兄貴、見守る。 作:キュウリ大好き人間
グルメ25
誰かが言った。
虹の橋のたもとには、七つの味の飴を降らせる、綿菓子の甘い雲『甘雲』が浮かんでいると最も早く朝日が昇るパンの高山『クロワッ山』輝く太陽の恩恵を受けポタージュの樹液が染み出る『コーンポター樹』朝日を浴びて葉が開く『ハムエッ草』と、朝食のメニューが揃う島、『ブレイクファース島』があると
世はグルメ時代 未知なる味を求めて、探求する時代
洞窟の出口から戻って来たトリコ、小松、ココ、リゼルの4人は、目の前の光景に驚愕する。
特に小松は、眉毛を大きく跳ね上げて驚きの声をあげた。
「あ…あれは?」
そこには、大勢の美食屋たちが力なく倒れていた。
そして、その場所にはティナの姿があった。
4人は、急いでティナのいる元まで駆け寄る。
「ティナさん大丈夫ですか?」
ティナは呆然としていたが、小松に声をかけられたことで、ハッと小松たちの方を向いた。
「私は大丈夫!けど…」
ティナはそう答えたものの、すぐに言葉を詰まらせ、倒れている美食屋たちの方向へと視線を戻す。
それにつられるようにして、トリコたちもまた、同じ方向へと目を向けた。
「フグ鯨目当ての強盗、殺し屋達……」
倒れている美食屋たちの姿を見つめながら、ココが静かに口を開く。
「あぁ、あいつのフグ鯨を襲ったんだろ」
その言葉を引き継ぐように、トリコも険しい表情で続けた。
「強さもわからず襲おうとするとはな……」
倒れている者たちの無謀さに、リゼルは呆れたように吐き捨てる。
「なんて事を……」
ココは無残な姿の美食屋たちを見つめながら、眉を下げ、口元を歪ませる。
倒れている彼らの身体からは、毒に侵されたかのような禍々しい紫のオーラが立ち昇り、ココはただじっとその光景を凝視していた。
〈ア"ア"ー〉
その時、頭上から鋭い鳴き声が響き渡る。
ハッとしてココが上を向くと、そこには彼のパートナーである巨大な怪鳥、キッスが飛来していた。
「キッス!」
上空の影に気づいた小松が、声をあげる。
「迎えにきてくれたのか?」
ココは嬉しそうな表情を浮かべ、舞い降りてくるキッスを見つめた。
その圧倒的な存在感を前に、ティナは息を呑む。
「え? エンペラークロウ……これが」
驚きを隠せないティナがキッスを凝視する中、ティナの相棒であるクルッポーが、羽を小さく羽ばたかせてキッスに向かって鳴いた。
〈クッポー〉
するとキッスも、ティナたちを見下ろしながら大きな羽を広げ、応えるように鳴き声をあげた。
〈ア"ァ"ー〉
そうしていると、突如として空からバリバリバリとプロペラ音が響いてきた。
一斉に上を向くと、そこへ一台のヘリコプターが近づいてくるのが見えた。
「あっ、救護が来た!」
ティナがそのヘリコプターを見て声をあげる。
ヘリの接近を確認したココは、みんなに向かって別れを告げた。
「じゃ、僕は行かせてもらうよ。たくさんの人は苦手だからね」
ココはキッスの背に乗り、上から小松の方を見つめて言う。
「小松くん、ありがとう。君に会えてよかったよ」
「ぼ、僕こそ勉強になりました! ありがとうございます!」
小松は眉毛を上げ、嬉しさのあまり腰をちょっと浮かせながらココに言う。
「うん」
ココは頷くと、今度はリゼルの方を見て穏やかに言った。
「リゼル兄さん、久々に会えて嬉しかったよ。また、近々改めて顔を出すね」
「そうか。俺も嬉しかった。そうだな、次の再会は案外すぐかもしれないな」
リゼルはココを見ながら、そう言葉を返した。
「うん。じゃあ、トリコ。――リゼル兄さんにも言ったけど、すぐにまた顔を合わせることになりそうだよ」
ココは頷き、次はトリコに視線を向けた。
「ああ。かもな」
