兄貴、見守る。 作:キュウリ大好き人間
マンサムがニヤリと口元を緩め、視線を前方に向けた、まさにその時だった。
「ん? あれは……」
観客が誰も彼も我先にと逃げ惑い、完全に無人と化したはずの観客席。
そこに、たった一人だけ、微動だにせず静かに腰を下ろしている老人の姿をマンサムの鋭い眼光が捉えた。
怪訝に眉をひそめながら、マンサムはのっそりとその老人のもとへと歩み寄っていく。
「これはこれは、ロト共和国のドヘム大統領。せっかくのお楽しみがこんな状況になってしまって、申し訳ない」
両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、マンサムは悪びれる様子もなく老人の前に立つと、上からその顔を覗き込むようにして声をかけた。
「落胆の極みとお察ししますが……ここは身の安全を第一に、一刻も早い避難を――」
老人は深く帽子を目深に被り、静かに目を瞑ったまま、ピクリとも動かない。
マンサムの言葉を聞いているのか、あるいはただ眠りこけているだけなのか、その不気味なほど静かな佇まいからは何も読み取れなかった。
――そして、マンサムが「避難を」と言葉を紡ぎ終えた、その刹那だった。
前触れもなくカッと見開かれた老人の両眸。
それと同時に、老人の枯れ木のような右腕が、目にも留まらぬ速さでマンサムの無防備な腹部へと突き出された。
肉を裂き、骨を砕く鈍い音がコロシアムの静寂に響く。
老人の鋭い手刀は、マンサムの屈強な肉体をいとも容易く、文字通り完全に貫通していた。
「ぐわっ……!?」
不意の激痛に、マンサムの口から短い悲鳴が漏れる。
その目は、これでもかというほどに驚愕で見開かれ、太い眉が大きく跳ね上がった。
信じられないといった様子で、マンサムは自身の腹部を貫く異形の手をすぐさま見下ろす――だが次の瞬間、その驚愕の表情は、獰猛な戦士の笑みへと一変した。
「所長――っ!!」
信じられない光景を目の当たりにした小松が、顔中のパーツを恐怖と驚きに歪ませながら、喉が張り裂けんばかりの声で叫ぶ。
「ふん……!」
マンサムは一度ぐっと目を瞑ると、これ以上の侵入を拒むように、自身の腹筋へ爆発的な力を込めた。
肉体がギリギリと鳴るような、圧搾されるような短い息が漏れる。
そのまま、丸太のように太い右腕に筋を浮かび上がらせ、一気に全エネルギーを集中させた。
「フライパーンチッ!!」
怒号とともに放たれた、マンサムの圧倒的な一撃。体重を乗せた拳が老人のお腹へと容赦なく叩き込まれ、爆音と共にその身体を遥か彼方へと吹き飛ばした。
ドオオオオオン!!
