戦士たちの非日常的な日々   作:nick

27 / 147

構成はそこそこできてた。
時間もすこしなら取れてた。
書きたい気持ちもあった。

なのに書けない。

イメージを文章にするって大変です…




20時間目 Justice

 

 

・昼休み

 

「あ"〜〜〜〜〜…」

 

机(みかん箱)に突っ伏し、深々とため息をつきながらうめき声を上げる。

やっと昼だ…。4〜5時間しか経ってないはずなのになんか無駄に疲れた。

 

「どうしたナツル。そんなDクラスと試召戦争した次の日の吉井みたいな声出して」

「とても説明的なセリフをありがとうよ…」

 

そういやあいつが呻いてたのも昼休みだったな。なんかヤダ。

 

「ぁ"ー、あ"ー!んっ、んんん"!!あー喉痛っ」

「なんだよさっきから…なにかしたのか?」

「二限目にちょっと…」

 

机から身体を離し、軽く伸びをした後に立ち上がる。

いい加減地面飽きた。早く校舎内に戻りたい。

 

「二時間目っていうと、選択科目か。ナツルは音楽だったな。熱唱でもしたか?」

「遅刻した罰でロード歌わされた」

 

なんでもないようなことが、しあわせだったとおもう。

 

「…何章まで?」

「13章」

 

なんでもないよるのこと。にどとはもどれないよる。

 

いくらすこし前に話題になったからとは言え、アカペラで一時間歌わせるのはあんまりじゃないかな。

歌いきった時全員から喝采を浴びせられたぞ。

 

「学校でロード歌う高校生って何人いるかな…」

「お前一人だけだよきっと」

 

喜べばいいのか嘆けばいいのか微妙なラインだな。

 

「通りで声が掠れてるわけだ…よし、そんなナツルに学食を奢ってやろう」

「ん?奢る?お前が俺に?」

 

珍しいな。

 

「お前のおかげで儲かったからな」

「俺のおかげで?」何かした覚えはないが。

 

「一時間目にスクワットさせられただろう。何回でギブアップするか賭けてたんだ」

 

千回やりきるに賭けたのは俺だけだったな、と直江は朗らかに笑う。

 

その顔を見て(もともとする気はなかったが)遠慮せずに学食で一番高いやつを奢ってもらおうと思った。

確か一食五千円の高級ランチがあったはず。

 

「大和、冴島殿。二人ともなんの話をしているのだ?」

 

会話が途切れたのを見計らったかのように、フリードリヒが話しかけてくる。

 

珍しいな、特に接点もないはずなのに。

 

まだ転校してきて日が浅いので、積極的にクラスの人間と関わりにきたのか…直江と同じ寮で生活してるらしいから、俺はおまけで直江に話しかけただけかもしれない。

 

つーか、

 

「もう名前で呼ばせてるんだな」

「羨ましいか?」

「別に」

 

 

簡単に名前呼びさせる神経がよく分からん。

いやまあ俺だって、何年もつきあってないと呼ばせないって訳じゃないんだけど…なんかなぁ。

 

 

なんとも言えない胸のモヤモヤに悩んでいる内に、直江がフリードリヒに先ほどの会話の内容を説明する。

 

「ナツルがスクワット何回できるかで賭けてて、俺が一人勝ちしたってのを話してたんだよ」

「なに!?」

 

フリードリヒが目尻を釣り上げる。

 

「大和お前、級友を賭けに使ったのか!!」

「賭けに使ったって…賭け事自体は神月学園で公式に認められてるぞ」

「それは知っている、しかしそれでかけるのは食券だろう!大和、お前が先ほど受け取っていたのは現金ではないか!!」

「ほほう」それは聞き捨てならんな。

 

「今日の俺の昼飯は『英雄様の気まぐれメニュー』で決まりだな。勿論直江の奢りで」

 

説明しよう!『英雄様の気まぐれメニュー』とは、その名前の通り二年S組に所属する九鬼英雄のその日の気分で決まる学園非公式の昼食なのだ!

