いやもうマジで焦った。
「くっそひどい目にあった……」
召喚大会も終わり、“敗者”として特設ステージをあとにする。
すぐに去ったから今頃坂本たちは受賞式の最中だろう。…腹立つのはなんでかな?
「い"っ、つぅ……!!」
後ろのことに気を取られていたせいで歩みに力が入り、右足に激痛が走る。歩いてるのに走るってこれなんぞや。
観察処分者で物とかに物理干渉できるのに無傷なのはおかしいとは思うが、多分あの形態が持つ特殊能力なんだろう。出血がないのは喜ばしいことなので深く追求しないことにする。
ただ歩くのにむちゃくちゃ苦労する。松葉杖でも使おうか。
「…保健室にあるかな……」
あっても貸してもらえない気がする。なんとなく。
昨日頭の怪我見てもらった時もなんか、よく分からない言葉遣いで遠回りな台詞で関係のない話を長々と聞かされ、挙句にはかさぶたで傷が塞がっているをむりやり開かれて消毒液ぶっ掛けられるというとんでも治療をさせられた。
あの銀髪金眼のお姉さんホントに保健教諭か?傷作る保健医とか聞いたことねーぞ。
………なんか、一気に不安になってきた。
「これからはなるべく保健室の世話にならないようにせんとな」
できれば近づくのもよそう。
とりあえず激痛がひどいからどっかで休むか。生徒会の業務?黙ってりゃバレへんバレへん。
つか散々こき使われてんだからこれぐらいいいだろ。
「「瀬能!」君!」
「ごめんなさい!」
強い口調で名前を呼ばれて条件反射で出た台詞である。
「…どうして謝ったんだお前は」
「え?いえ…あの…」
通路の曲がり角でいきなり顔合わせちゃったからつい…
よりによってなんでこのタイミングで会長と美鶴先輩の二人が登場するんだ。
「おおかたどうやってこの後の仕事をサボるか考えてたんでしょう」
「そんなこと、ないよ?」
エスパーかこいつは。
いやでも…ほらっあれだ、俺が考えてたのはサボってからの時間の過ごしかたであってサボる口実を考えてた訳ではっ。
いかん。美鶴先輩がどこからともなく処刑銃を取り出した。弁明の機会も与えんってか?
「ペンテレシア!(パキィンッ)」
「ヒッ!!」
突然の強行に思わず身を縮めて左腕でカバーする。無意味だけど、反射的に。
………?おかしいな。いつもならここでとっくに氷づけになってるのになんともない。不発か?
「瀬能…見えてないのか?」
「???」
見えてないってなに?
「何も…感じていないのか?」
「何を?」
こちらの疑問には答えずに、美鶴先輩は思考の海に沈み始める。
投げっぱなしやめて?見えてないとか感じてないってなんなんだ。スタンドでも出してるのかこの赤毛くるんくるん。
つーかなぜここに、もっと言えばなぜ会長と一緒に現れるんだ。
「美鶴先輩とはスーパーからの帰りに出会って、学園まで車で送ってもらったのよ」
「ああ、そう」だからこんなに早いのか。
聞けば先輩は姿が見えない会長を探して外に探しに出てたらしい。通りでさっきの試合客席にいなかった訳だ。
どうやって学外に会長が出てること知ったんだ?
「三郷に聞いたが買い出しの理由はお前に飴を頼まれたからだそうだな。相当焦っていたが…なぜだ?」
「さあ」
ブルーデイなんじゃない?(※←最低なクズ)
「…あなたが言ったんでしょう。飴が切れて禁断症状がって」
「あれ信じたの?」
ある訳ねーだろ飴の禁断症状なんて。中毒患者か。
どっかの主人公じゃあるまいし。
「……泡まで吹いてたけど」
「お前…」
「演技に自信あり」
リアルシャドーとかで自力で血を流し、演技指導した奴をドン引きさせたからね。
「………」
「……」
クール系美少女二人が冷たい眼差しを向けてくる。
やだ…そんな目で睨まれちゃったら……新しい扉開いちゃうっ。
「きもい」
「きもって会長!?」
「ああキモいな」
美鶴先輩まで!!
あんたらそんなこと言うキャラじゃないはずでしょ、いったいなにがあったの!?
「そんなことより瀬能君、あなたつまり嘘をついて私を騙したってことよね?」
気のせいか薄らと"気"を立ち昇らせながらキツめな口調で尋ねてくる。
やっだもー会長さんったらー、そんないつもの表情で睨んで…いつも通りなのにまるで俺がいつも以上に酷いことしたみたいじゃないですか。
ははははーそんなハハッもう、なにかあったらすぐ万年筆チラつかせるのやめない?
「罰として買ってきた飴を今すぐ食べてもらうわ」
「は?そんなんでいいの?」
「ただし、商品は見ないでね」
なにその言い草。超気になる。
無言の圧力を発せられながら突き出されるスーパーの袋に入った四角いブツ。
いやあの、それぱっと見広辞苑くらいのサイズがあるんですけど。
受け取ってみればずっしりと重い。本当に中身飴なんだろうな。いくつ入ってんだ。
「早く食べなさい」
「はいはい…」
形状はサク◯式ドロップと同じだな。上の丸蓋を開いて缶を傾け中身を取り出す…
この飴でかくなーい?ゴルフボールくらいあるんですけど。普通はボタンサイズだろ?