凄まじい衝撃音を立てて、老人の身体が競技場の壁へと激突する。
衝突の反動で周囲には濃い砂煙が巻き起こり、視界を完全に遮った。
……だが、その砂嵐がゆっくりと引いていく頃。
沈煙の向こう側から現れたのは、何事もなかったかのように平然と佇む老人の影だった。
老人は退屈そうに指先でフンと鼻をかき、今の一撃など何も効いていないと言わんばかりの冷徹な視線を、再びマンサムへと向けるのだった。
闘競技場が大混乱に陥る中、IGOの管理室では、モニター一面に映し出された謎の老人の顔が不気味にライトアップされていた。
「おいおい……何者だ、あれは。今すぐドヘムのIDをチェックしろ!」
緊迫した空気を破るように、サングラスをかけた大柄な男性局員が、鋭い声を張り上げる。
「は、はいっ!」
隣に座る若い男性局員が悲鳴のような返事を返し、猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。
モニター上で次々とドヘム大統領の顔認証、網膜スキャン、そして指紋の照合が行われていく。
機械的な電子音が室内に響く中、若い局員は冷や汗を流しながら画面を凝視する――だが、弾き出された結果は、すべて『適合・パス』の緑色の文字だった。
「そんな……網膜も指紋も、すべて本物のデータと完全に一致しています……!」
局員たちが戦慄した、まさにその時だった。
「グルメIDをチェックしろ」
自動ドアが開き、スタスタと足音を響かせて現れたのはヨハネスだった。
サングラスをかけたヨハネスが、無表情のまま鋭い口調で指示を出す。
「し、しかしグルメIDはIGO最高機密の個人情報です! 幹部であっても、独断で勝手に閲覧など……!」
若い局員が怯えながらもヨハネスを振り返る。
しかし、ヨハネスは一切表情を変えないまま、眼鏡の奥の鋭い双眸を局員へと真っ直ぐに向けた。
「今は緊急事態だ。許可は必ず下りるはずだ――今すぐ本部へ申請を。返事を待て」
ヨハネスの有無を言わせぬ静かな威圧感に、局員はごくりと唾を飲み込んで「了解!」と再び画面に向き直る。
一方、モニターの向こうの競技場では、警備部隊が老人に向けて一斉に銃口を向け、いつでも撃てるよう引き金に指をかけていた。
――だが、銃撃の命令が下る直前。
部隊の視線の先にいたマンサムが、ゆっくりと片手を挙げた。
自身の腹部から血を流しながらも、マンサムの表情は冷静そのものだった。彼は部下たちに向け、手のひらを小さく振って「撃つな、待て」と無言の合図を送る。
「……ッ、所長から待機命令だ!」
「総員、射撃を中止! 周囲の観客の避難誘導を最優先しろ!」
その手サインを見た前線の部下たちは瞬時に意図を察知し、無線を通じてコロシアム全体の警備隊員たちへと、一斉に緊迫した報告を回すのだった。
ビリビリと張り詰めた静寂の中、突如として老人の顔の皮膚が、まるで仮面のようにズルリと剥がれ落ちた。
その下から姿を現したのは、不気味な緑色の金属光沢を放つ、異形の巨大兵器――GTロボだった。
「あ……!」
信じられない光景を目の当たりにし、小松は眉を上げて驚愕し、声を漏らす。
その瞬間、それまで静かに戦況を見つめていたトリコとリゼルの双眸が、鋭くその緑色の機体へと向けられた。
「兄貴、こっちはいい。俺がやる。――バトルウルフ達を頼む!」
トリコはグッと眉を上げ、信頼の眼差しをリゼルへと向けながら、背後のウルフ親子を託した。
「あぁ、後は頼んだ。……本当は俺がデーモンデビル大蛇を倒したかったが、しょーがない」
リゼルは未だうごめくデーモンデビル大蛇を鋭く睨みつけながらも、すぐに視線をGTロボへと戻す。
本音を漏らしながら、ほんの一瞬だけ、獲物を逃したことへの悔しさに肩を落としてみせたが、次の瞬間にはその顔を冷徹な真顔へと戻していた。
迷いのない足取りで、リゼルは無事に産まれたばかりの赤ちゃんを舐めるバトルウルフの親子を守るべく、リングの奥へと走って移動していく。
残されたトリコは、再び正面の緑色のGTロボへと視線を据えた。
その瞬間、トリコは眉を上げ、ハッと目を見開く。
「あいつは……! いや、別の奴だ」
脳裏に鮮烈によみがえるのは、あのフグ鯨を巡る洞窟の砂浜での記憶。
だが、あの時現れた機体は不気味な『黒』だった。
