兄貴、見守る。   作:キュウリ大好き人間

18 / 19
グルメ18

『ハハッ、美食屋四天王のトリコにココ……スゲェ面子だ。奴らなら、あのデビル大蛇相手でも十分に食い下がる……! その隙に、俺は別ルートから一気に洞窟の砂浜に抜け出てやるぜ! ハハハッ! 幻のフグ鯨は、この俺が先にいただく!!』

 

大柄な男は暗闇の通路を真っ直ぐに疾走しながら、醜悪な笑みを浮かべて独りごちた。

 

『ムググググ……ッ! ムググッ!!』

 

男の脇に抱えられた小松は、相変わらずぶ厚い手のひらで口元を強く押さえつけられたまま、必死にくぐもった声を上げている。恐怖と焦りからキツく目を瞑り、額からは冷や汗がじっとりと滲み出ていた。

 

だが――男はまだ気づいていない。

 

自分の手の中で、もう一匹の「とんでもない怪物」が静かに牙を剥き始めていることに。

 

『ガリガリ……、ガリガリ……!』

 

男を冷徹な瞳で鋭く睨みつけながら、ミニサイズのリゼルは、口元を縛り上げていた細い紐に物凄い力で噛みついていた。

 

常人なら到底不可能なリゼルの超人的な顎の力によって、頑丈だったはずの紐はすでにボロボロに引き裂かれ、今にもプチリと噛み千切れそうになっていた。

 

『てめぇには、奥の猛獣どもの気を引いてもらうぜ……美味しい生贄としてな! それに、レジェンド、リゼルはそのまま俺がもらうぜ。こいつを闇の市場に売り飛ばせば、一生遊んで暮らせるだけの大金に化けるからな……!』

 

男の下卑た高笑。

 

『ムグッ!?』

 

生贄という恐ろしい言葉に、小松はギュッと目を見開き、完全に血の気が引いた顔で焦ったようなうめき声を上げた。

 

『…………』

 

その隣で、紐を噛み千切りかけていたミニサイズのリゼルは、冷酷そのものの瞳で男の顎を見上げていた。

 

(――この場でノッキングを解除し、元の姿に戻るか)

 

リゼルにとっては、縛る紐を千切って元の巨大な肉体に戻り、この男の首を一瞬で捻り切ることなど、瞬きをするよりも簡単なことだった。

 

だが、男は今、小松の身体をがっしりと小脇に抱え込んでいる。

 

ここで自分が下手に大人の姿に戻れば、その衝撃で小松の骨が砕けてしまうかもしれない。

 

あらゆる状況を冷徹に計算した結果、リゼルはあえて拳を収め、静かに男の出方の様子を見ることにした。

 

その静寂は、嵐の前の静けさそのものだった。

 

「ヤバい……! これって大盛り……いや、特盛り級にヤバいわよっ……!!」

 

スピーカーから流れる男の非道なセリフと小松の悲鳴を聴き、ティナは焦りのあまり眉を跳ね上げてノートパソコンの画面にしがみついた。

 

「ったく、美食屋の風上にもおけねぇ卑怯な野郎だぜ!」

 

ゾンゲは両手をそれぞれの腰に力強く当て、眉を吊り上げ、目をキッと瞑りながら吐き捨てるように言った。

 

すると、その後ろに控えていた部下の二人も、親分と全く同じように深く目を瞑って腕を組み、少し腰を落とした低い姿勢で力強く同調する。

 

「全くですっ……!!」

 

白川が悔しそうに声を荒らげ、坂巻も無言で深く首を縦に振った。

 

洞窟の外にいる彼らにはすぐに助けに行けないもどかしさの中、画面の向こうの悪党への怒りだけが激しく燃え上がっていた。

 

「あの入り口が岩で塞がってなけりゃあ、このゾンゲ様が速攻で洞窟の奥まで突っ走って、あの卑怯な野郎をボコボコに倒しに行ってやるのによぉっ!」

 

