兄貴、見守る。 作:キュウリ大好き人間
――ぶぉぉぉぉぉぉぉぉん……!!!
市場を後にした4人は、ヨハネスが用意した重厚な黒塗りの高級車のシートに身を沈め、目的地へと向かって猛スピードでハイウェイを駆け抜けていた。
車窓の向こうに、大自然の山をも丸ごと包み込むような、天を衝くほどの信じられないほど巨大な建造物の影が見えてくる。
車のドアが開き、地面に足を下ろした小松は、その規格外のスケールに上空を見上げたままあんぐりと口を開けた。
「うわー! 何っ!? デ、デカッッッ!!!」
ヨハネスは自身の黒いロングコートを翻し、眼鏡の奥の瞳でその巨大な壁を見つめながら、静かに解説を始めた。
「通称・『庭』と呼ばれる、IGO第8ビオトープです。人工的に作られた、あらゆる動植物の生息空間。限りなく本物の自然に近い状態で、世界中の様々なグルメ動物たちを完全な放し飼いにしています」
4人が車のライトに照らされた、鉄壁の厚みを持つ巨大な大トビラの前に並び立つと、先頭を歩くトリコがニシシと笑って小松に声をかけた。
「IGOはこのビオトープ内で、グルメ時代の動物たちの生態調査や、繁殖の実験なんかを日々やっているんだ」
「なるほど、まさに人工のグルメジャングルなんですね……!」
小松が感心してトビラを見上げていると、そのトビラの前で銃を構えて警備していた、ガッチリとした体格のIGOの門番の二人組が、4人の姿を認めた瞬間にハッと顔色を変えた。
二人は一秒の狂いもなく銃を構え直すと、ピシッと完璧な直立不動のポーズで、最敬礼の姿勢をとった。
「「ごちそうさまです! トリコ様!!」」
「……その挨拶、いい加減やめろよな。俺は何も奢ってねぇよ」
トリコはめんどくさそうにポリポリと頭を掻いて苦笑いを返す。
だが、門番の二人が本当に全身の血を沸騰させるほど大感動し、その拳をギリリと震わせていた理由は、トリコだけではなかった。
(う、うわあああああああ……っ!!! 嘘だろ、四天王トリコ様のすぐ隣にいるあの黒髪の大人は……っ。世界中の一生に一度拝めるかどうかと言われる、レジェンドリゼル様じゃねぇかァァァッ!!!)
滅多にビオトープはおろか、公の場にすら姿を現さないレジェンドが、今、自分のすぐ目の前を優雅に通り過ぎようとしている。
門番の二人は嬉しさのあまり涙を流しそうになりながら、リゼルに向けても、銃が折れんばかりの力で最上級の無言の敬礼を捧げ続けていたのだ。
リゼルはそんな二人の熱すぎる視線をどこ吹く風と涼しい顔で受け流し、指先で黒髪を流しながら、腕を組んでトビラの奥の気配を見据えた。
大きな岩の陰にコソコソと隠れたティナは、ノートを握りしめて不敵にフンと鼻を鳴らした。
「IGOが怖くてグルメキャスターがやってられるかっての! 世界中のみんなが私の『てんこ盛りでおいしい特大スクープニュース』を待ってるんだから、私一人だって絶対に潜入して――」
ティナがそう呟いた、まさにその瞬間だった。
周囲の空気がビリビリと裂けるような、凄まじい大音響がジャングルの奥から轟いてきた。
――ドンドンドンドン、ドンドンドンドン――ッ!!!!!
「な、何っ!? 雷ですか!?」
突然の大地を揺るがす地鳴りに、小松が飛び上がって怯える。
だが、トリコは眉一つ動かさずに、暗闇の壁の向こうを見据えて短く答えた。
「いや……ドラミングだ」
「ドラミング?」
画面(カメラ)がパッと壁の向こうへと切り替わると、そこには全身を鋼のような硬い筋肉で覆い、四つの不気味な目をギラリと光らせた巨大なゴリラたちの群れが、自身の分厚い胸板を恐ろしい勢いで叩き鳴らしている大迫力の風景が広がっていた。
「ゴリラ特有の、縄張りへの侵入者を拒むための威嚇行動だ」
巨大な大トビラを守る2人の門番のうちの1人が、通信機を耳に当てながら顔を真っ青にしてトリコたちに告げた。
「た、先ほど監視塔から緊急連絡が……っ! トロルコングの群れが、このゲートのすぐ目の前――奥のエリアにまで進出してきているとのことです!」
岩の陰で盗み聞きしていたティナも、その音の凄まじさに息を呑んで驚きを隠せない。
「(う、嘘でしょ……!? トロルコングのドラミングの衝撃波が、このIGOの分厚い特殊コンクリート壁を丸ごと突き抜けて、ここまで響いてきたっていうの……!?)」
「ふっ、この庭の王者が、俺たち(トリコ、リゼル)に向かって『これ以上中に入るな』って忠告してくれてるみてぇだな」
トリコが不敵に笑うと、小松は涙目になって首を激しく横に振った。