 

ちなみに注文する場合は同じく二年S組のメイド(名前は知らん)に頼めばOKだ。

 

「ちょおまっ、あれ一食の最高金額30万だろうが!」

「最低金額は百円だぞ」税抜きで。

 

なにしろ完全に九鬼の気分次第なので、なにが出るかはメイドにすら分からんらしい。

今までの最高は超高級海鮮料理フルコース。最低はカップ麺というまさにギャンブルメニュー。

 

意外に人気なのが謎だ。

 

 

「冴島殿!お前もなぜ怒らぬのだ!!自分が賭け事に利用されたのだぞ!?」

「と言われましても」

 

先日の試召戦争でも勝敗を対象にされましたし。

昨日のアクジさんとのやつも多分なってるだろうし。

 

「自分は断固として抗議するぞ!級友が級友を使って金品の取引をするなど、あってはならんのだ!!」

 

拳を握り締め力説するフリードリヒを、周りが遠巻きに、迷惑そうに眉をひそめる。

 

「その自論だとクラスメイト以外だったらOKってことになるが」

「え?」

「クラスメイト同士でも食券ならいいってことにもなるが」

「……えっと…」

 

俺がちょっと反論すると、途端に静かになる。

なにがしたいんだこいつ。

 

「ええい、自分は正しいことを言ってるはずだ!なぜそれが分からない!」

 

自分の主張が通らなかったからって癇癪起こしやがった。ガキかこいつは。

 

「"はず"なんだな。偽善者気取りは中途半端だなぁ」

「なっ、自分が偽善者だと!?」

「己の虚栄心を満たしたいがために他人を糾弾する。偽善といわずになんて言うんだ?」

「お…おいナツル」

 

直江が窘めるように声をかけてくるが、無視する。

 

「しょーじきさー、ウザいよ。フリードリヒちゃん」

「うっ、ウザい?」

「当事者である俺がいいって言ってんのに、なんでお前が噛みつくんだよ。なに、もしかして俺のこと好きなの?」

「なっ!?」

 

その一言でフリードリヒの顔が真っ赤に染まり、分かりやすく狼狽する。

 

「ばっバカにゃ!そっそっ、そんなわけあるかっ!!」

「そりゃよかった。俺もお前みたいな自己中はごめんだからな」

「っ…!もう勘弁ならん!」

 

言うが早いか、フリードリヒはどこからともなくレイピアを取り出し、俺に突きつける。

 

…てかそれ、本当にどこから出したんだ?見てた感じだとなにも無い空間から突然出現したみたいだけど。

最近の武士娘はアイテムボックスを常備しているのかな…非常識な。

 

「冴島タイガ!そのねじ曲がった性根、たたき直してくれる!!」

「口で勝てないと見ると途端に手を上げる。そういうところがウザいっつってんの!!」

 

ドゴッッ!

 

ノーモーションで放った前蹴りがフリードリヒの持つ剣の、曲線状の鍔に直撃する。

その衝撃で彼女は、数メートルほど後ろに吹っ飛んだ。

 

「ッ!?卑怯な!」

「自分から喧嘩振っといてなに言ってんだぁ?よーいドンで始める競技じゃねーんだよ!」

 

突然の戦闘に慌てて離れていくクラスメイトを気配で確認してから、空いた距離を瞬動で即座に潰す。

同時にフックとアッパーの中間点、斜め下から突き上げる強打"スマッシュ"をフリードリヒに放つ。

 

「オラッ!」

「くっ!」

 

咄嗟に剣でガードされるが、おかまい無しに連打。

スマッシュから始まり。右フック、左ボディ、少し溜めてからの後ろ回し蹴り。

 

その全てを剣で受けたり躱したりされる。

この程度に対応できるだけの強さはあるのか。(ランキングで言うなら18位ぐらい?)

 

「くっ…!舐める…なっ!!」

 

猛攻をかい潜り、フリードリヒは鋭さを持った突きを繰り出す。

 

いい突きだ…。趣味やなんとなくでレイピアを扱ってる奴では、到底放つことができないレベルだ。

きっと一生懸命、真面目に練習したんだろう。

 

それ故にとても利用しやすい。

 

「古牧流…」

 

突き出される刃に自分から突っ込んでいく。

身体に当たりそうになった瞬間、

 

「無刀、転生!」

 

ダッキングで前屈みにかわし、フリードリヒの手首を掴んでそのまま投げ飛ばす!

