兄貴、見守る。 作:キュウリ大好き人間
《ピーラーショット──ッ!!》
緑色のGTロボが両腕を胸の前で鋭くクロスした瞬間、目にも留まらぬ無数の刃が二人を襲った。
激しい金属音が響く中、トリコの顔に一本の生々しい傷が走り、リゼルの腕の装甲にも鋭い傷が刻まれる。
《ハッハッハッハッ! 人間皮剥き器だァ! お前らの体中を綺麗に削ぎ落としてヤルッ!!》
ベイは不気味に笑いながら、スピーカーから耳障りな電子音を撒き散らした。
だが、トリコは顔の血を親指で乱暴に拭うと、不敵にニィと口元を歪める。
「日焼けの皮が剥けた程度だぜ。──『ナイフ』ッ!!」
トリコの手から放たれた目に見えぬ刃が、空気を切り裂いてベイへと飛ぶ。
同時に、その隣からリゼルの冷徹な声が重なった。
「……こんな
リゼルの膨大なエネルギーが巨大な黄金の拳へと形を変え、トリコのナイフと連動してGTロボを真っ直ぐに殴り飛ばした。
凄まじい衝撃が緑の鉄塊に命中するが、奴のボディはまたしても火花を散らしながら、一瞬にして傷一つない状態へと元通りに治ってしまう。
《ハーハッハッハッ! 喰らいな、食材加工の技──食技・『人間おろし』!!》
狂ったように笑うベイが、先ほどよりも遥かに禍々しい新たな食技を繰り出してきた。
瞬間、アリーナの床がめくれ上がるほどの衝撃が押し寄せるが、リゼルは一瞬でトリコの前に滑り込んで立ちはだかっていた。
ガギィィィィィンッ!!!
凄絶な衝撃音。
リゼルの背後に顕現した『黄金の鬼』の巨大な手が、盾となってトリコを完璧に保護したのだ。
ベイの放った狂暴なエネルギーは、黄金の鬼の手によって、まるで底なし沼に吸い込まれるように次々と吸収されていく。
「サンキュー、兄貴!」
トリコはリゼルの背中に向けて頼もしげにお礼を言うと、鋭い眼光でGTロボをロックオンした。
「あぁ……」
短く返事をしたリゼルもまた、無言のままベイへと冷たい視線を向け続ける。
《な、なにィっ──!?》
ベイは一生懸命に技を出して押し込もうとするが、黄金の鬼の圧倒的なエネルギー吸収能力には逆立ちしても敵わない。
食技の出力がほんの僅かに滞り、緑の機体の動きが完全に静止した、まさにその刹那──リゼルの黄金の鬼の手の影から、トリコの巨体が弾丸のように飛び出した。
「──『5連……釘パンチ』ッ!!!」
完全に隙だらけとなったGTロボの胴体へ、トリコの怒りの拳が突き刺さる。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!!!
