兄貴、見守る。 作:キュウリ大好き人間
満身創痍の激しい突風が吹き荒れる中、リゼルは静かに己の胸元へと右手を当てた。
ドクン……ッ!!!
次の瞬間、リゼルの心臓の辺りから、コロシアムの暗雲を切り裂くほどのまばゆい輝きが溢れ出す。
現れたのは、彼の純粋な膨大なグルメ細胞の力が凝縮された、美しく輝く『黄金のエネルギーの塊』だった。
リゼルがその塊をそっと自身のてのひらの上に載せ、隣のトリコへと差し出して見せる。
「兄貴、これは……っ!?」
トリコは見たこともないその神秘的な輝きに激しく目を見張り、驚愕のあまり声を震わせてリゼルを見つめた。
「これは……俺のエネルギーの塊だ。これを食べろ。俺のエネルギーを使え」
リゼルは荒い息の下から、しかし一切の迷いのない、確固たる勝利への決意を宿した瞳でトリコを真っ直ぐに見据えた。
「これが成功すれば、制限時間の以内なら体力も復活して、エネルギーも復活する。そして、俺のエネルギーがお前の細胞と融合するはずだ。トリコ……俺の分まで、頼む。」
失敗すればただ体力を失って終わり。
だが、成功すれば確実に勝てる。
リゼルの命懸けの賭けと言葉に、トリコは驚いたものの、力強く、深く頷いてみせた。
トリコはリゼルの手のひらから黄金の塊を掴むと、躊躇なく、そのまま一思いに口の中へと放り込み、勢いよく飲み込んだ。
だが、食べた瞬間だった。
「ぐ、うおおおおおおおっ……!!!」
トリコは突如として胸を掻きむしり、アリーナの床に膝を突いてもの凄く苦しみだした。
リゼルの膨大な黄金のエネルギーが、トリコの肉体の中で激しく暴れ、拒絶反応を起こすかのように火花を散らす。
トリコの全身の血管が浮き上がり、肉体がミキミキと悲鳴をあげる。
トリコは野生の驚異的な精神力で、その強大すぎる力を力づくでねじ伏せ、自身の細胞へと強引に融合させていった。
ドクン……ッ!!!
苦しみの表情が消え失せたトリコが、もの凄く強大なオーラを放ちながらゆっくりと立ち上がる。
イカレていたはずの両腕に、凄まじいまでの活力と熱い血が濁流のように巡り、完全なる超回復を遂げていく。
一方、己のエネルギーを完全にトリコへと託し、融合の成功をその目で見届けたリゼルは、安心したようにふっと表情を緩めた。
今出せる全力の力をすべて貸し出したことで、凄まじい疲労感と深い睡魔が一気に押し寄せる。
リゼルはフゥと安堵の息を漏らすと、命に別状は一切ないものの、そのまま闘技場の床へと静かに倒れ込み、疲れて眠るように深い意識の底へとついた。
「兄貴の想いは……無駄にはしねぇ!!」
眠りについたリゼルをしっかりと背中で庇い、守るようにして立ち上がったトリコの背後に、まばゆい光を放つ巨大な『黄金の鬼』の幻影がその姿を現した。
オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
コロシアムの暗雲を消し飛ばし、黒い雷鳴さえも強引に掻き消すような、黄金の鬼の凄まじい大咆哮が響き渡る。
その圧倒的なプレッシャーに、黒の力を得て調子に乗っていたGTロボが、ガタガタと鉄の身体を震わせた。
《ナ、ナンダ……!? 一体、何が起きてるっていうんダ……ッ!?》
スピーカーから驚愕と恐怖の混じったノイズを漏らし、ベイは一歩、後ずさりして呟いた。
そんな怯える緑の鉄塊へと真っ直ぐに鋭い視線を向け、トリコは冷酷に言い放った。
「おい……。次こそ、本当の決着だ」
トリコが右手の指をビシッと突き出し、地獄の底から響くような冷酷な声で通告した。
その言葉は、単なる挑発ではなく、確実なる破滅へのカウントダウンだった。
ドクン……ッ!!!