 

「かはっ!?」

 

大地に叩きつけられて、フリードリヒが短く息を吐く。

 

「単純なんだよてめーは。もっと工夫しろ工夫」

 

良くも悪くもまっすぐすぎる。

それがダメとは言わんが、今のままだと軽い挑発に乗っては味方を困らせるだろうな。

 

「ぐぅ…まだだ!まだ自分は負けていない!!」

 

フリードリヒはすぐに地面に手をつき、起き上がる。

 

打ち付けられた背中の痛みは無視できるほど軽くないはずなのに、そこに手を当てることをせず、背筋を伸ばして県を構えてキッと俺を睨みつけてくる。

中々根性あるじゃねーの。

 

「おーおー勇ましいねぇ、正義の味方気取りか?でもあんたの正義ぃ…」

 

 

「無力ですからぁぁぁーーー!!残念!」

「…っ、言わせておけば!!」

 

 

ギ○ー侍風に酷評してやれば、予想通りに突っ込んできた。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

そして勢いそのままにレイピアで突きを放つ。

それしかないんかお前。

 

「普通もっと、フェイントとかあるだろうに…」

 

その気配はまったくない。

 

ただただ、突っ込んで突く。それしかないと言わんばかりの気迫に満ちている。

 

闘牛の牛だなまるで。マタドールのマネでもしろってか?

 

「身を持って知れ」

 

フリードリヒの突きを半身になってかわし、すかさず左の二の腕をぶちかます。

 

「クォーラルボンバー!」

「がっ!?」

 

喉元に当たり、短い悲鳴を上げて後方に吹き飛ぶ。

 

「しゃーらっハーッ!!」

 

それを追いかけるように猛ダッシュ。

十分に助走がつき、フリードリヒにの近くにまで来たので飛び後ろ回し蹴り。

 

「オラぁッ!」

「…っ、くらうか!」

 

俺の踵は剣の鍔で防がれた。

裸足だから少し痛い…

 

「そのような攻撃、自分には通用しない!」

「だろうね」

 

軽い口調でフリードリヒの背後にいる俺が言葉を返す。

 

「防御させるのが目的だし」

「ねー」

「!?」

 

続けざまに俺の左右にいる俺が呑気そうに会話をすると、フリードリヒが驚愕の表情を浮かべる。

 

前後左右、四方を俺に囲まれ困惑で動きが止まったところを、彼女の前と右にいる二人が素早く、両方の腕をがっちり掴む。

 

続いて左と後ろにいる二人が片方づつ両足首を掴み、引っ張る。

フリードリヒはちょうど地面と水平にして空中に張り付けにされる形になった。

 

『影分身・死刑執行!』

 

そしてそのまま四人全員が声を揃えて一斉に、綱引きをするみたいに勢いよく引っ張る!

 

っバッチン!!

 

「っっ゛、ああ゛あっ!!?」

 

ゴムを伸ばして引きちぎったような音がグラウンドに響いた。ような気がした。

 

それほどの衝撃だったのだろう。その証拠に、フリードリヒはそれ以上悲鳴を上げることもできずに地面をのたうち回っている。

 

「吹けよ無情の野分の風よ〜」

 

両腕を某ライダーのように斜め右上に揃えて上げる。

 

「竜巻地獄!!」

 

そのまま腕を高速で振り回すと、竜巻が起きた。

 

"気"が使えるようになってから火・氷・風が生み出せるようになったな。次はなんだろう。

 

「うわぁっ!?」

 

竜巻に巻き込まれ、フリードリヒが上空に舞い上がる。

 

すかさず月歩で宙を駆け上がり、後を追う。

数秒もしないうちに追いつき、今だ上昇を続ける彼女の身体を飛び越えて、その首に右足の臑を引っかける。

 

そのまま全体重をかけて落下し―――地面に激突した。

 

 

「地獄の断頭台!!」

 

 

グラウンドに蜘蛛の巣を張ったような亀裂が出来た。

 

昨日補修したばっかなのに…また怒られて穴埋めさせられっかな。

 

「――なにをしているんですか!?」

 

地獄の断頭台の体勢のままでこれからのことを考えていると、後方から大声がかけられた。

振り返ると、遠くから小さな少女が必死な形相で駆け寄って来るのが見えた。

 

あいつは確か……甘食?だっけ?

