戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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新年初投稿。
今年度もよろしくお願いします。


53時間目 召喚大会⑭

一度だけ―――

 

 

『あっ、あの!瀬能さん!』

『おん?』

 

 

学校からの帰り道。

十分にも満たない僅かな時間だったけど、一度だけ姫路と二人きりで話したことがあった。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「てめぇぇぇっ!なんだその点数はぁぁっ!!?」

 

俺が対峙する坊主頭が額に青筋浮かべて騒ぎたてる。

 

「そんな点数で俺を脅しやがったのか!!」

「いやぁ、今回は筆のノリが悪くって」

「ふざけんなゴラッ!!」

 

すごいな。血管切れそうだぞこの人。

 

「落ちつけ夏川!相手はFクラスだぞ!成績が悪いのは当然だろ!」

「そうだけどよぉ!!」

はったり(ブラフ)ってのは不利な状況でそれを感じさせない程大げさに言うもんだ。見事に騙されたな。(ぼそっ)ださっ」

「うがあぁぁっっ!!!」

「だから落ちつけって!」

 

殴りかかってきそうな勢いの坊主をモヒカンが羽交い締めにして止める。

 

「そんなザコに期待しても無駄だったって事だろ!俺の方は強敵でやばいんだから、さっさとぶちのめして加勢しろ!」

「そんなザコ?」

 

何気に初めて言われた台詞だな…忘れてるだけかもしれないけど。

どうしよう。いささか、いや

すこぶる腹が立つ。

 

「テメーらごときに二桁もいらねぇん、だよッ!」

 

 

バゴッッッ!!

 

 

無反応で棒立ち状態の坊主の召喚獣に、突撃槍(ランス)で横なぎのフルスイング。

 

「なっ!?てめっ!」

「試合はすでに始まってますよ」

 

本体に向かって言葉だけをかけつつ、相手に駆け寄る。

 

場外ホームランの勢いでぶん回したが、残念ながら点数が低すぎてダメージはほとんど無い。

手応えの割には大きく体勢を崩しただけで開始位置からあんまり動かせてないし…勢いよく啖呵を切ったが一桁は流石にキツいな。

 

向こうが無防備な今がチャンス、畳み掛ける!

 

 

再び射程距離にまで近づいたところで四本ある内の二つ、後ろ足のみで立ち上がり――

 

「ケンタウロスの黒い嘶き!」

 

 

ドガガガガガガガガガ――――!!

 

 

上げた前足で怒濤の連続蹴り。

 

「うおぉっ!?」

「おらおらオラオラァー」

 

胸と言わず顔と言わず。

腕と言わず脚と言わず。

 

場所を限定せずにとにかくやたらめったらと打ち続ける。

 

もちろん行動に移そうとしたら即座にその部分(手とか)に照準を定め、徹底的に動きを封じる。

 

卑怯?汚い?敗者の台詞だね。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぇぇーーー!!」

 

打ち合い(一方的)の途中、坊主が後ろに飛んだ。

 

人の一歩分ほどだが、距離が空いたことにより攻撃が外れる。

 

そしてすぐさま坊主が武器を振り上げて距離を詰めてくる。

回避から攻撃へ転じるのにぎこちなさが全くない。この辺は腐っても三年か。

 

「死ねオラッッ!!」

「だが断る」

 

風を切る音と共に振り下ろされる剣を、軌道を予測して冷静に躱す。

 

怒りに任せた全力の一撃を空振りさせられ、坊主召喚獣の身体が大きく流れる。

その隙をついて急接近。素早く背後に回り、羽交い締めにしてそのまま垂直に飛び上がる。

 

空中で体勢を整えてそのまま――

 

「馬式誉れ落としッ!!」

 

身体が天地逆の坊主の足に、馬部分の前足で乗って地面に着地。

トラック同士がぶつかったような凄い音がした。

 

 

 

Aクラス 夏川俊平 英語 168点

        VS

Fクラス 瀬能ナツル 英語 9点

 

 

 

だというのに四分の一ほどしか削れてない。流石は9点。

 

残念ながら長期戦になりそうだ。会長の時みたいに謎現象で一気に大ダメージ与えられないかな。

 