その瞬間、トリコの肉体の中で、リゼルから受け継いだ眩い黄金のエネルギーが臨界点を超えて大爆発を起こした。
アリーナ全体の空気が力任せに圧縮され、激しい高気圧となって観客席の小松やマンサムの肌を痛烈に突き刺す。
トリコの全身から吹き荒れるのは、これまで纏っていた熱い赤のオーラが、未知の領域へと大進化を遂げた姿──リゼルの黄金のエネルギーを完全に融合させた、神々しくも禍々しい「黄金と赤の融合オーラ」だった。
歪む空間。
陽炎のように揺らめく熱波。
驚愕に目を見張るベイの視界から、トリコの巨体が完全に掻き消えた。
光速の踏み込み。コンマ数秒の世界。
次の瞬間、トリコは爆音とともに空間を割ってベイの眼前に出現していた。
黄金の輝きを拳の拳頭に極限まで宿した怒りの鉄槌が、回避不能の速度で緑の鉄塊の顔面へと真っ直ぐに叩き込まれる。
バズガァァァンッ!!!
闘技場全体を鳴動させるような衝撃音とともに、GTロボの巨体は防戦の一手すら打てぬまま、真後ろへと猛スピードで弾き飛んだ。
しかし、黒の欠片に蝕まれ、狂気のバックアップを受けた機体もまた、デタラメな出力を誇っていた。
アリーナの硬質な床をバキバキに砕き、凄まじい火花を散らしながら、強引にその場へと踏みとどまる。
《ガ、ガアアアアッ! 壊れろ、壊れろ、壊れろォォオオッ!!!》
スピーカーから壊れかけたノイズを撒き散らし、GTロボが逆流する漆黒のオーラを全身から滾らせてトリコへ肉薄した。
ここから、人間の領域を遥かに超越した、凄絶なる超人肉弾戦の第2幕が切って落とされた。
──残像すら残さぬ、音速の応酬。
殴る、蹴る、その一撃一撃が大型爆弾の炸裂に等しい質量と破壊力を秘めながら、アリーナの空間を縦横無尽に駆け巡る。
トリコが放つ電光石火の拳を、GTロボの鋼鉄の腕がガチィィンと耳を劈く金属音を立てて受け止め、逆に奴が繰り出す狂暴な回し蹴りを、トリコが肉体の圧倒的な強靭さだけで強引にガードする。
右腕のイカレた痛みをリゼルの黄金のエネルギーで完全に麻痺させ、限界を超えて肉体を削り合うような猛攻の連撃は、周囲の空気を強烈に巻き込んで巨大な真空の嵐を生み出していった。
吹き荒れる烈風が、コロシアムの構造物そのものを容赦なく削り取っていく。
そして──その地上での凄まじい激突に完全に呼応するように、彼らの背後の歪んだ空間から蠢き出た巨大な精神体、二体の鬼神もまた、天地を巻き込む神話のごとき死闘を上空で繰り広げていた。
眩い光を放ち、アリーナの天を衝くほどの巨躯で顕現したリゼルの『黄金の鬼』が、その巨大な手のひらを虚空へと掲げる。
刹那、その掌の上でゆらゆらと揺らめく、神聖にして圧倒的な質量を持つ「黄金の炎」が爆発的に生み出された。
黄金の鬼はその神火を力任せに掴み取ると、漆黒の暗雲を引き裂くような速度で、ベイの背後に浮かぶ『黒の鬼』へと投げつける。
対する『黒の鬼』も、すべてを虚無に還すかのような禍々しい「闇の炎」をその悍ましい口から大量に噴出させ、正面からそれを迎え撃った。
ドゴォォォォォォンッ!!!!!
二つの相反する絶対的なエネルギーが空中正面衝突した瞬間、アリーナ全体の光と音が完全に消し飛ぶかのような、凄まじい大爆発が巻き起こった。
それを合図に、天を仰ぐ二体の鬼の、大地を震わせる咆哮が轟く。
腕と蹴りが交錯するたび、金属の軋みではない、世界そのものの境界線がひび割れて壊れるような凄絶な轟音が炸裂した。
バリバリバリ、ドガァァァンッ!!!