トリコは口元を少し上げ、何かを確信しているかのような表情で応じた。
「1グラムも納得行かないですけど……部長、なんで私が禁止処分なんですか!?」
部長のデスクの前まで詰め寄り、ティナは怒りを露わにして抗議した。
「君さ、一体何をしてるのかな? IGOビオトープに忍び込んだり、フグ鯨の取材に勝手に行ったり、社を代表する人間として許されると思うの? それにさ、謎の生物が出たとか、何を言ってるの?」
部長は苛立ちを隠そうともせず、机の上に指を置いてトントンと鳴らしていた
「話盛ってません! 毛ムジャラのアリクイ野郎が強盗達をふっ飛ばしたんです!」
ティナは必死になって言い返し、勢いよく机をバンと叩いた。
「証拠があるのか?」
部長は急に真面目な顔つきになり、低く怒るような声で問い詰める。
「それは……その……」
急に凄まれたことで、ティナはシュンとして言葉を濁らせてしまった。
「あるものといえば食べものの領収書ばかり……ていうか、これ落ちるわけないでしょ? それで、カメラとPCは?」
部長は大量の領収書を取り出し、ティナの目の前に突きつけながら言う。
「なくなったみたいで……」
ティナは眉毛を下げ、目元をすっかり下に向けて力なく答えた。
「出しとけ、顛末書」
部長は突きつけていた領収書をティナに向かって投げ飛ばし、冷たくそう言い放った。
その時だった。
ドタドタと慌ただしく廊下を走る音が響き渡り、ティナの元へどこにでもいそうな平凡な男がやってきた。
彼はデスクの部長には見向きもせず、一直線にティナへと駆け寄る。
「ティナ先輩、やっと見つけました……!」
額に汗をかいていたが、ティナに会えたことがよほど嬉しいのか、彼の表情はぱあっと明るい笑顔になった。
「モーブ、どうしたの? 何か用事?」
何事かと思ったティナは、モーブの顔をじっと見つめた。
「ティナ先輩、リゼル様に会ったって本当ですか!?」
モーブは興奮を抑えきれない様子で、大事そうに抱えていた『レジェンドリゼル写真集』をティナの目の前に突き出し、顔の間近までグッと迫って問い詰める。
「えぇ、本当だけど……。今、様って言った?」
ティナはびっくりしてのけぞりつつも、モーブがリゼルを「様」付けで呼んだことに、ちょっと口元を引きつらせた。
「えっと、15000番目ってことは、つまり最低でも1万5千人はファンがいるってことよね? でもまだ下にいるかもだから、はっきりとしたファンの数は分からないけど……。さすがはレジェンドリゼル……!」
ティナは驚きのあまり眉毛を跳ね上げ、手を口元にあてながら写真集の裏に印字されたシリアル番号を凝視した。
「君たち! 私の席の前で立ち止まって喋るんじゃない! そこから離れろ」
部長のデスクの目の前で二人が盛り上がっているため、ついに部長がキレて低く怒鳴るような声をあげた。
「ティナ先輩! もしまたリゼル様とお会いする機会があったら、その時でいいのでこの紙にサインを貰ってきてもらえますか!? 家ではリゼル様のコップや皿、他にもぬいぐるみもあって、いつもチェックしてるんですよ!」
モーブは部長の怒声を気にする風でもなく、さらに自分の家の中を写した一枚を取り出してティナに見せる。
「へぇー、凄いわね……」
ティナは眉毛を上げ、あんぐりと口を開けてその写真を見ていた。
リゼルグッズで埋め尽くされた部屋の光景に圧倒されながらも、ティナは何かを決心したように力強く頷いた。
「いいわよ。また会った時にサインを貰ってくるわ!」
「ありがとうございます!それにしてもいいなー! なんで先輩ばっかり会えるんですか!」
部長の視線を避けるように、二人は部長の席の前から離れつつ、楽しげに言葉を交わした。
