戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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称号:アントニオ冥土


18時間目 シュレディンガーのパンツ

ヴィクトリアンスタイルを基調とした、シンプルな黒のワンピースのエプロンドレス。

スカート部分は足の先まで隠れそうなほど長いロングタイプ。

頭には清楚な雰囲気を醸し出す純白のフリルカチューシャ。

そしてなんと言っても忘れられないのは、満面の笑顔っ。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様っ」

今日の私はかわいいのよっ♪

 

 

「っじゃねーだろクソガ!!」

頭に装着(つけ)られたカチューシャを思いっきり床に叩きつける。

 

あまりの衝撃に現実逃避してしまった。ぶっちゃけ自分でもどうかと思う。

 

「おや、大変可愛らしいですよ?」

「ぶっっコロスぞテメー…」

 

それ程親しくもないのに話しかけてきた優男(葵だっけ?)に殺意オンリーで睨みつける。

 

「いや!義経も可愛いいと思うぞっ?」

「んー、とても男には見えないねー」

「うるせーよへっぽこ主従コンビ!!黙ってろ!!」

 

我が友(よいち)はどうした!?あいつが居れば(多分)こんな酷い事にはならなかったハズだ!

 

後で訊いたらサボって校舎の屋上にいたらしい。ちくしょう。

でもそれが原因で弁慶に絞められたらしい。ざんねん。

 

「ていうかなんで俺こんな格好してんの!?」

 

会長にSクラスに来いっつわれて、まだ数十分も経ってないんですけど!?そんな短時間で一体俺の身に何が!?

 

……よし、ちょっと待とう。冷静に思い出すんだ。

 

まず…会長と一緒にこの教室に来た。それは間違いない。

 

その後……金髪で額に×(バツ)印を付けた男(九鬼、だったな)が、メイド服着た女に服を用意させたんだ。たしか。

 

で、今に至る。

冷静に思い返してみてもよくわからなかった。なにやってんだろう俺。

 

そして服を手配したメイド服の女が、なぜか今俺の頭をワックスで固めてる。

なにやってんだ、お前。

 

「…よしできた。っぷ、くくくくく…あはははっ!メイドっ、メイド姿の桐山ー!髪型揃えるとそっくりだ!」

 

作業を終えて、俺の顔を見た途端に腹抱えて笑い出しやがった。

ぶちころすぞクソアマ。

 

 

桐山鯉(きりやまこい)―――俺に似てるという九鬼家の執事だ。

 

前にそう言われ、気になって顔写真を見せてもらったが、ぶっちゃけ似てるような気がしなかった。

 

なんか…向こうは優男だけど、俺はヤル気なさ男だよ?

髪の色も、あっちは純粋な青だけど俺は水色に近いんだから…偏見じゃね?

 

 

「…満足か?」いたいけな青少年弄んで。

「あ?てめーなにタメ口きいてんだ。自分の序列忘れたのか?」

「………………」

 

 

来る日も来る日も血のションベン。

 

最初に習ったのは…これだった。

 

 

『へっ、ヘッドロック…!』

『バカなっ、初動が見えなかったぞ!?』

 

メイドの頭を脇に抱え込んで、両腕に力を込めて頭を締め上げる。

 

たったそれだけの行為をしただけで騒ぎ立てるなんて、大袈裟な奴らだ。(※技完成まで1フレーム)

 

所詮S組っつってもモブはモブか。

 

「瀬能、あずみが気を失っておる。もうやめよ」

「キ・レ・イ…」

「聞いてませんね」

 

嗚呼……キモチいい……………

 

「瀬能君。忍足さんの顔が青白くなってきたから、そろそろ本当にやめてあげなさい」

 

キリキリキリ…と力一杯締め上げると、妙な幸福感に包まれる。

 

それに浸っていたが、至福の時を邪魔する無粋な声が一つ。

無視してもよかったが…いや、無理だな。なぜなら僕は魚雷だから。

 

ウソだ。話しかけてきたのが会長だからさ!