時間を圧縮したかのような凄まじい5連続の衝撃が機体の内部へと炸裂し、ベイは闘技場の頑丈な壁へと、今度こそ完全にめり込むようにして思い切り叩きつけられた。
だが、それと引き換えに、トリコの右腕はすでに限界を超えようとしていた。
「トリコ、大丈夫か? もうそろそろ限界か……?」
リゼルは黄金の鬼の手をスッと解除すると、足元をわずかにフラつかせたトリコのもとへと一歩で駆け寄った。
「兄貴……そろそろ、な……。今日だけでもう3回目だ。腕が言うことを聞かなくなってきやがった。だから次の一撃……『一点集中』で全てをカタにつける」
トリコはリゼルの顔を見つめながら、荒い息を吐き出して言った。
その右腕は子鹿のように激しく震えており、左手でどうにか右の怪腕を力任せに押さえ込んでいる状態だった。
「あぁ……俺はお前のサポートに回る」
リゼルは力強く頷き、次の一撃に全てを賭けるトリコの盾になることを迷わず決意した。
「トリコさん……! リゼルさん……っ!!」
激しい消耗を見せる二人の背中に向けて、小松が祈るように叫び声をあげる。
「もうトリコの右腕は限界のはずだ……。それに、リゼルの方も確実に体力が少しずつ削られていやがる……」
マンサムは腕を組み、険しい表情のまま戦況を冷徹に分析して呟いた。
その瞬間、壁の瓦礫を跳ね除けて立ち上がった緑色のGTロボが、完全に正気を失ったような獰猛なノイズを響かせた。
《テヤアァァアアアッ!! シャラクセェエエッ!!!》
怒り狂ったベイが、二人に向けて視認すら不可能なほどの超高密度の食技を放つ。
凄まじい衝撃波を正面から浴び、リゼルとトリコの巨体は、激しく闘技場の壁へと弾き飛ばされた。
「トリコさん! リゼルさん!!」
小松の悲鳴がコロシアムにこだまする。
──だが、リゼルは壁に激突した次の瞬間には、すでにその技の衝撃から抜け出し、トリコの前に毅然と立ちはだかっていた。
ズガァァァンッ!!
顕現した『黄金の手』が鉄壁の盾となり、追撃のすべてをシャットアウトする。
リゼルはそのまま正面をガッチリとガードしながら、背後の男の名を低く呼んだ。
「トリコ……」
背中にリゼルの確固たる信頼を感じながら、トリコは力強く頷いた。
「残るは左腕……5連の集中型! さらに貫通力を上げるため、アイスピックに!!」
トリコはすぐさま無事な左腕を前に突き出し、一瞬で拳の硬度を極限まで尖らせるイメージの準備を完了させる。
「トリコさん……リゼルさん……」
小松は胸元でぎゅっと手を握りしめ、ポツリと二人の名前を呼びながら、固唾を呑んで見守るしかなかった。
「なるほどな。トリコの奴、リゼルがガードで敵の猛攻を防いでいるその僅かな間に、次の一撃の狙いを完全に定めやがったな!」
マンサムが不敵に口元を歪めて言う。
小松はすぐにマンサムの顔を見上げた。
「……おい。まさか、お前の新型GTロボの性能を出し切って、その程度じゃねぇよな!?」
リゼルの黄金のガードの奥から、トリコがベイに向けて小馬鹿にするような鋭い言葉を投げかけた。
《カァッ!? ……強がってんじゃねぇぞ、トリコッ!!》
挑発にまんまと乗ったベイは、リゼルたちを切り刻んでいた食技を思わずピタリと止めて叫んだ。
それを見届け、リゼルも役目を終えた黄金の手を静かに消滅させる。
「お前みたいな底の浅い奴に、そんなハイテクロボを使いこなせって言う方が、最初からムリだったのか?」
トリコは太い眉を吊り上げ、冷笑を浮かべながらさらに追い詰めていく。
《黙レェッ!!!》
GTロボのスピーカーが壊れんばかりにベイが激怒する。
「そんな幼稚な技で何千回、何万回俺たちの皮膚を撫で回そうがな……俺たちの『命』にまで届くことは一生ねぇんだよ!」
容赦のないトリコの言葉に、隣に立つリゼルも無言のまま冷たく頷いてみせた。
その二人の態度が、ベイのプライドを完全に粉砕した。
《じゃあ……今すぐブッ殺してヤルオオオオッ!!!》
完全に頭に血が上ったGTロボの顔面が左右へと狂暴に開き、その奥の砲口へ、すべてを消し飛ばすキャノン砲の爆発的なエネルギーが急速に充填され始める。
キィィィィィン……ッ!!!