(※甘粕真与)

 

「瀬能ちゃん!クリスちゃんに一体なにをしているのですか!?」

 

ある程度の距離まで近づくと、大声で責め立てる。

本人は全身で、精一杯怒っているつもりなんだろうけどまったく怖くない。ハムスターの威嚇レベルだ。

 

「なにってケンカだけど」

 

返事をしつつ、フェイバリットを解いてフリードリヒの上から退く。断頭台の体勢維持するのキツい…

 

「どうしてクリスちゃんとケンカしてるんですか!」

「売られたから」

 

…よくよく思い返してみると、俺は誰かにケンカを売った覚えがないな。

多少やり過ぎても、向こうが先だと「正当防衛です」で済ますことが出来るから自分からは手を出さないようにしてるんだよね。

 

「売られたからって…それだけでここまでするんですか!?」

 

甘食に続くようにして近づいてきた姫路が、ボロボロになったグラウンドを指差して怒鳴る。

なんだ?その信じられないものを見たような目は。

 

「ギャンギャン喚き散らした挙句噛みついてきた犬に手加減するほどお人好しじゃねえんでね」

「犬って…!どうしてそんなこと言うんですか!?Sクラスとの試召戦争の時は…あんなに…!」

「テンション上がって口走った時のを持ち出されてもな…」

 

ガリガリと頭を掻いて、気怠げな態度を見せる。

 

「勝手な印象や期待を持つのは構わないが、それを人に押し付けるのは止めろ。いい迷惑だ」

「………!」

 

俺の言葉にどこか、失望したような驚きの表情をする姫路。

 

失望と驚き(それ)プラス困惑でオロオロする甘食。責めるように鋭い視線を向けてくる…名前なんつったっけ?スイーツとか呼ばれてた気がする。女。

 

遅れてやってきたながらも、状況を把握して睨んでくる島田。

若干困ったようにこっちを見てくる島津と師岡(モヤシ)

 

他の奴らも差はあれど、皆似たような表情をして俺を見ている。

 

「…………」

 

少し大げさに肩を竦めて、校舎の方へ歩きだす。

 

去年もこんな感じだったな…なぜだろうあの頃は平気だったのに、今はただただ居心地が悪い。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

「なんであんな真似したんだ」

 

校舎に入るとすぐ、壁際から声をかけられる。

 

視線をやると一人の男が立っていた。

 

「源か。…なんのことだ?」

「とぼけんな。ついさっきのことだろうが」

 

言ってからグラウンドに顔ごと視線を移すので、釣られてそちらに目を向ける。

 

そこには地面に座り込んだまま、周りを心配げなクラスメイト達に囲まれてるフリードリヒの姿があった。

 

「あんだけやって無傷なんだ。見せかけだけの攻撃してなにが狙いだ」

「フリードリヒが頑丈なんだ、って風には考えないんだな」

「似たように痛めつけられた坂本が入院してるのにか?無理があんだろ」

「あー…あれだよ、レディには優しいんだよ俺。紳士だから」

「鍛練の時毎回一子をボコボコにしといてか」

 

いかん、源の目に攻撃色が。

 

てかなんでそんなに詳しい…そういえば直江たちと同じ寮に住んでたっけ。

あー…どうすっかな。

 

適当に煙に巻きたいんだが、見た感じそれを許してくれなさそうだ。いや分からんけど。

 

接点がまるで無いから、こいつがどういう奴かよく知らないんだよなぁ。

島津や風間(バンダナ)みたいに単純じゃないってのは分かるが…寧ろ(会長)に近い気がする。

 

「……ぼっちを見るのが嫌だったから、かな」

ガリガリと頭を掻きながら口を開く。

 

「景観を損ねるだろ。一人孤立してる奴って」

「テメェは孤立してもいいのかよ」

「我がクラスには鏡はないからな」

 

鏡どころか時計もない、っていうかそもそも壁がなかった。早く教室できないかな。

 

「正義でもなんでも、行き過ぎると迫害の的になるってのをフリードリヒ(ヤツ)が知ってりゃよかったんだがな。まぁ転入生への餞別ってことで」

これで学ばなかったら…もう一回ぐらいは泥をかぶってやろう。

 

「あんなので大丈夫なのか?」

「大丈夫なんじゃない?うちのクラスはお人好しが多いみたいだから」

 

視界の先には、立ち上がったフリードリヒと、彼女の周りであれこれと世話を焼いている数人の少女の姿があった。

 

できれば、俺もあそこにいたかった。

 

でも無理だ。自分で手放したから。もう、どんなに手を伸ばしても掴むことはできない。

 

「…テメェもそのうちの一人じゃねえか」

「ははっ!面白い冗談だな」暴力ふるうお人好しってこれいかに。

 

グラウンドから視線を外し、源に目を向ける。

 

「正直に話してやったんだから誰にも言うなよ。悪ぶってるけど実は…ってのキライなんだから」

「……分かったよ」

 