「状況は? ワイン管理局長」
重々しい空気の会議室で、事務局長が鋭い視線を投げかけながら状況を聞く。
「はい! 第4、第5、第8ビオトープ……特に第8ビオトープの被害は甚大で、虹色の実は全て奪われ、トロルコングもほぼ全滅状態です」
ワイン管理局長は、悲惨な今の状態をモニターに表示し、それを見せながら沈痛な面持ちで言った。
被害の大きさに誰もが言葉を失う中、今度は別の局長が声を上げる。
「事務局長、法務局長も報告が。フグ鯨の洞窟で没収したマスコミのPCカメラです。PCのハードディスクを復旧し、中身のデータを確認した所……」
次に、法務局長が手元の端末から謎の生物の画像を出して説明をする。
そこには、不気味に佇む不審な影がはっきりと写し出されていた。
「新型のGTロボ……」
その映し出された映像をじっと見ながら、事務局長が呟くように言う。
「はい! ビオトープを襲ったのもコイツかと」
続けて法務局長が、確信を持った口調でそう言った。
密輸組織の不気味な兵器を前に、事務局長の表情に険しさが混じる。
「とうとうコイツらも動き出したわね。我々IGOは四天王トリコ、ココ、サニー、ゼブラ、そしてレジェンドリゼルを動かすしかないわ」
すると事務局長は、覚悟を決めたように目の前の机をバンと叩いて言い放った。
「ゼ、ゼブラを出所させるのですか!?」
そのあまりにも危険な名前に、法務局長が焦ったように身を乗り出して言う。
「仕方がないでしょ? 奴らが相手となると」
事務局長は冷静さを取り戻すように、メガネを手でカチッと押さえて静かに言う。
緊迫した空気が室内を支配する中、一人の局長が不敵に微笑んだ。
「はい! そうおっしゃると思いまして、すでにトリコとリゼルを――」
ワイン管理局長が、全てを見越していたかのようにそう言うのだった。
「デビル大蛇のハンバーグのせて……」
トリコは手際よく、肉汁の滴る大きなパティをバンズの上に重ねていく。
「トリコ、ミリオントマトも」
リゼルはトリコの隣に座っていたため、目の前にあった真っ赤なミリオントマトをトリコへと手渡した。
「お、サンキュー兄貴! ミネラルチーズ挟めば出来上がりだ。名付けてトリコバーガー!」
トリコはリゼルから受け取ったミリオントマトとミネラルチーズを次々と挟み込んでいく。
完成したそれは、ヘリの座席を埋め尽くさんばかりに、もの凄く高さを誇る超巨大なハンバーガーだった。
隣に座るリゼルは、その感情を顔にはあまり出さなかったものの、視線の先にある規格外のデカさにわずかに眉毛を上げていた。
「デカすぎですよ!」
そのあまりのサイズに圧倒された小松が、思わず腰を上げて勢いよくツッコミを入れた。
「この世に感謝込めていただきまーーす!」
トリコはハンバーガーを両手でしっかりと掴み、口をこれ以上ないほど大きく開ける。
その瞬間、彼の顎から「グォッ」と凄まじい音が鳴り響いた。
リゼルはそんなトリコの豪快な様子を気にする風でもなく、自分専用のバーガーを作っていた。
「顎を外して食べた……!」
小松は眉毛をグッと上げて、その異次元の食べ方に驚きに目を見張る。
トリコはそんな小松の反応を気にする様子もなく、もぐもぐと美味そうに口を動かして食べていた。
「うん。うまいな」
トリコの横で、リゼルは実に丁寧に自分のバーガーを味わっていた。
「ウメェーー!」
すべてを食べ終えたトリコが、ヘリの機内が震えるほどの大声で叫びだした。
リゼルはバーガーを咀嚼しながら、静かに思考を巡らせていた。
(俺が正しければ、あれはあいつだな……なら奴らも動き出したか……)
そしてリゼルは、静かに窓の外へと視線を向けていた。