番外話。呂布子ちゃんが加入した日の翌日。
〜ナツルSide〜
「お前ホントについて来んの?」
ある朝の学園への通り道。なぜか俺の斜め後方を歩きたがる呂布子ちゃんに尋ねる。
「(こくり)……行く」
「目的地が一緒なら与一たちと行きゃあよかったのに、なんでわざわざ俺んち回って行くかね」
「……いっしょ」
「一緒って…まあ百歩譲って通学を合わせるのはいいとしよう。ただ家の前に待機するのはやめてくれんか?」
「(ふるふる)……やだ」
言葉足らずではあるが、そこには明確な強い意志があった。こいつはなにがあろうとも絶対に引かないだろうと思えるほどの意志が。
ここで使うなやと率直に思う。…まあいいや。
「そういえばお前、学年とクラスは?」
「……二年、Sクラス」
「…俺Fクラスなんだけど」
「…!……変えてくる」
「待て待て待て待って待ってお願いだからマジで待って!!」その握り拳でなにをどう代えるつもりだ!
急に歩くスピードを上げた呂布の腕を掴んで引き止めるが、全く意に関した様子もなく平然と引きずられる。
力つえぇよバカ!軽く…いやかなりショックだ。
「個人の都合で編入先を変えることなんてできるわけねえだろっ!」
「…!…………」
「ゴフッ、だ…だからその捨てられた小動物みたいな眼差しは止めろと…!」
俺は萌えでダメージ受けるんだよ。
なんてバカなやり取りをしてる間に学園に到着した。
クラス云々については、郷に入っては郷に従えということでSクラスで真面目に授業を受けるように納得させた。不満ありありなオーラ出して睨んできたけど。
その代わりというわけではないが、休み時間とかは好きにさせとく。この辺で妥協しないと後が怖いからな。
いつも通り校門を通り抜け、靴箱に…向かわずグラウンドの方へ歩いていく。
「…?……靴は?」
「んあ?ああ、そういやお前初めてだっけ。2-Fは教室外なんだよ」
「……変」
「俺もそう思う」
「……雨の日はどうするの?」
「知らん」幸か不幸かまだ一度も降ってないからな。
☆ ★ ☆
ゴザとみかん箱、それにホワイトボードだけの教室(?)に足を踏み入れる。
「はよーす」
「あ、タイガ!おはよ…う……」
「ナツル、今日は来た…んだ……」
「昨日は学校サボってなに…を……」
自分から話しかけてきたくせに、俺の姿を…正確には俺の後ろに控えている奴を見て、固まる
無視して適当な席に着く。
ゴザの上にあぐらをかけば、呂布子ちゃんが持っていた俺のカバン(家を出た途端奪い取られた)を差し出す。
「ありがとよ」
「……」
ぶっちゃけ持ってもらう必要なかったんだが…まぁいいや。
カバンを渡した後は当然のように隣に座る。正座で。
……ちゃんとホームルーム前に自分のクラスに行くんだろうなこいつ…不安だ。
まぁいいや。今日の一限目なんだったっけ?
「いやいやいやいやナツル、無理があるぞ流石に」
直江が無理矢理視界に入りこんできた。
見ないようにしてたのに…
「誰だよその隣の奴」
「あ?あー…」めんどくせえな。なんて説明しよう。
………………どうボケてもうるさそうだな。正直に話すか。
「武士道プランってあるじゃん?あれで生まれたクローンの一人だよ」
「武士道プラン…ていうと義経たちの仲間か。誰の偉人のクローンなんだ?」
「呂布。「……?」いや、お前を呼んだわけじゃないから」
なんでこの流れで自分が呼ばれたと思うんだよ。
「呂布!?三国志最強の武将じゃないか!なんでそんなの従え…いや、ナツルなら納得か」
「なんでやねんな…」どういう意味だろう。
「前々世が董卓だからな」
「なんでやねんな」
どういう意味だろう。
なんで前々世?生まれる前の前が董卓なら前世はなんだったんだ俺?
後で訊いたら「織田信長」って言われた。照れる。
「そんなことどうでもいいんだよ!それよりっ、どうしてそんな美人連れてんだどうやって知り合ったどんな魔法使ったんだよぉー!!教えろよナツルー!」
「うるせーよ島津!」この万年発情ゴリラが!!