ゾンゲは両手をそれぞれの腰に当てたまま、悔しそうに眉を吊り上げて目を瞑り、少し顔を上へと跳ね上げながら大げさに吠えた。

 

「でもそれって、あのヤスデの群れを無事に突破できてからの話だけどな……」

 

後ろで腕を組んでいた坂巻が、ボソッと冷淡な声を漏らす。

 

「さっきも思いっきりビビって逃げて来ちゃったもんな〜、俺たち」

 

白川もやれやれと肩をすくめ、さっきの情けない大敗走を思い返して苦笑いした。

 

「だから女子たちにいつまで経ってもモテないんだよな〜、ゾンゲ様は」

 

坂巻がトドメの一言をため息混じりに呟く。

 

「なんか言ったか!?」

 

背後の気配を察したゾンゲが、二人にガバッと振り向きながらちょっと強めの言葉で問い詰めた。

 

白川と坂巻の二人は、顔を引きつらせて苦笑いしながら慌てて取り繕う。

 

「ああ、いや!」

 

坂巻がパタパタと手を振って否定する。

 

「ゾンゲ様はモテモテだな~って!」

 

白川もすかさず調子を合わせてそう言った。

 

そんな緊迫した三人の隣では、ティナが深刻な表情のままノートパソコンの画面を凝視していた。

 

画面の中の絶望的な状況に、ティナはグッと歯を食いしばり、眉を吊り上げて画面をキッと睨みつける。

 

次の瞬間、彼女は慌てて自分のリュックを勢いよくひっくり返した。

 

中から転がり出てきたお目当ての『チョコバー』を素早く掴み取る。

 

「おおっ、チョコバー! いただき――」

 

ゾンゲが目を輝かせ、待ってましたとばかりにチョコバーへ向けて手を伸ばした、その刹那。

 

ティナは泥棒猫を追い払うような鋭い目つきで、ゾンゲの手の甲を容赦なく叩き落とした。

 

「ふんっ!」

 

――ぺしっ!

 

「タタタッ! イダーーーッ!?」

 

思った以上の痛さだったのか、ゾンゲは涙目になりながら、叩かれた片手をパタパタと必死に仰いで悶絶する。

 

「私はただ食い意地張って食べてるんじゃないの! この特盛り級のピンチをどう切り抜けたらいいか、糖分を補給しながら頭を使って必死で考えてんのよ! がんばれ私、負けるな私っ!」

 

ティナは早口で捲し立てると、剥いたチョコバーをムシャクシャと物凄い勢いで口へと押し込んでいく。

 

口いっぱいにチョコバーを詰め込んで凄まじい勢いで咀嚼するティナの横で、ゾンゲ、白川、坂巻の男三人組は、完全に圧倒されて眉を下げたまま呆然と立ち尽くしていた。

 

そんな男たちの視線など1ミリも気にせず、ティナはひたすらチョコバーを猛烈なスピードで食べ進めていくのだった。

 

その頃、洞窟の最奥では、伝説の魔獣を前にして二人の美食屋が不敵に並び立っていた。

 

周囲を威嚇するように巨体をぐるぐると執拗に回し続けるデビル大蛇。

 

そんな脅威を前にしながらも、トリコとココはほんのりと口元に笑みを浮かべ、互いに力強く拳をコツンと合わせ合って戦いの準備を整える。

 

「何年ぶりだ? 一緒に戦うのは……足引っぱんなよ、ココ!」

 

「それは僕の台詞だ」

 

短く言葉を交わしたココは、すぐさま目元だけでチラリと前方のアゲハコウモリが飛び交う暗闇を見据えた。

 

デビル大蛇がさらに狂暴に身をよじり、洞窟を揺るがす咆哮を上げる。

 

――〈ぎゅるるぎゅあああああ!!!〉

 

「うおっおぉぉおおお……っ!!!」

 

トリコが天を仰いで大音声で叫んだ。

 

それと同時に、彼の全身から真っ赤な闘気のオーラがメラメラと激しく燃え上がる。

 

逆立った髪の毛のすぐ背後に、空間を歪めて凶悪な『赤鬼』の姿が血のように鮮烈に浮かび上がった。

 

