兄貴、見守る。   作:キュウリ大好き人間

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閲覧ありがとうございます!今回からいよいよ、大人気の『フグ鯨編』に突入します!幻の食材を求めて、トリコ、小松、そしてオリ主(夢主)のリゼルが列車で占い都市へと向かいます。道中でのコミカルな乱入者や、レジェンド同士の『隠れた一瞬の再会』、そしてラストの四天王ココとの合流まで、アニメのワクワク感を大切に描いています。それでは本編をどうぞ!


さばけ猛毒フグ鯨!四天王ココ登場!
グルメ12


               誰かが言った――

灼熱の太陽にこんがり焼かれ、芳ばしいソースが香る、焼きそばの砂漠――『やきソバク』があると、溢れ出るチョコの樹液が果実をおおい、とろ~りと甘いデザートが生る樹『チョコレートフォン樹』があると

――世はグルメ時代 未知なる味を求めて、探求する時代ーー

 

 

そこは、数え切れないほどの人々がせわしなく行き交う巨大な交差点だった。

 

ビル群の壁面に設置されたドデカイ街頭モニターには、最新のグルメニュースが映し出されている。 

 

マイクを握り締め、画面の向こうからハツラツとした声を届けているのは、お馴染みのキャスター・ティナだ。

 

「10年に一度のフグ鯨の捕獲に、名のある美食屋を雇い入れた企業の株価は高騰を続け、グルメ平均株価は高い水準で推移してます!」

 

ティナの熱いリポートが街中に響き渡る中、カメラはさらに別の場所へと流れていく。

 

 

――ポー――ッ、と小気味よい汽笛の音が響き、コトコトと列車が線路を揺らして走っていく。 

 

その列車の窓の向こう、はるか遠くの景色には、圧倒的な存在感を放つ巨大な白い雪山が、雄大にそびえ立っていた。

 

列車がコトコトと揺れる中、車内のボックス席にはトリコ、小松、リゼルの三人が腰掛けていた。

 

テーブルの上には、ハンバーガーやチーズといった軽食が雑多に広げられ、その横にはすでに空になった飲み物の酒が幾本も転がっている。

 

トリコは一気に中身を干したコップを、テーブルへ勢いよく置いた。

 

「あ~~! うめぇ!」

 

満足げに息を吐くトリコを前に、小松は呆れたように頬杖をつきながら問いかけた。

 

「車内販売の、全部飲む気ですか?」

 

そんな二人から少し離れて、リゼルは一人、静かに窓の外を流れる雪山の景色を見つめていた。

 

クールな横顔のまま、片手でポテトを口へと運び、いつものように弟分たちの騒がしいやり取りを静かに見守っていた。

 

「いや~嬉しくてな~。もうすぐ幻の魚・フグ鯨に会えると思うとよ!」

 

トリコは満面の笑みを浮かべ、一度窓の外を流れる白い雪山の景色へ視線を向けた。

 

「お前もそうだろ?」

 

「ええ、それはもちろん!……深海の珍味と呼ばれるフグ鯨が浅瀬に姿を現すのは十年に一度。ちょうど今この時期だけですから」

 

小松もまた、期待を胸に声を弾ませる。

 

「淡雪のように繊細なフグの身と、脂がのったマグロの大トロ、そして鯨の肉を合わせ持つ絶妙な味……」

 

トリコの説明に重なるように、美しい湖の浅瀬を優雅に泳ぎ回る、巨大なフグ鯨のイメージ映像が画面に浮かび上がる。

 

「たまんねぇ……」

 

トリコはシートに深く身体を預け、足を上の手すりへと上げて楽な姿勢を取ると、うっとりと至福に浸るように目を瞑った。 

 

だがすぐにパチリと目を開け、隣に座る小松へと悪戯っぽく視線を向ける。

 

「まあ、小松は食うより、フグ鯨を捌ける奴に興味あるんだろ?」

 

「えっ……わかってましたか」

 

図星を突かれた小松は、少しだけ頬を赤く染めてはにかんだ。

 

「今回トリコさんに同行させてもらったのは、フグ鯨を捌く料理人の技術を見たいと思って……。フグ鯨の体内にある猛毒の毒袋を取り除くのは難しく、特殊調理食材に指定されるほどですから」

 

料理人として熱っぽく語る小松の言葉に、トリコが深く頷く。

 

「まあ、捌けるのは世界に十人といねぇ。……それに、兄貴も捌けるしな。まっ、これから会いに行く奴は料理人じゃあねぇけどな」

 