コロシアム全体が悲鳴をあげるような充填音が響き渡る中、左拳を鋭く構えたトリコが、ギラリと野性味あふれる瞳を輝かせた。
「──そいつを、待ってたぜ……!」
トリコは鋭く太い眉を跳ね上げ、限界を迎えた肉体に最後の気合を注入した。
すぐさま、左腕の『アイスピック』の構えを一点にブレることなく固定し、必殺の準備を完了させる。
《あの世へ行きなァァアアッ!!!》
狂暴な電子音が響き渡り、GTロボがキャノン砲を発動する、まさにその刹那──トリコの左の拳が光速で突き出された。
「お前がなァッ!!! ──一点集中! 『5連アイスピック釘パンチ』ッ!!!」
ズガガガガガァンッ!!!
凄まじい衝撃波とともに、トリコの尖らせた左拳が、今まさに放たれようとしていたキャノン砲の発射口へと真っ直ぐに突き刺さった。
砲口を内部から完璧に破壊され、行き場を失った超高エネルギーのキャノン砲が、逆流してGTロボ自らの体内へと容赦なく襲いかかる。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
次の瞬間、闘技場を真っ白に染め上げるほどの凄まじい大爆発が巻き起こった。
爆発の猛烈な煙が幕のように広がり、それと同時にコロシアム全体を激しく揺らすほどの狂暴な爆風が吹き荒れる。
アリーナの入り口あたりで身をすくめるリン、ティナ、モーブそして観客席にいる小松やマンサムたち、そして少し離れた場所に佇むバトルウルフ親子の毛並みにも、激しい突風が容赦なく吹き付けた。
──やがて、立ち込める土煙の向こうで、自らの放ったエネルギーに焼き尽くされた緑の鉄塊が、煙を上げながら派手に崩壊していく。
「ふぅ……。自分のキャノン砲でぶっ飛ぶとは、ざまあねぇな!」
トリコは激しく肩で息をしながら、煤まみれになった眉を上げてフッと不敵に笑った。
「トリコ、よくやったな……」
隣へと音もなく歩み寄ったリゼルが、その見事な戦いぶりを心から称えるように、トリコに向かって温かい声をかけた。
トリコは少し照れくさそうに頷き、ダラリと力なく垂れ下がった左腕を見つめる。
「あぁ。だが、流石にこれで俺の左手も完全にイカレちまったがな……」
トリコは痛みを堪えるように顔をしかめながら、信頼するリゼルにそう弱音をこぼした。
リゼルはそんなトリコの痛みをすべて包み込むように優しく頷くと、大きな手を伸ばし、激闘を潜り抜けたトリコの髪の毛を、労うようにそっと優しく撫でるのだった。
──だが、煙が完全に晴れきるよりも早く。
崩壊した緑の鉄塊の中から、GTロボが不気味に動き出し、その金属の手に「あるもの」を高く掲げて見せた。
「……なにっ!?」
完全に決着がついたと思っていたトリコは、驚きに太い眉を跳ね上げた。
しかし、その場にいる誰よりも激しく目を見開いて硬直していたのは、隣に立つリゼルだった。
「それは……モバールの……っ。なぜ、お前がそれを持っている……!? モバールは……モバールはどうしたッ!!!」
リゼルの全身から、これまでにないほどの怒りと殺気を孕んだ『黄金のオーラ』が全開で爆発した。
地響きを立てて荒れ狂うオーラの中、GTロボのスピーカーから、人の神経を逆撫でするような耳障りな笑い声が響く。
《あぁ……? あの男、モバールって言うのカ? ヤツなら、お腹をズブッと刺してやったヨォ! ケラケラケラッ!!》
ベイは残酷に嘲笑いながら、右の手で美しく輝く『七色の欠片』を弄び、左の手で血に染まった『研究報告書』をひけらかした。
「……っ!!」
親しい研究員の無惨な死を知らされ、リゼルの美しい瞳に、悔しさと怒りの涙がジワリと溜まっていく。
「貴様ァァァアアアッ!!!!」
激怒の咆哮とともに、リゼルは涙を湛えた眉を凄まじく吊り上げ、顕現させた『黄金の手』で渾身の力をもってGTロボを殴りつけた。
──だが、その衝突の瞬間だった。
リゼルが放った桁違いの怒りのオーラに反応したのか、ベイの手の中にあった『七色の欠片』が、突如として不気味な光を放ち始めたのだ。
七色の美しい輝きは一瞬にしてドス黒く濁り、禍々しい「黒の欠片」へと変貌を遂げる。
ズガァァァンッ!!!