 

「会長、あんたよくも俺の前に顔を出せたな…」

「……ごめ…なさい……こんっ、こんな…こんなこと…なるっ、なんてっ……!」

「身体震わすくらい笑いをこらえるなら、いっそ思いっきり笑ってくんない?」もちろん俺がいないところで。

 

そんな腹と顔面を手で押さえて、俯き加減に顔を逸らされると腹立つんだけど。

 

「テメー、パートナーである自分を信じろとかなんとか言ってたくせに、この結果を見てなにか思うことはねーのか」

「今のあなた、とっても、輝いてるわよ?」

かしまさい((やかましい))っ!!」

 

もうヤダ、ヤダコイツ!完全に騙されたし!いやこんなの信じた俺がバカだった!!

 

所詮人間なんてみんな、産まれた時と死ぬ時は一人ぼっちなんだ。他人と触れ合うことでそうじゃないと錯覚するんだ!

 

「数分以内にもっとマシな男物の服を持ってこい!さもないとコイツ(※あずみ)の頭をスイカみたいにパーンするぞ!!」

「脅迫に走った…」

「とうまー、あの人目が危ないよー?」

「ええ、犯罪者みたいですね。ユキ、あまり見てはダメですよ」

「うん、わかったー」

「かまってほしくてさぁ!天気とか成績とか…どんなにくだらなくてもいい!現実の話がしたくてさあ!!」

「分かった分かった。分かったからあずみの頭を搔きまわすのをやめよ!」

 

(メイドの)主人が声を荒げて命令してくる。

赤の他人に恥をかかすバカメイドでも大事ですかい坊ちゃん?

 

どうでもいいけど今のこの構図。はたから見たらどう映るだろうか?

 

メイドがメイドをヘッドロック。それを嗜める褌一丁(※水着です)の金髪大男。

 

シュールってレベルじゃねーぞ。

 

「てかこの髪型戻らないんですけど!?」

 

服を待ってる間暇なので、とりあえず頭だけでもいつものヘアースタイルに戻そうとしたが、一向に戻らない。

 

くっ…!このっ…!なんだこのワックス!まったく落ちないんですけどぉ!?

髪の毛も手でくしゃくしゃと乱雑に弄ってみたが、少しするとすぐに固められた髪型に戻る。なにこれ形状記憶!?

 

困惑する俺の様子を見てメイド―――あずみ(抱えてるの)とは別の奴―――が近寄ってきて、

 

「…あ〜、これはアレですね。英雄様が使われているワックスですね」

 

あずみさんなにもここまでしなくても…と呆れながら、困ったような顔で脇に抱えられて気絶している女を見つめる。

 

「なんだ。そのワックスだとなんか悪いのか」

「英雄様が使われているワックスは九鬼財閥で作られている特注品で、これで固めると数日間はその髪型が保たれるんです」

「ええええ」なにそのとんでもひみつ道具。

あの髪型作るためにそんな金かけてんの?

 

「ってオイちょっとマテ。つまり俺は数日はこの髪型で過ごさなきゃいけないってことか?」

 

こんな…ぱっと見直江みたいなヘアースタイルで、数日?

ぜってーなんか言われる。

 

「一応中和剤はあります」

「ならそれも持ってこい!」

「九鬼本家にありますので、取り寄せに時間がかかりますが…」

 

む、そうなのか…通販みたいだな。

つーかワックスを持ってんならセットで用意しとけよ。

 

「しょうがねえな。じゃあなるべく早く持ってこいよ」

「かしこまりました。すぐに手配いたします」

 

そう言ってすぐさま携帯電話を取り出し、通話し出すメイド。よきに計らえ。

 

「しかしあれだな。こんな近づいてもなにもしようとしないなあんた」

 

現在の距離約1メートル。手を伸ばせば触れられる近さだ。(ていうか髪を触られた)

 

人質を奪おうとしたり、危害を加えようとしてきたら即座に反撃しようと思ったんだが、その気配がまるでない。

 

「瀬能様には手出しをしないようにと従者一同に通達が出てますので」

「…コイツは?」

「あずみさんは…身をもって危険性を目の当たりにしないと分からない性格ですから」

 

そんな性格で大丈夫か?