目の前にいるのは、それとは明らかに異なる禍々しい『緑』トリコは確信を込めて小さく呟いた。
「嘘っ、違うの!? 言われてみれば……なんか10グラムくらい軽い気がするわ。前のは黒い毛が生えてたし!」
ティナも必死にビデオカメラのレンズをGTロボに向けながら、その違いを指摘する。
その隣では、モーブが信じられないといった様子で目を丸くしていた。
「え? ティナ先輩、違うんですか? あいつ……」
「ええ、違うわ。さっきも言ったけど、あのフグ鯨の時の奴は黒い毛だったのよね。あいつは全身緑でしょ? だから、あの時とは多分別よ、別!」
ティナは指を顎に当て、記憶を呼び起こすようにしながらモーブに説明する。
「なるほど……確かに違いますね。あれは完全に緑色ですもんね。ってことは、他にもいるんでしょうか? ああいう色違いのヤツが……」
「わからないわ。あんな不気味なものが、一体何匹いるのかまではね……」
ティナは眉を下げてモーブの問いに首を傾げた。
「ですよね。後で分かりますかね。そもそも、何者なんでしょうね」
モーブはそう言って、またGTロボを見た。
二人のそんな会話が耳に届きながらも、トリコの視線は緑の機体から微動だにしなかった。
「いや、それだけじゃない。でも……何かが、違う……」
トリコは小さく、けれど重みのある声で呟いた。
ただの色違いというだけでなく、まだ動き出していない目の前のロボットから漂う、あの黒い奴とは根本的に異なる不気味な違和感を、その鋭い直感で敏感に察知し、深く睨み合っていた。
トリコが緑のGTロボを深く睨み据え、その違和感に意識を向けた、まさにその刹那だった。
背後でうごめいていたデーモンデビル大蛇が、巨大な
その奥から、すべてを溶かす禍々しい毒ブレスがトリコを目がけて一斉に吐き出された。
「――ッ!?」
トリコは鋭い嗅覚で危険を察知し、即座に地を蹴って後ろへと飛び下がる。
しかし、デーモンデビル大蛇の狙いはそれだけではなかった。
毒煙を突き破るようにして、デーモンデビル大蛇の太い腕が目にも留まらぬ速さでトリコの眼前へと迫る。
(しまっ――)
避ける暇はない。
トリコは瞬時に両腕を交差させ、顔の前に突き出した。
重低音のような衝撃音が響く。
デーモンデビル大蛇の爪がトリコの防御の上から激しく激突した。
肉と肉がぶつかり合う凄まじい風圧が吹き荒れるが、トリコが咄嗟にガードを固めたおかげで、自慢の顔への直撃だけは辛うじて免れる。
しかし、その巨体にかかる圧倒的な質量までは殺しきれない。
トリコは凄まじい威力に押されるがまま、勢いよく後方へと吹き飛ばされた。
そのままコロシアムの分厚い壁へと背中から激しく叩きつけられ、ドォンと鈍い音が響く。
その衝撃の凄まじさを物語るように、頑丈な壁面には蜘蛛の巣状の小さなヒビがほんの少しピキピキと入った。
壁を背にしたトリコは、押し殺した息を吐き出しながら、再び前方へと鋭い視線を戻すのだった。
マンサムは手の指をゴキリと鳴らし、その鋭い視線を緑のGTロボへと向けた。
「フンッ。噂の新型か。ここへ簡単に忍び込むあたり高性能というかバカというか……わざわざ貴重なサンプルを一機プレゼントしてくれるとはありがたいぞ――美食會よ」
首や腕の骨をゴキゴキと鳴らしながら、マンサムは一歩、また一歩とGTロボの元へと歩み寄っていく。
その口元には、不敵な笑みがニヤリと浮かんでいた。
「オペレーターは誰だ。ん? 聞こえるし喋れるだろう? ――目的は何だ」
歩みを止め、マンサムは真剣な顔でGTロボを問い詰める。
対するGTロボは、機械的なカメラのレンズでマンサムの全身をスキャンするように捉え、じっと見つめ返してきた。
《所長……。アンタ、ウマソウダ……》
不気味な電子音が、コロシアムの空気を震わせる。
「っ! てめぇ、ベイだな!?」
マンサムは眉毛を跳ね上げ、目の前のロボットの操縦者の正体を瞬時に見抜いて言い放った。
《ノッキング!!》
叫びと同時にGTロボが地を蹴り、マンサムの懐へと鋭く飛び込む。
その右腕から鋭利な爪がガチリと伸び、マンサムの腕のノッキングポイントへと深く突き刺さった。
しかし、マンサムの笑みは消えない。
「残念。わしのはそこじゃない」
マンサムはニヤリと笑うと、体内の細胞を爆発させるように吼えた。