突風が狂い咲き、空間の裂け目から溢れ出た『闇の雷』と『黄金の雷』が、まるで自らの意志を持つ狂暴な生き物のようにアリーナへと無数に降り注ぐ。
その神威の衝撃が走るたびに、下にある闘技場の頑丈な壁や客席、コンクリートの床が、まるで紙細工のようにあっちこっちでメキメキと音を立てて崩壊していった。
崩れた破片は莫大な瓦礫となって地鳴りを立てながら、激しい戦いの衝撃が作り出した漆黒の奈落へとバラバラに崩落していく。
「な、なんて戦いだ……っ! 人間の、いや、猛獣の域すら遥かに超えてやがる……!」
避難を促しながらも、その場から一歩も動けずにアリーナを凝視していたマンサムが、額に大粒の冷汗を流しながら声を震わせた。
背後の阿修羅のオーラすら気圧されるほどの、絶対的な神々の闘いがそこにあった。
「トリコさん……!!」
小松は飛来する瓦礫の嵐から頭を護りながら、必死にトリコの無事を祈って叫び続ける。
地上では、トリコとGTロボの距離がさらにゼロ距離へと縮まっていた。
お互いの拳が同時に相手の顔面へと突き刺さり、肉体と金属の激突が激しい火花を散らす。
トリコは殴られた衝撃で奥歯を噛み締めながらも、さらにその拳の速度を加速させていった。
「兄貴から借りたこの力……お前をぶっ飛ばすまでは、絶対に止めさせねぇ!!」
トリコの叫びに呼応するように、背後の『黄金の鬼』の四本腕が、上空で『黒の鬼』の顔面を強烈に掴み、そのままアリーナの壁へと豪快に叩きつけた。
神々のぶつかり合いによる衝撃波が、闘技場の天井をガラガラと崩落させていく。
だが、漆黒の雷を全身から吹き出す『黒の鬼』も狂暴に牙を剥き、黄金の鬼の腕にその鋭い爪を突き立てて引き裂こうとする。
黒い稲妻と黄金の電光が複雑に入り乱れ、コロシアム全体がまるで世界の終わりのような、凄絶な光と闇の渦に包まれていった。
戦いは、まだ誰にも予測できない混迷の深淵へと突き進んでいく──。
お互いの腕で拳を、脚で蹴りを受け止め合い、肉体と金属の激突がアリーナの空気を幾度も爆発させる。
その凄まじい衝撃の余波によって、下にある闘技場はあっちこっちがガラガラと音を立てて崩れ落ち、瓦礫となって漆黒の奈落へと崩落し続けていた。
だが、トリコの肉体の中で滾る、リゼルの黄金のエネルギーは未だ衰えることを知らない。
むしろ、戦いが後半戦へと突入し、肉体の限界が近づくにつれて、その神聖なる融和のオーラはより一層の狂暴さを増して膨れ上がっていった。
「これで……本当に終わりだァッ!!!」
トリコが裂帛の気合とともに咆哮した。
全身から噴き出す黄金と赤の融合オーラが、一筋の巨大な光の柱となってコロシアムの暗雲を貫き、天を衝く。
トリコは残されたすべての力、リゼルから託された輝きのすべてを、その右拳へと爆発的に集束させた。
「喰らいやがれ……ッ! 『15連……釘パンチ』!!!」
光速の踏み込み。空間そのものがトリコの速度に耐えかねて悲鳴を上げる。
次の瞬間、トリコの怒りの拳が、クレーターの底で黒いオーラを滾らせていた緑色のGTロボの胸装甲へと真っ直ぐに突き刺さった。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!!!
衝撃の第一波が奴のチタン合金のボディを内側から粉砕する。
だが、それで終わりではない。
リゼルの力を上乗せした釘パンチは、前代未聞の「15連続」の重低音となって、激しく機体の内部を破壊し続けた。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!!!
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!!!!!
ズガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!!
アリーナ全体を真っ白に染め上げるほどの凄まじい衝撃波が走り、GTロボの頑丈な装甲がバキバキに叩き割れ、狂暴な火花が激しく飛び散る。
そしてその瞬間、地上でのトリコの一撃に呼応するように、彼の背後から眩い『黄金の鬼』が神々しい威厳を纏って完全にその姿を現した。
上空で闇の雷を降らせていた『黒の鬼』が、地上でのベイの崩壊によって一瞬の隙を見せる。
その刹那、『黄金の鬼』は人間ではあり得ないような轟音を立てて空間を跳び、邪悪な『黒の鬼』の顔面へと容赦ない怒りの鉄槌を殴り飛ばした。
バズガァァァンッ!!!
