戦士たちの非日常的な日々   作:nick

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世のため人のため、そんな正義の味方では決してない。

だだひたすらに、悪の敵。


58時間目 悪の敵

 

………

 

……………

 

 

「……………………はっ、」

 

突然目が覚めて意識が覚醒する。

って。え、俺寝てた?なんで?

 

自分の状況が理解できていないが、とりあえず寝っ転がっていた床から上半身を起こす。

 

ここは…どのクラス・部活も使ってない空き教室か。

なんでこんなとこで、しかも床の上で寝てんだ俺。…謎だ。

 

「まあいいか」

 

全身に力を込めて立ち上がる。固い地面で眠ってたからあちこちバキバキだ。

しかもフラフラと立ちくらみもする。貧血か?チーズケーキや飴玉ぐらいしか口にしてねえからな。糖分取りすぎ?

 

それにしても暗いな、今何時だ?…もう放課後じゃねーか。がっつり寝すぎだよ。

一日目もそうだけど二日目もろくに学園祭を体験出来なかった。こうやって少しずつ青春は色あせていくんだな。

 

「………帰るか」

 

生徒会もクラスの出し物も、もう今日は終わってるだろう。家に帰って寝直そう。

 

そう考えて教室のドアから…と見せかけて窓から直接外に出る。

こっちの方が早い。

 

「なんたることだ!!」

 

とっさに身を屈めて姿を隠す。

 

びっくりしたぁ…なんだいきなり。

頭上の窓から、相手にバレないように様子を伺うと、スーツを着た初老の男が肩を怒らせて足早に歩いているのが見える。

 

アレは…

 

「夏川と常村はどこに行った!なぜ電話にも出ない!?雇った他の連中もほとんど使いものにならなくなったし計画が水の泡だ!!」

 

怒鳴りながら手に持った携帯電話を指で操作して、すぐに耳に当てる。

そしてしばらくしてから離してまた指で操作し、耳に…

 

教頭の竹原センセはかなりご立腹のようだ。

 

「くそっ!どいつもこいつも、なぜ思うようにことが運ばないんだ!」

 

そう言って立ち止まり、スーツの内ポケットに携帯を突っ込んで、替わりにタバコとライターを取り出してその場で吸い始める。

 

…よりによって俺が隠れているすぐ側で。校舎の壁一枚挟んで目と鼻の先って狙ってんのかコイツ。

 

人の気配は他にはなく、相手は油断しきっている。

学園長(バアさん)の立場からすればここで無力化させといた方がいいんだろうが、それをやる義理はない。

 

協力関係結んでる訳でもないからな。立ち去るまで大人しくしとこう。

 

 

「まったく…!白銀の腕輪の欠陥を利用して学園長の失脚を考えていたのに、肝心の腕輪は手に入らない。第二案として問題児の瀬能に暴行事件を起こさせようとしたのに、こちらもうまくいかなかった」

 

 

……………あ?

今なんっつった?

 

 

「半月ほど前からこっそりと噂を流したり暴れることしかできない低脳な連中をけしかけたりと色々やってきたのに…すべて徒労に終わるとは。Fクラスの単細胞じゃなかったのか?」

 

誰もいないのをいいことに(本当は一人いる)竹原は次々に自分がしてきたことをグチとともに暴露していく。

 

 

バアさんの失脚を皮切りに俺に裁判沙汰レベルの問題を起こさせようとしていたこと、神月学園の周囲にある他の学校と取り引きしていたこと、

 

その内容は学園に入る生徒を減らし見返りに金品を報酬として受け取ること、昨日の昼に襲いかかってきた奴らは他校から集めたこと、

 

学園の運営資金を一部ちょろまかしていること、それでマンションを買ったり隠れて豪遊していること、バレそうになったから今回の計画を実行したこと。

 

 

見た目は真面目で大人しげだがそれに反してゴミな内面を持ってるなコイツ。腹立ってきたわ。

 

俺は決して正義の味方ではない。ないが…こういう小悪党見てると自然と拳に力が入って身体が強張ってくる。

気づいたら手の中にウォーズマスクが握られていた。

 

迷うことなくそれを装着して、音もなく立ち上がる。

 

 

「ふー…さて、そろそろ行くか。不正の証拠を処分しなくては」

「いいや、お前はもうどこにも行けやしない。地獄以外にはな」

「!?」

 

後ろから両肩を掴み、そのまま壁から離すように前に押し出す。

 

「なっなんだ、誰だ!?」

「一つ人の世生き血をすすり」

 

ある程度の開けた場所に来ると腕だけで相手を持ち上げ、上空へ放り投げる。

 

「うわっ、うわわっ!!」

「二つ不埒な悪行三昧」

 

飛び上がったのを追いかけるように俺もジャンプして、身体が横になるように調整して弱く蹴り、さらに上昇。

 

「げふっ、やめごふっ、」

「三つ醜いこの世の闇を」

 

背面に周り、竹原の両腕を逆向きにねじり上げて、下半身を相手の脇の下から前側に回す。

そして右足後ろ腿と脛を使って首を、左足の膝関節でもって相手の左足を固定して締め上げる。

 

 

「駆逐してくれる!アロガント・スパーク!!」

 

 

「ゲボヤァッ!!」

 

汚い悲鳴とともにじじいの口から血が吐き出され、同時に強い音と光と熱が背中を叩く。

 

演出か?悪くない。

 

記念すべき一人目を刻むにはな!

 

素早く自分が上の背中合わせの体勢になり、両腕をひねり上げ両脚を決める。

落下を加速させるために全体重をさらに込めて――!

 

 

「死ねぇぇーーーーー(ズキッ)っ!!」

 

 

グッ…み、右足がっ…!

 

 

足の甲に走った激痛に気を取られてバランスが崩れ、勢いが落ちて普通(?)のアタル版マッスルスパークの形になった。

 

さらには水平だった身体の状態が斜めに傾き、相手の左膝が最初に着地。

 

「うぉおっ!!」

「がっ、」

 

おまけに衝撃で跳ねてクラッチが解け地面に投げ出される。

 

 

…完全に失敗だ。

 

前半部分は上手くいったんだが…後半はダメだな。やっぱ吉井に協力してもらうか。

 

うつ伏せの状態から土に手をついて、体を起こして立ち上がる。マスクも外れて素顔が丸出しだ。

右足は…踏み込むと痛むな。ちくしょう。

 

「で、コイツは」

 

力なく転がっている竹原を様子見る。どうやら気を失ってるようだ。

 

中途半端だったがアロガント・スパークを食らって全身の筋繊維はズタズタ。さらに左膝は完全に破壊されている。

見たところ闘いとは無縁な一般人そうだからなぁ…ダメージは甚大そうだ。最悪酷い後遺症残るかも。

 

「ま、自業自得ってことで」

 

ほっといてもそのうち誰か通って介抱するだろう。手当ても救急車を呼ぶ義理も俺にはない。

ケンカは買う方が悪いんじゃない。売る方が悪いんだよ。

 

 

死に損ないから背を向け、落ちてたウォーズマスクを回収してその場から立ち去る。

 

今日はもう帰って休もう。晩飯はなににしよっかな。

 

 

 




 瀬能ナツルはアロガント・スパーク"天"を習得した。


悪党の末路②

主人公が遠距離ではコスモ、近距離では超人プロレスのよくわからない戦闘スタイルになってる…

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