トリコが窓際のリゼルへと親指を向ける。 

 

名前を呼ばれたリゼルは、窓の外を見つめたまま、フッと口元だけで静かに笑みを漏らした。

 

その黄金の瞳の奥には、世界に十人もいない技術を当然のように持つレジェンドとしての余裕と、久々に食すことになるフグ鯨への静かな期待が灯っている。

 

トリコがふたたび大皿のハンバーガーを口に放り込み、酒を飲み物を喉へと流し込んでいた、その時だった。

 

「――オイコラァ!」

 

車内に響き渡る野太い怒声。 

 

あまりに唐突な大声に、トリコ、小松、そして窓の外を見ていたリゼルの三人は、一斉に声のした方へと顔を向けた。 

 

通路の先に立っていたのは、分厚い毛皮の服に身を包んだ、まるで原始人のような風貌をした大柄な男だった。

 

「酒が少ねぇと思ったら、こんな所にたくさんあるじゃねぇか!」 

 

男はトリコたちのテーブルに並んだボトルの山を睨みつけ、両手を腰のあたりでガシッとグーに握りしめ、顔を真っ赤にして激怒している。

 

「舐めやがって! ――俺は美食屋ゾンゲ様だぞ、コラァ!」

 

『美食屋ゾンゲ様』と名乗った瞬間、男はそれまでの怒り顔から一転、親指でグッと自分を指すような、これでもかと自慢げな手つきのポーズを決めてみせた。

 

しかし最後の「コラァ!」の瞬間には、またすぐ最初のように両手を腰でグーにして威嚇する怒り狂った姿勢へと戻る。 

 

あまりに騒々しく、そして全力で忙しい男の乱入に、車内の空気は一瞬にして凍りつき

 

「ああ? ……フゥ」

 

トリコは怪訝そうに眉をひそめた後、気のない溜め息をひとつ漏らし、手に持った酒を少しだけ傾けて中身を弄んだ。

 

目の前の男を相手にするのも面倒だと言わんばかりの態度である。 

 

すると、ゾンゲの背後から二人の手下が勢いよく飛び出してきた。

「やいやいやいやい!」

 

「見て驚けよ! ゾンゲ様の人生のフルコースを!」 

 

白川が威勢よく胸元から一枚の紙を突き出す。

 

しかし、その紙は完全に横向きになっていた。

 

隣にいた坂巻が

 

「ん?」と不自然さに気づいて横目で睨みつける。

 

それに慌てた白川は、大急ぎで紙をたて方向へと正しく持ち直した。 

 

仕切り直した坂巻が、そこに書かれた内容をこれみよがしに読み上げ、大声で説明を始める。

 

「ゾンゲのフルコースメニュー――! オードブル・金色イクラ! スープ・ヘビガエルの肝スープ! 魚料理・ストライプサーモン! 肉料理・蟹ブタ! メイン・ガララワニ! サラダ・アーモンドキャベツ! デザート・ホワイトアップル! ドリンク・エナジーヘネスィ!!」 

 

ジャングルの王者であるガララワニをはじめ、名だたる食材が並ぶそのメニューを、手下たちは我が事のように胸を張って叫び響かせた。

 

「普段、僕が料理で使う食材ばっかり……」 

 

大声で読み上げられたメニューを聞き、小松が顎に手を置いたまま、ぽつりと冷静な感想を漏らした。

 

五ツ星ホテルの料理人である小松にとっては、どれも見慣れた食材ばかりだったのだ。 

 

だが、その呟きに坂巻がすぐさま食ってかかる。

 

「そしてメインディッシュは、あのガララワニだぞ! オラァ!」

 

「この前、捕獲したんだ。驚いたか!」 

 

ゾンゲがこれみよがしに鼻を高くし、ふんぞり返って自慢げに胸を叩いた。 

 

しかし、そのすぐ後ろから、白川が余計な一言をあっさりと付け足してしまう。

 

「1メートルの、小型だったけどな」

 

「コラァ! 酒寄越さねぇと痛い目に――」 

 

ゾンゲがこれ以上ないほど顔を真っ赤にして怒鳴り散らした、その瞬間だった。 

 

――ガタッ。 

 

トリコが巨体を揺らしてシートから静かに立ち上がる。

 

それと同時に、窓際にいたリゼルもまた、流れるような動作で並び立つように立ち上がった。 

 

190センチメートルという強靭な体躯を誇るリゼルと、それをさらに上回るトリコ。

 

二人の巨大な影が、通路に立つゾンゲの頭上からすっぽりと覆いかぶさる。 

 

あまりの威圧感に、ゾンゲは言葉を失って大きく見上げる形になった。

 

「あ……」

 

(け、結構デケェじゃねぇか……っ!) 