返事を聞いて、校舎の奥へと足を踏み出す。

とくに目的地はないんだが…面倒だな。今日はもうこのままサボるか。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

〜直江Side〜

 

 

「…あれでよかったのか」

「ばっちりだよ」

 

ゲンさんがもたれ掛かっている壁の、窓から顔を出して返事をする。

 

ナツルの態度がいつもと違って見えたので、あいつがクリスとケンカしてる最中にこっそり抜け出していろいろ画策してみたんだが…こうまでうまくいくとは思わなかった。

俺の気配を察知されたりして途中でバレるかもしれないって不安もあったんだけど…相手がゲンさんだったから油断してたのかな。

 

「瀬能から本音を引き出してどうするつもりなんだ?」

「ん?ヤダなーゲンさん、決まってるじゃないか」

 

にっこりと笑顔になりながらグラウンドの方を見る。

よしよし、まだみんな揃ってるな。

 

「…言うなって釘を刺されてんだが」

「ゲンさんはね」俺は言われてないから大丈夫。

 

「なんでテメェがあいつのフォローすんだよ」

「あれ、ゲンさんもしかしてやきもち焼いてる?」

「死ね」

「うそうそ冗談、冗談だって」

 

短く呟いて立ち去ろうとするゲンさんを慌てて引き止める。

 

「今は行使する権利を剥奪されているからできないけど、期間が明ければまた試召戦争を仕掛けるって坂本が公言してるからね。となるとナツルがクラスに打ち解けてないのは都合が悪いでしょ」

「…たしかにな」

 

ゲンさんがいつもの仏頂面な表情で軽く頷く。

 

「それにほら、ナツルも言ってたじゃない」

「あぁ?なにをだよ」

「うちのクラスはお人好しばっかりだ、ってさ」

 

言いながら、まだ多くのクラスメイトがいるグラウンドに足を向ける。

さてどう言って説明しようかな。

 

「…あとで瀬能に殺されても知らねえからな」

 

いやいやいや、いくらナツルとはいえそんなことは…ことは……

 

……………なにかしら考えておこう。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

ナツルとクリスが激闘を繰り広げてから一夜明けて次の日。ナツルは神月学園へとやって来た。

 

いつも通りに朝起き、いつも通りに通学路(みち)を歩き、いつも通りの時間帯に学校に通う。

 

しかしただ一つだけ、クラスの人間の態度だけが違う。

とはいえそれもすぐに"いつも通り"になるだろう。ナツルはそう軽く考えた。

 

それ故に、自虐の意味も込めて教室に入ってすぐ挨拶の言葉を口にする。

 

「おはようーッす」

「む…冴島殿!おはよう!」

「え?」

 

どうせ返事はこない…などと思っていたのだが、見事に予想を裏切られ、思わず間の抜けた声が彼の口から零れた。

 

昨日あれほど痛めつけた相手から勢いよく挨拶されたのだから無理もないだろう。

さらにその相手が、笑顔を浮かべて近づいてくるのだから。

 

「うむ、聞いた通り規定時間前にきちんと来たのだな。流石は冴島殿!」

 

なにが流石なのかは作者にも謎である。

 

「…昨日あれだけボコったのになんで普通に話しかけてくるかな。しかも笑顔とか…頭おかしいんじゃねえか?」

 

ナツルは「頭部を打った覚えはないんだがな…」と呆れた様子でつぶやいて、自身の頭をがしがしと乱暴に掻く。

 

「自分は至って正常だ」

「ならもともと頭が花畑なのか。流石は編入先がFクラスなだけはあるな」

 

半ば、自分のことを棚に上げている気がするのは気のせいだろうか。

 

随分といえば随分な言い様に、クリスは怒りの表情を見せる…ことはなかった。

寧ろ納得したような顔で、うっすらと柔らかな笑みを浮かべている。

 

「うむ、昨日までの自分なら怒っていただろうが、話を聞いた後だと…失礼だと思うがおかしさすら覚えるな」

「あ?どういう意味だオイ」

 

ナツルは訝しむような表情でクリスを睨む。

しかし睨まれた本人はとくに気にした様子もなく、むしろ堂々と胸を張り

 

「冴島殿は不器用で悪ぶりたがる性格だから、どうしても拳でしか語れない。昨日の行いは自分への警告だと」

「ぶっ!?」

 

