兄貴、見守る。   作:キュウリ大好き人間

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グルメ41

 

 

マンサムがサニーたちに親のマンモスを捕まえてくれと喝を入れているとき、リゼルはふっと空を見上げた。

 

リゼルの視線の先にあるのは、どこまでも広がるただの青い空。

 

だが、リゼルはほんの一瞬だけ確かな気配を感じて、空を見上げたのだ。

 

すぐに気配は霧のように消え去ったが、それはよく知っている懐かしい気配だった。

 

リゼルは静かにトリコとサニーの姿を見る。

 

今のままの彼らの実力では、この先に待ち受ける激闘には確実に勝てないと分かっていた。

 

だが、同時に2人には確実に新たな力が目覚める、そんな強い予感がしたのだ。

 

ただし、それは決して簡単な道ではなく、確実に一度は手痛い敗北を味わってからの覚醒になる。

 

そんな、これから始まる恐ろしい嵐の前触れを、リゼルは肌で感じていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

リゼルが見ていた青い空を、今まさに一匹の生き物が優雅に飛んでいる。

 

その背の上には、静かに佇む一人の人間の姿があった。

 

その一匹の正体は、黒い巨大なドラゴン。

 

4枚の羽根をダイナミックに羽ばたかせる、ブラガドラゴンだ。

 

その上に乗っているのは、不気味な仮面をかぶった美食會の人間。

 

美食會の幹部の中でもトップクラスの実力を誇る、『副料理長』と呼ばれている男だった。

 

副料理長は腕組みをしたまま、ブラガドラゴンの頭上で立ったまま真っ直ぐ前を見つめている。

 

冷徹な仮面のせいで、その素顔や表情を窺い知ることはできない。

 

太陽の強烈な光を全身に浴びながら、男はずっと何も言わずに真っ直ぐと前だけを見つめていた。

 

もうそろそろ目的地に到着するのだろう。

 

視界の先には、どこか不気味な城のような建物が見えてきていた。

 

 

 

 

 

──ところ変わって、その場所は深い暗闇に包まれていた。

 

ただの部屋ではなく、怪しげな機材が並ぶ研究室のようだ。

 

薄暗い闇の中では、怪しげで様々な見た目をした生き物たちが蠢いていた。

 

だが、その中に見た目はとても可愛いが、捕獲レベル1以下の弱々しい生き物が一匹、必死に走っていた。

 

その生き物の名前は『おしり虫』。

 

おしり虫は可愛い眉毛をハの字に下に下げて、弱々しい悲鳴のような鳴き声を上げながら逃げ回っている。

 

何か恐ろしいものから必死に逃げているのだろう。

 

自分の小さな体をグネグネと必死に動かしながら、廊下を走っていく。

 

そのとき、後ろから何者かの大きな声が響き渡った。

 

「待って……そのしり。」

 

その声の持ち主は、全身が緑色の不気味な生き物。

 

いや、全体が緑、もとい生身のベイだった。

 

ベイは形振り構わず、走っておしり虫を必死に追いかける。

 

そして、ようやくその小さな体を両手で捕まえた──。

 

そう思った次の瞬間、おしり虫はグニリと身をよじり、すぐにベイの手の平からスルリと逃れてしまった。

 

ベイの手は虚しく空を切り、勢い余ってその場で豪快に空振りをするのだった。

 

「お前のしりは……」

 

それでもめげずに四つん這いで追いかけながら、ベイは執念深く呟く。

 

だが、必死に逃げていたおしり虫は、廊下の途中で誰かの重厚な靴にコツンと当たって止まった。

 

おしり虫は恐る恐る、その靴の持ち主を見上げるように上を向く。

 

次の瞬間、おしり虫は凄まじい恐怖にガタガタと震え上がり、今まで以上の超スピードアップでその場から逃げ去っていった。

 

廊下の床に手を突いたまま、ベイは逃げていくおしり虫の姿を目で追う。

 

そして、そのまま視線を真っ直ぐ前へと向けた。

 

「は?」

 

ベイは悔しそうに口元を噛み締め、目を限界まで大きく見開いて吃驚の声をあげる。

 

そこに静かに立っていたのは、いつの間にか到着していた副料理長その人だった。

 