「はああぁぁあああ……っ!!!」

 

呼応するようにココもまた、全身から紫色の毒霧のようなオーラをメラメラと爆発させる。

 

ココの背後にもまた、おぞましい『ポイズンデビル』の巨躯が暗闇にぬっと現れた。

 

二人の放つ圧倒的なプレッシャーに負けじと、デビル大蛇もまた、巨大な顎を引き裂かんばかりに開けて鳴き叫ぶ。

 

――〈ギュアァァアアア!!!〉

 

暗くて狭い洞窟の奥底で、魔獣のおぞましい大咆哮と、赤鬼、そしてポイズンデビルの凄まじい叫び声が真っ向からぶつかり合い、世界を激しく震わせていた。

 

「俺の威嚇も、ココの毒も恐れずか……。こんな戦いは久しぶりだぜ!」

 

目の前で狂暴にのたうつデビル大蛇を睨みつけながら、トリコの口元が凶暴に、そしてどこか嬉しげにグッと上がった。

 

次の瞬間、デビル大蛇の巨大な胴体から、ボコボコと新しい腕がいくつも生え変わるように突き出してきた! その無数の腕が、トリコとココを目がけて一斉に襲いかかる。

 

――シュババババッ!!!

 

二人は凄まじいスピードで放たれる突進を、紙一重のところで次々と鮮やかに避けていく。

 

攻撃をかわしながら宙へと高く跳んだトリコは、無防備になったデビル大蛇の胴体目がけて一直線に狙いを定めた。

 

「ナァァァーイフッ!!!」

 

銀色のエネルギーの刃が胴体を真っ二つに引き裂く――そう思った瞬間だった。

 

――ガキィィィンッ!!!

 

まるで強固な特殊合金でも叩いたかのような、激しい金属音が洞窟内に鳴り響く。

 

トリコの渾身の一撃は、デビル大蛇の皮膚に傷一つつけられず、虚しく弾き返されてしまったのだ。

 

「かってぇ……っ!」

 

着地したトリコは、衝撃で痺れる自分の大きな右手を見つめながら歯を食いしばる。

 

「伸縮性のある皮膚を限界まで縮めて、硬度と耐久力を上げているんだ! さっきの一撃で、トリコのナイフを学習したか……!」

 

攻撃が全く通じない光景を間近で見たココは、驚愕のあまり眉を跳ね上げ、その瞳を戦慄に染めていた。

 

魔獣の底知れない進化のスピードに、バトルの緊張感は一気に限界突破していく。

 

トリコがデビル大蛇の猛烈な腕の猛攻を必死に避けている、まさにその瞬間だった。

 

状況を見ていたココがすぐさま動く。

 

自身の右腕を天へと掲げ、全身の細胞から生み出された毒のエネルギーを一点に凝縮させていく。

 

「ぐおおおおおあああ……っ!!!」

 

咆哮と共にココの右腕にどす黒い毒気が見るみるうちに集まり、禍々しい球体を形作った。

 

「毒砲――っ!!」

 

凄まじい風切り音を立てて紫色の毒弾がデビル大蛇へと飛ぶ!だが――伝説の魔獣は驚異的な反射神経でその毒弾を紙一重で完全に避けた。

 

「え……っ!?」

 

必殺の遠距離技を完璧に見切られ、ココは驚きで口元を開けて愕然とする。

 

だが、魔獣の反撃は止まらない。

 

デビル大蛇は無数に蠢く自らの長い髪の毛の先から、おぞましい毒液をブワァーッと一斉に噴射してきたのだ!

