ボス……あんたに…どうしても言ってもらいたい台詞がある……『待たせたな』…だ。…それを…言ってくれ…
〜ナツルSide〜
「今回もギリギリね」
召喚大会の準決勝が行われる特設会場に繋がる通路。
その途中で
「遅刻していないとはいえ、もっと時間に余裕を持って行動してくれると嬉しいのだけれど。電話で呼び出すところだったわよ?」
「ああ…待たせたな」
文字通り一直線(建物や人混みを飛び越えて)にやって来たから、どんなに急いでもこれ以上早く到着するのは無理だったろうけど。
「…瀬能君あなた、何かあった?」
ゆっくりと目を開けて俺を見つめてくる。
「なんでそう思う」
「いつもより真面目な雰囲気だから」
そういうのって声だけで分かるもんなの?知り合ってまだひと月そこらでしょ?
「…会長、提案があるんだけど」
この場で姫路や優勝賞品の不具合について話すのは時間が足りない。
その証拠に司会役の教師のアナウンスが聞こえてきた。
「次の試合はお互い一対一でやらないか?」
「あらどうして?」
「いや、三人の動向伺いながら戦うより一人に集中した方が楽だろ?相手は三年のAクラスらしいしさ」
チーム戦はハイリスクハイリターン。危ない時に助けてもらえるっていう安心感はあるが、位置取り間違うと自分からピンチを招く。
今回みたいに絶対負けられないって場面じゃ協力しない方がいい事もある。
片方が負けたら一気にニ対一で不利になるけど、そう簡単にこいつは負けないだろう。
というのは建前で、本当はただの俺のわがままだ。理由は聞くな。
その辺をどう上手く誤魔化して説得するか…却下される確率の方が高いんだよね。
「…いいわ。その提案、乗ってあげる」
「え?」
「どんな事情があるのか知らないけれど大切な事なんでしょう?あなたの好きになさい」
そう言って会長は髪をかきあげるいつもの癖を見せて、リングの方へと足を向ける。
……不覚にもカッコいいとか思っちまったぜ。
「貸し一つよ」
アーアー、キコエナーイ
☆ ★ ☆
『さあ!これより!神月学園召喚大会準決勝戦を、始めまーす!!司会は私、柏木典子でぇすっ!』
昨日も訪れた場所でマイク越しに立会いの教師の声が響き渡る。
いつもよりハイテンションな人だ。あとなんか化粧がケバ…凄い勢いで睨まれた。
『ま・ず・は・三年Aクラスの二人組!夏川俊平君と常村勇作君!!三年生は出場者が少ないですが、ここまで危なげなく勝ち上がってきた実力派コンビでーすっ!』
紹介を受けて俺たちとは逆の、対角線上の入場口から歩いてくる坊主頭とソフトモヒカンの二人の男。
どう見ても賢そうではない見た目なんだが本当にAクラスか?いやそもそもAってそんなに頭良さそうなイメージ無いんだけど。なんでだろ。
「つーかSクラスじゃねーのかよ…」
最高学年の最優秀クラスが決勝争いに来ないってどういうことよ。
「三年生は基本的にこういった出し物に出ないわよ。進学や就職の準備に忙しいから」
思わず零れた呟きに会長が答えてくれた。
返事は期待してなかったんだけどな。
「準備ってまだ五月だぞ」
「ここは世界的に注目されている神月学園よ?高ランクのクラスの人間ほど高い目標を持っていて、そこに向けて努力する事に全力を尽くしてるの。一部の例外を除いてね」
例外…きっと昨日のモモさんのことを言ってるんだろう。あの人将来は川神院継ぐの決まってるから。ペアで出てた和服の人は知らんけど。
目の前の二人はとても努力しているようには見えない。きっとその辺に教頭に協力してる理由があるんだろうな。
『対するは――…えー、二年SクラスとFクラス所属の生徒会コンビです』
雑っ
おざなりすぎる。紹介の仕方の落差が酷すぎなんですけどー?