「おっ、お前…なんでそんなに強いんだよ…?召喚獣って点数低いと弱くて動かしづらいはずだろ…?」

 

坊主(本体)が信じられないものを見た目を俺に向ける。

 

「そうだな、確かに動作は鈍い。いつもに比べると格段に扱いづらいよ」

「じゃあなんでそんなに戦えるんだよ!?おかしいだろ!?」

なんでって…

 

「ちょっと昔を思い出しただけだよ」

 

 

昔…まだ小学校低学年の頃かな。

 

当時は武術に無邪気に打ち込むスポーツ少年だった。ただ身体を動かすのが好きで自分より強く上手い奴に挑むのが日課だったっけ。

 

いつからかな?それが嫌になって、胴着を着るのも道場に通うのも辞めた。

 

 

でも近頃は… ―――

 

 

「色々な条件で色々な『強い』と挑み挑まれてきた。それらに比べたらこの程度、ハンデにもなりゃしないぜ」

 

 

胴着はもう着ない。

でも道場には通っている。

 

門下生じゃないけどね。

 

 

「っ…!最低クラスのくせにカッコつけやがって、ならこんな事されても大丈夫たよなぁ!?」

 

そう言って坊主は自分の召喚獣を走らせる。

 

そしてリングの端、客席近くにまで行ったところで止まった。…いったいなにがしたいんだ?

 

「へへへっ…」

 

さらには見下した様子でニヤニヤ笑いを向けてくる始末。

 

『ビビってんなら乗らなくてもいいぜ?』って意思が透けて見える安い挑発だ。

いいだろう。乗ってやる。

 

「へのつっぱりはいらんですよ」ナッツを客席の方へ走らせる。

 

 

四本の馬脚を巧みに操り颯爽と駆ける姿はさながら神話のケンタウロスのよう…俺自身は二本足から脱した覚えないんだけどなんで操れるんだろう。謎だ。

 

「、っ"ぁ"!?」

 

急に、なんの前触れもなく目に激痛が走った。

 

思わずまぶたを閉じて手で擦る。

指に感じるザラついた感触、これは…砂?

 

「へへへ…引っかかったな」

 

すぐ近くでうすら笑う声がする。

 

「こんな簡単に騙されるなんて、底辺の奴はやっぱり馬鹿だなっ!」

 

愉快げな罵倒と共に固い地面を蹴る音が歓声に混じって耳に入る。

 

…目潰しか。

 

昨日のモモさんの行いから急遽大会のルールに『召喚者本体への攻撃を禁ずる』というのが追加された。

 

今の坊主の行為は当然反則だが、審判は注意をする気配すらない。

 

坊主を贔屓してるって言うより単純に気付いてないんだろう。

急に動いた召喚獣の動きを追うので忙しかったはずだ。じゃなきゃ流石にヤジが飛ぶ。

 

「今度こそ死にやがれッ!!」

 

坊主が声高らかに宣言する。

 

 

ダメージフィードバックで召喚獣の状態はある程度分かるが、視覚と聴覚は無関係だからどういう状況かは直接見ていないと把握することはできない。

ポケ◯ンと五感で繋がる主人公が別の世界線ではいるみたいだけど俺には無理だ。シンクロの練習とか承認なしに召喚獣呼べない奴にはできないからな。

 

故に目潰しを食らった現状では、無防備に相手の攻撃を受けて戦死するのが通常の流れ。まあでも―――

 

「もう一度言う。断る」

俺は普通じゃないけどね。

 

 

袈裟斬りに(・・・・・)振り下ろされた剣を(・・・・・・・・・)頭部ギリギリで躱し(・・・・・・・・・)お返しに逆手に掴んだ(・・・・・・・・・・)槍を相手の顔面に(・・・・・・・・)深々と突き立てる(・・・・・・・・)

 

「は…?」

坊主が得意げにニヤついた表情のまま、間の抜けた声を漏らす。

 

 

 

Aクラス 夏川俊平 英語 106点

        VS

Fクラス 瀬能ナツル 英語 3点

 

 

 

あ、点数減ってる。ちょっとかすってたか?