(本人に取って)驚愕の一言を聞き、思わず固まる主人公。

次いで、困惑しながらも話の情報源であろう人物に目を移す。

 

「ジンベエ、言わない約束だったじゃないのヨーウ!!」

「あぁ?もしかして俺か?…誰がジンベエだ」

 

心底めんどくさそうにため息を吐く源。

 

 

こんな時でもネタを使ってボケに走る辺り、意外と余裕があるのかもしれない。

 

 

「…言っとくけど喋ったのは俺じゃねえぞ。直江だ」

「ちょっ、ゲンさん!?」

「ナオエェェェェェェ!!」

 

いきなり引き合いに出され、焦りの声を上げる直江大和。

その大和に、ナツルは突風のようなスピードで近づき、前襟を掴んで締め上げる。

 

「ぐぉえっ!?」

「ドぉウいうことか説明してもらおうかぁぁぁオイ…!全身の関節を反転させる前になぁ…!」

 

ネックハンギングツリーのような態勢で大和を宙づりにしながら物騒なことをほざくナツル。

その瞳は白目の部分が真っ黒に染まり、黒目の部分が紅く―――とても常人がしていい眼ではない。

 

「ぐ……そ…そのまえにひとつ…いいか……!」

 

このままだと殺される…そう直感した大和は、宙づりのまま口を開く。

 

「なんだぁ、遺言か?」

「以前から…ぐっ…思ってたんだが……」

「?」

 

「ナツル…お前は、普通だ!!」

 

生死を別けるかの瀬戸際にこの一言は正直どうかと思う。

 

しかし言われた本人は衝撃だったのか、背景に雷鳴を背負って硬直する。

 

「ふ…ツウ…?俺が…不通!?」

「普通だよ」

 

 

不通: 通じないこと。交通・通信などがとだえること。 便りや行き来のないこと。

 

意味などが通じないこと。わからないこと。

 

ある意味合っていた。

 

 

「ふ…ふふふフフフフ、風間ファミリーの軍師サマーともあろう方がずいぶンと耄碌したもンだ。俺のどこがフフフフツウだって?」

 

ナツルは襟首を掴んでいた手を離し、バキが取る宮本武蔵の構えのような姿勢をする。

 

臨戦態勢だった。

 

しかしその指先はぷるぷると細かく震え、眼は虚ろだった。どう見ても虚勢である。

 

まるで姫路料理を食べた後のような姿。

 

知り合って約一年、たった一言でこうまで追い詰められたところを見るのは初めてかもしれない―――想像以上に効果があった策に大和は軽く戦慄を覚えた。

 

「ナンでそう思うンだ?」

 

瞳孔の開いたかなりヤバイ眼をしながら、無理矢理口角を上げて笑顔(っぽい表情)で尋ねるナツル。

豹変した赤司征十郎みたいで正直怖い。

 

「え?いやだってお前…毎日欠かさず学校に来てるし」

「学生なんだからそりゃ来るだろう」

「お前不良って設定だろ?ならもっと頻繁に休めよ」

「俺は常識を覆す不良なんだよ。だから毎日始業前に学校に来る」

「それもう不良でもなんでもないじゃん!真面目な一般生徒じゃん!」

 

ごもっとも。

 

言われた本人はまた衝撃を受けたらしく、雷鳴をバックに硬直する。

 

「で…でも、人の腕折ったり、地面にヒビ入れたり」

「そこだけ見たら確かに異常だけどさ、全体の一部だろ?誰だって持ってるよそういう人とは違う一面」(ドシュッ)

 

誰だって持ってる。

その一言は刃となってナツルを貫いた。

 

「ぐっ…ううううぅ、ええい!俺はフツウじゃない!ないったらない!!」

 

胸を押さえた状態で、頭の悪い台詞をだだっ子みたいに言い出した。

どことなく昨日のクリスに被るが、こちらは可愛げのかけらもない。

 

「そうです直江ちゃん!瀬能ちゃんは普通じゃありません!」

 

四つん這いに近いくらいうつむいているナツルと大和の間に、一人の少女が現れる。

 

Fクラスの女子代表、甘粕真与だ。

 

「おぉ、女子のクラス代表。言ったれ言ったれ!」

「瀬能ちゃんは普通じゃなくていい子です!とってもいい子なんです! 」

「(ドブズっ!)がはっ!!」

 

甘粕の台詞が鋭く尖りナツルの身体を貫く。

 