 

トリコだけでも狂暴な猛獣並みの圧迫感があるというのに、その隣に並び立つ黒髪の男――リゼルからも、底知れない強者のオーラが静かに放たれている。

 

ゾンゲの顔から、みるみるうちに冷や汗が吹き出していった。 

 

しかし、トリコは拳を握る代わりに、ゾンゲの肩へと優しく大きな右手を置いた。

 

「酒は好きなだけ持ってってくれ。悪かったね、ゾンビくん」

 

「オ、オウッ……。き、今日のところは勘弁してやらぁ! ……ゾンゲ、だけどな……」

 

「ん?」 

 

トリコに名前を間違えられ、引きつった顔で小さくツッコミを入れながらも、ゾンゲの足は恐怖でガタガタと震えていた。 

 

男はそれ以上虚勢を張ることもできず、テーブルの上のお酒を何本か手下の白川と坂巻に大慌てで持たせると、逃げるようにしてその場から足早に去っていった。

 

「怖かったぁ……」 

 

ゾンゲたちが去っていった通路を見送りながら、小松がようやく胸を撫で下ろした。 

 

トリコは手元のボトルを軽く傾け、中身の酒を揺らしながら言った。

 

「俺らを牽制してるのだろ!」

 

「え?」

 

「この列車は、フグ鯨漁に向かう美食屋だらけだ。現場では激しい争奪戦もありえる。だから、腹の探り合いはもう始まってるんだ。ここらで一発、脅しをかけたってところだろうな」 

 

トリコはそう言うと、再びボトルを傾けてゴクゴクと酒を喉に流し込んだ。

 

「じゃあ、どうしてお酒をあげたんですか?」 

 

小松の素朴な疑問に、トリコは窓の外の白い雪山を眺めながら、事もなげに笑ってみせた。

 

「『旅は道連れ世は情け』ってな。争奪戦になることもあれば、お互いに助け合わなきゃならねぇこともあるだろうよ」 

 

その時だった。 

 

ボックス席のすぐ通路側から、少し掠れた、気の抜けたような老人の声が呼びかけられた。

 

「――あ、あの~……」 

 

トリコ、小松、そしてリゼルの三人が一斉に振り返る。 

 

だがその瞬間、窓際のリゼルだけが、自身の黄金の瞳を大きく見開いて息を呑んだ。

 

「ん?」 

 

トリコと小松が怪訝そうに声を漏らす。 

 

通路に立っていたのは、顔を真っ赤にして千鳥足でふらついている、見るからにただの酔っ払いの小さなじーさんだった。

 

「あっしにも、酒分けてはくれませんかねぇ? ヒック」

 

「いいぜ」

 

「どうぞどうぞ!」 

 

トリコと小松は快く笑い、テーブルの上のボトルを差し出した。 

 

二人がお酒を準備しているその隙に、リゼルはじーさんの姿をじっと見つめ、その口元を小さく歪めて懐かしそうに笑った。

 

その黄金の瞳はいつになく優しげに細められ、トリコたちに気づかれないよう、胸のあたりで「久々だな」と伝えるように小さく手を挙げてみせる。 

 

ただの酔っ払いに見えるそのじーさんもまた、トリコたちに悟られない絶妙な動きで、リゼルの視線に気づいて小さく頷き返した。 

 

伝説の美食屋たちの、誰にも知られない静かな再会。 

 

トリコと小松が笑顔でお酒を手渡す横で、二人のレジェンドは互いの存在を確かに確かめ合っていて――。

 

次郎との一瞬の邂逅を終え、列車を降りた三人は、静まり返った占い都市の街並みへと足を踏み入れた。

 

「ありがとうごぜぇます、旦那。この酒の恩はいつか……ギヘッ」

 

じーさんは嬉しそうに手に入れたボトルを一本抱えると、独特の笑い声を残して夜の雑踏の中へと消えていった。

 

「わあ~! この街にフグ鯨を捌ける人がいるんですね~! ……ってか、人がいないんですけど……?」

 

小松は大きな荷物を背負い直しながら、周囲のひっそりとした通りをきょろきょろと見渡した。人っ子一人歩いていない異様な光景に、首を傾げる。

 

「猛獣が出る時間だな。この街の占い師が、猛獣が出没する時間帯を占うんだ」

 

先頭を歩くトリコが、周囲の警戒を怠らないまま解説した。小松は納得のいかない様子で、さらに街の左や右へと視線を走らせる。

 

「え?」

 

「で、その時間帯、住民は家に隠れてるって話だ」

 

「そういえば、フグ鯨の情報もこの街の占いが発端だって……。そんなスゴい占い師がこの街に……?」

 

小松が感心したように声を漏らした、その時だった。 二人の斜め後ろを歩いていたリゼルが、何かの気配を察知したように、その鋭い黄金の瞳をスッと細めた。

 

 ――ズンッ!!!