 

「髪の毛から、毒液を吐き出したぞ……っ!」

 

ココはデビル大蛇を睨みつけながら大きな声で叫び、降り注ぐ毒液の雨をバックステップで華麗に避けながら、すぐさまトリコの隣へと戻った。

 

「クソッ、さすがにこの暗闇だ、敵の細かい動きが見づれぇ……! ココ、何でもいい、デビル大蛇の動きを一瞬でも止められるか!?」

 

トリコは前方で三つの目を不気味に光らせるデビル大蛇を睨みつけ、眉を跳ね上げながら焦り混じりに言った。

 

――〈ギュアァァアアア!!!〉

 

三つの凶悪な眼光で二人を捉え、デビル大蛇が勝利を確信したように激しく鳴く。

 

だが、ココはその特異な瞳で魔獣の全身を観察し、真顔のまま冷静に分析を口にした。

 

「……デビル大蛇は爬虫獣類。蛇科の猛獣や夜行性の生き物が持つ『ピット器官』が、あのデビル大蛇にも必ず備わっているはずだ」

 

ココは眉を上げ、確信を込めてトリコへと告げる。

 

「ピット器官……?」

 

トリコが怪訝そうにその名を復唱した。

 

「ああ。熱を感知するセンサー……言わば、第二の目のような機能だ。奴の鼻の上に、細胞が異常に活性化している部分が三カ所ある。恐らく、あれがピット器官だろう」

 

ココは相変わらず眉を跳ね上げたまま、張り詰めた声で冷静に告げた。

 

いつの間にかココのすぐ隣へと並んでいたトリコは、グッと拳を握りしめる。

 

「ってことは、そこさえ防げば、奴の狙いを狂わせられるな!」

 

「ああ。動きは封じ込められる。――僕の毒と、デビル大蛇の毒。どちらがより有害か、勝負してやる!」

 

ココは前方のデビル大蛇を見据え、胸のあたりまで掌を真っ直ぐに突き出して不敵に言い放った。

 

「動きさえ止まれば、俺の秘策で一撃だ!」

 

トリコは魔獣を睨みつけたまま、ニィッと獰猛に笑って拳を突き出した。

 

「秘策……?」

 

ココは目元だけを動かし、驚いて隣のトリコを見つめる。

 

トリコはただ、フッと不敵な笑みを深くするだけだった。

 

獲物たちのそんなやり取りをあざ笑うかのように、デビル大蛇が三つの目を怪しく光らせて低く鳴いた。

 

――〈ギュアァァ……〉

 

「うおおおおおおお……っ!!!」

 

突如、トリコが天を仰いで凄まじい叫び声を上げた。雄叫びと共に、トリコの両腕の筋肉がミシミシと音を立てて異様に膨らみ上がっていく。

 

「あ……っ!?」

 

隣でその尋常ではない肉体の変化を間近に見たココは、驚きのあまり目を大きく見開き、口元を開けて唖然とした。

 

だが、目の前の化け物も黙ってはいない。

 

デビル大蛇は頭部のふさふさとした無数の髪の毛を不気味に蠢かせると、その奥にある三カ所のピット器官を、獲物を確実に仕留めるためにギラリと凶悪に光り輝かせた。

 

「伊達に、美食屋業から遠ざかっていたわけじゃないってところを見せるさ」

 

ココはほんのりと口元を緩めてちょっと笑いながら、トリコに向けて力強く拳を突き出してみせた。

 

「――ただし、この秘策は力を溜めるのに多少の時間が要るんだがな」

 

トリコが全身の筋肉をミシ引き締めながら言う。

 

「その時間は、僕が奴の動きをキッチリと封じて稼いでみせるよ」

 

トリコはココを見つめ、少しからかうような視線を向けた。

 

「お前の毒の威力、ずいぶん長いこと使ってねぇから弱まってんじゃねぇのか?」

 

言いながら、トリコはすぐに前方のデビル大蛇へとその鋭い視線を戻す。

 

ココもまた魔獣を真っ直ぐに見据えた。

 

「あはは。僕の心配をする暇があったら、自分の力を溜めることにしっかり集中してなよ」

 

言うが早いか、ココは凄まじい脚力で地面を蹴り、デビル大蛇の巨躯へと目がけて一瞬で飛び立った。

 

「いくぞ、デビル大蛇――っ!!」

 

突進してくるココに対し、デビル大蛇が無数の巨大な手を一斉に伸ばして襲いかかる! だがココは、空中でありながらその猛攻を紙一重で鮮やかにすべて避けてみせた。

 

そのままデビル大蛇のさらに上空へと跳び上がったココは、前を向き、目をカッと見開いて眉を跳ね上げる。

 

狙うは魔獣の鼻の上にある、怪しく光る三カ所のセンサー。

 

ココは自らの右腕へと全身の毒のエネルギーを瞬時に溜め、指先を銃口のように真っ直ぐ前へと伸ばした!