少し前から本名で呼ぶようになったから(昔は冴島だった)こっちも呼び方変えてやったが…調子に乗ってんなこいつ。シメるか?
そんな風に思いながら、暑苦しくつめ寄ってくる男を煩わしく見つめていると。
「……駄目」
「へ?」
ヴォゥンっ
一瞬間の抜けた表情を浮かべたかと思いきや、その姿が急に消える。
ふと空を見上げてみれば、間の抜けた顔のまま逆さまに宙を飛ぶゴリ…島津の姿が。
おー飛ぶ飛ぶ。まるでロケットのように――って飛びすぎじゃね?目測だが校舎越えたぞ。
「うおぉぉぉぉぉっ――――――!?」
『がっ、ガクトー!?』
「へっ、きたねえ花火だぜ」
「まだ爆ぜてねえよ!」
まだ?木っ端四散する予定でもあんのあいつ?
まああの体勢であの高さから落ちたら頭がパーンするかもね。
脳内で学園の地図を引き出し、おおよその島津の落下地点を照らし合わせると……屋外プールに落ちるな。
ならいっか。ほっといて。
むしろ問題なのは―――
「…………」
どことなく誇らしげな雰囲気で俺を見つめてくる
これはアレか、小動物が飼い主によくやる「頑張ったでしょ褒めて褒めて!」的なアピールなのか。
正直さっきのは褒めるどころか叱るべき行為なんだが。
誰か近寄るたびに無双投げされ続けたら、あっという間にボッチになってしまう。
「…………」
ただなぁ…こっちの葛藤を微塵も感じた様子がない、無邪気な瞳に見つめられると…こう……恐怖が湧いてくる。
仕方ないので頭をぐしぐしと撫でてやる。
「…………(///)」
褐色の肌をほんのり紅く染めて、襟首に顔を深く埋める。
照れてんのか?ハッハッハッ愛い奴よのぅ。
『うがぁぁぁぁぁぁぁああっっっ!!!』
「「!?」」
いきなり奇声が上がり、思わず身をすくめる。
「リア充ぶりやがって…!瀬能のくせに…瀬能のくせに!!」
「ヤっちゃう?ヤっちゃう?ていうかもう殺
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクニクニクニクニクニクニクニク―――」
「ひいいっ!?」気がつけば周りがカルト集団に!
さっきまでは普通の教室(?)風景だったはずなのに、今は頭からすっぽりと被る黒ローブだらけのサイレントヒルな裏世界!
お前ら暑くねえのか!?じゃない、少し意識を外していた間にいったいなにが!?
「覚悟はいいな瀬能ぉ…!」
「いや、ちょっ、まっ…俺がなにした!?」
「黙れ!!FFF団団長の名の下、俺が直々に鉄槌をくれてやる。歯を食いしばれ!」
言うが早いか、黒ローブの男(声で判断)が拳を振り上げ、猛スピードで突進してくる。
意外に速い!?
「うおぉぉぉぉ!喰らえ、俺の怒りと憎しみと嫉妬のいちげ――」
「……駄目」
「ぶげらっ!!」
『すっ、須川ーーー!?』
拳が俺を捉えようとした瞬間、黒ローブの男(須川か?)が先ほどの島津と同じく宙を舞う。
…きたねえ花火だ。
「ちくしょう、よくも会長を…瀬能許すまじ!」
「いや、今の俺じゃねえし」
「許さねえ…許さねぇぞ!瀬能ーーー!!」
聞けよ。
「……駄目」
「ぐぴどっ!」
「横溝ー!!くそッ、おのれ瀬能!」
「……駄目」
「じぇ"ーん"っ!」
「福村ーー!!チキショウ、瀬能貴様!」
「……駄目」
「ばざる"どっ!!」
「工藤ーーー!!うぉぉぉぉ瀬能ーー!お前の血は何色だぁーーー!!」
以下、似たようなやり取りの繰り返し。
もう一度訊くがこれって俺のせいか?指一本触れてないんだけど。
全部呂布子ちゃんがやってるから。
おー、また一つ黒ローブが飛んでいく…同色を三つ揃えると空に打ち上がるっていうパズルゲームが昔あったな。
「おはようございま―――てええ!?なっ、なにやってるんですか皆さん!?」
最後の一人が投げ飛ばされるのを見送っていると、小走りに近づいてくる人物が一人。
我がクラスの数少ない良心(最近はちょっとアレに染まりつつあるけど)である、姫路だ。
「おう姫路。おはようさん」
「あ、おはようございます…じゃないですよっ!なんなんですか瀬能さん!?」
なんなのって…なにが?この状況?