「げっ……副料理長……スタージュン様……っ」

 

ベイは全身をガタガタと震わせながら、ゆっくりと上を向いて声を絞り出す。

 

その顔には、隠しきれないほどの圧倒的な恐怖の表情が浮かんでいた。

 

離れた場所では、命拾いしたおしり虫がまだ震えながら、ベイと副料理長の様子を遠巻きに見ていた。

 

「ベイ……相変わらず食い物の趣味が悪いな」

 

その声は地を這うように低く、けれど禍々しい仮面を被っているので表情は全くわからない。

 

圧倒的なプレッシャーが研究室の空気を押し潰した、まさにその時だった。

 

壁の影から、独特な足音を立ててすぐにジョージョーが現れた。

 

「これはこれは副料理長……。第6支部にお見えになるとは、お珍しい……」

 

ジョージョーは手に持った杖をコツコツと鳴らしながら、真っ直ぐにこちらへ歩いてくる副料理長に向けて問いかける。

 

「リーガルマンモスは……。それに、リゼルを捕まえたのか?」

 

スタージュンはジョージョーを見下ろし、冷酷に本題だけを告げた。

 

「ただいま……GTロボを3着、第一ビオトープに送り込んでおります。それと、残念ながらリジェンド・リゼルを捕まえることは出来ませんでした。ですが……いい情報はありますよ」

 

ジョージョーは細い腰を少し下ろし、不気味に目を剥きながら慇懃にお辞儀をした。

 

「メンバーは……。それと、いい情報とは?」

 

副料理長は仮面越しではあるが、その鋭い目元を静かに細めて問いかける。

 

「はい! 怪人ザイパー、ギド、第6支部部長セドル様……。お恥ずかしいながら、例のGTロボは四天王トリコに敗れまして。ですが……さきほどの『いい情報』は、例のGTロボが持ち帰ってきました」

 

ジョージョーは副料理長へ向けて言葉を紡いだ。

 

「トリコ……。ベイの力でも無理だったか。──それで、いい情報とは何だ?」

 

副料理長は大きな手を顎にのせ、深く考えるように目を伏せる。

 

そして、ジョージョーに向けて続きを促すように視線で合図をした。

 

「はい! 例のGTロボが言うには、ある男から七色に光る石を奪ったそうです。ほんの欠片ですがね……。リジェンド・リゼルにそれを見せたところ、その男とは知り合いだったようで、凄まじいエネルギーを放って怒り出したそうですが………驚くべきはその後、その七色の欠片をすべて吸い込んだというのです。そして次の瞬間、激しく光を放ち、真っ黒い石へと変貌してその欠片が例のGTロボの機体の中に入り込んだと」

 

ジョージョーは不気味に目を細め、身振りを交えながら副料理長に説明をする。

 

「ほう……。それで?」

 

副料理長はさらに目を細め、その先の詳細を託すように声を低くした。

 

「はい! それによって、ロボでありながら元の機体を超えて急激に強さが上がり……。なんと、リジェンド・リゼルのグルメ細胞である、あの『黄金の鬼』に酷似した『黒の鬼』が姿を現したというのです。例のGTロボ自身の力ではそれを完全に操ることは出来ませんでしたが……操縦者が怒れば、黒の鬼もそれに合わせて怒り、凄まじい力を発揮したと。リジェンド・リゼルのエネルギーと融合した四天王トリコに最後は敗北しましたが……驚くべきことに、その戦いの後、その黒の石の塊がそのままこちらの部屋へと転移してきたのです。」

 

ジョージョーは一気に全ての説明を終える。

 

そして、仮面の奥にある副料理長の出方を見据えるようにじっと見つめた。

 

「ほう……。あの黄金の鬼に似た、黒の鬼か……。それは、すぐにでも実戦に出せるものなのか?」

 

副料理長は再び手を顎にのせながら、何か恐ろしい実験の可能性を考えるようにして聞いた。

 

「いえ……まだでございます。今、まさに研究をしている真っ最中ですのでね。……その黒の石を実験で粉々に砕いてみたところ、何とか一部の欠片が、また自らの力で元へと戻ろうとするのです。砕かれた粉々は、そのまんま、まるで最初から何も無かったかのように結合していく……」