「はあぁぁあああ!!」
マンサムの両目が爛々と輝き、その屈強な肉体がミキミキと膨張して巨大化していく。
腕を刺したままだったGTロボは、マンサムの急激な体格変化によって足場のバランスを崩し、ほんの少しその巨体を傾かせた。
「フライパンサンドイッチ!!」
巨大化したマンサムの両手が、まるで巨大なフライパンのようにGTロボの頭部を左右から挟み込む。
強烈な圧搾音が響くが、マンサムはすぐにその手を引き、小さく呟いた。
「フンッ。硬いな」
次の瞬間、GTロボの顔面が不気味に左右へと開き、その奥から禍々しいキャノン砲の砲口が姿を現した。
回避は間に合わない。
至近距離から放たれた目も眩むような爆風が、マンサムの首筋へと容赦なく直撃した。
「うわあぁぁあああ!!」
凄まじい衝撃波を伴ったキャノン砲のエネルギーは、マンサムを吹き飛ばすだけでなく、観客席の小松がいる場所へと一直線に激突する。
小松が恐怖に目を丸くする中、背後の壁へと凄まじい大爆発が巻き起こり、バァァンと凄まじい轟音が響き渡った。
さらに同時に、トリコもまたデーモンデビル大蛇の猛攻に押され、コロシアムの壁へと激しく叩きつけられていた。
「……っ」
デーモンデビル大蛇は完全に獲物を捕らえたと言わんばかりの冷酷な目でトリコを見下ろす。
壁に背をつけ、リングへ座り込んでしまったトリコは、押し殺した息を吐きながらデーモンデビル大蛇を見据えていたが――すぐさまその視線を、別の場所へと向けた。
トリコが咄嗟に目を逸らし、その視線の先に捉えたのは、バトルウルフの親子だった。
バトルウルフは、背後の我が子を庇うようにして、即座にデーモンデビル大蛇を鋭く睨みつける。
――だが、そのバトルウルフ親子の真横には、すでにリゼルが静かに佇んでいた。
リゼルの額には、青筋のような激しい怒りのマークが浮かび上がっている。
次の瞬間、彼の全身から吹き荒れたのは、禍々しいほどの輝きを放つ「黄金のオーラ」だった。
その光の渦から、おぞましくも神々しい『黄金の鬼』の幻影が姿を現し、天を焦がすような咆哮を上げ叫ぶ。
ドゴォォォォン……!
その瞬間、コロシアム一帯の空気が、まるで何十倍もの重力に押し潰されたかのように一変した。
リゼルの黄金の瞳がうっすらと怪しく光を放つ。
「…………ッ!?」
それまで狂暴に荒れ狂っていたデーモンデビル大蛇の巨体が、ガタガタと目に見えて震え出した。
全身から滝のような冷や汗を流し、本能的な恐怖に駆られるままズルズルと後方へ引き下がっていく。
今の一瞬で、目の前にいる男が自分とは完全に「次元の違う化物」であることを、その野生の直感が理解させられたのだ。
リゼルの放つ圧倒的な強者の一瞥に、周囲の檻にいた他のすべての猛獣たちも一斉に静まり返り、悲鳴すら上げられずにガタガタと怯えだすのだった。
リゼルの圧倒的なオーラに圧倒され、全身から滝のような冷や汗を流しながらも、デーモンデビル大蛇はその獰猛な本能で必死に立ち向かおうと、ジリジリと距離を詰めてくる。
〈グルルルルル!!〉
背後から響く、空気を震わせるような鋭い威嚇の鳴き声。
出産を終えたばかりのバトルウルフが、我が子を守るためにデーモンデビル大蛇を真っ直ぐに睨みつけていた。
「その体じゃムリだ!」
トリコはバトルウルフに向けて、焦りを含んだ声を張り上げる。
「トリコの言った通りだ……バトルウルフ、下がれ」
リゼルは顔を下へと向けたまま、静かに、けれど絶対的な重みを持つ声でバトルウルフを制した。
下を向いているため、リゼルが今どんな顔をしているのかは誰にも見えない。
しかし、その言葉から放たれる圧倒的な圧は、あの誇り高き伝説の王者であるバトルウルフでさえも、ほんの少し怯えを覚えるほどのものだった。
顔が見えない分、その静かな佇まいは余計に恐ろしかった。
それは、トリコでさえも今までに一度も見たことがないほど、リゼルが深く激怒している証拠だった。
しかし、デーモンデビル大蛇はそんな警告を無視し、バトルウルフ目がけてその異形の両腕を猛烈な勢いで伸ばして襲いかかる。
――バトルウルフに向かって一直線に伸びてきたデーモンデビル大蛇の腕。
だが次の瞬間、バトルウルフの顎が凄まじい速度で動いた。
ガブッ!! ガブッ!!