色は…白?なんか宝石みたいだな…ドロップか?
とりあえずパクリ。
「美味しい?」
「ん?んん…ん〜〜〜スパイシー!!」
ボッ!!
視界と口の中に衝撃が駆け抜け、意識がホワイトアウトした。
痛みはなく、最近の飴玉は刺激的すぎるんだなぁ…などと、呑気なことが頭を過ぎる。
ちなみに味はハッカに近かったです。多分。
☆ ★ ☆
〜美鶴Side〜
突如口と鼻と目から閃光を吹き出して倒れた一つ年下の男を無言で見つめる。
その際に手からこぼれ落ちた缶の容器が、床に落ちた衝撃で袋から飛び出した。
"ジェムドロップ"
"様々な属性の付いたジェムで戦闘をサポートします!"
"誤って食べてしまっても大丈夫!※ただし当社は一切の責任を負いません。自己責任でお願いします"
無責任すぎる文言がパッケージに並んでいる。
「こんなのを口に入れさせてよかったのだろうか…」
三郷が購入したときからずっと見ていてなんだが、今更ながら罪悪感が芽生える。
「大丈夫ですよ、瀬能君ですし」
「凄い信頼だな。顔中の穴から白い光を放出していたが」
「お菓子コーナーにあった物ですよ?」
「それが一番信じられん」なぜ戦闘をサポートするものがスーパーのお菓子コーナーにあるんだ?
「三郷、なぜわざわざ罰を受けさせたんだ?瀬能の行動には理由があると説明しただろう」
学園までの移動中の車内で、彼が現在巻き込まれている事件など、私が知っている限りを話した。
召喚大会での景品に欠陥があること。
その景品を利用して学園長の権威を失墜させようとする動きがあること。
瀬能のクラスメイトである姫路瑞樹が転校の危機にあることも、三郷には話してある。
姫路の件に関しては私もついさっき知ったがな。なぜか携帯に留守電メッセージとして瀬能から届いていた。
本人は気づいていないみたいだったが…デバイスが誤作動を起こしたのか?
「その説明を本人がしないからです。私はパートナーなんですよ?相談くらい、してくれたっていいじゃないですか」
「三郷…」
「あとは単純に騙されたことに腹が立って」
「三郷………」
なぜ話にオチをつけたがるんだ。
彼女はこんな人間だっただろうか?一年生の時は…もっといえばつい数ヶ月前までは冗談もろくに言わないタイプだった筈だが。
……私も、いつかはこうなるんだろうか。悩みどころだな…
普通なら恐怖を覚えるんだろうが、変人奇人が多く通うこの学園では普通である方が苦痛なことでもある。
違和感なく性格が改変されるなら…とも思わなくもない。本当に悩ましいな。
「そういえば桐条先輩はなんでここまで一緒について来てくれたんですか?」
「うん……うんっ?あっ、ああ…」
深く考えこんでいたら三郷から話しかけられてしまった。
えっと、なぜついてきたかだな…
「瀬能にちょっと用があったんだ」
「そうなんですか?それじゃ起こしましょうか」
やめてやれ。その突然取り出した注射器を何に使う気かは知らないがそっとしておいてやれ。
「別にそこまで急を要する事じゃあない、あとでメールででも伝えることにする」
最低限の確認はできた。見えるどころか、顔に触れられても反応は無し。やはりペルソナ使いになった訳ではないようだったな。
元々彼の適性はゼロ。そう簡単に覚醒できたらもっとたくさん使い手が現れている筈だ。
…しかしそうなると召喚大会の準決勝での現象はいったい……
デバイスに搭載されている黄昏の羽根の影響なのか召喚システムの不具合か、あるいは瀬能自身の特異性なのか…最後のが一番可能性が高いと思えるのは普段の行いのせいだな。
念のため検査用に血液を採取しておこう。対価は…明日一日完全休養ということで。
「それでは先輩、見回りなどがありますので私はこれで」
「ああ、分かった」
ちょうど三郷も移動するようだ。
今のうちに…終わったらどこか空き教室で寝かせておこう。
私も暇じゃないからな。
「…そういえばきみたちが準決勝で戦った夏川と常村の姿がどこにもないんだが、何か知らないか?」
「あの二人ですか?さあ…試合終了時に別れてそれっきりですので……」
「そうか…」
試合に負けて大人しくリングを去った二人組。
彼らの性格を考えたら…とくに夏川は異議を申し立てて騒ぐはずなのに、何もなかった。
しかしあの表情。忌々しげに瀬能を睨んでいたから何か仕掛けてくると思っていたのだが…瀬能の様子はいつもと変わりない。
取り越し苦労だったか?
あの人こと桐条美鶴先輩登場。ナツルがペルソナに覚醒したと誰か言ったな…残念、していないんだ。
そう簡単に使えませんよあんなの。("気"はいいのか?)
ちなみにジェムはペルソナ3に出てくる使い捨てアイテム。戦闘中使用すると魔法スキルで敵にダメージ与えるアレ。
白い光を〜だからナツルが口にしたのはおそらくメギドジェム。これで死なないのがナツルクオリティ