 

ジョージョーは懐から、禍々しい闇を放つ黒の石の塊を静かに取り出した。

 

そして、それを目の前にいる副料理長の視線へと差し出すのだった。

 

「ほぉ……これが……真っ黒い石だな……。だが、凄いエネルギーだ。ならば……研究を急げ、そしていずれこの謎の黒の石を使ってリゼルを捕まえる。」

 

副料理長はそう告げると、その禍々しい黒の謎の石の研究を早急に進めるよう命じた。

 

「かしこまりました」

 

ジョージョーは細い腰を深く折り、慇懃にお辞儀をする。

 

そして、ゆっくりと顔を上げた。

 

「ふん……ジョージョー、私は出る」

 

副料理長は一瞬だけ頭上を仰ぎ見ると、すぐにジョージョーを見据えて静かに言い放つ。

 

「副料理長、自ら……!?」

 

ジョージョーは額に冷たい汗をにじませる。

 

この老科学者ですら予測していなかった事態に、思わず吃驚の声を上げた。

 

その瞬間だった。

 

副料理長の不気味な仮面の覗き穴から、鋭い眼光が闇を切り裂く。

 

 

 

暗闇の奥から、冷徹に光る本物の目が露わになったのだ。

 

 

──ほんの、片方だけ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

トリコたちは黒草の生い茂る広大な地に到着していた。

 

「おおー!」

 

トリコは満面の笑顔になり、その目を大きく開いて驚きの声を上げる。

 

「黒草の草原・ブラックカーペットじゃねぇか!」

 

トリコは嬉しそうに、弾んだ声を出して周囲を見渡した。

 

「こんなに広い黒草の草原(ブラックカーペット)は初めて見た! 感激てんこ盛りよー!」

 

ティナが夢中でビデオカメラを回しながら、興奮気味に呟く。

 

「サラダにしたら最高だろうな〜!」

 

小松もこれから出会う新しい味を想像して、嬉しそうな声を出す。

 

「ていうか、お前たち誰?」

 

盛り上がる面々をよそに、サニーは冷淡に目を閉じたまま3人に対して言い放った。

 

「「「え?」」」

 

小松、ティナ、モーブの驚きの声が重なる。

 

しかし、小松はすぐに何かを思い出したようにハッとした。

 

「ああっ、ご挨拶が遅れました。僕──」

 

小松は慌てて丁寧な自己紹介を始めようとする。

 

だが、その言葉をサニーが冷たく遮った。

 

「どうでもいいけどさ、美しさ全然足りなくね? 君」

 

サニーは目を薄く開け、値踏みするように小松を見ながら言う。

 

その横で、リゼルは柳眉をほんの少し曇らせた。

 

悪気はないとはいえ、サニーの容赦のない物言いに翻弄されてペコペコしている小松の健気な姿に、静かに心を痛めていたのだ。

 

「そうですか? ごめんなさい……」

 

小松は恐縮して自分の手を頭の上にのせ、申し訳なさそうにサニーに謝る。

 

サニーはそんな小松をジロジロと見つめながら、さらに問いかけた。

 

「何食ってんだ、普段」

 

「普段はごく普通のものを……」

 

小松は唐突な質問にキョトンとしながら、正直にそう答えるのだった。

 

「普通? ダめだな。もっとビタミンとかコラーゲンとかパネェ食品を取らねぇと。今度、俺のフルコースごちそうしてやるよ」

 

サニーは小松の顔に自分の顔をぐっと近づける。

 

そして、その食生活に対して容赦のないダメ出しを突きつけた。

 

「フルコース!? サニーさんのフルコースって……!」

 

ティナの口から、驚きの声が漏れる。

 

「オードブル・美肌キャビア、スープ・カリスロブスター汁、魚料理・美白マグロ、肉料理・完美牛、サラダ・もち肌もやし、ドリンク・カリスドラゴンの鱗酒……メインとデザートはまだ決まってないが、どれも美しい食材ばかりだろ」

 

サニーはティナの視線を受け止め、誇らしげに答える。

 

「美肌キャビア、美白マグロにもち肌もやし……! お肌にいい女性の憧れの食材が多数〜! ──さすが、四天王・サニーさんですね」

 