一部の教師には俺みたいな底クラスの人間を見下したり嫌悪してる奴がいると聞く。コイツもそのクチか?
ム"ーッ
メールだ。
『柏木典子。
三年Aクラスを担当する42歳(独身)教師。
教育態度は真面目だが、自分の美貌に絶対の自信を持っている。
しかし最近若干の肌の衰えを覚え、目立つ外見の女生徒に対して"自分の地位を脅かすのでは?"と思うようになり、敵意を見せるようになってきた。
清涼祭初日のミスコンで優勝出来なかった事で少し落ち込んでいる』
おざなりな理由ってこれ?俺じゃなくて会長のせい!?
自分の地位を脅かす者を敵視って、確かに会長美少女だけど倍以上歳が離れてるじゃねーか!
それにこの学園にどれくらい目立つ女いると思うんだよ。見渡す限り敵だらけじゃん。この情報送ってきたのも美少女(美鶴先輩)だろ?
客席を見回すと前日同様、空席が全く無いのに一角だけ大きく空白地帯があり、その中心に陣取る二人組が。
迷惑だろ。目立つだろ。誰か止めろよ。
「どうしたの瀬能君?」
「いや、あの人アホなのかなと」
俺の台詞の理由を見ていた先で察したのか、会長は考え事をするように少し黙って、
「………普段は優秀なのよ、あの人も」
それは絶対フォローじゃない。
☆ ★ ☆
『―――それではぁ、そろそろ試合の方を始めてもらいましょう!』
長々とした試合説明がようやく終わった。
その間中?とくに何もしてないよ。向こうも何故か俺を見てニヤニヤと笑いながら二人してひそひそ話してたし。
「あの、先輩方…気持ちは悪いんですけど俺は美少女が好きなんであなたがたの好意は受け取れないっス。申し訳ない」
「どんな勘違いしてんだテメーは!?」
「気色悪い想像止めろ!?」
坊主とモヒカンが慌てて騒ぎ出す。
なるほど…コレはあれだな。的確に図星を突かれて焦ってるんだな。
この二人はゲイのカップルで、最近の性活がマンネリになってきたから新しい刺激を求めて俺を品定めしていた…大体こんなとこだろう。
まったく、嫌なことに気づいてしまったものだ。栂の木二中の明智と呼ばれたこの頭脳が恨めしい。
「またなにかあんぽんたんな事を考えてるでしょう」
「失礼な。この栂の木二中のアガサと呼ばれた俺に向かって」
「アガサは女性よ」
…そうだっけ?
ていうか今あんぽんたんっつった?初めて言われたよそんな言葉。
「ふざけやがって…やっぱり最底辺クラスの人間はろくな奴がいねえな」
「速攻で倒して女の方をやるぞ」
どうやらこの二人、連携して俺を狙うようだ。
作戦としては定石なんだが、見た目のせいでクズな発言にしか聞こえないわ。本当にAクラス?