「えええぇぇぇっ!? だったら危ないじゃないですか! 戻りましょう!」
「構わねぇ。おい門番、さっさとそのゲートを開けろ」
だが、最敬礼をしていた門番の2人は、冷や汗を流しながら申し訳なさそうに首を横に振って断った。
「い、いえ、規定によりゲートから5キロ圏内に指定猛獣を感知している場合は、絶対にトビラを開けることはできません……っ!」
「ハァ〜……。めんどくせぇ決まりだぜ」
トリコとリゼルは、やれやれと呆れたように顔を見合わせると、お互いに「なら、やるか」と言いたげにコクリと深く頷き合った。
トリコはトビラの横にある、戦車の砲撃すら跳ね返す強固な特殊コンクリート壁の前に一歩踏み出す。
「まあ、早い話がだ。ゲートを開けるその瞬間に、奴らがその『5キロ圏内』にいなけりゃいいわけだろ? トビラを開けたとき、すでにいなくなってれば、規定の文句的にも問題ねぇんだな?」
トリコのその無茶苦茶な理屈に、ヨハネスも、小松も、門番たちも、岩陰のティナも、全員が一瞬だけ頭を真っ白にさせて目を丸くした。
「「「「え……?」」」」
「(な、何する気よ……!?)」
周囲が呆気にとられる中、リゼルだけは「やれやれ、相変わらず暴れん坊な弟だ」という風に、静かに目を瞑りながら腕を組んで、弟の行動を特等席で見守る体制に入っていた。
トリコはゲートの横のコンクリート壁にスッと大きな右手を当てると、全身の筋肉をパキパキと太く膨らませ、ゴキゴキ、ゴキゴキと大きな音を立てて手の指を鳴らし始めた。
「向こうが全力で威嚇してくんなら……こっちも最大級の威嚇を撃ち付けてやるぜ!」
ドクン……!とトリコの心臓が激しく脈打つ。
トリコの全身から、大地をも焦がすような真っ赤なオーラがメラメラと立ち上り、腕や足の筋肉が一回り大きく膨れ上がる。
トリコは両方の拳を、まるで巨大な釘そのもののような鋭い形に構え直した。
「いくぞ……ッ! 3連――釘パンチ!!!」
ズガァァァァァンッッッ!!!!!
トリコが壁に向かって凄まじい拳を叩き込んだ瞬間、目に見えぬ巨大な『鋼の釘』のような衝撃の弾丸が、分厚い壁の奥へと一直線に突き刺さっていった。
「――1」
ドゴォォォォォンッ!!!
まず1発目の破壊の衝撃が、コンクリートの表面を大爆発させる。
「――2」
ドゴォォォォォンッ!!!
変わらぬ大迫力の2発目の衝撃が、壁の内部の鉄骨を粉々に粉砕しながら、さらに奥へと突き刺さる。
そして、トリコはニカッと最高の笑顔を咲かせながら、最後の拳を振り抜いた。
「――3 ……開通だぁ!!」
ドゴォォォォォォォンッッッ!!!!!
コンクリートの壁が木っ端微塵に吹き飛び、向こう側の景色が見える巨大な大穴がドカンと出来上がった。
そのあまりの規格外の怪力と大迫力に、警備をしていた見張り番の2人はひっくり返って腰を抜かした。
「う、うおーーーーーーっっっ!?!? 壁が、壁が丸ごと大破したァァァッ!!!」
「(な、なにあれ…………!?)」
ヨハネスも、隠れて見ていたティナも、あまりの衝撃の映像にアゴが外れるほどびっくり仰天している。
小松は頭を抱えて、叫び声をあげた。
「なっ、なんですか今の凄まじい技はーーーっ!?」
「釘パンチだ。数回のパンチを同時に撃ち付ける技でな。パンチの回数分、まるで釘を金槌で打ち付けるかのように、破壊の衝撃がどんどん奥へと突き刺さっていくんだよ」
トリコは破片が転がる壁の穴から、楽しそうにひょいとジャングルの中へと足を踏み入れた。
「んじゃ、お邪魔しま〜す」
「ああっ! 待ってくださいよ、トリコさん!」
小松が慌てて後を追おうとした、まさにその瞬間。
リゼルが、小松の服の襟元を後ろからスッと大きな手で優しく引っ張り上げた。
「ひゃあ!?」
リゼルがその合図を出すと同時に、リゼルの影から神々しく輝くグルメ細胞『黄金鬼の巨大な掌』がフワッと姿を現す。
黄金鬼の掌は、驚く小松の身体を優しく上に乗せてすくい上げると、衝撃や破片から完璧に守るための無敵のバリアとなって浮き上がった。
リゼルは腕を組んだまま、小松を乗せた黄金鬼の掌と共に、壊れた壁の大穴から、まるで散歩でもするかのように優雅に、そして最高に自然に人工ジャングルの中へと入っていくのだった――。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!トリコの記念すべき最初の必殺技「3連釘パンチ」のド迫力、やっぱり何度見ても最高にシビれますね
ゆっくり更新していこうと思います。お楽しみに!