戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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称号:ステゴロバトラー


20時間目 0以上1未満

〜ナツルSide〜

 

 

もう何度打っただろう。

 

ジャブ・フック・ストレート…何百回何千回、気が遠くなるほどの数を叩き込んだきた。

 

すべては―――この一撃のために!!

 

「古牧流・虎落とし!」

「へぷっ!」

 

ガドッ!と普通なら音がする勢いで、向かってきた中華風の服着た水色の髪の女を殴り飛ばす。

 

が、全く手応えがない。女は弾かれたように後方に吹っ飛ぶが、くるりと空中で猫のように一回転して、何事もなかったかのように床に着地する。

それも音一つ立てずに、だ。完っ全に威力を殺されている。

 

ダメージうんぬんよりも、引き離すのが主だからいいっちゃいいと…いややっぱダメだな。気絶してくれないとこの攻防終わらない。

 

体つき(ガタイ)はワン子並みなのに、技術力がハンパねえ。

虎落としも、何回も撃っちゃあいるが最初の一度でモーションを盗まれた。今は緩急をつけたり他の技組み込んでなんとか誤魔化して当てているが、もうそろそろ攻略されるだろうな。

 

間違いなく強敵だ。

モモさんあたりなら喜んで死合うだろう。

 

「強いね、お姉さん。いいパンツ履いてそう」

 

さも嬉しそうに微笑む水色髪の女。パンツ関係あんのか。

 

…ハイレベルな駆け引きしてるのに、戦闘の理由が下着の取り合いと思うと悲しくなってくるな……泣けるぜ。

 

てかいい加減止めろよ誰か。教室前に人だかり出来てんぞ。

これ下手したら営業中止になるんじゃね?

 

「とぁっ」

「っ!」

 

ほんの少し、意識を別のことに向けた隙に女が仕掛けてきた。

 

間の抜けた掛け声とは裏腹に、鋭く速い…突風のようなスピードで近づいてくる。

 

「っさぁっ!!」

 

迷わず虎落としを放つ。狙いは眉間。

 

当たる――!と思った瞬間、ダッキングで避けられた。

ただでさえ前傾姿勢だったのに、屈み込むことで地面すれすれの位置に頭部が。

 

しかもその体勢のまま俺の足元に迫ってくる。蛇かお前は。

 

「近寄んなクズが!」

「ぷあっ!」

 

虎落としで突き出した拳を、完全に戻さずに軌道を変え、女の下に滑り込ませてアッパーをかます。

 

改良版・飛燕。右だけど。

もっと違う場面で使いたかった。

 

顎を跳ね上げられて怯んだ隙を突き、背後に下がる…

 

 

……サガル?誰が?

…俺がか?

 

退いてどうするんだ?逃げるのか?きっとどこまでも追ってくるだろうね。

 

というか俺が悪い訳でもないのに、なぜこんな変態から逃げねばならんのだ。理不尽だ。

 

そしてなにより、ここで背中を見せたら調子に乗るだろう。

(あいて)は自分より下だ、とかなんとか。

 

 

こんなただの変態女に舐められるのは、たとえ神が許しても俺が許さん。

 

 

―1フレームキル―――

 

 

今だ顔面を天井に向けている女の背後に、瞬時に移動する。

 

 

―――気絶の極み!

 

 

側頭部にモンゴリアンチョップ。さらに追い打ちで首元にダブルスレッジハンマーを叩きつける。

 

え?本家と違う?細けえ事はいいんだよ。

 

それに、結構力を込めて行った攻撃も、目の前の女の意識を奪うまでは至らなかった。

 

半失神状態なのか、身体をふらつかせ時折「うぁ…う……?」と呻き声を発している。

 

アレで気を失わないってどんだけ頑丈なんだよ。本家の通りにやってたら反撃で下着盗られてたじゃねーか。

 

……しょうがねえな。

 

「よろこべ、お前が一人目だ」

「……ふ…ぇ…?」

 

朦朧状態の女の襟首を、背後(うしろ)から両手で掴む。

 

そのまま背負い投げのように担ぎ上げ――

 

「古牧流・鉢崩し」

 

 

ゴッッッ!!!

 

 

近くに設置してあったテーブルに後頭部から思い切り叩き付けた。

 

ただでさえ人を殺傷する危険性が高いとされる技。

しかもそれを、本来の顔面(あるいは顎)ではなく後頭部に食らったんだ。即死、最低でも後遺症は免れないだろう。

 

無論、

 

 

『あいつ…テーブルぶち抜きやがった…!』

『さっ、最高級のアンティーク家具が…!』

 

 

まともに決まれば、だけどな。

 

どうも攻撃の土台として利用した机が脆かったようで、叩き付けたと同時に崩壊してしまい威力を存分に発揮できなかったようだ。本気でやったのに。

 

「虚偽申告になっちまったな」

 

仰向けの状態で寝転がって、時折弱々しく震える女を見つめながらぽつりと呟く。

 

完全に意識のない奴を手にかけることは、流石に出来ねーぜ。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「本当にこんな()しかなかったのか?」

「はい。もう少しお時間を頂ければ別の衣装を用意できたのですが…」

「いや、別にいいんだけどよ…マシなのではあるし…」

 

ぶつくさと言いながらも、受け取った服に袖を通す。

 

 

変態を撃退した後、測ったかのようなタイミングで着替えを持った九鬼の従者が到着した。

もっと早く持ってこいよ…いや 戦闘中に渡されても困ったけどさ。

 

早速、Sクラス所有の更衣室を(許可なく)利用して、メイド服からコスチュームチェンジ。

 

長かった…数分しか経ってないはずなのに、やたら濃い時間を過ごしてしまった。誰のせいやら。

 

そういえばあの青髮の女はどうしただろうか。

 

移動する際チラっと見たが、担架みたいなものに乗せられていた。保健室にでも連れていかれたかな。どうでもいいが。

 

「着替え終わったぞ」

「はい。…これは」

 

今まで着ていたのを、付き添いでやって来た従者に差し出す。

なぜか驚きの表情をさせられた。

 

「燕尾服を着るとますますそっくりですな」

「…………」

 

受け取ったのは執事服だった。

 

おめでとう! ナツル は メイド から しつじ に しんか した!




■もう何度打っただろう〜のくだり
 はじめの一歩。木村の初タイトルマッチにて。
 ちなみに飛燕も同作品の技。

 古牧流や気絶の極みは龍がごとくなんですが…そろそろネタバラシで紹介しなくてもいいかなって思ってる。


・0以上1未満 → "戦士"のナツルが奪った人の命の数。

原作であるけんぷファーでも葛原一人殺してるけど、こっちでは0。一番酷くて意識不明の重体。



541勝0敗541KO、一見完璧な記録だ。しかし実は重大な落とし穴がある!
それは全ての戦いを再起不能の一歩手前で抑えていて、誰一人殺していないということだ!

つまりそれが戦士としてのお前の欠点であり、

普通としての優しさだ!!



ていうネタをどっかで入れたかったけど、語ってくれそうな人物がいなかったのでやめました。入れるタイミングもよく分からんし。

次回はあの人登場。召喚大会はもうちょい待って。
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