まあいいや。そんな男たちにへらへらと軽薄そうな笑みを浮かべて話しかける。
「別に警戒する必要ないっすよー。俺ら協力する気ないっすからー」
「ああ?どういう意味だ?」
鈍い奴だな。
「決闘の真似事っすよ。そっちかそっち」モヒカンと坊主を順々に指差して、
「どっちでもいい。俺にブチのめされる覚悟がある方かかってこい」
笑みを引っ込めて睨みつける。
『…っ、』
誰ともなしに唾を飲みこむ音を発し、心なしか周りの温度が下がった気がした。
「ひとつ年下のカワイイ後輩がここまで言ってるんだすよ?まさか逃げたりはしないよなぁ?」
「っ!てめぇ…」
「なめやがって…!おい常村!こいつは俺がやるぞ、いいな!?」
坊主頭の方が叫ぶ。
「ああ?…ちっ、しょうがねえな。さっさと片付けて加勢してくれよ」
「おう。任せろ」
決まったな。
そうだ。ついでに…
「ひとつ聞かせろよセンパイ」
「…完全に敬語じゃなくなったな…なんだよ」
「なぜ教頭に加担する?」
「「!!」」
その瞬間、二人が目を見開いて驚愕の表情を見せる。
「…?瀬能くん?それはどういう…」
「答えろ」
なにも事情を知らないが故に置いてきぼりを食らっている会長を黙殺して返事を強要する。
彼女にはあとで謝ろう。怖いから。
「自分らの行いがどういう結果を起こすのか分かってやってんだろ?見返りはなんだ?推薦か?」
「そうか…全部知ってんだな。
「それにカンもいいな、ご名答だよ。成功すれば俺たちの希望するとこに推薦状を書いてくれるって約束だ」
「………そうかよ」
できれば当たってほしくなかった。
脅迫されて無理やり協力させられてるとか…そんな理由であってほしかった。
いや、こんな見た目の奴らに愛校心を求めた俺がバカだった。
「なんなら今からでもお前もこっち側に付かねーか?口利きぐらいしてやるぜ」
「あっハハハハハハハーワwロwスw」
「笑えねーこと抜かしてんじゃねえよクソが。その舌引っこ抜くぞ」
空気が凍った。
さらに坊主頭が"ヒッ…"と小さな悲鳴をもらす。
「(ちょっとあなたたちっ、さっさと始めなさいよっ)」
立会人の教師(柏木だっけ?)が客席に聞こえないレベルの声で催促してきた。
一瞬でも割と本気レベルの殺気を発したのに呑気なもんだ…まあピンポイントに三年の二人にだけ当てたんだけどね!
聞くこと聞いたしさっさとヤろうか。
「おい。…そっちの青い方」
召喚のために距離を取ろうと後ろを振り返ると、モヒカン頭が声を掛けてきた。
「お前はなんで学園長に味方してんだ?見返りは?」
「あぁ?ねーよンなもん」
そもそもあのばあさんの味方になった訳じゃねーし。なりゆきで結果的に学園長が得する感じ?
いや、吉井たちはどうか知らんけど。報酬とかあんのかな?そこら辺聞きそびれてたわ。
「じゃあなんで」
「そりゃあお前――」
――ごめっ…なさッ…本当に…ッ……ごめんっ…なさっ…
「空が泣いたんだよ」
☆ ★ ☆
「
おなじみの掛け声を坊主頭が叫ぶ。
幾何学模様の陣が出現し、そこからアイヌ装束のような服装と剣を持った二頭身くらいの小さな坊主召喚獣が飛び出した。可愛げのカケラもない。
「
今度はモヒカン頭。同じく幾何学模様の陣から召喚獣が出てくる。
服の装飾も武器も坊主と似たような感じだな。だから仲良いのか?
「
その後に続くのは会長。
ついさっきまで「説明しなさいよ」みたいな目でずっと黙って見つめてきていたが、流石に試合に集中するため今はこっちを見ていない。
試合が終わったらきっと俺は質問責めに合うだろう。即拷問にならない事を切に願う。
三体の召喚獣が揃ったところで、満を持して俺も呼び出す。
どうかせめて、マシな姿の奴が出ますように…!
「
―――装備は頭から足まで全身を隙間なく鎧で覆うフルプレートメイル。
武器は中世の騎士が使うような乗馬戦用の
しかし体躯は人の上半身に馬型の下半身と、ギリシャ神話のケンタウロスそのものの姿。
正直今までの中で一番強そうでカッコいい召喚獣だ。
…カッコいい召喚獣なんだが………
Aクラス 夏川俊平 英語 241点
&
Aクラス 常村勇作 英語 223点
VS
Sクラス 三郷雫 英語 437点
&
Fクラス 瀬能ナツル 英語 9点
どうして苦手科目でこの格好が出るかな。
「あなたよくそれであんな大口叩けたわね…」
「まさか英語とは思わなくて」
トーナメント表をもっとこまめに見とくべきだった。
令和元年ももう終わり。続きは来年ですね。
来年もnickの作品をよろしく!