ティナは頬をポッと赤く染めた。

 

だが、次の瞬間には急に人格が変わったようにカメラを自分へと向ける。

 

赤面を一瞬で消し去り、いつものキリッとした普段のキャスターの顔に戻っていた。

 

「またカメラ前で人変わってる!?」

 

小松は額にダラダラと汗をかきながら、ティナに向けて呆れたように呟く。

 

その隣で、モーブは頭を掻きながら苦笑いを浮かべて見ていた。

 

「おいおい。サニーは四天王一の偏食野郎。うまさは保証できねーぞ」

 

トリコはその場に座り込み、地面の草むらから何かを探している。

 

リゼルはそのトリコの隣で、楽しそうに騒ぐサニーたちの様子を優しく見守っていた。

 

「うっせ、トリコ! で、お前のフルコースはどうなんだ!?」

 

サニーは勢いよく後ろを向き、トリコに向かって怒鳴る。

 

そして、挑発するように問い詰めた。

 

「まだデザートしか決まってねーよ」

 

トリコは探していたものを見つけたのか、それを取り出して嬉しそうに笑うと、そのままパクッと食べた。

 

「ンだそれ!? 一番食材見っけてるくせに優柔不断か!? ──で、相変わらず『アレ』をメイン料理に考えているのか?」

 

さっきまで怒っていたサニーだったが、急に真面目な顔つきになって静かに聞く。

 

「「「えっ?」」」

 

ティナ、小松、モーブの三人は、その急な空気の変化に驚いてトリコたちを見る。

 

「トリコさんのメイン料理って……?」

 

小松はその言葉の意味が気になり、不思議そうに呟いた。

 

「トリコ〜! ココマヨの木があるしー!」

 

その時、遠くからリンの大きな声が響き渡る。

 

「ホントか!?」

 

トリコは勢いよく顔を上げて立ち上がり、遠くのリンに向けて大声を出す。

 

「無視か……」

 

サニーは呆れたようにポツリと呟いた。

 

だが──リゼルだけは、あの食材の話になった瞬間、その表情を完全な真顔へと変えていた。

 

それはまるで、無に等しい冷徹な顔。

 

ほんの一瞬の出来事だったため、その異変にはまだ誰も気づいていない。

 

顔立ちは相変わらずいつもの端正な真顔に近かったが、その柳眉だけが、わずかにピクリと動いていた。

 

「いただきます! あむ……ココアの苦味とマヨネーズの酸味の絶妙なバランス、シャキシャキとした歯ごたえの黒草によく合うぜ! でかした、リン!」

 

トリコはココマヨをかけた黒草を本当に美味しそうに食べ、リンを大絶賛する。

 

(トリコに、褒められた……!)

 

リンは顔を真っ赤に染めながら、感激のあまり心の中で激しく呟いた。

 

「よーし……さらにもうひと味! こいつを使ってみるか」

 

トリコはその場に座り込み、置いてあったリュックを開けてコソコソと中を探り始める。

 

そして、中から赤い拳の形をした不思議な道具を取り出した。

 

「なんですか、それ?」

 

小松が眉毛を下げて、興味深そうにトリコに訊ねる。

 

トリコはその赤い拳の形をした道具をパカッと分解すると、中に小さなスナック菓子を二つ入れて再び繋げた。

 

そのまま取っ手をガシャガシャと動かすと、広がった手の先から、細かく砕かれたスナックのスパイスがココマヨのかかった黒草の上へとパラパラと落ちてくる。

 

「見たことないポータブルスパイス調理器……グルメスパイサーですか!?」

 

小松がその画期的な道具を見て、目を輝かせる。

 

「ああ。欲しいならやるぞ」

 

「えっ!? いいんですか!?」

 

「お前、料理人だろ? だったらお前が持ってたほうがよくね?」

 

トリコは目を丸くして、当然だろというように小松に言う。

 

「ありがとうございます! じゃあこれを使って僕、トリコさんにおいしい料理をいっぱい作っちゃいます!」

 

小松はグルメスパイサーを大切そうに両手で抱え、満面の笑顔でお礼を言うのだった。

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