 

「ポイズン……ライフル――ッ!!!」

 

――シュバババババンッ!!!

 

放たれた超高速の毒液の弾丸が、デビル大蛇のピット器官へと見事に全弾命中した。

 

――〈ギュアァァアアアッ!?〉

 

突然視界を奪われたデビル大蛇は、苦痛とおぞましい悲鳴を上げてその巨躯をグネグネと激しく狂わせる。ココは着地しながら、手応えを確信して心の中で不敵に微笑んだ。

 

(よし……微量だから奴を即死させるには時間が掛かるが、この粘着性の高い毒でピット器官は完全に塞いだ 。奴には今、僕たちの姿が見えていないはずだ!)

 

ココは着地するや否や、すぐさま残った両腕に全ての力を込めた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ……っ!!!」

 

鋭い咆哮と共に両腕を前へと突き出す。

 

「毒砲――ッ!!!」

 

だが――技が放たれるよりも早く、デビル大蛇の巨大な腕が目にも留まらぬ速さでしなり、ココの身体をガッシリと捕らえて拘束したのだ!

 

――〈ギュアァァアアア!!!〉

 

勝ち誇ったようにデビル大蛇が鳴く。

 

その顔面を見たココは息を呑んだ。

 

なんと、粘着性の毒で塞いだはずの鼻の上の他に、さらに別の三カ所のピット器官が怪しく開いてギラギラと光り輝いていたのだ!

 

「ピット器官は三つじゃない……! 他のセンサーを、今まで閉じて隠していたのか……っ!」

 

魔獣の恐るべき知能にココが戦慄した瞬間、デビル大蛇がその大口から大量の黄緑色の毒液を至近距離から吐き出してきた!それを目撃したココは、一瞬の判断で全身に神経を尖らせる。

 

「毒膜――ッ!!」

 

ココの顔や体へと、体内の毒が一気に集まり、薄い防壁を作り上げる。

 

まさにその直後、おぞましい毒液の濁流がココの全身を容赦なく飲み込んだ。

 

「うあああああ……っ!!!」

 

「ココォーーッ!!!」

 

離れた場所で力を溜めていたトリコが焦燥の声を上げる。

 

黄緑色の禍々しい毒液に全身を完全に濡らしながら、ココはデビル大蛇の手の中に囚われたまま、必死に歯を食いしばって耐えていた。

 

デビル大蛇が周囲の壁を震わせるほどの大咆哮を上げる。

 

――〈ギュアァァアアア!!!〉

 

「くっ……毒膜は、僕の体内の毒を大量に消費し、体に薄い毒のシールドを張る技だ。これなら奴の強力な消化液で体が溶けるのを防ぐことはできる……だが!」

 

激しい痛みに耐えながら、ココは冷や汗を流して心の中で強く焦った。

 

(マズいな……デビル大蛇に致命傷の毒を撃ち込

む前に、僕の体内の毒が完全に底をつくぞ……!)

 

絶体絶命の窮地の中、ココは執念で捕らえられた腕の片方を強引に引き抜いた。

 

そして、ゼロ距離から男の意地を込めて叫ぶ!

 

「っ、毒砲――ッ!!」

 

だが、それすらもデビル大蛇は首をグネリと曲げて難なく避けてみせた。

 

――〈ギュアァァアアア!!!〉

 

魔獣は不気味に鳴きながら、その頭部にあるふさふさとした無数の長い髪の毛をうねうねと蛇のように動かす。

 

そして、手の中で弱りかけたココを完全に締め殺すために、その髪の毛の触手を一斉にココへと向けて放ったのだ!

