兄貴、見守る。   作:キュウリ大好き人間

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無敵の領域を持つ男!その名はサニー!
グルメ40


 

 

誰かが言った。

 

ハチミツの甘い樹液を滴わせる樹の密林──『ハチ密林』があると。

 

四枚合わせると美味なるハンバーガーになる──『四葉のクローバーガー』がありバターの香りが香ばしいフライドポテトの蝶──『バターフライ、ドポテト』を引き寄せて、『天然のバーガーセット』になると。 

 

世はグルメ時代。

 

未知なる味を求めて、探求する時代──。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

リゼル達は研究所の外の崖の上にいた。

 

地平線の向こうから、ゆっくりと朝日が昇る。

 

「うめー酒乱牛! 肉汁とテキーラの味が口いっぱいに広がって、味に酔うってのはまさにこのことだぜ!」

 

トリコは地面に座り、両手で酒乱牛の肉を掴んでいる。

 

その表情は、言葉が出ないほどに美味しそうだ。

 

「わしにも食わせろぉ!」

 

トリコの隣で座って酒を飲んでいたマンサムが、我慢できずに身を乗り出す。

 

「渡すかよ! この酔っ払いめが!」

 

トリコはすかさず肉を隠そうとする。

 

だが、マンサムの口はすでに酒乱牛の肉をがぶりと噛んでいた。

 

「外まで食事持ってこなくても……」

 

二人の相変わらずのやりとりを見て、小松は苦笑いを浮かべる。

 

「夕べからマンサム所長のフルコースを堪能しているトリコさんですが、ただいま三巡目に入っております! トリコさん、三回目の肉料理・酒乱牛のお味は?」

 

小松の隣でカメラを回していたティナが、ここぞとばかりに実況を始める。

 

そのまま、トリコの元へぐいっとマイクを差し出した。

 

「トリコに馴れ馴れしく話しかけないでほしいし! てか、なんであんたいんのよ!?」

 

リンが片手にパフェを持ったまま、ティナの体を力任せに突き押す。

 

リンは眉を吊り上げ、ティナの顔を鋭く指差した。

 

「マンサム所長から取材許可出たの! トリコも珍しい食材もリーガルマンモスも撮影すんだから!」

 

ティナもこれでもかと言うほど目を大きく見開き、リンに真っ向から言い返す。

 

「なんなんだ……この人たち……」

 

さっきリンがティナを押したとき、そのとばっちりを受けて地面にこけていた小松。

 

泥を払いながら、小松は二人の剣幕に呆れたように呟く。

 

「大丈夫か?」

 

リゼルがそんな二人に対して苦笑いしながら、地面の小松に声をかけた。

 

「あ、はい! 大丈夫です」

 

リゼルは小松の手を引っ張り、優しくその場に立たせる。

 

「ならいいが……怪我してないんだな?」

 

リゼルは小松の体に傷がないか、心配そうにその全身を観察した。

 

「はい! 心配してくれありがとうございます!」

 

小松は嬉しそうに、リゼルにお礼を返す。

 

その温かいやりとりを見ていたモーブは、小松のことを羨ましそうにじっと見つめていた。

 

「つーかサニーの奴おっせーな。ホントにマンモス持って来んだろーな?」

 

トリコが不満そうに言う。

 

そのときだった。

 

隣のマンサムが酒乱牛をまたつまみ食いする。

 

「こら」

 

すかさずトリコはマンサムに怒る。

 

「来たし!」

 

双眼鏡を覗いていたリンが、短く呟いた。

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

全員の驚きの一声が重なる。

 

みんなが一斉に、ある場所へと視線を向けた。

 

歩くたび、そこにある硬い石場が完全に足跡の形に凹んでいく。

 

そしてその頭上には、巨大なマンモスを持ち上げている男性の姿があった。

 

男はリゼルたちのいる場所へ向かって、一歩ずつ確実に歩みを進めてくる。

 

ドシドシと、すべてを震わせるような歩く音が響く。

 

「デカッ! あれがリーガルマンモス!?」

 

向かってきている男が持っているマンモスを見て、小松は額に少し汗をかいた。

 

その巨体に圧倒されたのか、クルッポーの体が風船のようにぷうっと膨らむ。

 

「古代からの食の宝・『食宝』と言われてきただけはある。圧倒されるサイズだな」

 

トリコは遠くのマンモスを見つめながら言う。

 

「スゴすぎるリーガルマンモス……てんこ盛りスクープ! って、あの人! 特盛りデカいのを片手で持ってるー!」

 

そのすぐ近くで、ティナは必死にビデオカメラを回していた。

 

驚きを隠せずに呟くティナの横で、モーブは完全に口をあけて呆然としている。

 

リゼルは綺麗な柳眉をひそめ、どこか困惑の表情を浮かべていた。

 

「どうした? 兄貴」

 

トリコがリゼルの異変に気づき、不思議そうに見つめる。

 

リゼルはトリコを見返したが、その端正な顔立ちには、いまだ深い憂いの色が差したままだ。

 

「いや……あれは……おそらく……」

 