心なしか先ほどの大和の一言よりも威力が大きそうだ。

 

 

「そうですね。瀬能さんはとってもいい人ですっ」(ザシュッ)

「うむ。強い人は優しいと聞いたが…正しくその通りだっ、冴島殿は人を思いやれるいい人だ!」(ドズッ)

「うんうんっ!タイガってば凄いんだから!」(カンっ)

 

 

姫路、クリス、一子(かずこ)。三人の"褒める"という名の口撃は容赦無くナツルの身体に降り注ぐ。

一子の言葉はいつも言われていることだが、多大なダメージを受けている今の状態では傷口を拡げるには十分だったらしく、ナツルは血を吐いて崩れ落ちた。

 

「ぐ…うぅぅぅぅ……ちくしょー!お前らなんかだいっ嫌いだぁーーーーーっ!!」

 

ぐれてやるー!とご丁寧に捨て台詞を残し、orzの体勢から素早く立ち上がって何処かへと走り去っていく。子どもか。

 

その姿を見て一部を除いた全員が思った。

 

 

お前本当に不良か?と。

 

 

「あっ、瀬能ちゃん!」

 

心の中でツッコミを入れなかった者の一人・甘粕真与が、とっさに逃げたナツルを追いかけようと手を伸ばす。

 

そこに大和が待ったをかけた。

 

「ほっときなよいいんちょ。どうせ追いつけないし」

「直江ちゃん、でもっ、瀬能ちゃん泣いてましたよ?」

 

本当に高校生か?

 

「大丈夫だって。もうちょっとでチャイム鳴るから、すぐに戻ってくるよ」

 

どんな不良なんだナツル(ヤツ)は。

というか不良という分類でいいのだろうか。

 

「ならいいんですけど…」

「冴島殿はなぜ急に走り去っていったんだ?」

 

クリスが不思議そうな表情で大和に尋ねる。

あなたのせいでもあるんですよ?

 

「今まで拳と皮肉と口の悪い言葉でしか物事を語れなかったから、照れたんじゃないか。あいつ捻くれてる上不器用なツンデレだから」

 

本人がいないのをいいことに随分な言いようである。

しかも全く間違ってないからたちが悪い。本人がいたら怒鳴りながら否定するだろう。

 

「そうなのか…よし決めたぞ!自分は、冴島殿と対等に話し合いをできるようにもっともっと強くなる!」

「!、あっアタシだって!いつかタイガを越えるくらい強くなっるんだから!!」

 

クリスは決意を露にした表情で宣言すると、一子もそれに続くように宣言する。

 

 

この時の決意が嘘ではないことを証明するかのようにこの二人は、近い将来裏・神月ランキングのランクをものすごい勢いで上げていくことになる。

 

最終的に、3位と4位を独占することになるのだが―――それはまた別の話。また、別の機会に話そう。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにナツルはチャイムがなってすぐに教室(指定のグラウンド)に戻ってきた。

 

苦い表情で歩いてくる様子を見てクラスメイトたちは生暖かい眼で迎え―――それを見たナツルが再び走り去ろうとしたがやって来た西村教員(鉄人)に捕まるという場面もあったが、長くなるので割愛させていただく。

 





■古牧流・無刀転生
 龍がごとく最強の流派の、古くから伝わる技の一つ。
 似たような技で無刀転殺というのがあるが、こっちを使ってたらクリスはヤバかった。
■「ジンベエ、言わない約束だったじゃないのヨーウ!!」
 ワンピース、ボンちゃんのセリフ。
 私は信じてる。彼はまた生きてストーリーに関わってくると。
■それはまた別の話。また、別の機会に話そう。
 果てしない物語のナレーションでちょくちょく使われる言い回し。おぼろげだけど確かこんなだった。


○血祭り・悪

クォーラルボンバー → 影分身・死刑執行 → 竜巻地獄 → 地獄の断頭台

○血祭り・悪(フルver)

クォーラルボンバー → 影分身・死刑執行 → フォーポイントインパクト → マウンテン・ドロップ → ハリケーン・ミキサー → アイス・ロック・ジャイロ → 完武・兜砕き → 竜巻地獄 → 地獄の断頭台




〜オマケ〜

「冴島殿はすごいな!」
「うん!タイガってば本当にすごいんだから!」
「ぐるぐると渦回した眼でおかしなこと言うのヤメろ!ウザイし怖いんだよ!!」
「(冴島教信者がまた一人…)」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。