 

まあ元々が低かったし、これ以上ダメージ食らわなきゃいいや。

 

「なんっ、で…」

「あのようセンパイ」

 

砂のせいでおそらく充血しているであろう目で、ゆっくりとこっちを向いた坊主を睨み(みつめ)返す。

 

「この俺が不意打ちの目潰しくらい今までに受けたことないと思ったか?」

 

経験が違うんだよ経験が。

 

 

「お前…痛くないのか?」

「はぁ?痛いに決まってんだろ」

なんでそんなこと聞くの?つーかよく聞けるな、自分でやったくせに。

 

涙目で視界はぼやけるしすぐにでも腕で擦りてーよ。水で洗い流してーよ。

 

でもな、

 

 

「今の俺は痛みなんかで止まれるほど生半可な心持ちじゃねえんだよ…!」

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

それはSクラスとの試召戦争から数日経ったある日のことだった。

無理矢理入れさせられた生徒会で慣れない事務仕事に四苦八苦しながらもなんとか仕事を終わらせて、疲れた身体を引きずって通学路を歩いていた。

 

 

『あっ、あのっ、瀬能さん!待ってください!』

『おん?』

 

そんな時突然背後から声をかけられて、振り返ったらそこにいたのは姫路だった。

 

 

『姫路?お前なんでこんな時間にこんなとこに…』

『待ってたんです…一言、瀬能さんに謝りたくて…』

『謝る?…なにを?』

『その…Sクラスとの試召戦争の時、負けて瀬能さんに全部押しつけちゃって…』

『ああ…なんだそんなことか』

律儀な奴だ、そう思った。

 

正直すっかり忘れていたからな。

 

『別に気にするこたぁねえよ。戦った相手が悪かった、それだけだろ?』

『それでも、瀬能さんは勝ったじゃないですか。だから…すみませんでしたっ!』

 

そう言うと深々と頭を下げる。

 

本当に律儀な…っていうかめんどくさいなこいつ。まぁそういうとこが他のやつらから好かれてるんだろうけど。

 

『わかったわかった、謝罪を受け入れるよ。だからもう引きずるのやめろ。次は大好きなみんなと一緒に頑張れるように努力すればいいさ』

 

ひらひらと手を振って自宅に向かい歩き出す。

 

この時は正直適当で…晩飯何にしようかなんて別のことを考えていた。

 

 

『……瀬能さんもですよ』

『あ?』

 

 

 

『" みんな "の中には当然、瀬能さんも入ってますからねっ!忘れないでくださいっ!』

 

 

その一言は不意打ちで俺の身体にぶち当てられた。

 

 

『―――』

 

再び振り返った時、パタパタと走り去っていく後ろ姿しか見えなかった。

 

 

それまで知らなかったが姫路の家は俺んちとは別の方向にあるらしい。俺に謝るためだけにわざわざ時間をかけたようだ。

 

 

本当に短い間の短いやり取りだった。

 

しかしそのほんの僅かな会話は、いつまでも薄れることはないだろう。そう思った。

 

 

 




■ケンタウロスの黒い嘶き
 筋肉マン。チェスの駒超人の持ち技の一つ。
 本家はわりと早い段階で見切られてるけど、作中のはナツル本体が全体を俯瞰して見ているため、やられている側からしたら大きく後退するしか避ける方法はない(はず)

■馬式誉れ落とし
 筋肉マン。チェス超人のフェイバリット。
 実は上の技より弱い。(召喚獣の戦力的な理由で)

別のサイトで書いてたプロトタイプ版ではナツルが目潰し食らって怯んでだけど、改めて執筆してると「喧嘩なれしてる設定のこいつが目潰しで怯むか?」っていう疑問にぶち当たったので流れを変更しました。

ちょっとシリアスな感じになったけど改変前よりいい感じするからこれはこれで気に入ってます。
回想シーンをペルソナ4BGMの"I’ll Face Myself"や"夢想曲"とか聴きながら読むと雰囲気出るかも?


間違っても"そこにいるのは誰?"や"Omen"とか"狂気の境界線"を流さないように。ナツルの本心を疑われるから。
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