リゼルは言葉を濁す。

 

本当に今ここで言ってもいいものかと、胸の中で激しく迷っていた。

 

「片手だけじゃないがな」

 

マンサムが肉をもぐもぐとしながら言う。

 

その言葉の意味が分からず、ティナ、モーブ、小松が不思議そうに首を傾げた。

 

「にしても、あのデカさは……」

 

マンサムがマンモスを見つめる。

 

その瞬間、リゼルの涼やかな目元とマンサムの目が綺麗に合った。

 

二人は何かに気づき、同時に無言で頷く。

 

トリコは二人のやりとりを見て、不思議そうに首をかしげた。

 

その時、マンモスを掲げている男の周りに、突如として不穏な影が動く。

 

捕獲レベル15の獰猛な爬虫獣類・ギャングフットが、一斉に現れて男を取り囲んだ。

 

「うええぇぇえええ! あれは──!?」

 

小松が目を飛び出しそうにしながら驚く。

 

「ギャングフットの群れだし!」

 

リンが鋭く叫ぶ。

 

「強暴で食欲旺盛な奴らだ!」

 

マンサムもリンに続けて、険しい顔で身構えた。

 

「リーガルマンモスを奪う気ですよ!」

 

小松が緊迫した様子で前方を指差す。

 

「いったいどうなってしまうのか!?」

 

ティナがその様子を捉えるべく、必死にビデオカメラを回した。

 

「心配いらねぇよ」

 

「そうだな……サニーならあれくらい大丈夫だ……」

 

トリコとリゼルが、全く動じることのない声で遮る。

 

「え?」

 

小松は慌てて後ろを振り向いた。

 

余裕の表情を崩さないトリコとリゼルを見つめながら、完全に困惑した顔で、小松の声が漏れるのだった。

 

すると、リーガルマンモスを持ち上げている男性がフッと笑う。

 

次の瞬間、取り囲んでいたギャングフットの群れが、何の前触れもなく一斉にその場へ倒れ伏した。

 

「え?」

 

小松の驚く声が漏れる。

 

男はそのまま歩みを進め、その口元はずっと笑ったままだ。

 

楽しそうに、低く声を漏らして笑っている。

 

地面に倒れたギャングフットの群れは、グーグーと規則正しい息を立てて眠っていた。

 

「ノッキング……?」

 

小松がギャングフットの群れを見ながら呟く。

 

「けど、触れてもなかった! いったいどうやって!?」

 

小松の隣にいたティナも、信じられないものを見る目で驚く。

 

ティナの肩の上では、クルッポーが怯えたように身を縮めていた。

 

男の足音がガシガシと激しく響き、リゼルたちの目の前でピタリと止まる。

 

男の手から離れた超巨大なリーガルマンモスが、そのままトリコたちのいる場所へと倒れ込んでいく。

 

降って湧いた質量の大災害を前に、みんなは慌てふためき、マンサムだけを残して一斉にその場所から逃げ出した。

 

リゼルは柳眉を動かすこともなく、静かにトリコたちのいる安全な場所へと移動する。

 

残されたマンサムは一人で、顔を真っ赤にしながらその巨体を必死に受け止めていた。

 

「あっ、ごめ。ちょっ、重かった? けどナイスキャッチ所長! 流石(すが)、腕力は微塵も衰えてない模様。ただし……『美(つく)しさ』が足りない……」

 

サニーは自分の指を鼻筋の上あたりに置きながら、マンサムに向けて言い放つ。

 

「「「えっ?」」」

 

モーブ、ティナ、小松は、突然の言葉に完全に困惑して声が漏れた。

 

「マンモスを受け止める所作に、全然胸がドキューンとしないし、全く感動が起きないってゆーか、そもそもガニ股でブサイク! 色気ないし! もう消えろって感じかな……」

 

サニーは冷淡に、ツンと言い切る。

 

「なんだこの人──っ!?」

 

小松は目を飛び出しそうなほど見開きながら、サニーに対して大声で突っ込むのだった。

 

「コラー! サニー! 大切な食宝をぶん投げるな!」

 

マンサムが顔を真っ赤にしてサニーに怒る。

 

「あの人、四天王・サニー……?」

 

ティナがビデオカメラの画面を見ながら呟く。

 

そして名前を口にした瞬間、カメラからパッと顔を離してサニーの姿を直視した。

 

肩に乗るクルッポーが、その視線に合わせて鳴き声をあげる。

 

そして、サニーの体がふわりと宙に浮いた。

 

「ここまで優しく運んで来てあげただけでも、感謝してほしいな」

 

宙を華麗に飛びながら、サニーが軽やかに言い放つ。

 

「いや、久しぶりだな、トリコ。以前より細胞が活性化している。肌の弾力も高いし、いいモノ食べてる証拠だな」

 

崖の上に美しく着地したサニーは、至近距離でトリコの頬や腕の肌を容赦なく触りまくる。

 

「いきなり肌触りまくるんじゃねぇよ、気持ちわりぃ」

 

トリコは露骨に嫌そうな顔をしてサニーを払いのけた。

 