 

突如として、建物の影から巨大な地響きと共に不気味な猛獣が姿を現した。

 

口元から汚らしいヨダレをだらだらと滴らせているのは、猛獣――クエンドンだ。

 

「ガルルルル……!」 

 

威嚇の鳴き声を上げる巨大な化け物を前に、小松の顔から一気に血の気が引く。

 

「ヒィーっ!」

 

「煮ても焼いても食えないクエンドンか」

 

トリコが拳を軽く握り、冷徹に言い放つ。 

 

だが次の瞬間、そのクエンドンの背後の暗闇から――さく、さく、と。

 

静かで規則正しい足音がこちらに向けて近づいてきた。

 

――ッ!?

 

クエンドンは突如として目を極限まで大きく見開き、その目玉だけを恐怖に染めながら後ろの暗闇へと向けた。

 

本能的な戦慄が、その巨躯を硬直させる。

 

薄暗い街灯の光の向こうから、ゆっくりと一人の影が歩み寄ってくる。 

 

その異質な存在感に気づいた小松は、驚愕のあまり大きく声を張り上げた。

 

「はぁあ――っ!?」 

 

視界に映ったのは、夜の街に鮮烈に映える白いマント、そしてどこか妖しげな雰囲気を醸し出す黒いタイツが目を引く、一人の洗練された男性の姿だった。

 

黒いタイツに白いマントを纏った男――ココは、目の前に立ちはだかるクエンドンに一瞥すら与えず、ただまっすぐにこちらへ向けて歩みを進めていた。 

 

――ガルルッ!

 

クエンドンは容赦なくその巨大な顎を開き、ココを丸呑みにせんと襲いかかる。

 

「あぶないっ!」 

 

小松が悲鳴のような声を上げた、その瞬間だった。 牙が届く寸前、クエンドンの狂暴な動きが完全に停止した。

 

口を開けたまま、まるで石像のようにガタガタと凍りついている。ココはその横を、風が通り過ぎるように何事もなく歩き抜けていった。

 

「え……?」 

 

唖然とする小松の前で、顎を開いたままびっくり顔で固まっていたクエンドンは、恐怖を噛み締めるように慌てて後ろを向くと、一目散にどこかへと逃げ去っていった。 

 

トリコはそれを見て不敵にニヤリと笑い、リゼルもまた「相変わらずだな」と伝えるように、口元をわずかに歪めてフッと笑みを漏らした。 

 

何が起きたのか全く分からず、小松が「え?」と目を丸くする中、ココはトリコたちの目の前へとたどり着いた。

 

「僕の占い通りだ。嫌な客が来たもんだな」

 

「出迎えとは嬉しいねぇ。さすが四天王一の優男だな――ココ!」 

 

お互いにフッと笑い合い、トリコがその名を呼ぶ。ココもまた、穏やかな笑みを湛えて視線を返した。

 

「四天王一の食いしん坊、トリコ。リゼル兄さん。久しぶりだね!」 

 

ココの紫色の瞳が、トリコ、そしてその隣に立つレジェンド――リゼルの姿を嬉しそうに捉える。

 

四天王の弟分としてリゼルを「兄さん」と慕うその口調は、どこか懐かしさに満ちていた。

 

「トリコさん……! まさか、会いに来た人って……四天王・美食屋のココさん!?」

 

 小松の驚愕の声が、静まり返った占い都市の夜空に響き渡る――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございました!列車内でのゾンゲ様たちの賑やかな一幕から、変装した次郎とのこっそりとした挨拶、そして不気味な占い都市でのココとの再会までを詰め込んだ回でした。リゼルが世界に十人もいない『フグ鯨を捌けるレジェンド』として紹介されたり、ココから『リゼル兄さん』と慕われている関係性を楽しんでいただけたら嬉しいです。次回からは、ココの占いの館へ移動し、いよいよフグ鯨漁の本番に向けた準備が
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