 

「…まぁ、身をもって体験してくれたからこれからは態度を改めてくれるだろう。しかしこの格好まったく落ち着かねぇ」

ロングドレスだからまだ平静を保ってられるが、ミニスカだったら客のズボンを強奪してたぞ。

 

「お似合いですよ?」

「嬉しくねぇっつーの。やたらと視線を感じる気がするし…変なの来る前にさっさと着替え」

 

 

ぞっ…

 

 

いきなり背筋に悪寒が走った。

 

「ぱんつ〜」

「――っ、!」

 

咄嗟に持っていたものを身代わりにして、急いでその場を退(しりぞ)く。

 

 

後には棒立ちの状態で立ち尽くすメイド(※あずみ)と、

 

中華風の服を着た水色の髪の女が。

 

それだけでも驚愕なのに、女はあろうことか両手でなにやら布っぽいものを掴んで匂いを嗅いでいた。

 

 

「くんくん…このパンツちょっとおばさん臭い……」

 

 

本人に聞かれたら殺されるぞお前。

誰のかは知らんがなー。

 

「…………」

 

呑気なことを考えながらも全力で警戒していると、水色女が布(あえて布と言っておこう)をズボンの腰部分に差し込んで、

 

「おねーさん、パンツちょうだい?」

 

などと、俺に向けて(のたま)った。

 

さっきまで側にいたメイドは、気がつけば影も形もない。つまりこの台詞は俺個人にのみ言った言葉だろう。

 

 

………今の俺の格好、外見はアレだが…あれだ。下着の類は着替える前とおんなじハズだ。確かめる勇気はないけどな。

 

そうまさに、シュレディンガーのパンツ!(※ちょっと混乱してる)

 

もう一度言おう。確かめる勇気はない。

 

この状態(メイドすがた)で下着を盗られた場合、

 

 

女物の下着 → 男なのにそういうものを着用していると周りに知られて世間的に死ぬ。

男物の下着 → 青髪の女に変態扱いされた上に、人前でノーパンにされるというダブルパンチで二度死ぬ。

 

 

→ そもそもスカートを捲られた時点で精神的に死ぬ。

 

 

……………………うん。

 

生まれ落ちて十余年。

 

 

人生最大の危機、到来です。

 




たまに忘れる設定→主人公が沖縄方言を使える。

「やかましい!」のところ、初めは普通に「じゃーかーしゃー!」とかにしようとしてた。

…以下、ネタばらし。

■来る日も来る日も血のションベン〜
 バキ。一番最初のシリーズであった、主人公VSアントニオ戦でのやり取り。
 ヘッドロックかけてる最中はちょっとしゃくれてたり…なんてことはナイ。

■なぜなら僕は魚雷だから
 ボーボボ。あの作品終わって何年経ったかな…

■かまってほしくてさぁ!天気とか成績とか…どんなにくだらなくてもいい!現実の話がしたくてさあ!!
 魔界探偵ねうろ。樋口さんの台詞そのまんま。


※名前は出なかったけどナツルの持ち技

・1フレームキル
 "入り"と"過程"を省いて、"結果"のみを実現させる技。完全なる一挙動、無拍子をアレンジナツル風にしたもの。
 ものすごい上に便利な技だが、その分体力の消耗が激しいため、本人はあまり使わない。(でもアホだからくだらない事に使ったりはする)
 ちなみに大和が前に言っていた「似たようなことは出来る」はこれのことを指している。大和や師岡からはキン●クリムゾンとか呼ばれてるとかなんとか…


ドレスアップ回。原作(けんぷファー)でも冥土服着てたし、文化祭だし、プロトタイプでもやったということでやってみました。あの時と違う盛り込み要素が多数あるけど。

会長(雫)が笑ってるのは、試召戦争時のナツルと今の冥土姿が被って、真面目な雰囲気なのに女装中というギャップがツボにはまった。という設定。対峙したから当時の状況リアルにイメージしてしまい、笑いを堪えるのに必死です。

今話の最後に出てきたのはマジ恋Sの楊志(ようし)です。一波乱入れたいと思ってたら、ちょうどいいのがいたので登場してもらいました。

そんな主人公の人生最大の修羅場(?)ですが、次回は一旦視点を変えてFクラスを書く予定。お楽しみに。







今回の話。一番被害受けてんの実は桐山じゃね?
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