殴り飛ばされた『黒の鬼』の巨体が、悲鳴のようなノイズを上げて宙を舞う。
しかし、黄金の鬼の追撃はそれだけで終わらなかった。
黄金の鬼はそのまま猛烈な勢いで黒の鬼へと肉薄すると、その巨大にして獰猛な顎をカッと開き、逃れようとする『黒の鬼』を力任せに噛み砕き、強引にその場ですべてを貪り喰らい尽くしていったのだ。
オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
黄金の鬼の勝利の咆哮が響き渡る中、喰らわれた『黒の鬼』のドス黒いオーラはみるみると霧散し、この世から完全に消え去っていく。
「あ、圧倒的すぎる……! 鬼を……鬼のオーラごと喰らい尽くしやがった……!」
観客席で見守っていたマンサムが、そのあり得ない光景に鳥肌を立たせ、ガタガタと声を震わせた。
小松もまた、胸の前でぎゅっと手を握りしめたまま、その圧倒的な奇跡の瞬間にただ息を呑むことしかできなかった。
──だが、すべてが完全に決着したかに思われた、まさにその一瞬の隙だった。
15連釘パンチを受け、黄金の鬼に背後の守護を喰われ、完全に木っ端微塵に崩壊しかけている緑の鉄塊──しかし、GTロボは未だ執念深く、その邪悪なセンサーの光を消してはいなかった。
内部の黒の欠片の影響か、機体の奥底に残されていた一時的な残存エネルギーのすべてが、ベイの最後の狂気とともに、壊れかけた左腕の銃口へと急速に集束され始める。
正面からでは絶対に勝てない。自分の命脈が尽きかけている。
その事実を骨の髄まで思い知らされた悪党が、最後の最後に選んだのは、これ以上ないほど残酷で卑怯な「最悪の悪あがき」だった。
《あははははっ! クタバレェェェッ!!!》
ベイは正面のトリコへ放つと見せかけ、凄まじい黒のエネルギーの照準を、真後ろの遠くで身を寄せ合っているバトルウルフの子供へと一瞬にして向け直したのだ。
「しまっ──た……っ!!! 糞ったれがァ!!!」
トリコが叫んだときには、すべてが遅すぎた。
敵のあまりにも卑怯な死角からの不意打ちを前に、限界を迎えた左腕を引いた体勢のままでは、どうしても一瞬だけ反応が遅れてしまったのだ。
「あ、ああ……っ! !」
小松やマンサムたちが、絶望に目を見開いて悲痛な声を枯らす。
激しい地鳴りと爆風の衝撃を受け、アリーナの床に横たわっていたリゼルが、どうにかその目だけを開けた。
しかし、今出せるすべてのエネルギーをトリコへと貸し出している彼の肉体は、鉛のように重く、一歩たりとも前へ進むことができない。
「くそっ……! 動け……動いてくれ、俺の身体……っ!!」
リゼルは己の無力さに歯を食いしばり、悔し涙をボロボロと流すことしかできなかった。
──やがて、アリーナを完全に覆い尽くしていた、激しい土煙が、風に流されてだんだんと引き始める。
誰もが最悪の結末を覚悟し、静まり返ったコロシアム。
だが、その土煙が晴れたアリーナの中心に、凛として佇んでいたのは──。
バトルウルフ子供を自分の大きな身体の下へと完全に庇い隠し、最強の愛の盾となって立ちはだかった、母親バトルウルフの気高き姿だった。
「……っ!!」
母親の白い毛並みは、ベイが最期に放った凶悪な黒のエネルギーによって無残に引き裂かれていた。
その身体からはかなりの血が止めどなく流れ落ち、アリーナの床を真っ赤に染め上げている。
もし、事前にリゼルの「七色の光」によって、出産やデーモンデビル大蛇戦の消耗から体力から全快していなければ、母親はあの死角からの不意打ちに反応することすらできず、親子共々一瞬で消し飛ばされていただろう。
リゼルが残してくれた最高の活力が、子供の命を救うための「一瞬のスピード」を母親に与えたのだ。
母親は致命傷を負いながらも、自分の胸の下で、傷一つなく無事に震えている我が子をそっと見つめた。
そして、その小さな頬を、愛おしそうに、最期の愛情をすべて込めて優しく一舐めした。
それから、ゆっくりと首を巡らせ、少し離れた場所で横たわっている最大の恩人──リゼルの姿を、その優しい瞳でじっと見つめ返した。
『──ありがとう、私の子供を……未来を、守ってくれて』
心の中でそう伝えるかのように、母親バトルウルフは天を仰ぎ、最期の力を振り起こして、美しく力強い遠吠えをコロシアムの空へと響かせた。
そして、四肢に力を込めてしっかりと大地を踏み締め、我が子を守る気高き壁となったまま、誇り高く、立ったままで静かにその息を引き取ったのだった。