鈍い音と共に、デーモンデビル大蛇の腕はバトルウルフの牙によってあっさりと食い千切られ、そのまま貪り喰われる。
リゼルは、ゆっくりと顔を上げた。
先ほどまでの恐ろしい怒りが嘘のように冷静さを取り戻したのか、彼は後ろのバトルウルフへと視線を向ける。
バトルウルフと視線が真っ直ぐに交錯し、バトルウルフはリゼルに応えるように小さく鳴いた。
「……フッ」
リゼルはフッと口元を緩めて笑うと、目の前の敵をバトルウルフへと完全に任せた。
その瞬間、バトルウルフの巨体が白い閃光となってリングを駆け抜ける。
あまりの速度に、周囲の誰もが、一体いつバトルウルフがデーモンデビル大蛇を噛み切ったのか、その動きを目で捉えることすらできなかった。
全員がハッと我に返った時には、すでにデーモンデビル大蛇の上半身は文字通り影も形もなく消え去り、残された下半身だけがどさりとリングに倒れ伏していた。
ついでに、何事もなかったかのようにバトルウルフが美しく地面に着地する。
デーモンデビル大蛇の肉体は再生することすら許されず、そのまま粒子のように消えていった。
それを見ていたトリコ、ティナ、モーブ、リンの4人は、全員が揃って呆然と立ち尽くしたまま、口元をあんぐりと開けて驚愕していた。
「これが……バトルウルフか!」
トリコも驚きで 目を見開いたまま 、伝説の獣の力に圧倒されて呟く。
「スゴい……!」
「うわー、すごいっ!」
ティナが眉毛をあげて感動の声を漏らし、その隣でモーブも目をこれでもかとキラキラ輝かせながら叫ぶ。
「これ、マジ!?」
リンも信じられないといった様子で息を呑み、両手を口元に持っていきながら 驚いていた。
「当然だな」
リゼルはそんな周囲の驚きをよそに、フッと薄ら笑いを浮かべて静かに言った。
そしてすぐに、戦いを終えたバトルウルフの元へと歩み寄り、その美しい毛並みにそっと手を触れる。
リゼル自身は何も分かっていない。
ただ、よく頑張ったな、とバトルウルフを優しく労っているだけだった。
バトルウルフ自身も、リゼルの手の温もりをただ感じているだけだ。
――しかし、その二人を取り巻く周囲の者たちの目には、全く違う光景が映っていた。
ほんの一瞬、本当にわずか一瞬だけだった。
リゼルの手と、バトルウルフの身体の境界線から、周囲を優しく包み込むような美しい「七色の光」がうっすらと発光したのだ。
そしてその光は、吸い込まれるようにしてバトルウルフの体内へと消えていった。
「何だったんだ……? 兄貴が一瞬、七色に光ってたように見えたんだが……」
トリコは眉毛をグッとあげ、目を大きく丸くして 驚きを露わにする。
「いや、私にも見えたわ……! それで、その七色の光がバトルウルフの中に入っていったような……」
ティナも同じように声を震わせ、自身の目が捉えた不可思議な現象に声を震わせる。
「俺にも見えました。あれ、一体何だったんでしょう?」
モーブも不思議そうに首を傾げる
「私にもみんなと同じように見えたし……」
リンも眉毛をあげ、口元に手を置いたまま、今起きた奇跡のような現象の正体について深く考え込んでいた。
光が消え去ったリングの上。
出産とデーモンデビル大蛇の相手で疲弊していたはずのバトルウルフは、見違えるように元気を取り戻していた。
完全な全回復にまでは至っていないものの、たった今使った分の体力は綺麗に元に戻り、その身体には確かな活力が漲っている。
〈ウォーン……〉