んなもん俺だって知らんわ。
「本人に訊くのが一番だな。おーい、呂布ちゃんやーい」
向かってくる奴がいなくなったからか、どこか虚空を見つめてポーっとしている彼女に話しかける。
俺の呼び声に反応して、すぐにとてとてと近寄ってきた。
こういうちょっとした言うことは聞いてくれるんだよなぁ…
「……なに」
「あのさ、なんで俺に向かってくる奴を投げ飛ばしたりしたんだ?」
「…?…護る、当然」
ごめん、君の常識よく分かんないや。
「別に護ってもらわなくて結構なんだが。自分の身は自分で守れるし」
「……反応できてなかった」
「あ?…さっきの一撃か?」須川(仮)とかいう奴の。
「あれは…俺だって人間だからな。油断くらいするさ」しなかったらむしろマズい。常に気を張るとか早死にしそうだ。
「つーか、たとえ油断して食らったとしてもだ。"気"も使えない、格闘もろくにしたことないだろう奴の拳だぞ?せいぜい痛い程度で痣ができるかどうかってのくらい、どうってこと――」
「…駄目」
むぎゅっ
「怪我するの、駄目」
意識をする間もなく、頭を呂布ちゃんの両腕で抱き抱えるように
…うわーい。ふかふかでむにむにで…すっごいいい匂いするー……
「あの瀬能さん…大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ…?」
「人肌って温度高いよね」俺ってばとくに体温高いから。暑くてしょうがないよ。
「というわけでそろそろ離してくれないかなセニョリータ
「いきなり早口になったな。動揺してるからか?」
黙れ尻フェチ。
「……やだ」
「やだ!?駄目じゃなくてやだ!?我が儘じゃねーかなんで!?」
「……くせになる」
くせ?…癖?なにが?
もしかして抱き心地?なんか昔、モモさんも似たようなこと言ってたような気がする。全然嬉しくない。
あの人と違って絞め落とししてくる気配がないから変な心配しなくていいが、邪気のかけらも感じられないから罪悪感ハンパない。俺がやってるわけでも、強制してるわけでもないけど、すごいいけないことしてる気がする!
あとふつうに恥ずかしい。
「いいからはなせよ!女の子のおっぱいは正義なんだから、悪道外道を地でいく俺はきえちゃうだろ!!」
「タイガなに言ってるの?」
「普段全くないシュチュエーションに相当混乱してるんだろう。マンガみたいに目をぐるぐる回してるぞ」
「消えるっていうか、死にそうだね」
「…!死んじゃう、駄目っ」
椎名のつぶやきに反応して、呂布の抱きしめる腕にいっそう力がはいる。
むぶぶ…!顔面をおっぱいにおしつけられて息が…!死期がちかづいてるのをひしひしと感じる。
「ぶ…!……ぷはっ!殺す気か!?いいかげんはなs――ひぃっ!いつの間にか辺りが薄暗く赤錆びた裏世界に!!」
いつの間にか戻ってきたクラスメイト――黒いローブを頭からすっぽり被ってる奴らを級友と認めたくないけど――たちが、一人残らず全身をぐっしょり湿らせて俺たちを取り囲んでいた。
その身体からは地獄の瘴気のような黒いオーラを煙のように撒き散らしていて…なんでダンボールの机が錆びるんだ!?
「おっ、お前らいつからいたんだ…?」
『…………』
「おい、なんか言えよ。さっきの元気はどうした」
『…………』
「喋れよなんか!無言やめろ!!」怖いよ!
結局、ホームルーム開始のチャイムが鳴って呂布ちゃんが自分の教室に戻るまで…いや戻っても、奴らが口をきくことはなかった。
流石に、やって来た
辛い。
ちなみに異界化については、今だに解けていない。
そのうちクリーチャーでも生まれそうだ。ツライ。
女の子の(ここ重要)おっぱいは、正義。
錆びたダンボールって、名前だけ聞くと強度高そうだよね。