リゼルの黄金の拳が直撃する寸前、その黒い欠片が吸い込まれるようにしてGTロボの胸部の中へと融合していった。
次の瞬間、ベイの機体から、すべてを侵食するような底知れない『黒のオーラ』が噴き出す。
それと完全に同期するように、さっきまで晴れ渡っていたアリーナの上空が一瞬にしてドス黒い暗雲に覆われ、バリバリと大地を裂くような「黒い稲妻」がコロシアム全体に鳴り響き始めた。
「な、なんだこれは……っ!?」
トリコは見たこともない異常事態に、眉を上げて驚愕する。
黒い雷鳴が轟き、激しい暴風が吹き荒れる中、GTロボの背後の空間がグニャリと歪んだ。
そこに現れたのは、リゼルの背後に浮かぶ『黄金の鬼』と酷似した、しかし圧倒的に邪悪で巨大な『黒の鬼』の幻影だった。
《ハハハハハッ!!! ナンダ……ナンダコレはァ!? 力が、底なしの力が湧いてくるぞォォォッ!!!》
ベイの狂ったような叫び声に呼応して、背後の『黒の鬼』が天を仰いで凄まじい咆哮をあげ、同時に無数の黒い雷が闘技場へと容赦なく降り注ぐ。
そのあまりの禍々しさと規格外のプレッシャーに、遠くで見守っていたマンサムが、顔を青ざめさせて激しく戦慄した。
「なんてことだ……。あれが、あの欠片の『本当の正体』だというのか……!?」
マンサムは苦渋に満ちた表情で顔をしかめ、凄まじい威圧感を放つ『黒の鬼』を睨みつけて声を震わせた。
「あれは……欠片の力で、機体ごと強制的に強化されたってのか……!?」
激しい突風の中、リゼルは一瞬だけ驚きに目を見張ったものの、すぐに己の顎に手を置いて急速に思考を巡らせた。
「ハァ、ハァ……っ、兄貴……!」
すでに両腕が完全にイカレちまっているトリコは、限界を遥かに超えた肉体の激痛に耐えながら、すがるようにリゼルを見た。
「トリコ……落ち着け。あの黒いオーラそのもののデータは、モバールも残しちゃいない。……だが、俺の経験が告げている。あの異常なまでのエネルギーの暴走は、長くはもたない。絶対に時間制限があるはずだ」
リゼルは荒くなる息を必死に抑え、自身の直感で導き出した弱点をトリコに共有した。
「データはないが……時間制限がある、か……。なら、あのエネルギーが切れるまで、ひたすら耐えろってことか……?」
トリコは不気味な黒いオーラを滾らせているGTロボを見据え、絶望的な戦況に歯を食いしばる。
「あぁ……。だが、もう一つ手がある。──俺も、まだ一度も使ったことがない技だ。この技は失敗すれば、ただこちらの体力を激しく削り取られて終わりになる」
リゼルは真っ直ぐにベイを見据えたまま、決意を秘めた声で続けた。
「だが、もし成功すれば……今のあいつにも、確実に勝つことはできるだろう。ただし……こっちの技にも、同じように厳しい時間制限がある」
バリバリバリッ!!!
二人が言葉を交わしたその瞬間、天を割るような轟音とともに、巨大な黒い雷が二人の足元へと容赦なく降り注いだ。
「くっ……!」
「うおおおっ!!」
二人は本能的な野生の直感でどうにか地を蹴り、間一髪でその直撃を避ける。
しかし、右腕も左腕も限界を超えているトリコと、体力を極限まで消耗しているリゼルの二人は着地した足元は悲鳴をあげるようによろよろと崩れ、激しい息を吐きながら、その場にどうにか踏みとどまるのが精一杯だった。