バトルウルフは嬉しそうに、そしてリゼルへの深い感謝を込めるように、天に向かって美しく遠吠えを響かせるのだった。
生まれたばかりの小さな子供のバトルウルフが、力強く、無垢な声を響かせて鳴いた。
その可愛らしい鳴き声に、リゼルとバトルウルフはすぐにパッと振り向く。
リゼルは優しく目を細めると、子供のバトルウルフに向かって静かに頷いてみせた。
「行くんだ。ありったけの命を注いで生んでくれた母親に、甘えて来い」
トリコは子供のバトルウルフの背中を優しく押すように、真っ直ぐ見つめながら言った。
その言葉に応えるように、小さな子供のバトルウルフはトコトコと元気よくリングを走り、バトルウルフの胸元へと飛び込んで全力で甘えだした。
その微笑ましい親子の姿を見つめながら、トリコたちは再び大きな衝撃に包まれていた。
本来なら、過酷な出産であの時に体力が大幅に削られていたはずのバトルウルフ。
それなのに、今の姿はどう見ても体力が完全に元に戻っている。
先ほど一瞬だけ見えた、あの不可思議な七色の光は……。
4人は全員言葉を失ったまま、頭の中で激しく考え込んでいた。
それまで親子を見守っていたリゼルが、すぐにある特定の方向へと鋭い視線を向けた。
幸せな親子の世界に、ノコノコと邪魔をしようと近づいてくる緑色の影。
しかし、その一撃が届くよりも速く、リゼルの背後に浮かぶ『黄金の鬼』が大きな腕を突き出し、その凶刃を完璧にガキィィンと受け止めていた。
「何の用だ? ベイ……相変わらずだな」
リゼルは顔を真顔のまま、正面の緑色の鉄塊へと冷徹な声を投げかける。
《ヒサビサダナ……リゼル》
スピーカーから響く、ベイのあの不気味で歪んだ電子音。
それを聞いたリゼルは、一瞬だけ不快そうに顔をしかめ、心底「うわぁ、嫌だな……」と言いたげな嫌そうな顔を露わにした。
「親子の邪魔をしてまで、そこまで俺と戦いたいか? ――それとも、ただの俺に対しての嫌がらせか?」
リゼルはすぐにいつもの冷静な真顔へと表情を戻すと、再び眉毛を小さくあげて、冷たい口調で問い詰める。
すると、GTロボの頭部が不気味に傾き、ベイの声が響いた。
《ヒサビサにアッタノニ……バトルウルフばっかり見るかダロ? それに、バトルウルフハ食ウ気ガシネェ。フンッ! マズソウ、リゼルをウバウカラ嫌イ~》
「…………」
ベイのあまりにも幼稚で身勝手な言い分に、リゼルは言葉を失い、完全に呆れ果ててしまった。
その斜め上の理由を聞かされたトリコ、ティナ、モーブ、リンの4人は、もはや敵に対してキレる気すら失せていた。
彼らは揃って眉毛を下げると、なんとも言えない複雑な表情で、緑の化物から変な執着を持たれている哀れなリゼルに向けて、ほんの少し同情の目を向けるのだった。
今の展開、楽しめていますか?
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1.原作キャラとの絡みが面白い!
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2.オリジナル要素や能力が楽しみ!
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3.原作通りのペースで進めてほしい!
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4.リゼル中心の独自展開が見たい!