兄貴、見守る。 作:キュウリ大好き人間
「やっとこいつに、死相が見えたな」
蠢く巨大な影――デビル大蛇を冷徹に見据え、ココが静かに呟く。
トリコが即座に叫び、全身の細胞を激昂させた。
圧倒的な赤いオーラが吹き荒れる。
筋肉がさらに強固に膨れ上がり、その拳は文字通り、獲物を穿つ『釘』へと変貌を遂げた。
「うおおぉぉおおお! ――5連、釘パンチッッ!!」
超高速の拳がデビル大蛇のぶ厚い胴体に叩き込まれた。
その瞬間、5回分の衝撃が時間差で大蛇の内部へと侵入していく。
「……1」
大蛇のぶ厚い腹が内側から吹き飛ぶ!
――ドォン!!
「……2」
さらに衝撃が突き抜け、背中の鱗が弾け飛ぶ!
――ドォォン!!
「……3」
衝撃は首元まで一気に駆け上がる!
――ドォォォン!!
「……4」
顎の骨が凄まじい音を立てて砕け散る!
――ドォォォォン!!
「――5だ、弾けろォォオオッ!!」
ズガガガガガァン!!!
最後のカウントとともに、デビル大蛇の巨体が上空へと盛大に弾け飛んだ。
壁へと激しくぶつかり、どおおおん!と洞窟内に凄まじい轟音が鳴り響く。
だがその瞬間、戦いの衝撃でココの足場がガラガラと崩落した。
真っ逆さまに下へと落下していくココ。頭上からは無数の巨大な岩石が降り注ぐ。
ガシッ!!!
暗転しかけた視界の中で、力強い音が響いた。
落下していたココの身体が、宙ですくい上げられる。
トリコが凄まじいスピードで飛び込み、ココを完全に横抱きにしたのだ。
降る岩を強引に避けながら、トリコが顔を覗き込んできた。
「お疲れか? ココ」
ドサササァァン!!!
二人の背後に、完全にトドメを刺されたデビル大蛇の巨体が落ちてくる。
もうもうと立ち込める煙の中、ココは片目の目をつむりながらも、ふっと優しく笑っていた。
「ああ……。やはり占いばかりしていると、体が鈍るな……。少しくたびれたよ……」
ココが全体の目を閉じ、トリコの胸に身体を預ける。
それを見ていたトリコは、口元をニカッと上げて嬉しそうに笑った。
「5連まで可能になっていたとは……。さすが、あの超越の食材を目指しているだけあるな」
目の前にある、綺麗に切り分けられたデビル大蛇の肉を見つめながら、ココはトリコの凄まじい成長に目を見張る。
トリコはニカッと笑うと、解体されたデビル大蛇の肉へと力強く歩み寄った。
それと同時に、ココもトリコの方へと顔を向ける。
「さっ、急いで小松くんとリゼル兄さんを探しに――」
「う~ん。どうやって運ぶか……」
デビル大蛇の肉の塊をポンポンと叩きながら、トリコが真剣な顔で呟き、ココの言葉を遮った。
「そんなこと、あとでいいから!」
ココは呆れた様子で、手のひらを下げながら言う。
「置いていけないだろ。他の奴に食われるかもしれないし」
未練がましくデビル大蛇のお肉を触りながら、トリコがココの方を振り返る。
「僕の毒が入っているからね。火を通さないと食べられないし、猛獣たちも見向きもしないよ、それよりも早く、小松くんとリゼル兄さんを」
ココは少し眉をひそめ、諭すように告げると、そのままスタスタと歩き出した。
しかし、背後を振り返ろうとしたその瞬間。
「う~ん。それなら、火を通せばいいってことか」
トリコはココの話をまったく聞いていなかった。腕を組み、お肉を見つめたまま真剣な顔で考え込んでいる。
「おい……っ、トリコ!」
ココは思わず足を止め、眉を上げて呆れたように声を張り上げた。
「そう心配するなよ。小松も兄貴も大丈夫だって言ったろ?」
トリコは悪びれる様子もなく、ココを見つめながらニカッと不敵に笑う。
「えっ……?」
予想外の言葉に、ココは思わず目を丸くした。
「あいつにはちゃんと、一人でピンチに陥ったときのための『秘密兵器』を渡してあるからよ。それに、兄貴ならなおさら問題ねぇだろ? 俺たちよりも遥かに強い、自慢の兄貴なんだからな」
トリコがそんな風に能天気に笑みを浮かべていた、まさにその頃。
――時を同じくして、小松とリゼルの側。
「ひ、ひぃぃ……っ!」
恐怖に慄く小松と、二人が連れてきた美食屋の目の前に、圧倒的な絶望が立ち塞がっていた。
そこに現れたのは、先ほどトリコたちが打ち倒した個体を遥かに凌駕する、文字通りの怪物。
凶悪なオーラを纏った格上の存在――『デーモンデビル大蛇』であった。
小松は完全に腰を抜かし、大きく目を見開いたまま、呆然と口をあけて恐怖に震えている。
「トリコさ――ん!!」
悲痛な叫びをあげる小松の前に、リゼルが静かに一歩を踏み出した。
その背中は、恐ろしいほどに冷徹で、そして頼もしい。
「小松……そこの男もだ。下がっていろ」
その圧倒的な強者の威圧感に、小松と美食屋は涙目を浮かべながら、何度も激しく首を縦に振って頷くのだった。