彼は耐えた。
どんな理不尽に晒されようと、いかに不当に扱われようとも。
感情を押し殺し、必死に耐えた。
それが望まれたことだから…
しかし、再三に渡る彼への謂れなき暴行に、
彼の"我慢"は崩壊した。
「勘違いさせて悪いんスけど…本当に、出せるものはないんですよ…」
尚もナツルは、軽く俯きながら説得を続ける。
苦虫を噛み潰したような顔に頭を下げた姿勢。 見ようによっては…いや誰がどう見ても、真摯な謝罪そのものだ。
1年近い付き合いの中で、1度として見た事がない。初めて見る。
なぜだ…ナツル、お前そんなことする奴じゃないだろう。
たとえ老人・子供でも、友達や家族が人質に取られていても構わずにやられたら倍返し…いや10倍くらいに利子をつけてボコボコにするのがお前だろ?(※酷い偏見)
「直江…お前ナツルに姫路のこと話したのか?」
坂本が信じられないものを見た表情をしながら、小声で話しかけてくる。
姫路の…そうだ。教室やクラスの学力が改善されなかったら親に転校させられるって言ってたっけ。
クラスについては学力だけじゃない筈。恐らくは素行も問題になってくるだろう。
クラスメイトが暴行沙汰を起こすなんて、子を大事にする親なら見逃すことはできない。たとえどんな理由で起こしたとしてもだ。
言葉よりも拳を使う方が慣れてるとはいえ、アレで結構仲間思いな奴だ。事情を知っていれば我慢して自分を抑えるだろう。ただ―――
「…いや、話してない。お互い忙しくて顔を合わせても説明する暇がなかったんだ」
「はあ?じゃああいつ事情をなにも知らないのか!?」
そうだ。ナツルは姫路の件を知らない。
召喚大会に学園の見回りと、教室に近づく機会さえ無かったんだ。他の人から教えられてもいないだろう。
だから余計に訳が分からない。
なぜだ…なぜ耐えるんだ!?
「おいおいよっちゃんやり過ぎだぜ、店員さんびしょ濡れじゃねえか。俺が拭いてやるよ」
「、…あざス」
机に備えられていた布巾でゴシゴシと乱暴に拭かれても、態度を変えず身体を動かさない。
血管が浮き出るほどに両手を固く握り締めて、小さく震えるほどに力を込めているのに、その拳を上げることを決してしない。
そこまでされてなんで何もしない!?
「冴ちゃん…!」
「はっ!?」
キャップが殺気立ってる!
いやキャップだけじゃない。ショッキングな光景を見て気づかなかったけど、ファミリーの皆んなを含めてクラスメイトの何人かが今にも飛びかかろうと身構えている。
こういう場合、真っ先にナツルが突っかかっていってそれをみんなで止めるってのがいつものパターンだ。
しかし今回はどういう訳か、そのナツルが全く動かない!そのせいでみんなの怒りのボルテージがどんどん上がっていく!
ヤバい…非常にヤバい。
この人数が一気に雪崩れ込んだら暴動になる。
さらにその状態でナツルがキレたら店が…いや下手したら校舎が崩壊して更地になる!
あのチンピラなんてことしてくれるんだ!自分がいかに危険な事をしてるか分かってるのか!?
「(オイ話が違うぞ)」
「(少し刺激すりゃいいって言われてたけど、どこまでやればいいんだ?)」
チンピラ2人がひそひそと話している。
遠くてよく聞こえないけど、周りの剣呑な雰囲気に気づいたのか?
「ぐちゃぐちゃ言ってねーで――」
初めにナツルに水をぶっ掛けた男が持っていた花瓶を大きく振りかぶる。
オイやめっ、
「さっさと持ってこいよ!!」
ガシャッ!!
「、っ!」
「タイガ!!」
勢いよく叩きつけられて、陶器製の花瓶が口の部分だけを残して粉々に砕け散る。
それに合わせてナツルの額から赤いものが―――破片で切ったか!
「――!!」
吹き出る血を見て、殺気立っている面子から怒気が溢れ出す。
さらに打たれたナツルからも"気"が放出されて…もうダメだ。
ドガッッ!!
案の定、教室内にいる奴が客に殴りかかった。
ゴゥッッ、 ドババッッ!
しかも連続で。
…その攻撃した奴は―――
――爆裂ハンマー投げ!
――石ころアッパーカット!
――バルカンジャブ!
「ぐばはっ!?」
―――オブジェとして飾ってあった、カぁビィくん達だった。
……ビィくんって男(オス)なの?
……なんとなくそうかなって…