマはFクラス不動の掟に背いた…」
「なんだそれ」聞いたことないぞ。
「『Fクラス男子たる者!常に硬派たるべし!無断で彼女を作らない!!』」
なんだその不毛な掟。言ってて悲しくない?
つーかコイツら見てると"作らない"んじゃなくて"作れない"んだろ。絶対。
「観念しろ瀬能!いくらお前でもこの人数の前には逃げられまい!」
『手紙を奪え!瀬能を血祭りに上げろ!!』
『
気づけば360度黒ローブの集団に囲まれていた。
うーん、ほぼ全員ヤる気満々で文字通り隙がない。脱出は不可能レベルだな。
しょうがない……
「殺すか」
ヒュッ
俺の一言で場の空気が一気に凍りついた。
「な…ナツル……?」
「悲しいな。人生で初めて手にかけるのがクラスメイトだなんて」
パキパキと見せつけるように両手を使って指を鳴らすと全員の顔が青ざめる。
クールぶってる源もドン引いてるのちょっと草。
同じクラスになってもうちょっとで3か月だぞ。俺の性格まだ把握してねえのか。
「特別サービスだ。誰が1人目になるか決めさせてやろう。前に出ろ」
にっこりと口角を上げて目の前の人間(多分須川)に提案するが、さっと顔を逸らされる。
ならば他の奴…と周りを見回すが、誰も目を合わせようとしない。
みんなシャイだなぁ。
「瀬能ちゃん!そんな物騒なこと言っちゃ駄目ですよ!」
壁際に(追いやられて)いた女子のクラス代表である甘粕が大声をあげた。
…甘粕だよな?人垣で見えない…
「お姉さん怒りますよ!?」
「散々他の奴が物騒なこと言ってたの見逃してたくせに…」
俺の時だけ止めるのおかしくない?偽善者ぶってる感半端ないんですけど。
出席の段階で止めてくれないと説得力ないっつーの。
「そっ…それは……」
「ちょっと瀬能!マヨをイジメないでよ!男子が急に騒ぎ出したから動揺してパニックになってたんだから!!」
「じゃあそのままパニック起こしてろ」俺の時だけ再始動するな。めんどくせえ。
『くッ…瀬能の奴調子乗りやがって…!』
『こんなことなら弱体化を願うんだった…』
「あ〜ん?どういう意味だ?」
『…清涼祭で短冊に願ったんだよ。瀬能が雷に撃たれるようにって』
そんなこと…あ!そういやなんかぞろぞろと出てったシーンがあったな!
「テメエらのせいかよ…見事に願い叶ってんじゃねーか」
噂マジだったのか…清涼祭で出される笹に願い事書いた短冊吊るすとランダムで一つ叶うっての。ガセだと思ってた。
『え?』『どういう意味だ?』
「学園祭終了間際に死ぬほど電流浴びせられたんだよ」
『『『なっ―――』』』
『『『彼女が出来ますようにって書くんだった!!!』』』
「オイ不動の掟」
擦りまくった氷上のカーリングストーンみたいによく動くじゃん。
まぁ気持ちは分かるが。
「分かるが故に俺は俺の幸せを邪魔する奴を全力でブチ殺す。なあ吉井?」
「なんで僕!?」
理由はない。空が青いからだよ。
なぜなら僕は魚雷だから!!
「もういい、時間も無いし手前から順にいこう。多少雑になるけど勘弁して―――」
「……なにしてる?」
「うわビックリした!?」
いつの間にか真後ろにいた呂布ちゃんに突然声をかけられた。
さっきまでいなかっただろ!?気配殺して近づいて来たにしても、誰も気づかなかったとかどうやったんだ!?
てかいつもそうだけど、仮にも主と呼んでる奴に奇襲チャンスかますな!!
「いまだ皆やれ!」
「あ?うおっ!?」
いきなり直江が大声を上げたと思ったら、黒ローブ集団が突進してきた。
はじめに前方からラガーマン張りのタックルをかまされ、左右の腕を掴まれ、背後から何人もの人間にのし掛かられて床に押し倒される。
「キサマラァぁぁぁ!!」
「よーしよくやった。そのまま押さえて手紙を探すんだ」
「坂本ォォォォッッ!!」
複数のクラスメイトたちに乗られた状態で上着やズボンのポケットを無遠慮に弄られる。
っ…あ……あっ、そこっ、そこはダメっ!この人チカンですっ!