サニーはフンと鼻を鳴らすと、すぐにその隣に佇むリゼルへと視線を向ける。

 

「リゼルも久々だな……。相変わらず肌も髪も素質(しつ)高(たけ)ーな。前よりさらに『美(つく)しく』なってるな。 トリコ以上にいいモン食べてる証拠だな」

 

サニーは今度はリゼルの端正な顔へと急に顔を近づけ、その髪や肌をまじまじと見つめながら品評するように言う。

 

リゼルは柳眉を、ほんの少しだけ驚いたように上げる。

 

「お前は相変わらずだな。急に触られたから吃驚したんだが……」

 

すぐにリゼルの綺麗な柳眉少しだけ下がり、距離の近いサニーを見つめながらポツリと呟いた。

 

「リン、お前! んだその土管みたいな足は! 久々に会ったら皮下脂肪もハンパねぇー! そんな甘いモンばっか食べてるからだ!」

 

サニーは次にリンの姿を見る。

 

そして、そのだらしない体型にすぐさま激しく怒り出した。

 

「このくらいが健康的でちょうどいいしー! てか、お兄ちゃんには関係ねーし!」

 

リンは持っていたパフェを揺らしながら言い返す。

 

「関係したくねーし! ンな男みてぇな妹と!」

 

「ハァ? 女みたいなお兄ちゃんに言われたくないしー!」

 

「ねーしねーし、うるせーし!」

 

サニーとリンは、崖の上で激しい兄妹喧嘩を始めてしまった。

 

周りのみんなは二人の子供っぽい喧嘩を見て呆れている。

 

リゼルはハァ、と小さくため息をついた。

 

「この二人が兄妹か……。さっきから普通に会話成立してますけど、あの人、誰にも触れてないですよね?」

 

小松が後ろを振り向き、トリコとリゼルに疑問をぶつける。

 

「いや、全員あいつの触覚──センサーに触れてるんだ」

 

トリコが小松たちを見つめながら、不敵に笑って告げた。

 

「普通のやつには見えないし分からないが、サニーの髪の毛は一本一本が手や足みたいなもんだ。だから、触れてないように見える」

 

リゼルが小松とティナ、そしてモーブに向かって分かりやすく話す。

 

その綺麗な柳眉は、サニーのデタラメな能力の広がりをすでに正確に捉えていた。

 

「一匹を残してな」

 

依然として大きなマンモスを一人で持っているマンサムが、ニヤリと笑って答える。

 

その言葉を合図に、全員の視線が一斉にテリーの姿を捉えた。

 

「バトルウルフか。俺の触覚に反応するとは興味深い……味方なら頼もしいが」

 

サニーたちのいる場所から少し離れた、さらに一段上の崖の上にテリーはいた。

 

サニーはテリーのいる上方を見つめ、どこか感心したように目を細める。

 

「心配いらん……そいつはトリコの相棒のテリー。一緒に仕事してもらうつもりだ。リーガルちゃんの捕獲をな……」

 

マンサムがサニーに向けて言う。

 

もちろん、その両手にはまだ大きなマンモスを掲げ持ったままだ。

 

「いやいやいやいや、リーガルちゃんって。リーガルマンモス、もう捕まえたじゃんか」

 

サニーは振り返ってマンサムを見る。

 

自分の華麗な仕事を否定されたような言い方に、不満そうに声を尖らせた。

 

だが──。

 

「サニー」

 

リゼルが静かに名前を呼ぶ。

 

サニーが不思議そうにリゼルの方へ振り向いた。

 

リゼルの顔がすべてを物語っていた。

 

その美しい柳眉を少しだけ下げ、なんとも言えない「ドンマイ」と言いたげな視線を向けている。

 

「え?」

 

サニーは戸惑う。

 

「こいつは迷子の子供だ! こいつより断然デカい親がどこかにいるはずだ!」

 

マンサムが容赦のない言葉で、サニーのプライドにトドメを刺した。

 

小松、サニー、トリコの三人が、一斉にガタッと弾かれたようにリゼルの顔を見る。

 

リゼルが諦めたように何度も静かに頷くのを見て、三人の目は完全に点となった。

 

「こ、これで子供!? 親って……一体どれだけデカいんですかー!?」

 

小松の全力のツッコミが崖の上に響き渡る。

 

「兄貴……知ってたのか? サニーのマンモスを見て困ってたよな? あのときに分かってたことか?」

 

トリコはリゼルの顔を見て、驚異的な観察眼の意図を確認する。

 

「あぁ……。だが、せっかくサニーが頑張って持ってきてくれたんだからな。言うか迷ってな……」

 

リゼルは困ったように苦笑いを浮かべながら、みんなに優しく告げた。

 

「それよりも、親リーガルちゃんを早く捕獲するんだ! 美食會より先にな!」

 

マンサムが全員を見渡し、一気に引き締まった声を張り上げる。

 

「やってやろうじゃねぇか」

 

トリコが不敵に口角を上げ、拳を力強く握り締めた。

 

 

 

 

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