 

ココは驚愕に目を見開き、眉を跳ね上げて冷や汗を流した。

 

「ぐわあああ……っ!!!」

 

次の瞬間、デビル大蛇のうねる髪の毛から放たれた無数の毒針が、ココの胴体へと容赦なく深く突き刺さった! おぞましい猛毒が、ココの体内へと一気に注入されていく。それを間近で目撃したトリコが、血相を変えて叫んだ。

 

「ココォーーッ!!」

 

トリコは激しく歯を食いしばり、焦燥のあまり声を荒らげる。

 

「クソッ! マズい、髪の毛の毒針をまともに打ち込まれたぞ……!」

 

「来るな……っ! トリコ!」

 

助けに入ろうとしたトリコを、ココが鋭い声で制した。

 

トリコは目を大きく見開き、口元を開けて唖然と立ち止まる。

 

「え……っ!?」

 

ココは激痛に片目を固く閉じながらも、男のプライドで必死にその場を踏ん張っていた。

 

その口元には、なんとボロボロになりながらも不敵な笑みが刻まれている。

 

「……お前は力を溜めることに集中してろって、さっき言ったはずだろ」

 

「ココ! まさかお前、デビル大蛇の毒の抗体を――っ!」

 

「あぁ……持ってないさ」

 

ココは限界までこれでもかと目を大きく見開き、眉を跳ね上げて言い放った。

 

伝説の魔獣の猛毒。

 

流石のココといえど、事前の準備なしに耐えられるものでは決してない。

 

「だが――ッ!!」

 

次の刹那、ココの双眸が猛獣のように鋭くギラリと光り輝いた。

 

ココは自らの細胞に眠る『ある覚悟』を爆発させるように、暗闇の洞窟を引き裂く大音声で叫んだ。

 

「――うおおぉぉおおお!!!」

 

ココが魂の咆哮を上げる。

 

それに応じるように、彼の背後から紫色のオーラを纏った『ポイズンデビル』がぬっと姿を現した。

 

ポイズンデビルはココの後ろから解き放たれるようにして抜け出すと、雄叫びを上げながらデビル大蛇のすぐ隣へと一瞬で肉薄していく。

 

「ココ……!」

 

離れた場所でトリコが息を呑む。

 

拘束されたままのココは、キツく目を瞑り、全身から滝のような冷や汗を流して歯を食いしばっていた。

 

その脳内では、驚異的な処理が超高速で行われている。

 

(激痛、幻覚作用、出血毒……。デビル大蛇の毒に含まれる、百種類以上のタンパク質をすべて解読 ! ――僕の特殊な免疫機能により、抗体の生成を完了……ッ)

 

次の瞬間、ココはそれまでの苦痛が嘘のように、視界が晴れたような不敵な笑顔を浮かべた。

 

「抗体がないなら、その場で作ればいい……! 僕は――毒人間だからね。はああぁぁあああ!!!」

 

ココが気合の叫びを上げると同時に、自らの身体に突き刺さっていた大蛇の毒針を利用し、逆に自分の猛毒をデビル大蛇の体内へと送り込む『毒液の入れ替え』を敢行したのだ!ココがその場で作り出した未知の猛毒が、デビル大蛇の肉体へと容赦なく侵入していく。

 

「僕がこの場で作り出した、特製の抗体と毒の味は……どうだい?」

 

――〈ぎゅぁぁぁぁぁッ!!!〉

 

内側から毒に蝕まれ、デビル大蛇は今まで以上の凄まじい悲鳴を上げて苦しげにのたうち回った。

 

ココは捕らえられながらも、力を溜め終えたトリコへと視線を向ける。

 

「――おっけだ。トリコ!」

 

「よーし……ご苦労さん!!!」

 

トリコの膨れ上がった右腕に、凄まじい銀色の闘気が集まっていく。

 

狙うは、毒で苦しむデビル大蛇の顔面ただ一処。洞窟の暗闇を吹き飛ばすほどの、トリコの渾身の一撃が今、放たれようとしていた――!

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。