「きもい」
「呂布ちゃん!?」
誰かには言われると思っていたがまさかの人選だ。
ていうかかなりショックだ。
『見つけたぞ!ブレザーの内ポケットだ!』
「あってめ!」
名も知らぬクラスメイト(というか黒ローブのせいで級友かも分からない)に持っていた封筒を奪われる。
「ヤメロォォォォッッ!!キサマらそれをどうするつもりだ!」
『知れたことを…今から全員で朗読した上で再犯防止のためにコピーして学園中にばら撒くのよ!』
「お前それマジでやめろよ!!」悪質すぎる!
ていうか俺に手紙送るのって犯罪扱いなの!?
そうこうしているうちに封筒が開けられ、中から一枚の紙が取り出される。
そして、
『残念賞!次に期待!!』
――――――教室の空気が凍った。
『…………』
『…………』
『『『……………』』』
誰もなにも、一言も喋らない。
そんな中で拘束する力が緩んだ隙をつき、のし掛かる集団から抜け出して静かに立ち上がる。
「なっ…ナツル…?」
「…ろす…」
「え?」
「コロス…」
「ひぃっ!ナツル!?」
「許せねぇ…許せねぇよ…許しちゃいけねぇよ……!」
『怖い怖い怖い!』
『主人公がしちゃいけない顔してる!?』
どのような表情なのかはご想像にお任せします(by nick)
「殺してやる…コロシテヤルゼフーゴォォォォ!!」
「誰だよフーゴって!?絶対とばっちりだろ!」
「お前ちょっと落ち着け!!」
「うるせえ……殺すんだよ…絶対、殺すんだよォ―――」
「……落ち着く…」
ゴキュッ
「るふぁ、」
突然背後から首を絞められ、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
しかし床には倒れない。むしろ宙に浮いている…後ろから抱き抱えられてるなコレ。
この感触は呂布ちゃんだろう。ずっと教室にいたのか。
「…………」
そのままぐったりしている俺を抱えて教室から出ていく。
その様子を黙って見届けるクラスメイトたち。
『…結局ラブレターはただのイタズラだったのか』
『ああ…よく考えたらあの瀬能が貰えるはずないよな』
『だな。神月学園一の問題児だし』
好き勝手なことを喋りながらローブを脱ぎ、何事もなかったかのように授業の準備を始める。
きっとついさっきまでの惨劇の予兆をすぐに忘れていつもの日常に戻るのだろう。計画通り…
「(ククククク…)」呂布ちゃんに運ばれながらほくそ笑む。
ヴァカどもめ!イベントリなんていう不可侵な秘密空間持ってる俺が服のポケットにラブレターなんて物を入れるわけねーだろ!
じゃあ奪われた手紙はなんだったのかって?あれは中学のとき実際に送られた紅音とかのイタズラのブツだ!
当時を思い出したら簡単に怒れたぜ。また殺意の波動に目覚めそうだ。
それでも直江や坂本をホントに騙せたとは思いづらいんだが…あの場を切り抜けられたからよしとしよう。
「て訳で呂布ちゃん。そろそろ離して」
お姫様抱っこで俺を運ぶ彼女にお願いする。
授業開始間際で人がほとんどいないけど、全く人目が無い訳じゃない。
こんな格好で誰かとすれ違うたびに恥ずかしくって気まずくて…興奮してしまいそうだよ。
あと身体の前面に呂布ちゃんのボリューミーな部分がムギュうと押し付けられて…興奮する。
早く降ろして?
「…………」
しかし歩く速度は変わらず、床に降そうとする気配もない。
それどころかだんだん
「呂布ちゃん?」
「…………」
なんだろう。なんか怖い。
即座に降りようと身体に力を込めた瞬間、呂布ちゃんの両腕にも力が入り、手足を掴まれる。
にっ、逃げられん!?
「……計画通り…」
「は?」
〜〜〜〜
その日、瀬能ナツルは登校したにも関わらず全ての授業を欠席した。
呂布奉先も同じく全ての授業を欠席していたが、関連性があるかどうかは定かではない。
■第九の晩〜
うみねこのなく頃に。確かにナツルがいたら殺戮の魔女が出ても大丈夫そう。
■フーゴ
ジョジョ。第5部の登場キャラ。能力が凶悪な割に全然戦ってねぇイメージしか無い。
本来あるはずの姫路のラブレター?この世界線では無いんじゃねーですかね(テキトー)